82 / 278
第二章 第一部
最後の一人?
しおりを挟む
キヴィオ市の門を出てしばらく歩いたところで[隠密]を使って姿を消すと、[転移]でまた森の方へと進んでおいた。
「あの~、ケネスさん、ここはひょっとして……」
「はい、[転移]です」
「いえ、自然の中でなさるのがお好みなのかなと想像してしまいました」
「違います。キヴィオ市まで戻ったので、元の場所まで移動しただけです。では今から家に戻りますね」
異空間への出入り口を出すと、マノンさんの手を引いてくぐった。
「ここは?」
「異空間にある僕の家です。とりあえずみんなに紹介しますね」
マノンさんは移動の連続に、理解が追いついていないような顔をしていた。
リビングに戻るとみんなが揃っていた。やっぱりか。
「リゼッタ、マノンさんを連れてきたよ。裏で色々やってたみたいだね」
「色々と言うほどでもありません。キヴィオ市に必ず現れるということを伝えただけです。それに、どうしても嫌なら無理して連れてくる必要もないはずです。いざとなったら振り切って帰ることもできたのでは?」
ぐうの音も出ないとはこのこと。
「マスターは人がいいですから~」
「ケネス、マノンさんでとりあえず終わりです。これ以上は無理は言いません。さあケネス、家長としてどっしりと構えていてください」
どうしてマノンさんで最後かは分からないけど、これ以上無理に増やさないならそれでいいかな。十分多いけどね。
「ええっと、マノンです。ユーヴィ市の冒険者ギルドで受付をしていました。ケネスさんの妻として、これからよろしくお願いしますねぇ」
「カロリッタ殿やカローラ殿と雰囲気が似ているようじゃのう」
「やさしそう」
カロリッタはのんびりした口調のわりにはかなり押すけどね。カローラさんは優しい。マノンさんは終始おっとり。
「みなさん、種族もバラバラなんですね」
「人間、エルフ、犬人、ドワーフ、妖精、デュオ、竜、一通りいるかな」
「デュオ? 竜?」
「デュオは私です」
「竜はワシじゃ」
「え?」
「まあ、おいおい知ってもらいましょう。とりあえずマノンさんの部屋をどこにするか決めましょうか」
「ええ、ありがとうございます、って選べるほどあるのですねぇ」
「うっかりして無駄に広くしてしまったんですよね」
これは本当の話。最初はここまで広くするつもりはなかった。この家を作った時、初めて異空間を作った時だけど、頭の中に家のイメージをしたんだよね。このあたりにリビングがあって、ダイニングがここで、お風呂をここに、とか。
最後の方に、部屋は多い方がいいとか思ってしまって、それで部屋を増やしたら洗面所やトイレは多い方がいいとか、人が増えるならお風呂やリビングも広げておこうとか、そんなことを考えたらこの広さになってしまった。
なんとなくだけど、この家は三メートルが基準になっている気がする。個人の部屋は六メートル四方、トイレは三メートル四方、お風呂は六✕九メートル、洗濯室は九メートル四方、リビングは一二✕二四メートル、他の部屋は一二メートル四方。
壁もあるはずなんだけど、計算すると壁の厚みがない。微妙にどこかで空間が拡張されているのかもしれない。分からないことはそのままにしておく。
「一応ここにどこが誰の部屋かというのが書いてあるので、空いている部屋から選んでもらいますね」
「ええっと、そうですねぇ、ここでしょうか」
マノンさんが選んだのはカローラさんとマリアンの間。これで西と南が埋まった形になった。
家具は後で入れるとして、ますは家の中を案内する。まずは衣装室から。外から見たら普通の部屋なのに、中はもの凄く広い空間。目を見開いてびっくりしてるね。
「ここは?」
「ここは衣装室。主にエリーとマリアンが作ったものが飾ってある、というか置いてある感じですね。マノンさんの服もそのうち並びますよ」
部屋を出ようとしたら、エリーとマイカが試着室へとマノンさんを引きずっていった。いきなり採寸でもするんだろうか? すると五分も経たないうちに戻ってきた。
「旦那様、マノン様は逸材です」
「これは、ちょっと嫉妬しますね」
試着室から出てきたのは、あの有名な女性格闘家の服装をしたマノンさん。武闘家だったらしいから似合うね。似合うけど、あんなのあったかな?
「あの~、似合いますか?」
「よく似合いますよ」
「あ~、よかったです」
その格好のまま家の中を見て回るんだろうか。
とりあえず一階に下りる。応接室、リビング、キッチン、ダイニング、バックヤード、洗濯室、そしてお風呂。順番に見て回るだけだね。
家の中を一通り見て回ったから、次は家の周りを歩くことにした。
「あの建物は何ですか?」
「あれはリゼッタの温泉旅館です」
「温泉旅館……ああ~、一階の奥に通路があったところですねぇ」
「そうです。外から見るとああなっています。大きなお風呂に入ってゆっくりする施設ですね。そちらの方はまた後ほど見に行きますね」
「ええ、お願いします」
「このあたりは畑と田んぼと茶畑ですね。向こうが牧草地です」
「あれは、馬と……なんでしょう?」
「アンゴウカウサギというウサギですね。ちょっと特殊なウサギで、人の言葉が分かります。念話で話もできますよ」
「アンゴウカウサギ……」
《サラン、こちらは今度うちに住むことになったマノンさん。仲良くしてね》
《はっ、歓迎のメッセージを用意するであります》
「歓迎のメッセージを用意してくれるみたいですよ」
「まあ~」
セラとキラの時と同じように、三匹が『歓迎』『マノンさん』『ようこそ』と書いた紙を頭上に持ち上げていた。
「あの子たちは人の言葉は話せませんが、理解はしています。文字も書けます。牧草地にいることが多いので、話しかけてやってください」
「ええ、もちろん」
「知らないことばかりですねぇ」
「そもそも、かなり特殊なものが多いですねえ、ここには」
家はまだいいとして、ことあたりでは見かけない外見の温泉旅館。そしてまったく季節感のない畑と森。牧草地に沢山いる白いモコモコとしたアンゴウカウサギたち。
「これもミリヤちゃんのおかげですね」
「ミリヤさんですか?」
「ええ。彼女が賑やかにしてくれたおかげで、ケネスさんと接点ができましたから」
「まあそういう見方もできますね。ではそろそろ家の方に戻りましょうか」
久しぶりというほどでもない歓迎会をすることになっている。この前はカローラさんの時で、その際は告白酒のせいでとんでもないことになった。リゼッタに釘を刺したら、もう何もしませんと返ってきた。嘘は付かないだろう。
いつものように料理はエリーとマイカとカローラさんが作っている。最近は人数が増えたので、マリアンもキッチンに立つことが増えたらしい。もともと自炊をしていたからそれなりにはできるそうだ。
リゼッタは料理はそれほど得意ではなかったけど、練習は続けているし、ミシェルも包丁型魔道具で色々と作るようになってきた。セラとキラは……試しに作ってもらったら美味しかったけど、どちらかと言うと食べる方が得意だね。
「それでは家長のケネスから一言お願いします」
「いきなり? えー、今回マノンさんを新たに家族として迎え入れることになりました。これまで、いつの間にか人が増えてきましたが、一応ここで締め切りとします」
「まだ部屋に空きはありますよ~」
カロリッタが茶化してみんなが笑う。
「部屋が多いのは不可抗力! ではみんな、グラスを持って。では、マノンさん、ようこそ!」
「「「「ようこそ!」」」」
なんとなく定番となった立食形式。代わる代わるマノンさんと話をしている。マノンさんは人当たりがいいから、ミシェルもすぐに懐いたみたいだね。
僕も途中で料理の追加を作ったり、お酒の追加を出したりした。
「まあ~、こんなに楽しく食事をするのは、久しぶりで……久しぶりで……ありがとう……ございます……ケネスさん……ぐすっ……うわあああ……」
「マ、マノンさん」
マノンさんがいきなり泣き出して僕にしがみついた。リビングでソファに座らせてしばらく背中をさすっていると、なんとか落ち着いてきた。
「すびばせん、げねすさん。しばらぐこうじていてくだざい」
そう言うと、顔をぐしゃぐしゃにしたマノンさんは、もう一度しがみついてきた。
一〇分くらい経っただろうか、ようやく顔を上げてくれた。真っ赤な目のまま微笑んでいる。
「すみませんでした。なにかこう、気を張っていたのが緩んでしまったみたいで」
「それでいいんじゃないでしょうか。ここで気を張る必要はありませんよ」
「ありがとうございます。こうやって話をしながら食事をするなんて本当に久しぶりで、そう思ったら……」
「あの、ギルドのみなさんと一緒に行ったりとかはしないんですか?」
「ええ、一応これでも既婚ですから、未婚の女性と一緒に飲みに行くのは……」
「ま、まあそうですよね。すみません、変なことを聞きました」
「いえ、あれは私の意地でしたね。例え一人でいても、妻としては決して手を抜かないと。難癖付けられないようにだけは気を付けていましたから」
……あー、いい人じゃないか。こんないい人に馬鹿なことをした夫には一度ガツンと……ガツンと、マノンさんに蹴られたか。町から蹴り出したって言ってたよね。そっちはもういいか。
「それならここではマノンさんらしくいきましょう。もう無理はしなくていいですよ。ずっとここにいてください」
「……ありがとうございます……あなた」
本当は結婚した時にそう言いたかったんだろう。マノンさんをぎゅっと抱きしめた。
向こうからエリーとカロリッタが覗いている。エリーが親指を立てているのはまだいい。カロリッタが三本の指で作った下品なジェスチャーは無視することにした。
「お騒がせしました」
「マノン様、気にすることはありませんよ。ここにいるのは旦那様の妻だけですから」
「そうじゃそうじゃ。ここで好きなことをしとったら気も晴れるじゃろう」
「ありがとうございます。今後はケネスさんのために尽くしますねぇ」
「マリアンさんも、いつの間にか先輩の妻の気分になってませんか?」
「いや、毎度毎度否定するのも面倒でのう。もちろん外の者に対しては説明するがのう」
「ふふっ。まずは一歩前進ですね」
「どうしてもお前様とくっつけたいらしいのう」
みんなの話を聞いていると、それまで黙々と食べていたセラとキラがこちらを向いて何か言いたそうにしていた。
「どうかした?」
「順番はマノンさんに譲ります。私たちはその後で構わないです」
「大切にしてあげてほしい」
この二人は何も考えていないように見えることが多いけど、見た目以上に鋭いからね。いきなり正論で切り込んでくることがある。
「もちろん大切にするよ」
「ではこの場はみんなに任せてさっそく上へどうぞ。みんなで見送ります」
「フレー、フレー」
「そこで励ますのはやめて。マノンさんが真っ赤でしょ」
「いえ、嬉しすぎて……どう言い表したらいいのか分かりませんが、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
「いや、こちらこそ」
─────────────────────
マノンの部屋を加えた部屋割りです。
「あの~、ケネスさん、ここはひょっとして……」
「はい、[転移]です」
「いえ、自然の中でなさるのがお好みなのかなと想像してしまいました」
「違います。キヴィオ市まで戻ったので、元の場所まで移動しただけです。では今から家に戻りますね」
異空間への出入り口を出すと、マノンさんの手を引いてくぐった。
「ここは?」
「異空間にある僕の家です。とりあえずみんなに紹介しますね」
マノンさんは移動の連続に、理解が追いついていないような顔をしていた。
リビングに戻るとみんなが揃っていた。やっぱりか。
「リゼッタ、マノンさんを連れてきたよ。裏で色々やってたみたいだね」
「色々と言うほどでもありません。キヴィオ市に必ず現れるということを伝えただけです。それに、どうしても嫌なら無理して連れてくる必要もないはずです。いざとなったら振り切って帰ることもできたのでは?」
ぐうの音も出ないとはこのこと。
「マスターは人がいいですから~」
「ケネス、マノンさんでとりあえず終わりです。これ以上は無理は言いません。さあケネス、家長としてどっしりと構えていてください」
どうしてマノンさんで最後かは分からないけど、これ以上無理に増やさないならそれでいいかな。十分多いけどね。
「ええっと、マノンです。ユーヴィ市の冒険者ギルドで受付をしていました。ケネスさんの妻として、これからよろしくお願いしますねぇ」
「カロリッタ殿やカローラ殿と雰囲気が似ているようじゃのう」
「やさしそう」
カロリッタはのんびりした口調のわりにはかなり押すけどね。カローラさんは優しい。マノンさんは終始おっとり。
「みなさん、種族もバラバラなんですね」
「人間、エルフ、犬人、ドワーフ、妖精、デュオ、竜、一通りいるかな」
「デュオ? 竜?」
「デュオは私です」
「竜はワシじゃ」
「え?」
「まあ、おいおい知ってもらいましょう。とりあえずマノンさんの部屋をどこにするか決めましょうか」
「ええ、ありがとうございます、って選べるほどあるのですねぇ」
「うっかりして無駄に広くしてしまったんですよね」
これは本当の話。最初はここまで広くするつもりはなかった。この家を作った時、初めて異空間を作った時だけど、頭の中に家のイメージをしたんだよね。このあたりにリビングがあって、ダイニングがここで、お風呂をここに、とか。
最後の方に、部屋は多い方がいいとか思ってしまって、それで部屋を増やしたら洗面所やトイレは多い方がいいとか、人が増えるならお風呂やリビングも広げておこうとか、そんなことを考えたらこの広さになってしまった。
なんとなくだけど、この家は三メートルが基準になっている気がする。個人の部屋は六メートル四方、トイレは三メートル四方、お風呂は六✕九メートル、洗濯室は九メートル四方、リビングは一二✕二四メートル、他の部屋は一二メートル四方。
壁もあるはずなんだけど、計算すると壁の厚みがない。微妙にどこかで空間が拡張されているのかもしれない。分からないことはそのままにしておく。
「一応ここにどこが誰の部屋かというのが書いてあるので、空いている部屋から選んでもらいますね」
「ええっと、そうですねぇ、ここでしょうか」
マノンさんが選んだのはカローラさんとマリアンの間。これで西と南が埋まった形になった。
家具は後で入れるとして、ますは家の中を案内する。まずは衣装室から。外から見たら普通の部屋なのに、中はもの凄く広い空間。目を見開いてびっくりしてるね。
「ここは?」
「ここは衣装室。主にエリーとマリアンが作ったものが飾ってある、というか置いてある感じですね。マノンさんの服もそのうち並びますよ」
部屋を出ようとしたら、エリーとマイカが試着室へとマノンさんを引きずっていった。いきなり採寸でもするんだろうか? すると五分も経たないうちに戻ってきた。
「旦那様、マノン様は逸材です」
「これは、ちょっと嫉妬しますね」
試着室から出てきたのは、あの有名な女性格闘家の服装をしたマノンさん。武闘家だったらしいから似合うね。似合うけど、あんなのあったかな?
「あの~、似合いますか?」
「よく似合いますよ」
「あ~、よかったです」
その格好のまま家の中を見て回るんだろうか。
とりあえず一階に下りる。応接室、リビング、キッチン、ダイニング、バックヤード、洗濯室、そしてお風呂。順番に見て回るだけだね。
家の中を一通り見て回ったから、次は家の周りを歩くことにした。
「あの建物は何ですか?」
「あれはリゼッタの温泉旅館です」
「温泉旅館……ああ~、一階の奥に通路があったところですねぇ」
「そうです。外から見るとああなっています。大きなお風呂に入ってゆっくりする施設ですね。そちらの方はまた後ほど見に行きますね」
「ええ、お願いします」
「このあたりは畑と田んぼと茶畑ですね。向こうが牧草地です」
「あれは、馬と……なんでしょう?」
「アンゴウカウサギというウサギですね。ちょっと特殊なウサギで、人の言葉が分かります。念話で話もできますよ」
「アンゴウカウサギ……」
《サラン、こちらは今度うちに住むことになったマノンさん。仲良くしてね》
《はっ、歓迎のメッセージを用意するであります》
「歓迎のメッセージを用意してくれるみたいですよ」
「まあ~」
セラとキラの時と同じように、三匹が『歓迎』『マノンさん』『ようこそ』と書いた紙を頭上に持ち上げていた。
「あの子たちは人の言葉は話せませんが、理解はしています。文字も書けます。牧草地にいることが多いので、話しかけてやってください」
「ええ、もちろん」
「知らないことばかりですねぇ」
「そもそも、かなり特殊なものが多いですねえ、ここには」
家はまだいいとして、ことあたりでは見かけない外見の温泉旅館。そしてまったく季節感のない畑と森。牧草地に沢山いる白いモコモコとしたアンゴウカウサギたち。
「これもミリヤちゃんのおかげですね」
「ミリヤさんですか?」
「ええ。彼女が賑やかにしてくれたおかげで、ケネスさんと接点ができましたから」
「まあそういう見方もできますね。ではそろそろ家の方に戻りましょうか」
久しぶりというほどでもない歓迎会をすることになっている。この前はカローラさんの時で、その際は告白酒のせいでとんでもないことになった。リゼッタに釘を刺したら、もう何もしませんと返ってきた。嘘は付かないだろう。
いつものように料理はエリーとマイカとカローラさんが作っている。最近は人数が増えたので、マリアンもキッチンに立つことが増えたらしい。もともと自炊をしていたからそれなりにはできるそうだ。
リゼッタは料理はそれほど得意ではなかったけど、練習は続けているし、ミシェルも包丁型魔道具で色々と作るようになってきた。セラとキラは……試しに作ってもらったら美味しかったけど、どちらかと言うと食べる方が得意だね。
「それでは家長のケネスから一言お願いします」
「いきなり? えー、今回マノンさんを新たに家族として迎え入れることになりました。これまで、いつの間にか人が増えてきましたが、一応ここで締め切りとします」
「まだ部屋に空きはありますよ~」
カロリッタが茶化してみんなが笑う。
「部屋が多いのは不可抗力! ではみんな、グラスを持って。では、マノンさん、ようこそ!」
「「「「ようこそ!」」」」
なんとなく定番となった立食形式。代わる代わるマノンさんと話をしている。マノンさんは人当たりがいいから、ミシェルもすぐに懐いたみたいだね。
僕も途中で料理の追加を作ったり、お酒の追加を出したりした。
「まあ~、こんなに楽しく食事をするのは、久しぶりで……久しぶりで……ありがとう……ございます……ケネスさん……ぐすっ……うわあああ……」
「マ、マノンさん」
マノンさんがいきなり泣き出して僕にしがみついた。リビングでソファに座らせてしばらく背中をさすっていると、なんとか落ち着いてきた。
「すびばせん、げねすさん。しばらぐこうじていてくだざい」
そう言うと、顔をぐしゃぐしゃにしたマノンさんは、もう一度しがみついてきた。
一〇分くらい経っただろうか、ようやく顔を上げてくれた。真っ赤な目のまま微笑んでいる。
「すみませんでした。なにかこう、気を張っていたのが緩んでしまったみたいで」
「それでいいんじゃないでしょうか。ここで気を張る必要はありませんよ」
「ありがとうございます。こうやって話をしながら食事をするなんて本当に久しぶりで、そう思ったら……」
「あの、ギルドのみなさんと一緒に行ったりとかはしないんですか?」
「ええ、一応これでも既婚ですから、未婚の女性と一緒に飲みに行くのは……」
「ま、まあそうですよね。すみません、変なことを聞きました」
「いえ、あれは私の意地でしたね。例え一人でいても、妻としては決して手を抜かないと。難癖付けられないようにだけは気を付けていましたから」
……あー、いい人じゃないか。こんないい人に馬鹿なことをした夫には一度ガツンと……ガツンと、マノンさんに蹴られたか。町から蹴り出したって言ってたよね。そっちはもういいか。
「それならここではマノンさんらしくいきましょう。もう無理はしなくていいですよ。ずっとここにいてください」
「……ありがとうございます……あなた」
本当は結婚した時にそう言いたかったんだろう。マノンさんをぎゅっと抱きしめた。
向こうからエリーとカロリッタが覗いている。エリーが親指を立てているのはまだいい。カロリッタが三本の指で作った下品なジェスチャーは無視することにした。
「お騒がせしました」
「マノン様、気にすることはありませんよ。ここにいるのは旦那様の妻だけですから」
「そうじゃそうじゃ。ここで好きなことをしとったら気も晴れるじゃろう」
「ありがとうございます。今後はケネスさんのために尽くしますねぇ」
「マリアンさんも、いつの間にか先輩の妻の気分になってませんか?」
「いや、毎度毎度否定するのも面倒でのう。もちろん外の者に対しては説明するがのう」
「ふふっ。まずは一歩前進ですね」
「どうしてもお前様とくっつけたいらしいのう」
みんなの話を聞いていると、それまで黙々と食べていたセラとキラがこちらを向いて何か言いたそうにしていた。
「どうかした?」
「順番はマノンさんに譲ります。私たちはその後で構わないです」
「大切にしてあげてほしい」
この二人は何も考えていないように見えることが多いけど、見た目以上に鋭いからね。いきなり正論で切り込んでくることがある。
「もちろん大切にするよ」
「ではこの場はみんなに任せてさっそく上へどうぞ。みんなで見送ります」
「フレー、フレー」
「そこで励ますのはやめて。マノンさんが真っ赤でしょ」
「いえ、嬉しすぎて……どう言い表したらいいのか分かりませんが、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
「いや、こちらこそ」
─────────────────────
マノンの部屋を加えた部屋割りです。
1
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
