新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第二章 第一部

キラの実家でのお祝い

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「はーっ、勘違いだったか。無事でよかったが」
「ええ、そうですねー」

 ご両親はあらためてキラを抱きしめている。それにしても、わりといい家に住んでいるのに、どうして口減らしで自分が売られると勘違いをしたのかは……よく食べるからかな?

 ご両親もキラも落ち着いたようで、あらためてご両親に口減らしをするつもりはなかったことが分かった。そしてキラの方は完全に思い違いだった。

 弟さんたちがソゾンという人から聞いたおとぎ話を父親に話しているところを、うっかり立ち聞きしてしまったらしい。しかも中途半端に。それで自分が売られると勘違いしたらしいんだけど、やっぱり自分がよく食べるのを気にしていたらしい。

 そのおとぎ話というのはこういう内容だった。



 母親と妻、そして三人の子供がいる夫がいた。生活は決して楽ではなかった。税は年々重くなっていき、満足に食べることすらできなくなってきた。

 さらに数年経ち、子供たちも大きくなり、母親と妻に十分な食事を取らせることが無理になってきた。

 母親には代わりはいない、そして妻がいれば子はまたできる。夫は自ら穴を掘って、口減らしのために子供たちを埋める決意をした。

 その夜、林の中で穴を掘っていたら、穴の底から金貨の入った壺が出てきた。それで家族みんなが幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。



「あなた、これは母親は大切にしましょうという話でいいのでしょうか?」
「多分……そうだろうね、微妙だけど。僕の知っている話では、郭巨という人の話が近いかな」
「こういう話って~最終的にはめでたしめですが~途中はそうでもなですよね~」
「わりと残酷だよね。そもそもおとぎ話全体がそんな傾向だけど」

 キラはこの話のほんの一部だけを聞いて勘違いしたようだ。

 そのキラはさっきから真っ赤な顔をして僕のお腹に顔を押しつけている。普段が普段だけに、珍しすぎて可愛い。そう言ったらお腹をポカポカ叩かれた。威力があるからドスドスだけど。



「今日はゆっくりしていってくださいねー」

 ニカさんの勧めでこの家で泊まることになった。マノンはニカさんの手伝いでキッチンへ向かった。

 キラのお帰り会、そしてセラとキラの結婚おめでとう会が開かれることになり、ゲンナジー司祭も呼ぶことになった。

 エフセイさんもニカさんもすごくいい人なのに、どうしてキラは勘違いなんかしたのか。

 ユリアン君もイネッサちゃんもミハイル君もいい子たちで、キラによく懐いている。背の高さだけなら誰が一番年上か分からないけど。ユリアン君は一四、イネッサちゃんは一二、ミハイル君は一一らしい。

 キラには断りを入れた上で、エフセイさんたちにはキラは種族がドワーフだと言うことを伝えた。驚いた顔をしていたけど、それで子供の頃から小さいわりにはよく食べていたことが腑に落ちたらしい。よく食べていたけど、それは全然気にならなかったとニカさんも言っていた。

 僕の方からは二人と出会ったきっかけなどを説明した。きっかけがきっかけだから、付いていって迷惑だったんじゃないかと恐縮されたけど、全然迷惑ではなかったね。色々と驚いたけど。

 食事はニカさんとマノンが作り、お酒は僕が提供した。だいふ味も安定してきた気がする。

「いやー、キラがいなくなってどうなるかと思ったら、旦那を連れて戻ってくるとは。しかもセラちゃんも一緒に」
「ほんとねー。いい人そうだしー、甲斐性もありそうだしー」
「僕は最初、この町に寄るかどうか悩んだんですよね。キラが売られそうになったから家を飛び出したって聞いていたので。そうしたら本人が寄るのは問題ないって言って、セラも問題ないって言ったので、今こうしているわけですが」
「そうじゃなあ、キラちゃんは落ち着いているように見えて、わりと思い込みで行動することがあったのう。その点ではセラの方が落ち着いていたかのう」

 当然だけど、この場の主役はセラとキラ。二人は話のネタのされたせいか、それともお酒が入ったせいか、顔を真っ赤にしながら座っている。時々こっちをチラチラと見ているのは助け船を出してほしいせいだろう。でも頑張れ。こればっかりは僕にもどうしようもない。



 途中で両親を止めるのは無理だと悟ったのか、キラは酔わせて止める手段に出たらしい。両親にグイグイとお酒を勧めている。気が付けばゲンナジー司祭はすでに船を漕いでいる。キラの妹弟きょうだいたちはもう遅いから寝に行ったのかな。

 それからしばらく話をしていたけど、エフセイさんとニカさんも限界らしく、そろそろお開きにしようということになった。僕もキラに案内されて泊まらせてもらう部屋に入ったけど、周りを見るとマノンもカロリッタもいない。

「マノンさんは、#最後まで頑張ってねぇ#と言って家の方に戻ったです」
「カロリッタさんにはって言われた。だから頑張る」
「いや、さすがに人の家ではマズイんじゃないの?」
「エフセイさんとニカさんはよく分かってるですよ?」
「みんな酔ったふりをしてた」
「謀られた!」
「さあ先生、覚悟を決めてください」
「貰ってください」



「分かった。覚悟は決めた。でもその前に、大事なことを一つだけ言っておくね」
「「はい」」
「僕とをすると、年を取らなくなるんだけど、それは大丈夫?」
「年を取らなくなるですか?」
「不老?」
「そう。年を取らないからおそらく見た目もほとんど変わらないと思う。キラは一六だから、もしかしたら背がまだ伸びるかもしれない。ここで止まってもいい?」
「多分伸びないから大丈夫。それにこの属性は捨てがたい」
「私は問題ないです」
「分かったよ。じゃあ二人とも、おいで」



◆ ◆ ◆



「いやあ、昨日はいい日でした。キラもセラちゃんも顔を見せてくれたし」
「まあ後は子供だけねー。キラもセラちゃんも、頑張るのよー?」
「大丈夫。コツは掴んだ。そのうち孫を見せる」
「私も目一杯頑張ります。結果はどうなるか分からないですが」

 盛り上がっている四人を見ながら、親のことを考えたら子供を作るのもありだと思ってしまった。我ながら流されやすいのは分かってるよ。

 この世界に来て、親に結婚の挨拶をするというのは初めてだった。マイカのところでは話にすらならなかったから、あれは別だとしよう。一応アンナさんからは結婚と子作りの許可は貰っている、と言うよりも、早く子供を作るように、子供ができたら一度帰ってこいと言われている。

 異世界に来て、僕には親はいないけど、マイカ、エリー、ミシェル、セラ、キラ、マノンには親がいるということをあらためて考えた。僕は親との繋がりが薄かったからあまり実感がないんだけど、親に子供を見せることはやはり特別なことだと思うんだろうか。

 正直なところ、日本人だった頃の年齢を考えても……ええっと、三三かな? おそらく初婚の平均年齢よりも一年か二年上なだけ。あの頃は結婚するとか子供を作るとか、そんなことはまったく考える余裕もなかったけど、そろそろ考えてもいいのかもしれない。セラとキラを見ながらそんなことを考えていた。



◆ ◆ ◆



「お世話になりました」
「なあに、義理の息子になるんだ。そんなことは気にしなくていい」
「そうですよー。遠慮せずに顔を見せに来てくださいねー」
「ありがとうございます。では、また来ます」

 エフセイさんとニカさんにお礼を言って家を離れた。

「いいご両親だったね」
「恥ずかしかった……」
「歓迎っぷりが? それとも勘違いが?」



 ドスドスドス



「痛い痛い」
「余計なことを言うから」

 ポカポカがドスドスと僕のみぞおちに突き刺さる。

「先生のご両親はどんな人です?」
「あー、僕も親の顔を知らないんだよ。小さな頃に養護施設に預けられたみたいでね」
「同じでしたか」
「そうだね。あまり恵まれない環境だったわりには、それなりにまっすぐ育ったと思うよ。自分で言うのもどうかと思うけど」
「先生が曲がっているなら、他の人は完全にひねくれてるですよ?」
「ありがとう」
「みんなは知ってる?」
「いや、聞かれたことはないね。自分から言うことでもないでしょ」
「たしかにそう」

 三人で手をつなぎながら、町の出口に向かって歩き出した。
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