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第二章 第二部
いつの間にか領主にされかけていた話
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「ルボルさんはいますよね?」
「ふぁい、いまふよ。ふぁっへにうへにろうぞ」
「ミリヤさん、仕事中では?」
「んっ、ふう……。あ、いやー、お腹がグーグー鳴ったままで仕事をするよりは、人がいないうちに食べてしまった方がいいでしょう」
「そういうものかな?」
まあ勝手に上がらせてもらおう。
コンコン
「どうぞ」
「ケネスです。入りますね」
「おう」
中に入るとルボルさんもクレープを食べていた。まあ売り上げに貢献してくれるならいいか。
「いきなりどうした?」
「代官が夜逃げしたとか聞きましたので様子を見に来ました。一度キヴィオ子爵に会った方がいいかと思うのですが、どうでしょう? 警戒されたくはありませんので」
「警戒はしないと思うがなあ。ほれ」
そう言うと、ルボルさんは机の中から手紙を何通か出して僕に渡した。
「見てもいいんですか?」
「ああ、お前さんについてのことだ」
「では見ますね」
まずは最初の手紙。
大量の魔獣の素材のおかげで武器や防具をかなり充実させることができ、それによって大森林に対する準備がかなりできた。僕が大森林に対策をしていることを聞いて感謝を伝えたい。ルボルさんから僕が神出鬼没だと聞いているので、ルボルさんが言ったようにレオンツィオ殿下のところにも連絡をしている。そういう内容だ。
そしてもう一つの手紙がこれ。
大量に届いた素材のおかげで、今後はかなり財政的にも余裕が出ることになる。代官をしていた甥がやって来て、国外へ逃げるから代官をやめると言った。詳しく聞くと、最初は素材の一部を懐に入れて喜んでいたけど、そのうち大量の素材が次々と納められるのを見て、危険なものに手を出してしまったと気が付いた。こちらはそのような内容だ。
「僕は超危険人物ですか?」
「俺なんかはそうは思わんぞ。お前は礼儀正しいし、こちらから何もしなければ、お前も何もしないだろう」
「それは当然ですよ」
「ただ、ちょっと後ろ暗いところがあるとな、周りにいるやつがすべて敵に見えるもんだ」
「疑心暗鬼ですが。何にせよ、僕には思うところはありませんので、一度子爵に会ってきます」
「そうしてくれると助かる。俺から説明するよりも、お前を見た方が早いからな」
「ではこれから行ってきます。何か伝言とかありますか?」
「特にはない……いや、あったな。俺はお前を代官に推薦したいと言っていた、と言っておいてくれ」
「僕は落ち着きがないので、代官って柄ではないと思いますが。この町は嫌ではありませんけど」
「まあ、お前さんを見ていると素質はあると思うが、代官がいたりいなかったりすると、代官の代官が必要だな」
「そういうことです」
ギルドを出ると屋台にいるマノンに行き先を伝えてからキヴィオ市に向かった。
◆ ◆ ◆
キヴィオ市の領主邸は初めて入る。普通に冒険者をしていたら領主とはそれほど縁はないだろう。ギルド長すら普通の冒険者は縁がないそうだからね。
以前は遠目にしか見たことがなかった領主邸の前まで来た。門のところには三人の門衛が立っている。
「名前は?」
「ケネスと申します。ユーヴィ市から来ました」
「……ケネス……! 少々お待ちくださイ!」
声が裏返ったよ?
少し考えてから目を見開いた門衛が、甲冑を着たまま全力で走っていった。膝とか大丈夫かな? もう一人の門衛は、怖いものでも見たかのように僕を見ているけど、怖くないからね。
しばらくすると執事らしい男性がやってきた。
「ケネス様、執事のブラムと申します。こちらへどうぞ」
ブラムさんの後に付いて屋敷に入ると、使用人がものすごく緊張した顔をして列を作っていた。本気で怖がられてる?
「こちらにお入りください」
そう勧められて中に入ると、すでに領主らしき人物がいた。
「初めまして、キヴィオ子爵ディルクです」
「冒険者のケネスです。ユーヴィ市で店を始めさせていただきました」
子爵は別に怖がっている感じはしないね。
「いきなり失礼かもしれませんが、あれだけの魔獣を狩れる方ならどれほど厳しい方かと思っておりましたが、聞いていたように温和な方で安心しました」
「いえ、なんとなく分かりますので、別に気にはしませんよ」
「それでは、ようやくお会いできましたので、いくつかお伝えしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「はい。それと、僕は貴族ではありませんので、もっとくだけた話し方をしていただいても構いませんが」
「これは私の地ですので、ご勘弁を。それに奥様のお一人がレオンツィオ殿下の奥様の妹だとか。それなりに丁寧な話し方をする理由はありますな」
「まずは甥の件です。ユーヴィ市で代官をしておりました。先日ここに来て辞職願を出して国外へ去りました」
「そこまでしなければいけないほどだったのですか?」
「いえ、今回の件では金額的には金貨一〇枚にもならないでしょうが……」
どうやら代官をしていた甥は、以前から少しずつ色々なものを懐に入れていたらしい。僕が売った魔獣なども一部は私的に使ったそうだ。領主に納めるべきものを代官が着服するというのは、こう言ったら何だけど、多少はあることだ。度が過ぎなければ問題とはならないのは事実。しかも伯父と甥だからね。
そしてリゼッタたちが魔素吸引丸太を置くついでに狩った魔獣を、次々と持ち込むようになった。それも一部は懐に入れていたらしい。
ところが、あまりにも量が増えてきたので出どころを調べてみると、すべて同じだった。さらには王族とも繋がりがあることも知ってしまった。
そしてトドメがあの店だ。あれだけの魔獣を狩った冒険者が自分のいる町で商売を始め、その店は薬剤師ギルドの近く。代官の屋敷は店から少し歩いたところ。
後ろ暗いところがある者は、周りすべてが敵に見える。代官は伯父である子爵にすべてを話し、代官として貯めた俸給だけを持って去って行った。
この屋敷の使用人たちがなんとなく怖がっているのは、代官があまりにも取り乱していたかららしい。
僕とルボルさんが考えていたのとほとんど同じだった。
「そういうわけでして、ユーヴィ市の代官が空いてしましました。実はその件で相談をしたいと思っておりました」
「なんとなく嫌な予感がするんですが、ひょっとして僕に代官をさせようと思っていませんか?」
「いえ、さすがにそれはありません」
「そうですか……」
「さすがに代官では申し訳ありませんから」
「は?」
「レオンツィオ殿下には、子爵領を分割することを考えているとお伝えしています」
「なんでですか?」
「実は以前から考えていたことなのですが……」
キヴィオ子爵領はキヴィオ市周辺とキヴィオ市から西側で環境がかなり変わる。元々はキヴィオ市周辺だけが領地だったからだ。西へ向かう街道はまっすぐではないし、街道の両側には森が迫っているところも多い。その先にパダ村を作り、その先へ進んでユーヴィ村を作り、さらにそこを拠点にしてナルヴァ村が開拓された。
ナルヴァ村はキヴィオ子爵領に大量の麦をもたらしてくれるけど、大森林の暴走の際にキヴィオ市からナルヴァ村まで援軍を送るのはかなり大変。普通に移動だけで一か月はかかる。そもそも戦争がない国だから、領兵は領地の巡回や盗賊の排除などが中心になっている。もちろん魔獣の駆除をすることも多いけど、そもそも人数がそこまでいない。
人口が二〇〇万から二五〇万人のこの国なら、常時兵士として動員できるのは二万人から三万人。これは国全体での話。キヴィオ子爵領の人口を考えたら、全部で五〇〇から六〇〇人程度だろう。それに暴走があっても町の警備兵をすべて送ることはできないし、各地を回っている巡回兵を呼び戻すわけにもいかない。冒険者と協力してナルヴァ村に駆除に駆けつけたとして、無傷というわけにはいかない。その補充もなかなか大変だそうだ。
代々の領主は領地を広げてきた。ナルヴァ村ができ、パダ村はパダ町になり、ユーヴィ村はユーヴィ町に、そしてユーヴィ市になり、領主は男爵から子爵に陞爵し、拡張を続けてきたけど、そろそろ限界に達しつつあると。そこで以前から話が出ていた子爵領分割の話を受け入れるつもりでいたらしい。
「これまでの領主が切り拓いてきた場所を無償で渡すことにはもちろん抵抗があります。ですので、ある程度の麦を融通してくれることを条件に分割の話を受け入れることにしたわけです。それで話に聞いたケネス殿を殿下に推薦しています」
「もう連絡しているのですか?」
「はい、こういう話は遅いよりも早いほうがいいでしょう」
「ちなみにそれはいつ頃の話ですか?」
「ルボルからの手紙で、ケネス殿が暴走を止めてくれたことを知った後ですね。レオニートにも直接話を聞いたところ、野心とは無縁の穏やかな人物だと聞きましたので、殿下に連絡をしました。しばらく経ってから甥の話もありましたので、ちょうどよかったと言えばいいのでしょうか」
「意外とルボルさんも向いていると思えるのですが」
「普通の町であれば彼にも務まるとは思いますけどね。ですが、分割する領地のことをこう言うのも問題があるかもしれませんが、ナルヴァ村からユーヴィ市あたりだけを一つの領地とすると、人口が少ないので兵力が確保できません。そうすると暴走への備えができなくなります。ケネス殿たちだけで一軍を超える戦力になるとルボルの手紙にはありました。それはケネス殿を推薦した理由でもあります」
「たしかにそのための予算は大幅に削減できますけどね」
一度殿下に会うか。
「ちなみにルボルからは、ケネス殿は逃げ道を与えれば逃げるから、まずは退路を断ってから交渉に臨むべし、とアドバイスを貰いました」
「あの人は、もう……」
あの人はホントに僕のことをよく分かってるよね。レオニートさんも言っていたけど、人を見る目だけはあるのは間違いないんだろう。
えー、でも領主かあ。領主が嫌というよりも、なんとなく一か所に縛られるのが嫌なのかもね。
「分かりました。とりあえず殿下に確認を取ります。そもそも殿下が上に報告したからと言って僕が領主に決まるわけでもないでしょうけど」
「それはそうでしょう。ですが、ケネス殿がこれまでどれほどのことを成し遂げたかまでは分かりませんが、積み重ねればそれなりの高さになるのではありませんか?」
「そう……でしょうか?」
盗賊退治をした。パルツィ子爵を退治(?)した。大森林の暴走を止めた。他には個人的なことだけど、殿下の体調がよくなった。それくらいじゃない?
「ではこの件については、殿下とお会いしてから、またこちらに伺います。僕の方としては、今のところは消極的賛成とさせていただきますね」
「ええ、ケネス殿とは仲良くできそうですので、できれば貴方が選ばれてほしいと思っていますよ」
「ふぁい、いまふよ。ふぁっへにうへにろうぞ」
「ミリヤさん、仕事中では?」
「んっ、ふう……。あ、いやー、お腹がグーグー鳴ったままで仕事をするよりは、人がいないうちに食べてしまった方がいいでしょう」
「そういうものかな?」
まあ勝手に上がらせてもらおう。
コンコン
「どうぞ」
「ケネスです。入りますね」
「おう」
中に入るとルボルさんもクレープを食べていた。まあ売り上げに貢献してくれるならいいか。
「いきなりどうした?」
「代官が夜逃げしたとか聞きましたので様子を見に来ました。一度キヴィオ子爵に会った方がいいかと思うのですが、どうでしょう? 警戒されたくはありませんので」
「警戒はしないと思うがなあ。ほれ」
そう言うと、ルボルさんは机の中から手紙を何通か出して僕に渡した。
「見てもいいんですか?」
「ああ、お前さんについてのことだ」
「では見ますね」
まずは最初の手紙。
大量の魔獣の素材のおかげで武器や防具をかなり充実させることができ、それによって大森林に対する準備がかなりできた。僕が大森林に対策をしていることを聞いて感謝を伝えたい。ルボルさんから僕が神出鬼没だと聞いているので、ルボルさんが言ったようにレオンツィオ殿下のところにも連絡をしている。そういう内容だ。
そしてもう一つの手紙がこれ。
大量に届いた素材のおかげで、今後はかなり財政的にも余裕が出ることになる。代官をしていた甥がやって来て、国外へ逃げるから代官をやめると言った。詳しく聞くと、最初は素材の一部を懐に入れて喜んでいたけど、そのうち大量の素材が次々と納められるのを見て、危険なものに手を出してしまったと気が付いた。こちらはそのような内容だ。
「僕は超危険人物ですか?」
「俺なんかはそうは思わんぞ。お前は礼儀正しいし、こちらから何もしなければ、お前も何もしないだろう」
「それは当然ですよ」
「ただ、ちょっと後ろ暗いところがあるとな、周りにいるやつがすべて敵に見えるもんだ」
「疑心暗鬼ですが。何にせよ、僕には思うところはありませんので、一度子爵に会ってきます」
「そうしてくれると助かる。俺から説明するよりも、お前を見た方が早いからな」
「ではこれから行ってきます。何か伝言とかありますか?」
「特にはない……いや、あったな。俺はお前を代官に推薦したいと言っていた、と言っておいてくれ」
「僕は落ち着きがないので、代官って柄ではないと思いますが。この町は嫌ではありませんけど」
「まあ、お前さんを見ていると素質はあると思うが、代官がいたりいなかったりすると、代官の代官が必要だな」
「そういうことです」
ギルドを出ると屋台にいるマノンに行き先を伝えてからキヴィオ市に向かった。
◆ ◆ ◆
キヴィオ市の領主邸は初めて入る。普通に冒険者をしていたら領主とはそれほど縁はないだろう。ギルド長すら普通の冒険者は縁がないそうだからね。
以前は遠目にしか見たことがなかった領主邸の前まで来た。門のところには三人の門衛が立っている。
「名前は?」
「ケネスと申します。ユーヴィ市から来ました」
「……ケネス……! 少々お待ちくださイ!」
声が裏返ったよ?
少し考えてから目を見開いた門衛が、甲冑を着たまま全力で走っていった。膝とか大丈夫かな? もう一人の門衛は、怖いものでも見たかのように僕を見ているけど、怖くないからね。
しばらくすると執事らしい男性がやってきた。
「ケネス様、執事のブラムと申します。こちらへどうぞ」
ブラムさんの後に付いて屋敷に入ると、使用人がものすごく緊張した顔をして列を作っていた。本気で怖がられてる?
「こちらにお入りください」
そう勧められて中に入ると、すでに領主らしき人物がいた。
「初めまして、キヴィオ子爵ディルクです」
「冒険者のケネスです。ユーヴィ市で店を始めさせていただきました」
子爵は別に怖がっている感じはしないね。
「いきなり失礼かもしれませんが、あれだけの魔獣を狩れる方ならどれほど厳しい方かと思っておりましたが、聞いていたように温和な方で安心しました」
「いえ、なんとなく分かりますので、別に気にはしませんよ」
「それでは、ようやくお会いできましたので、いくつかお伝えしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「はい。それと、僕は貴族ではありませんので、もっとくだけた話し方をしていただいても構いませんが」
「これは私の地ですので、ご勘弁を。それに奥様のお一人がレオンツィオ殿下の奥様の妹だとか。それなりに丁寧な話し方をする理由はありますな」
「まずは甥の件です。ユーヴィ市で代官をしておりました。先日ここに来て辞職願を出して国外へ去りました」
「そこまでしなければいけないほどだったのですか?」
「いえ、今回の件では金額的には金貨一〇枚にもならないでしょうが……」
どうやら代官をしていた甥は、以前から少しずつ色々なものを懐に入れていたらしい。僕が売った魔獣なども一部は私的に使ったそうだ。領主に納めるべきものを代官が着服するというのは、こう言ったら何だけど、多少はあることだ。度が過ぎなければ問題とはならないのは事実。しかも伯父と甥だからね。
そしてリゼッタたちが魔素吸引丸太を置くついでに狩った魔獣を、次々と持ち込むようになった。それも一部は懐に入れていたらしい。
ところが、あまりにも量が増えてきたので出どころを調べてみると、すべて同じだった。さらには王族とも繋がりがあることも知ってしまった。
そしてトドメがあの店だ。あれだけの魔獣を狩った冒険者が自分のいる町で商売を始め、その店は薬剤師ギルドの近く。代官の屋敷は店から少し歩いたところ。
後ろ暗いところがある者は、周りすべてが敵に見える。代官は伯父である子爵にすべてを話し、代官として貯めた俸給だけを持って去って行った。
この屋敷の使用人たちがなんとなく怖がっているのは、代官があまりにも取り乱していたかららしい。
僕とルボルさんが考えていたのとほとんど同じだった。
「そういうわけでして、ユーヴィ市の代官が空いてしましました。実はその件で相談をしたいと思っておりました」
「なんとなく嫌な予感がするんですが、ひょっとして僕に代官をさせようと思っていませんか?」
「いえ、さすがにそれはありません」
「そうですか……」
「さすがに代官では申し訳ありませんから」
「は?」
「レオンツィオ殿下には、子爵領を分割することを考えているとお伝えしています」
「なんでですか?」
「実は以前から考えていたことなのですが……」
キヴィオ子爵領はキヴィオ市周辺とキヴィオ市から西側で環境がかなり変わる。元々はキヴィオ市周辺だけが領地だったからだ。西へ向かう街道はまっすぐではないし、街道の両側には森が迫っているところも多い。その先にパダ村を作り、その先へ進んでユーヴィ村を作り、さらにそこを拠点にしてナルヴァ村が開拓された。
ナルヴァ村はキヴィオ子爵領に大量の麦をもたらしてくれるけど、大森林の暴走の際にキヴィオ市からナルヴァ村まで援軍を送るのはかなり大変。普通に移動だけで一か月はかかる。そもそも戦争がない国だから、領兵は領地の巡回や盗賊の排除などが中心になっている。もちろん魔獣の駆除をすることも多いけど、そもそも人数がそこまでいない。
人口が二〇〇万から二五〇万人のこの国なら、常時兵士として動員できるのは二万人から三万人。これは国全体での話。キヴィオ子爵領の人口を考えたら、全部で五〇〇から六〇〇人程度だろう。それに暴走があっても町の警備兵をすべて送ることはできないし、各地を回っている巡回兵を呼び戻すわけにもいかない。冒険者と協力してナルヴァ村に駆除に駆けつけたとして、無傷というわけにはいかない。その補充もなかなか大変だそうだ。
代々の領主は領地を広げてきた。ナルヴァ村ができ、パダ村はパダ町になり、ユーヴィ村はユーヴィ町に、そしてユーヴィ市になり、領主は男爵から子爵に陞爵し、拡張を続けてきたけど、そろそろ限界に達しつつあると。そこで以前から話が出ていた子爵領分割の話を受け入れるつもりでいたらしい。
「これまでの領主が切り拓いてきた場所を無償で渡すことにはもちろん抵抗があります。ですので、ある程度の麦を融通してくれることを条件に分割の話を受け入れることにしたわけです。それで話に聞いたケネス殿を殿下に推薦しています」
「もう連絡しているのですか?」
「はい、こういう話は遅いよりも早いほうがいいでしょう」
「ちなみにそれはいつ頃の話ですか?」
「ルボルからの手紙で、ケネス殿が暴走を止めてくれたことを知った後ですね。レオニートにも直接話を聞いたところ、野心とは無縁の穏やかな人物だと聞きましたので、殿下に連絡をしました。しばらく経ってから甥の話もありましたので、ちょうどよかったと言えばいいのでしょうか」
「意外とルボルさんも向いていると思えるのですが」
「普通の町であれば彼にも務まるとは思いますけどね。ですが、分割する領地のことをこう言うのも問題があるかもしれませんが、ナルヴァ村からユーヴィ市あたりだけを一つの領地とすると、人口が少ないので兵力が確保できません。そうすると暴走への備えができなくなります。ケネス殿たちだけで一軍を超える戦力になるとルボルの手紙にはありました。それはケネス殿を推薦した理由でもあります」
「たしかにそのための予算は大幅に削減できますけどね」
一度殿下に会うか。
「ちなみにルボルからは、ケネス殿は逃げ道を与えれば逃げるから、まずは退路を断ってから交渉に臨むべし、とアドバイスを貰いました」
「あの人は、もう……」
あの人はホントに僕のことをよく分かってるよね。レオニートさんも言っていたけど、人を見る目だけはあるのは間違いないんだろう。
えー、でも領主かあ。領主が嫌というよりも、なんとなく一か所に縛られるのが嫌なのかもね。
「分かりました。とりあえず殿下に確認を取ります。そもそも殿下が上に報告したからと言って僕が領主に決まるわけでもないでしょうけど」
「それはそうでしょう。ですが、ケネス殿がこれまでどれほどのことを成し遂げたかまでは分かりませんが、積み重ねればそれなりの高さになるのではありませんか?」
「そう……でしょうか?」
盗賊退治をした。パルツィ子爵を退治(?)した。大森林の暴走を止めた。他には個人的なことだけど、殿下の体調がよくなった。それくらいじゃない?
「ではこの件については、殿下とお会いしてから、またこちらに伺います。僕の方としては、今のところは消極的賛成とさせていただきますね」
「ええ、ケネス殿とは仲良くできそうですので、できれば貴方が選ばれてほしいと思っていますよ」
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