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第三章 第一部
バナナの栽培指導、そして異世界人たちの集合
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領内の四つの村ではバナナを作ってもらうことになっている。それなりの値段で売ることを考えているけど、仮に売れなかったとしても栄養価のある果物だから、損にはならないだろう。すべての畑でバナナだけ作るわけでもないし。
「ではバナナの育て方を説明します」
「「「「よろしくお願いします「よろしくお願いします「よろしくお願いします」」」」
ここにいるのはギルド職員と村の人たち。バナナの味は確認してもらっている。
「まず、この村で育てるバナナには種がありません。種がないならどうやって増えるのかということですが、このバナナは実を取ると根本付近から新しい茎が生えてきます」
バナナもサトウキビと同じだった。本来は実ができると茎は枯れる。根元に子株や孫株ができるので、それを別の場所に植えるのが普通の増やし方。でもなぜか根が土の中で横に伸び、竹と同じように別の場所で地面から頭を出して増えてくる。
これも屋敷の裏で試したけど同じだった。異空間だからということは関係なさそう。サトウキビといいバナナといい、どこで育て方を間違えたのか、実に都合がいい育ち方になってしまった。まあ面倒が減るから悪いことではないけど。ただ、注意しないとどんどん根を伸ばしていくから、農地がバナナだらけになりかねない。温室の端に結界を張り、そこからは出ないようにしている。
「実ができると茎の部分は枯れてしまいます。それは切り倒してください。切り倒した茎はこの中に入れてください」
そう言って示したのはバナナの茎を再利用するための魔道具。バナナの茎から繊維を取りだして紙を作ろうと思う。もったいないからね。
「これがバナナの茎の部分から取り出した繊維です。これは紙の原料になりますのでギルドの方で回収します。もう一つここから取り出されるのは残りかす部分です。残りかすは固めると、このような棒になります」
そう言うとレンガを細くしたような棒を取り出した。
「これは別の場所で作ったものですが、燃料として使えます。一本や二本ではどうしようもありませんが、このバナナは成長が早いので、切り倒す茎もそれなりの数になります。ある程度集めれば薪の代わりになります。全部これでまかなうのは無理でしょうが、木を切って薪を作る手間が減るでしょう」
薪割りと水汲みは重労働だからね。でも親が働いている間に子供がする仕事になっていたりする。
「栽培について注意するのは、バナナの実はかなり高い位置にできるということです。場合によっては五メートルから一〇メートルになることもあります。収穫の際は足場をしっかり立ててから作業を行うようにしてください」
「「「「「はい「はい「はい「はい」」」」
◆ ◆ ◆
「なかなか大変だったねー」
「どうもお世話になりますー」
村での説明を終えて屋敷に帰ると、アシルさんと奥さんのフランシスさんが訪ねてきた。思ったよりも早いというか、大変という言葉のわりにはのんびりしているというか。フランシスさんって元日本人らしく、やんわりした関西弁……というか京都の人? 僕が会った中で、マリアンの次くらいに着物が似合いそうな黒髪。
「まあ大変なのは分かっていたから大丈夫でけどね。それよりもあれを出してくれるとありがたいね」
「これですね。フランシスさんもどうぞ」
グラスに氷を入れて、そこにコーラを注いでお二人の前に置いた。
「はー、生き返るというのはこういうことだねー」
「⁉ うちの人がここへ来たがるんもよう分かりますー」
フランシスさんも気に入ってくれてよかった。
「ふーっ……。よし、ケネス君、いや、領主様かな。僕にできることなら頑張らせてもらうよ」
「私もできることはさせてもらいますねー」
「名前で呼んでくれていいですよ。実はですね、アシルさんに頼もうと思っていたことがありましてね。近いうちに職業訓練学校を作るんですが、そこで鍛冶を教えてもらえると助かります」
「おお、それなら精一杯やらせてもらうよ。ちなみに他にはどのようなものを教えるのかな?」
「今のところは織り、染め、仕立て、料理、陶芸、木工、大工、左官、鍛冶などを予定しているんですが、人手が足りない状態です。他にも学びたいものがあれば教えられる人を探そうと思っています」
「うーん、フランシスは陶芸なんていいんじゃない?」
陶工は……いないことはないけど少ない。大きな壺や甕なら容器として使われているけど、食器としてはあまり流通していない。食器は落としても割れない木製が多い。
「へえ、陶芸をされるのですか? 陶工は少ないから助かります」
「実家がしとったんですよー。こっちの実家ですー。結婚してからも続けてたんですけどー、最近は二人で旅をするんが多なってー、釜に火い入れるんは減りましたねー」
「それならアシルさんは鍛冶、フランシスさんは陶芸の先生をお願いします。訓練学校の教員の待遇はギルド職員の主任クラスになります。鍛冶や陶芸とは言っても、何を教えるかは教員次第になります」
「お金に関しては問題ないかな。むしろ知らない土地で生活できること楽しみだね」
「私もそうですねー。昔はよう一人旅をしていましたからー」
「そう言えば、フランシスさんの話し方からすると京都ですか?」
「お稲荷さんの近くでー、後半は神戸でしたー。こちらで生まれた時は違う話し方でしたけどー、慣れてる方が楽ですからー、実家を出てからはこんな感じですー。ケネスさんは?」
「僕は横浜です。しかし、これでこの町に地球育ちが四人揃いましたね」
「奥さんが日本人なんだよね?」
「ええ、今こちらへ向かっています」
「お待たせしました。ようこそユーヴィ市へ。妻のマイカです」
「あらあら、これはまた綺麗な毛並みと言うのは失礼かもしれませんけどー、白い髪がお綺麗ですねー」
「いえ、フランシスさんの黒髪もツヤツヤで綺麗ですよ。グローネンダールみたいですね。私はマルチーズと混ざってこうなりましたけど」
女性二人がよく分からない自慢話を始めた。あまり聞いたことがなかったけど、やっぱり犬人って髪を犬に例えるらしい。そうするとこっちは男二人で話をすることになる。
「すまないね。フランシスはそこまでおしゃべり好きじゃないんだけど、話が通じるのが嬉しいみたいで」
「マイカだって同じですね。僕でも女性の趣味のことは分からないことが多いですから」
「どうもあの二人は世代が近いみたいだね」
「そうですね。話の内容を聞いていると、フランシスさんは日本にいた頃は僕と同じか少し上くらいでしょうか」
カローラによると、向こうでいつ死んだのか、こっちでいつ生まれたのか、この二つは実はあまり関係がない。ややこしい話だけど、地球があったあの世界とこの惑星があるこの世界は全くの別世界だから、時間軸が違うとかなんとか。同時に死んで同じ世界に転生したとしても、生まれるタイミングはそれぞれ違うらしい。地球にいた時、アシルさんはフランシスさんより二〇近く上だったらしいね。
「はー、職場が同じで片思い、生まれ変わって異世界で夫婦ですかー。大恋愛ですねー」
「フランシスさんだって、留学先の近くにアシルさんがいたはずなんですよね。もしかしたらすれ違っていたかもしれないじゃないですか」
「そうなんよー。それもありえるんよー」
聞いている僕たち二人の方が恥ずかしくなってきたので、話が一段落したあたりで家の話に変える。
「それで、お二人に住んでもらう家ですが、もし工房も併設するということなら北東部になります。そのあたりは職人の家が集中していますね。訓練学校と教職員の宿舎はもう少し近くになります。工房がなくていいなら、宿舎として用意している家が何軒かありますので、そこから選んでください」
「そうだね……。家に帰ってまで鎚を持たなくてもいいかな?」
「私もそうですねー。家は静かな方がいいですねー」
「分かりました。それでは今から案内しますね」
◆ ◆ ◆
「この区画ですね。全部建て終わったわけではありませんが、とりあえず間取りは同じです。それこそ違いは場所だけですね」
「庭も付いていい感じだねえ」
「新興住宅街ですねー」
「イメージはそうですね。では、中の確認もします。どうぞ」
家具が入っていないので余計に広々しているよう見える。間取りはこの国で一般的なものに少し手を加えたもの。ただしオール魔化になっている。大森林から回収している魔素は異空間に溜まり続けていて、溜まり続けたからどうなるわけではないけど、そろそろ使っていこうと思ってこうしている。でもあの異空間を開いて魔素を取り出せるのは僕だけ。だから家を直接繋げてしまうと、メンテナンスが僕にしかできなくなってしまうので、いざという時に困る。だから交換式にした。
魔獣から取り出した魔石を加工して繋げて、まるで一つの大きな魔石のようにする。外からは魔石だと分かりにくいようにケースに入れる。これを燃料箱(仮称)とする。燃料箱(仮称)は木と金属と魔石があれば作れるけど、増産が問題だね。
魔石はそこに含まれる魔力がゼロになったり、いっぱいまで充填すると割れることがある。だから五パーセントで警告を出し、三パーセントで止まるようにする。充填時には九八パーセントで止まるように制限をかける。充填はギルドで行うので、空になったらギルドへ持って行き、充填されたものに交換してもらって持ち帰る。燃料箱(仮称)を家の中の所定の場所に置けば魔道具が使えるようになる。照明、キッチン、お風呂、トイレは燃料箱(仮称)からの魔力で動くようになる。外している間は使えなくなるので、早めに交換してもらうようにお願いするしかないだろう。
ギルドの建物もこのシステムを使っていて、もちろんエレベーターが途中で止まったりすれば困るから、魔力は冗長化されている。現在は一部の公的機関や職員の家だけで使われているけど、今後オール魔化の家が増えれば、市役所の市民生活課のような部署を作る必要が出てくるから、その部署をどこに入れるか、もしくは新しい部署を作るかを早めに決めないといけない。
「この区画は戸建て住宅だけですが、少し北に集合住宅を建てます。単身用と家族用の予定です。そちらの方はまだ完成していません。違いは庭がないこと、それと燃料箱(仮称)を交換する必要がないことです。交換は普通に使っていれば一か月から二か月に一度くらいです」
「そんなに頻繁でもないでしょ? それならここでいいかな」
「私もここでー」
「ではここにしましょうか。これが鍵です」
お二人にはそのままここで暮らしてもらうことにした。今後はこのような家をどんどん増やすことになっている。開拓が終わったら移住したいと言っている作業員たちがそれなりにいるので、近いうちに住宅不足になることは分かっている。新しくギルドや職業訓練学校で働く教職員は住む場所がなからだけど、彼らの分はとりあえず僕がまとめて建てている。それは人手不足だからだ。
この町にも大工や左官はいるし、開拓に来ているドワーフの中で大工や左官ができる人もいるけど、彼らには民間の建物の改修を頼んでいるからだ。公共施設だけ新しくなり、外から来た人たちだけがいい家に住めば、町の住民から不満が出るだろうと思ったから。だから補助金という形で改修費を全額出し、まずは大きな建物から直して、いずれは一般の住居まで修繕していくことにしている。ようやく衣食住の目処は立ったというところだね。
「ではバナナの育て方を説明します」
「「「「よろしくお願いします「よろしくお願いします「よろしくお願いします」」」」
ここにいるのはギルド職員と村の人たち。バナナの味は確認してもらっている。
「まず、この村で育てるバナナには種がありません。種がないならどうやって増えるのかということですが、このバナナは実を取ると根本付近から新しい茎が生えてきます」
バナナもサトウキビと同じだった。本来は実ができると茎は枯れる。根元に子株や孫株ができるので、それを別の場所に植えるのが普通の増やし方。でもなぜか根が土の中で横に伸び、竹と同じように別の場所で地面から頭を出して増えてくる。
これも屋敷の裏で試したけど同じだった。異空間だからということは関係なさそう。サトウキビといいバナナといい、どこで育て方を間違えたのか、実に都合がいい育ち方になってしまった。まあ面倒が減るから悪いことではないけど。ただ、注意しないとどんどん根を伸ばしていくから、農地がバナナだらけになりかねない。温室の端に結界を張り、そこからは出ないようにしている。
「実ができると茎の部分は枯れてしまいます。それは切り倒してください。切り倒した茎はこの中に入れてください」
そう言って示したのはバナナの茎を再利用するための魔道具。バナナの茎から繊維を取りだして紙を作ろうと思う。もったいないからね。
「これがバナナの茎の部分から取り出した繊維です。これは紙の原料になりますのでギルドの方で回収します。もう一つここから取り出されるのは残りかす部分です。残りかすは固めると、このような棒になります」
そう言うとレンガを細くしたような棒を取り出した。
「これは別の場所で作ったものですが、燃料として使えます。一本や二本ではどうしようもありませんが、このバナナは成長が早いので、切り倒す茎もそれなりの数になります。ある程度集めれば薪の代わりになります。全部これでまかなうのは無理でしょうが、木を切って薪を作る手間が減るでしょう」
薪割りと水汲みは重労働だからね。でも親が働いている間に子供がする仕事になっていたりする。
「栽培について注意するのは、バナナの実はかなり高い位置にできるということです。場合によっては五メートルから一〇メートルになることもあります。収穫の際は足場をしっかり立ててから作業を行うようにしてください」
「「「「「はい「はい「はい「はい」」」」
◆ ◆ ◆
「なかなか大変だったねー」
「どうもお世話になりますー」
村での説明を終えて屋敷に帰ると、アシルさんと奥さんのフランシスさんが訪ねてきた。思ったよりも早いというか、大変という言葉のわりにはのんびりしているというか。フランシスさんって元日本人らしく、やんわりした関西弁……というか京都の人? 僕が会った中で、マリアンの次くらいに着物が似合いそうな黒髪。
「まあ大変なのは分かっていたから大丈夫でけどね。それよりもあれを出してくれるとありがたいね」
「これですね。フランシスさんもどうぞ」
グラスに氷を入れて、そこにコーラを注いでお二人の前に置いた。
「はー、生き返るというのはこういうことだねー」
「⁉ うちの人がここへ来たがるんもよう分かりますー」
フランシスさんも気に入ってくれてよかった。
「ふーっ……。よし、ケネス君、いや、領主様かな。僕にできることなら頑張らせてもらうよ」
「私もできることはさせてもらいますねー」
「名前で呼んでくれていいですよ。実はですね、アシルさんに頼もうと思っていたことがありましてね。近いうちに職業訓練学校を作るんですが、そこで鍛冶を教えてもらえると助かります」
「おお、それなら精一杯やらせてもらうよ。ちなみに他にはどのようなものを教えるのかな?」
「今のところは織り、染め、仕立て、料理、陶芸、木工、大工、左官、鍛冶などを予定しているんですが、人手が足りない状態です。他にも学びたいものがあれば教えられる人を探そうと思っています」
「うーん、フランシスは陶芸なんていいんじゃない?」
陶工は……いないことはないけど少ない。大きな壺や甕なら容器として使われているけど、食器としてはあまり流通していない。食器は落としても割れない木製が多い。
「へえ、陶芸をされるのですか? 陶工は少ないから助かります」
「実家がしとったんですよー。こっちの実家ですー。結婚してからも続けてたんですけどー、最近は二人で旅をするんが多なってー、釜に火い入れるんは減りましたねー」
「それならアシルさんは鍛冶、フランシスさんは陶芸の先生をお願いします。訓練学校の教員の待遇はギルド職員の主任クラスになります。鍛冶や陶芸とは言っても、何を教えるかは教員次第になります」
「お金に関しては問題ないかな。むしろ知らない土地で生活できること楽しみだね」
「私もそうですねー。昔はよう一人旅をしていましたからー」
「そう言えば、フランシスさんの話し方からすると京都ですか?」
「お稲荷さんの近くでー、後半は神戸でしたー。こちらで生まれた時は違う話し方でしたけどー、慣れてる方が楽ですからー、実家を出てからはこんな感じですー。ケネスさんは?」
「僕は横浜です。しかし、これでこの町に地球育ちが四人揃いましたね」
「奥さんが日本人なんだよね?」
「ええ、今こちらへ向かっています」
「お待たせしました。ようこそユーヴィ市へ。妻のマイカです」
「あらあら、これはまた綺麗な毛並みと言うのは失礼かもしれませんけどー、白い髪がお綺麗ですねー」
「いえ、フランシスさんの黒髪もツヤツヤで綺麗ですよ。グローネンダールみたいですね。私はマルチーズと混ざってこうなりましたけど」
女性二人がよく分からない自慢話を始めた。あまり聞いたことがなかったけど、やっぱり犬人って髪を犬に例えるらしい。そうするとこっちは男二人で話をすることになる。
「すまないね。フランシスはそこまでおしゃべり好きじゃないんだけど、話が通じるのが嬉しいみたいで」
「マイカだって同じですね。僕でも女性の趣味のことは分からないことが多いですから」
「どうもあの二人は世代が近いみたいだね」
「そうですね。話の内容を聞いていると、フランシスさんは日本にいた頃は僕と同じか少し上くらいでしょうか」
カローラによると、向こうでいつ死んだのか、こっちでいつ生まれたのか、この二つは実はあまり関係がない。ややこしい話だけど、地球があったあの世界とこの惑星があるこの世界は全くの別世界だから、時間軸が違うとかなんとか。同時に死んで同じ世界に転生したとしても、生まれるタイミングはそれぞれ違うらしい。地球にいた時、アシルさんはフランシスさんより二〇近く上だったらしいね。
「はー、職場が同じで片思い、生まれ変わって異世界で夫婦ですかー。大恋愛ですねー」
「フランシスさんだって、留学先の近くにアシルさんがいたはずなんですよね。もしかしたらすれ違っていたかもしれないじゃないですか」
「そうなんよー。それもありえるんよー」
聞いている僕たち二人の方が恥ずかしくなってきたので、話が一段落したあたりで家の話に変える。
「それで、お二人に住んでもらう家ですが、もし工房も併設するということなら北東部になります。そのあたりは職人の家が集中していますね。訓練学校と教職員の宿舎はもう少し近くになります。工房がなくていいなら、宿舎として用意している家が何軒かありますので、そこから選んでください」
「そうだね……。家に帰ってまで鎚を持たなくてもいいかな?」
「私もそうですねー。家は静かな方がいいですねー」
「分かりました。それでは今から案内しますね」
◆ ◆ ◆
「この区画ですね。全部建て終わったわけではありませんが、とりあえず間取りは同じです。それこそ違いは場所だけですね」
「庭も付いていい感じだねえ」
「新興住宅街ですねー」
「イメージはそうですね。では、中の確認もします。どうぞ」
家具が入っていないので余計に広々しているよう見える。間取りはこの国で一般的なものに少し手を加えたもの。ただしオール魔化になっている。大森林から回収している魔素は異空間に溜まり続けていて、溜まり続けたからどうなるわけではないけど、そろそろ使っていこうと思ってこうしている。でもあの異空間を開いて魔素を取り出せるのは僕だけ。だから家を直接繋げてしまうと、メンテナンスが僕にしかできなくなってしまうので、いざという時に困る。だから交換式にした。
魔獣から取り出した魔石を加工して繋げて、まるで一つの大きな魔石のようにする。外からは魔石だと分かりにくいようにケースに入れる。これを燃料箱(仮称)とする。燃料箱(仮称)は木と金属と魔石があれば作れるけど、増産が問題だね。
魔石はそこに含まれる魔力がゼロになったり、いっぱいまで充填すると割れることがある。だから五パーセントで警告を出し、三パーセントで止まるようにする。充填時には九八パーセントで止まるように制限をかける。充填はギルドで行うので、空になったらギルドへ持って行き、充填されたものに交換してもらって持ち帰る。燃料箱(仮称)を家の中の所定の場所に置けば魔道具が使えるようになる。照明、キッチン、お風呂、トイレは燃料箱(仮称)からの魔力で動くようになる。外している間は使えなくなるので、早めに交換してもらうようにお願いするしかないだろう。
ギルドの建物もこのシステムを使っていて、もちろんエレベーターが途中で止まったりすれば困るから、魔力は冗長化されている。現在は一部の公的機関や職員の家だけで使われているけど、今後オール魔化の家が増えれば、市役所の市民生活課のような部署を作る必要が出てくるから、その部署をどこに入れるか、もしくは新しい部署を作るかを早めに決めないといけない。
「この区画は戸建て住宅だけですが、少し北に集合住宅を建てます。単身用と家族用の予定です。そちらの方はまだ完成していません。違いは庭がないこと、それと燃料箱(仮称)を交換する必要がないことです。交換は普通に使っていれば一か月から二か月に一度くらいです」
「そんなに頻繁でもないでしょ? それならここでいいかな」
「私もここでー」
「ではここにしましょうか。これが鍵です」
お二人にはそのままここで暮らしてもらうことにした。今後はこのような家をどんどん増やすことになっている。開拓が終わったら移住したいと言っている作業員たちがそれなりにいるので、近いうちに住宅不足になることは分かっている。新しくギルドや職業訓練学校で働く教職員は住む場所がなからだけど、彼らの分はとりあえず僕がまとめて建てている。それは人手不足だからだ。
この町にも大工や左官はいるし、開拓に来ているドワーフの中で大工や左官ができる人もいるけど、彼らには民間の建物の改修を頼んでいるからだ。公共施設だけ新しくなり、外から来た人たちだけがいい家に住めば、町の住民から不満が出るだろうと思ったから。だから補助金という形で改修費を全額出し、まずは大きな建物から直して、いずれは一般の住居まで修繕していくことにしている。ようやく衣食住の目処は立ったというところだね。
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