115 / 278
第三章 第一部
レブ市からアイドゥ町 三月(簡易地図あり)
しおりを挟む
領主として移動する場合、特に仕事の話をしに行くなら歩いて行くのは避けた方がいい。そういうわけで、馬車を作ることになった。以前にマイカの馬車を改造したけど、基本的には同じにする。と言うよりも、他にやりようがない。馬なしの馬車、つまり車を作るのもありかもしれないけど、この国には今のところはない。そこまで人目を引きたいわけでもないからね。
足回りは独立懸架、そして車輪は太めにして蛇の皮を巻く。車台の上に客室を[浮遊]で浮かせて乗せる。[強化]をかけて頑丈にし、[軽量化]で馬への負担を減らす。馬には巡回兵の乗る馬と同じく、負担を軽減する魔道具を付けることにする。馬は久しぶりにソプラノたちに引いてもらおうか……な……。
「そりゃ馬だって妊娠するか」
異空間と屋敷を繋ごうと思いながらもなかなかその作業をせず、家の方はしばらくリゼッタに任せっきりにしていたら、ソプラノとアルトのお腹が少し大きくなっていた。馬たちは牧草地で好き勝手に暮らしているからね。テノールとバスが頭を下げ、『いやー』と言いたげに前足で頭を掻く。この二頭も父親か。
「テノールとバスにはまた少し馬車を引いてもらうよ」
うんうんと頭を振る二頭。
「サラン、しばらくこっちの方の面倒を見れなかったけど、何か問題はなかった?」
《訓練施設の方には問題はありません。数の方も八〇〇を超えたあたりで分裂は止まっているであります》
「畑の方も大丈夫?」
《そちらも大丈夫であります》
「みんなはこの家の近くにいるのと、僕が住んでいる屋敷の周辺にいるのと、どちらがいい?」
《暮らしやすさで言えば、断然この異空間でありますが、交代で屋敷の見回りなどの任務を与えていただければ、それは励みになるであります》
「それならやっぱり繋ごうか。サランたちだけが移動できるようにして」
《お願いするであります》
サランたちに埋もれながら、少しゆっくりする。
外を歩いて夕方には戻って、という生活がかなり昔のように感じる。でもあの頃に戻りたいわけでもない。それはそれ、これはこれ。領主になってみて、領地を育てるという楽しみができた。半ば押し付けられたような感じだけど、本当に嫌なら引き受けていない。嫌でなかったから領主になることを選んだ。
そもそも[不老]が付いているから年は取らない。そんな僕がずっと領主をするのもどうかと思うから、どこかで子なり孫なりに継がせて、それからまた旅に出るのもいいかもしれない。でもしばらくは領主だね。
エリーとマノンはあれからすぐに【状態:[妊娠]】になった。リゼッタと何が違うかを考えれば、リゼッタは管理者だったくらいか。もしかすると、僕に子供ができるまでに時間がかかったことも考えられる。本来ならまだエルフとしては子供ができにくい年齢だからね。
まずはマノン、それからエリーの家を訪ねる。マノンの方はレブ市で領主に挨拶してからアイドゥ町に向かう。領主に挨拶するのは、アルメ村の北あたりからレブ市まで、やはり森の中を街道を通せないかと考えているからだ。そうすればレブ男爵領、その北にあるローラ男爵領までの移動が楽になる。
ユーヴィ市の北にあるアルメ村の北あたりから北東に進み、途中から真東に進めばレブ市に着く。大きな岩山があるからそれを避ける形になる。距離的には前回の開拓の三倍から四倍かかる。そうは言ってもすぐに取りかかるわけではない。もちろん人員の都合もあるし、まずはユーヴィ市内を整えてからだね。
◆ ◆ ◆
「なんとなく落ち着きません」
「でも領主夫人だからね」
僕とマノンは馬車に乗ってレブ市に向かっている。レブ男爵に挨拶し、それからアイドゥ町でマノンの両親に会うためだ。途中は少しショートカットをした。
馬車の護衛には兵士が六人。御者席にはなぜかイサイさんが座っている。
「馬の扱いも慣れてるんでさ」
ゴルジェイさんの知り合いだから現場監督を引き継いだけど、それよりも馬を扱う方が好きなんだと。だから軍馬の管理をしてもらうことになっていたんだけど、今回はなぜか御者をしたいと言ってきた。
「それにしても、こいつらはホントに馬ですかい? 妙にこっちの言うことを理解してまさあ」
テノールもバスも普通に頷いたりするし、喜んだり悲しんだりするし、困ると頭を掻く。本当に馬かな?
「お前ら、馬に化けた人ってことはねえのか?」
ブンブン
「違うみてえだな」
そうこうしているうちにレブ市が見えてきた。うちと同じ男爵領だけど、歴史がある分、規模は大きいかな。
城門を通ると、兵士の一人に領主邸まで手紙を配達してもらった。明日の午前に訪問しますのでご都合はいかがですか、もし都合が悪ければ○○という宿にいますのでご連絡ください、という手紙だ。その間に宿に入る。兵士たちも宿泊は同じ宿だ。形としては護衛を付けているけど、実力を考えたら必要ないのは兵士たちも分かっている。酒代を渡したら喜んで飲みに行った。僕とマノンは部屋でゆっくりしている。
「こうやってあなたと二人でいるのも久しぶりですねぇ」
「ここ数か月は慌ただしかったからね」
「賑やかなのもいいですけど、こういう雰囲気も好きです」
「たまには二人でこうやって、ゆっくりとね」
「はい」
◆ ◆ ◆
レブ男爵領は南北に長く、東西を山と森に挟まれている。危険な魔獣は少ないけど野獣は多い。だから出てくれば狩り、逃げれば追いかける。レブ男爵は、この土地が人柄に影響を与えるのか、ものすごく分かりやすい人だった。つまり腹の探り合いがまったく必要ない人だった。
レブ男爵には街道を通し、ユーヴィ男爵領に麦を買い付けに来るメリットを説明する。単に馬車で移動するのと違い、大量の物資を運ぶのは時間も手間もかかる。以前はキヴィオ市で買ってからレブ市まで二〇日かけてゆっくり運んでいた。そこにまっすぐに近い道ができ、石畳が敷かれれば、凸凹した土の道よりも馬や馬車への負担も少なくなる。
ユーヴィ市以西がキヴィオ子爵領から切り離された以上、大量に麦の買い付けをするならユーヴィ市に行く必要がある。南回りよりも森の中を通る方が圧倒的に近くなる。キヴィオ市へ行くよりも距離は若干遠くなるけど、時間は圧倒的に短縮される。
レブ市がキヴィオ市で購入していた量は確保すると約束した。それでキヴィオ市が損をするかと言えば、実はそれほどでもない。元々が安いからだ。ちなみに、キヴィオ市もレブ市も麦は栽培しているから、仮に買い付けできなくても飢えたりはしない。でも不作の時などに放出するための備蓄は必要だ。備蓄もそのままだと腐るから、入れ替える必要が出てくる。
「話は分かりました。ぜひお願いしましょう。ですが一方的に作ってもらうだけでは領主としては立つ瀬がありません。ある程度はこちらからも人を出したいのですが、どうでしょうか?」
僕がレブ男爵に頼んだのは二点。まず一点目は、街道工事中に食事の準備などをする手伝いの派遣について。工事中はレブ市側の出入り口あたりに作業員の宿舎や食事を取るの場所を作る。そこに近くの町から食事の準備と片付けのために人を貸してほしいと伝えた。
そして二点目は、街道の安全を確保するための兵士の貸し出し。作業員の一部が兵士が兵士になってくれて人数に余裕は出たけど、ユーヴィ男爵領の兵士たちと共同で安全確保の仕事をしないかと持ちかけた。街道が開通すればレブ男爵領にもメリットは大きいので、二点とも了承してくれた。
「喜んで引き受けましょう。それにしてもまた森の開拓ですか。大胆なことをなさりますなあ」
「それはまあ、土地の事情ですね。ご存知のように、うちは袋小路ですから。移動したければ道を作らなければどうしようもありません」
「たしかに。そのおかげで、この町からユーヴィ市まで直接買い付けにいけますからなあ。ありがたいことです」
さて、とりあえず街道を通すのはレブ市までのものが最後になるだろう。キヴィオ子爵領の南にあるサガード男爵領の間にはパダ町とヴァスタ村があるから道が作れない。男爵には、開拓に入るのは早くても今年の後半からだと伝えた。その前に領内の街道の整備もあるからね。
「それにしても、この領内をドワーフの集団が移動し始めた時は何があるのかと思いました」
「やはり目立っていましたか?」
「ええ、兵士なら格好で分かります。盗賊ならすぐに襲ってくるでしょう。ですが肩に荷物を背負ってただ黙々と歩いてきただけでしたからな。目的を聞いてみると『仕事の匂いがする』とだけ言っていたそうです。人が動けば金が落ちますからな、悪いものではありません」
レブ男爵との話し合いが終わればアイドゥ町へ向かう。マノンにとっては久しぶりの里帰りになるそうだ。
「ユーヴィ市のギルドに勤める前に帰ったっきりですねぇ。それほど変わっていないと思いますけど」
「普通は一年や二年で大きく変わらないからね」
ユーヴィ市が異常というだけ。それでもある程度の自重はしているけどね。この国に超高層ビルは似合わないでしょ? それに総合ギルドの八階建てよりも、王宮や大聖堂の方がよっぽど高い。地方でも四階程度、直轄領なら六階くらいは普通にある。魔石をエネルギー源にする住宅も、考え方は普通の魔道具と同じ。サイズを大きくしただけだから、やろうと思えばできる。そのような発想ができるかどうかは、その存在を知っているかどうか次第だけど。
アイドゥ町が近付いてきた。町の向こうには森とその向こうにある岩山、そしてそこから落ちる滝が見える。これは見応えがある。実はこの岩山はソルディ村にも繋がっている。それどころか北のヴェリキ王国まで繋がっている。
フェリン王国とヴェリキ王国との間にはペレクバ湖があり、その西岸からから始まり、グルッと反時計回りにムスト子爵領の北、ローラ男爵領の北、キヴィオ子爵領の北、ユーヴィ男爵領の北を通り、大森林まで続いている。その最後あたりにソルディ村がある。
普通に考えれば降った雨が流れて川になって滝になるんだろうけど、このあたりはそれほど雨は多くないんだよね。山の上には降るんだろうか?
「私には見慣れた風景ですが、やはり違いますか?」
「いいものを見たという気になるよ、これは」
馬車が門に近付くと兵士が一人先行して手続きをしてくれる。町ならほぼ制限はないけどね。どこの貴族が通ったかをチェックするくらいで。
「マノンの家はどのあたり?」
「町の北西部にあります。川に橋がかかっている近くです」
「ああ、あの川がそうか」
町の西には滝があり、そこから続いている川が町の北西部を通って北へと向かっていく。
「それならもうすぐだね」
「見えました。あの家です」
─────────────────────
書いていても地名と位置関係がややこしいですが、読んでいるともっとややこしいと思いましたので、関係のありそうな部分だけざっくりとした地図を作りました。縦横斜めの一マスがおよそ歩いて一日、四〇キロの計算です。ナルヴァからユーヴィが二〇〇キロなので直線距離なら姫路~名古屋くらい、ユーヴィからキヴィオが迂回すると四〇〇キロ、直線なら二〇〇キロです。
足回りは独立懸架、そして車輪は太めにして蛇の皮を巻く。車台の上に客室を[浮遊]で浮かせて乗せる。[強化]をかけて頑丈にし、[軽量化]で馬への負担を減らす。馬には巡回兵の乗る馬と同じく、負担を軽減する魔道具を付けることにする。馬は久しぶりにソプラノたちに引いてもらおうか……な……。
「そりゃ馬だって妊娠するか」
異空間と屋敷を繋ごうと思いながらもなかなかその作業をせず、家の方はしばらくリゼッタに任せっきりにしていたら、ソプラノとアルトのお腹が少し大きくなっていた。馬たちは牧草地で好き勝手に暮らしているからね。テノールとバスが頭を下げ、『いやー』と言いたげに前足で頭を掻く。この二頭も父親か。
「テノールとバスにはまた少し馬車を引いてもらうよ」
うんうんと頭を振る二頭。
「サラン、しばらくこっちの方の面倒を見れなかったけど、何か問題はなかった?」
《訓練施設の方には問題はありません。数の方も八〇〇を超えたあたりで分裂は止まっているであります》
「畑の方も大丈夫?」
《そちらも大丈夫であります》
「みんなはこの家の近くにいるのと、僕が住んでいる屋敷の周辺にいるのと、どちらがいい?」
《暮らしやすさで言えば、断然この異空間でありますが、交代で屋敷の見回りなどの任務を与えていただければ、それは励みになるであります》
「それならやっぱり繋ごうか。サランたちだけが移動できるようにして」
《お願いするであります》
サランたちに埋もれながら、少しゆっくりする。
外を歩いて夕方には戻って、という生活がかなり昔のように感じる。でもあの頃に戻りたいわけでもない。それはそれ、これはこれ。領主になってみて、領地を育てるという楽しみができた。半ば押し付けられたような感じだけど、本当に嫌なら引き受けていない。嫌でなかったから領主になることを選んだ。
そもそも[不老]が付いているから年は取らない。そんな僕がずっと領主をするのもどうかと思うから、どこかで子なり孫なりに継がせて、それからまた旅に出るのもいいかもしれない。でもしばらくは領主だね。
エリーとマノンはあれからすぐに【状態:[妊娠]】になった。リゼッタと何が違うかを考えれば、リゼッタは管理者だったくらいか。もしかすると、僕に子供ができるまでに時間がかかったことも考えられる。本来ならまだエルフとしては子供ができにくい年齢だからね。
まずはマノン、それからエリーの家を訪ねる。マノンの方はレブ市で領主に挨拶してからアイドゥ町に向かう。領主に挨拶するのは、アルメ村の北あたりからレブ市まで、やはり森の中を街道を通せないかと考えているからだ。そうすればレブ男爵領、その北にあるローラ男爵領までの移動が楽になる。
ユーヴィ市の北にあるアルメ村の北あたりから北東に進み、途中から真東に進めばレブ市に着く。大きな岩山があるからそれを避ける形になる。距離的には前回の開拓の三倍から四倍かかる。そうは言ってもすぐに取りかかるわけではない。もちろん人員の都合もあるし、まずはユーヴィ市内を整えてからだね。
◆ ◆ ◆
「なんとなく落ち着きません」
「でも領主夫人だからね」
僕とマノンは馬車に乗ってレブ市に向かっている。レブ男爵に挨拶し、それからアイドゥ町でマノンの両親に会うためだ。途中は少しショートカットをした。
馬車の護衛には兵士が六人。御者席にはなぜかイサイさんが座っている。
「馬の扱いも慣れてるんでさ」
ゴルジェイさんの知り合いだから現場監督を引き継いだけど、それよりも馬を扱う方が好きなんだと。だから軍馬の管理をしてもらうことになっていたんだけど、今回はなぜか御者をしたいと言ってきた。
「それにしても、こいつらはホントに馬ですかい? 妙にこっちの言うことを理解してまさあ」
テノールもバスも普通に頷いたりするし、喜んだり悲しんだりするし、困ると頭を掻く。本当に馬かな?
「お前ら、馬に化けた人ってことはねえのか?」
ブンブン
「違うみてえだな」
そうこうしているうちにレブ市が見えてきた。うちと同じ男爵領だけど、歴史がある分、規模は大きいかな。
城門を通ると、兵士の一人に領主邸まで手紙を配達してもらった。明日の午前に訪問しますのでご都合はいかがですか、もし都合が悪ければ○○という宿にいますのでご連絡ください、という手紙だ。その間に宿に入る。兵士たちも宿泊は同じ宿だ。形としては護衛を付けているけど、実力を考えたら必要ないのは兵士たちも分かっている。酒代を渡したら喜んで飲みに行った。僕とマノンは部屋でゆっくりしている。
「こうやってあなたと二人でいるのも久しぶりですねぇ」
「ここ数か月は慌ただしかったからね」
「賑やかなのもいいですけど、こういう雰囲気も好きです」
「たまには二人でこうやって、ゆっくりとね」
「はい」
◆ ◆ ◆
レブ男爵領は南北に長く、東西を山と森に挟まれている。危険な魔獣は少ないけど野獣は多い。だから出てくれば狩り、逃げれば追いかける。レブ男爵は、この土地が人柄に影響を与えるのか、ものすごく分かりやすい人だった。つまり腹の探り合いがまったく必要ない人だった。
レブ男爵には街道を通し、ユーヴィ男爵領に麦を買い付けに来るメリットを説明する。単に馬車で移動するのと違い、大量の物資を運ぶのは時間も手間もかかる。以前はキヴィオ市で買ってからレブ市まで二〇日かけてゆっくり運んでいた。そこにまっすぐに近い道ができ、石畳が敷かれれば、凸凹した土の道よりも馬や馬車への負担も少なくなる。
ユーヴィ市以西がキヴィオ子爵領から切り離された以上、大量に麦の買い付けをするならユーヴィ市に行く必要がある。南回りよりも森の中を通る方が圧倒的に近くなる。キヴィオ市へ行くよりも距離は若干遠くなるけど、時間は圧倒的に短縮される。
レブ市がキヴィオ市で購入していた量は確保すると約束した。それでキヴィオ市が損をするかと言えば、実はそれほどでもない。元々が安いからだ。ちなみに、キヴィオ市もレブ市も麦は栽培しているから、仮に買い付けできなくても飢えたりはしない。でも不作の時などに放出するための備蓄は必要だ。備蓄もそのままだと腐るから、入れ替える必要が出てくる。
「話は分かりました。ぜひお願いしましょう。ですが一方的に作ってもらうだけでは領主としては立つ瀬がありません。ある程度はこちらからも人を出したいのですが、どうでしょうか?」
僕がレブ男爵に頼んだのは二点。まず一点目は、街道工事中に食事の準備などをする手伝いの派遣について。工事中はレブ市側の出入り口あたりに作業員の宿舎や食事を取るの場所を作る。そこに近くの町から食事の準備と片付けのために人を貸してほしいと伝えた。
そして二点目は、街道の安全を確保するための兵士の貸し出し。作業員の一部が兵士が兵士になってくれて人数に余裕は出たけど、ユーヴィ男爵領の兵士たちと共同で安全確保の仕事をしないかと持ちかけた。街道が開通すればレブ男爵領にもメリットは大きいので、二点とも了承してくれた。
「喜んで引き受けましょう。それにしてもまた森の開拓ですか。大胆なことをなさりますなあ」
「それはまあ、土地の事情ですね。ご存知のように、うちは袋小路ですから。移動したければ道を作らなければどうしようもありません」
「たしかに。そのおかげで、この町からユーヴィ市まで直接買い付けにいけますからなあ。ありがたいことです」
さて、とりあえず街道を通すのはレブ市までのものが最後になるだろう。キヴィオ子爵領の南にあるサガード男爵領の間にはパダ町とヴァスタ村があるから道が作れない。男爵には、開拓に入るのは早くても今年の後半からだと伝えた。その前に領内の街道の整備もあるからね。
「それにしても、この領内をドワーフの集団が移動し始めた時は何があるのかと思いました」
「やはり目立っていましたか?」
「ええ、兵士なら格好で分かります。盗賊ならすぐに襲ってくるでしょう。ですが肩に荷物を背負ってただ黙々と歩いてきただけでしたからな。目的を聞いてみると『仕事の匂いがする』とだけ言っていたそうです。人が動けば金が落ちますからな、悪いものではありません」
レブ男爵との話し合いが終わればアイドゥ町へ向かう。マノンにとっては久しぶりの里帰りになるそうだ。
「ユーヴィ市のギルドに勤める前に帰ったっきりですねぇ。それほど変わっていないと思いますけど」
「普通は一年や二年で大きく変わらないからね」
ユーヴィ市が異常というだけ。それでもある程度の自重はしているけどね。この国に超高層ビルは似合わないでしょ? それに総合ギルドの八階建てよりも、王宮や大聖堂の方がよっぽど高い。地方でも四階程度、直轄領なら六階くらいは普通にある。魔石をエネルギー源にする住宅も、考え方は普通の魔道具と同じ。サイズを大きくしただけだから、やろうと思えばできる。そのような発想ができるかどうかは、その存在を知っているかどうか次第だけど。
アイドゥ町が近付いてきた。町の向こうには森とその向こうにある岩山、そしてそこから落ちる滝が見える。これは見応えがある。実はこの岩山はソルディ村にも繋がっている。それどころか北のヴェリキ王国まで繋がっている。
フェリン王国とヴェリキ王国との間にはペレクバ湖があり、その西岸からから始まり、グルッと反時計回りにムスト子爵領の北、ローラ男爵領の北、キヴィオ子爵領の北、ユーヴィ男爵領の北を通り、大森林まで続いている。その最後あたりにソルディ村がある。
普通に考えれば降った雨が流れて川になって滝になるんだろうけど、このあたりはそれほど雨は多くないんだよね。山の上には降るんだろうか?
「私には見慣れた風景ですが、やはり違いますか?」
「いいものを見たという気になるよ、これは」
馬車が門に近付くと兵士が一人先行して手続きをしてくれる。町ならほぼ制限はないけどね。どこの貴族が通ったかをチェックするくらいで。
「マノンの家はどのあたり?」
「町の北西部にあります。川に橋がかかっている近くです」
「ああ、あの川がそうか」
町の西には滝があり、そこから続いている川が町の北西部を通って北へと向かっていく。
「それならもうすぐだね」
「見えました。あの家です」
─────────────────────
書いていても地名と位置関係がややこしいですが、読んでいるともっとややこしいと思いましたので、関係のありそうな部分だけざっくりとした地図を作りました。縦横斜めの一マスがおよそ歩いて一日、四〇キロの計算です。ナルヴァからユーヴィが二〇〇キロなので直線距離なら姫路~名古屋くらい、ユーヴィからキヴィオが迂回すると四〇〇キロ、直線なら二〇〇キロです。
1
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
