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第三章 第一部
マノンとマイカの実家にて
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「マノン!」
「お母様!」
家の前に馬車を止めると、音に気付いたのか狐耳の女性が出てきた。母娘が抱き合っていると、男性も家から出てきた。父親のシェルトさんと母親のモニクさん。シェルトさんは人間で、モニクさんは狐人。
「元気にやっているのは手紙で知っていたが、こうして顔を見れて一安心だ」
「お父様、今日は元気な姿をお見せするために夫と一緒に戻ってきました」
「初めまして、シェルトさん、モニクさん。今年からユーヴィ男爵となったケネスです」
「おお、これはこれは。こんなところで立ち話も何ですので、どうぞ中へ中へ」
「ありがとうございます。イサイさんたちは今日はもう好きにしてくださいね」
シェルトさんに促されて家の中へ向かう。イサイさんたちには宿へ行ってもらってもう好きに飲んでもらうことにした。明日普通に起きてくれたらそれでいいからね。
シェルトさんの家は質実という言葉がぴったりだった。飾り気がなく誠実。お二人の言葉からもそれがひしひしと伝わってくる。
「男爵様、うちはそれほど裕福ではない家ですが、娘には礼儀だけはしっかりと仕込んだつもりです。お邪魔になっていなければいいのですが」
「いえ、マノンには、彼女がギルドの職員だった頃からずっとよくしてもらっていますよ」
「そうですか。あらためて娘をよろしくお願いいたします」
「私からも、よろしくお願いいたします」
「はい、必ず幸せにしますので、お任せください」
僕がお二人に挨拶をしている間、マノンは何も言わなかったけど、無意識なのかわざとなのか、マノンは自分のお腹を撫でていた。モニクさんの目がそっちに向くよね。
「あら、マノン。できたのね?」
「はい、つい先日できたばかりです」
「そうか! そうか! いや、男爵様、感謝します。娘からあの馬鹿と離縁するという手紙が届いた時はどうなるかと思いましたが。ではこちらへどうぞ。ささやかですが、酒宴の用意をいたします」
結局、軽く挨拶をしたらそのまま宴会に突入してしまった。僕もお酒を出したけど、お二人とも強い強い。鯨飲というかザルというか。マノン用にノンアルコールも用意した。
「いやー、思い返せばあの馬鹿たちを蹴り出した時は胸がスッとしましたなあ」
「なかなか見物でしたわね」
シェルトさんとモニクさんが、気分良く酔いながら先日起こったことを説明してくれた。
マノンにユーヴィ市を蹴り出された元夫のオロフは、実家のあるレブ男爵領のサヴァラ町まで、例の恋人を連れて命からがら辿り着いたそうだ。ところが両親に事情がバレて追い出され、逆恨みしてこの家まで文句を言いに来たという。
「そんなにダメな人たちだったのですか?」
「見た目はそれほど悪くありません。話した感じも悪くはありません。男色家だから嫌うわけではありませんが、それならそうと最初に結婚の話を断ってくれればよかったのです。恋人と一緒にいたいからうちの娘と形だけ結婚してその後は知らんぷりでは、さすがに人として問題でしょう。マノンは何も言いませんでしたから私たちも気付きませんでした」
「娘は私によく似て頑固ですから、泣き言を口にしたくはなかったのでしょう。おそらく私でも同じことをしたでしょうから」
「そうですねぇ。私から人に助けを求めるのは負けを認めるようなものだと思っていましたから」
「しかも『おかげで親にバレて追い出されたじゃねえか』と文句を言ってきましたから、『うちの娘を蔑ろにしやがって』と蹴り出してやりました」
「私の方もその間男に『お前の娘が我慢すればよかっただけだろう』などと言われれば、カチンと来るどころではありません。とりあえず顎に二発ほど入れておきました」
「その時は息子のフォンスもいましたので、まとめて町の外まで蹴り出させました」
マノンが武闘家になったのは両親の影響では?
「ちなみに、そのオロフの親には会ったことはあるんですよね?」
「会ったのは結婚の時だけで、それからは会っていません。ただ、マノンの手紙が届いた後で、詫びの手紙が届きました」
「なるほど。親は普通だと」
人を見る目は確かなルボルさんだから、無責任におかしな人を薦めるはずがない。オロフは見た目は悪くなかったそうだから、何かこう、自分をよく見せるスキルでも持っていたのかもしれない。あるかどうか分からないけど[詐術]とか。
「あなた、ルボルさんに悪気はなかったと思いますよ」
「まあ、あの人に限ってそれはないだろうね。紹介できる人がいないなら、ちゃんといないと言いそうだから」
「結果としていい人に巡り会えましたから、私は幸せですよ」
結局その夜は遅くまで飲み明かし、寝たのはかなり朝も近い時間だった。
◆ ◆ ◆
マノンの実家に挨拶に行ったなら、次はエリーの実家だけど、その前にラクヴィ市でマイカの母親のアンナさんに挨拶しておくことになった。貴族になったわけなので、あらためて挨拶だね。
「ケネスさん、この度は男爵位の授爵、おめでとうございます」
「ありがとうございます。アンナさんもお元気そうで」
目の前にはラクヴィ伯爵の正妻アンナさんと義娘のノエミさん。ノエミさんはお腹が大きくなっていた。
「マイカはまだなの?」
「はい義姉様、今はまだですけど、六月ごろには仕込んでいただけることになりました」
「どうして三か月後?」
「前が詰まってますから。さすがに一気に九人が妊娠では屋敷が大変なことになります」
「「九人!」」
やっぱりそうなるよね。三人か四人くらいはいるそうだけど、さすがに九人は滅多にいないそうだ。
「恐ろしい……。私の義息はお盛んどころではなかったのですね。もしや見つめるだけで妊娠するとか……」
「いやいやいや。そもそも意図して妻を増やしたつもりはないのですが」
「先輩の人徳ですよ。いずれは妻が一〇〇人、子供は男の子が二〇〇人、女の子が二〇〇人くらいになってもおかしくないですよ」
「それでは、私は四〇〇人からお婆ちゃんと呼ばれるようになるのかしら」
「私は四〇〇人から伯母さんと呼ばれるのですか……」
「家族だけで一つ町ができますね」
「子供の顔と名前が覚えられなさそう——ってさすがに無理でしょ」
「財力だけなら大丈夫じゃないですか?」
「財力だけの問題ならね」
お金にだけは困らせないよ。でもあまり身内ばかり集まっても結婚相手に困ると思うんだよね。そうすると世界中に散らばることになるのか。
「それはそうと、今日はファビオさんの姿が見えませんが、お元気ですか?」
「ええ、元気ですよ。さすがにマイカも人の妻となりましたから、いつまでも執着してはいられなくなったようです」
「僕が口にするのも何ですが、父親としての自覚が出たのでしょうね」
「いえ、今は妹のエレナが可愛いようで、構い過ぎて嫌がられています」
「夫は先ほどルスランと牽制し合っていましたよ」
変わっていなかったか。懲りないねえ。
「あの兄はまったく成長していませんね……」
「ところで、マイカ、ちょっと聞きたいんだけど」
「義姉様、何ですか?」
「あなたの髪と肌がツヤツヤなのは、ケネスさんのおかげ?」
「あ、これですか。これは美容液のおかげです」
「「美容液⁉」」
「はい、お二人にも用意しています。どうぞ」
あらかじめ用意しておいた基礎化粧品セットを二人に渡す。用意せずに来るなんて考えてないよ。
「これはマイカたちが作っている基礎化粧品と呼ばれるものです。化粧をする前の肌を整えるためのものですね」
「肌を」
「整える」
「義姉様にはまだ言ってなかったと思いますけど、私は生まれ変わる前の記憶を持っています。それで、化粧をする前に肌を整えるものを作りたかったんですけど、私は細かな作り方までは覚えていなくて、って二人とも全然聞いてませんね」
「あら、ごめんなさい。これを使えばマイカのような若々しい肌に戻れると思うと」
「私も身籠もってから肌荒れがひどくて」
二人とも蓋を開けて匂いを嗅いだり手に付けたりに忙しい。
「義姉様はこれを使う以外にも柑橘類をまめに口にしてください」
「ありがとう、マイカ」
「ケネスさん、これは販売の予定はないのですか?」
「ユーヴィ市では販売を始めています。ですが長期の保存ができませんので、ここに届くまでに傷んでいる可能性が高くなります」
「この町で作ってもらうことはできませんか? おそらく買いたがる女性は多いでしょう」
「そうで——」
バンッ!
「聞くともなしに聞いてしまいましたが、女性としては非常に気になる話が耳に入りましたもので、うっかり入ってしまいましたわ」
「デボラさん、こことここに赤い跡が残っていますよ」
アンナさんが呆れたような声を出した。額と頬にかけてドアの跡がくっきり。どれだけ聞いてたんだろ?
「あら? 娘の手の跡かしら?」
「「「「……」」」」
「それはともかく、ケネスさんでしたね、ロシータの母のデボラです。予算はいくらでも出しますわ。いかがでしょう?」
「ありがたい話ですが、今のところはうちの領地以外での販売は考えていないのですよ」
「何か理由がおありなのですか?」
おそらく誰かからこう聞かれることは分かっているから、答え方も決めている。
「はい。これはマイカの夫としてではなく領主としての考えですが、とにかくユーヴィ男爵領に人を呼びたいというのが一番の理由です。うちに来れば手に入るものを作っているところです。ですので売りたくないわけではない、ということはご理解いただきたい。マイカの実家に家族としてお渡しするのは全然問題ありません。これがデボラさんの分です」
「分かりましたわ。ではこれ以上は無理は申しません。それならば、欲しい人はマジックバッグを持っている商人をユーヴィ市まで向かわせればいい、という話ですね?」
「そう宣伝していただけると助かります」
「デボラさん、どうしてあなたが仕切っているのですか?」
「もちろん話の流れですわ」
デボラさんは思った以上に愉快な人だった。
「ではテスさんの分も含めてここに入れておきますので、なくなればここから取りだしてください」
テスさんは第三夫人。そろそろ子供が生まれそうなので、別宅の方にいるのだとか。
「これに入れている限りは悪くなることはありません。減った分を補充することにします。たくさん使えばいいものではありませんので、必ずマイカが書いた取扱説明書に従ってください」
「ケネスさん、ありがとうございます」
ラクヴィ伯爵邸には富山の薬売りの方式で持ってくることにした。正直なところ、基礎化粧品の原価は安いんだよね。何が高いかと言うと、作るための魔道具。素材は植物がほとんどなので、成分を抽出する必要がある。
すでに王都のロシータさんには同じものを渡していて、今回はラクヴィ伯爵の奥様たち。ご婦人たちのネットワークは馬鹿にできない。ご婦人方の集まりでしれっと宣伝してもらえたら嬉しい。ユーヴィ市では買いやすい値段になっているから、買い付けのためにユーヴィ市に商人が来てくれればと思う。
この国は人があまり動かないから、どうしても情報の伝達が商人頼みになってしまうのがつらいところ。なんとか交通網を整備したいけどね。でも車と電車は作らないよ。
「お母様!」
家の前に馬車を止めると、音に気付いたのか狐耳の女性が出てきた。母娘が抱き合っていると、男性も家から出てきた。父親のシェルトさんと母親のモニクさん。シェルトさんは人間で、モニクさんは狐人。
「元気にやっているのは手紙で知っていたが、こうして顔を見れて一安心だ」
「お父様、今日は元気な姿をお見せするために夫と一緒に戻ってきました」
「初めまして、シェルトさん、モニクさん。今年からユーヴィ男爵となったケネスです」
「おお、これはこれは。こんなところで立ち話も何ですので、どうぞ中へ中へ」
「ありがとうございます。イサイさんたちは今日はもう好きにしてくださいね」
シェルトさんに促されて家の中へ向かう。イサイさんたちには宿へ行ってもらってもう好きに飲んでもらうことにした。明日普通に起きてくれたらそれでいいからね。
シェルトさんの家は質実という言葉がぴったりだった。飾り気がなく誠実。お二人の言葉からもそれがひしひしと伝わってくる。
「男爵様、うちはそれほど裕福ではない家ですが、娘には礼儀だけはしっかりと仕込んだつもりです。お邪魔になっていなければいいのですが」
「いえ、マノンには、彼女がギルドの職員だった頃からずっとよくしてもらっていますよ」
「そうですか。あらためて娘をよろしくお願いいたします」
「私からも、よろしくお願いいたします」
「はい、必ず幸せにしますので、お任せください」
僕がお二人に挨拶をしている間、マノンは何も言わなかったけど、無意識なのかわざとなのか、マノンは自分のお腹を撫でていた。モニクさんの目がそっちに向くよね。
「あら、マノン。できたのね?」
「はい、つい先日できたばかりです」
「そうか! そうか! いや、男爵様、感謝します。娘からあの馬鹿と離縁するという手紙が届いた時はどうなるかと思いましたが。ではこちらへどうぞ。ささやかですが、酒宴の用意をいたします」
結局、軽く挨拶をしたらそのまま宴会に突入してしまった。僕もお酒を出したけど、お二人とも強い強い。鯨飲というかザルというか。マノン用にノンアルコールも用意した。
「いやー、思い返せばあの馬鹿たちを蹴り出した時は胸がスッとしましたなあ」
「なかなか見物でしたわね」
シェルトさんとモニクさんが、気分良く酔いながら先日起こったことを説明してくれた。
マノンにユーヴィ市を蹴り出された元夫のオロフは、実家のあるレブ男爵領のサヴァラ町まで、例の恋人を連れて命からがら辿り着いたそうだ。ところが両親に事情がバレて追い出され、逆恨みしてこの家まで文句を言いに来たという。
「そんなにダメな人たちだったのですか?」
「見た目はそれほど悪くありません。話した感じも悪くはありません。男色家だから嫌うわけではありませんが、それならそうと最初に結婚の話を断ってくれればよかったのです。恋人と一緒にいたいからうちの娘と形だけ結婚してその後は知らんぷりでは、さすがに人として問題でしょう。マノンは何も言いませんでしたから私たちも気付きませんでした」
「娘は私によく似て頑固ですから、泣き言を口にしたくはなかったのでしょう。おそらく私でも同じことをしたでしょうから」
「そうですねぇ。私から人に助けを求めるのは負けを認めるようなものだと思っていましたから」
「しかも『おかげで親にバレて追い出されたじゃねえか』と文句を言ってきましたから、『うちの娘を蔑ろにしやがって』と蹴り出してやりました」
「私の方もその間男に『お前の娘が我慢すればよかっただけだろう』などと言われれば、カチンと来るどころではありません。とりあえず顎に二発ほど入れておきました」
「その時は息子のフォンスもいましたので、まとめて町の外まで蹴り出させました」
マノンが武闘家になったのは両親の影響では?
「ちなみに、そのオロフの親には会ったことはあるんですよね?」
「会ったのは結婚の時だけで、それからは会っていません。ただ、マノンの手紙が届いた後で、詫びの手紙が届きました」
「なるほど。親は普通だと」
人を見る目は確かなルボルさんだから、無責任におかしな人を薦めるはずがない。オロフは見た目は悪くなかったそうだから、何かこう、自分をよく見せるスキルでも持っていたのかもしれない。あるかどうか分からないけど[詐術]とか。
「あなた、ルボルさんに悪気はなかったと思いますよ」
「まあ、あの人に限ってそれはないだろうね。紹介できる人がいないなら、ちゃんといないと言いそうだから」
「結果としていい人に巡り会えましたから、私は幸せですよ」
結局その夜は遅くまで飲み明かし、寝たのはかなり朝も近い時間だった。
◆ ◆ ◆
マノンの実家に挨拶に行ったなら、次はエリーの実家だけど、その前にラクヴィ市でマイカの母親のアンナさんに挨拶しておくことになった。貴族になったわけなので、あらためて挨拶だね。
「ケネスさん、この度は男爵位の授爵、おめでとうございます」
「ありがとうございます。アンナさんもお元気そうで」
目の前にはラクヴィ伯爵の正妻アンナさんと義娘のノエミさん。ノエミさんはお腹が大きくなっていた。
「マイカはまだなの?」
「はい義姉様、今はまだですけど、六月ごろには仕込んでいただけることになりました」
「どうして三か月後?」
「前が詰まってますから。さすがに一気に九人が妊娠では屋敷が大変なことになります」
「「九人!」」
やっぱりそうなるよね。三人か四人くらいはいるそうだけど、さすがに九人は滅多にいないそうだ。
「恐ろしい……。私の義息はお盛んどころではなかったのですね。もしや見つめるだけで妊娠するとか……」
「いやいやいや。そもそも意図して妻を増やしたつもりはないのですが」
「先輩の人徳ですよ。いずれは妻が一〇〇人、子供は男の子が二〇〇人、女の子が二〇〇人くらいになってもおかしくないですよ」
「それでは、私は四〇〇人からお婆ちゃんと呼ばれるようになるのかしら」
「私は四〇〇人から伯母さんと呼ばれるのですか……」
「家族だけで一つ町ができますね」
「子供の顔と名前が覚えられなさそう——ってさすがに無理でしょ」
「財力だけなら大丈夫じゃないですか?」
「財力だけの問題ならね」
お金にだけは困らせないよ。でもあまり身内ばかり集まっても結婚相手に困ると思うんだよね。そうすると世界中に散らばることになるのか。
「それはそうと、今日はファビオさんの姿が見えませんが、お元気ですか?」
「ええ、元気ですよ。さすがにマイカも人の妻となりましたから、いつまでも執着してはいられなくなったようです」
「僕が口にするのも何ですが、父親としての自覚が出たのでしょうね」
「いえ、今は妹のエレナが可愛いようで、構い過ぎて嫌がられています」
「夫は先ほどルスランと牽制し合っていましたよ」
変わっていなかったか。懲りないねえ。
「あの兄はまったく成長していませんね……」
「ところで、マイカ、ちょっと聞きたいんだけど」
「義姉様、何ですか?」
「あなたの髪と肌がツヤツヤなのは、ケネスさんのおかげ?」
「あ、これですか。これは美容液のおかげです」
「「美容液⁉」」
「はい、お二人にも用意しています。どうぞ」
あらかじめ用意しておいた基礎化粧品セットを二人に渡す。用意せずに来るなんて考えてないよ。
「これはマイカたちが作っている基礎化粧品と呼ばれるものです。化粧をする前の肌を整えるためのものですね」
「肌を」
「整える」
「義姉様にはまだ言ってなかったと思いますけど、私は生まれ変わる前の記憶を持っています。それで、化粧をする前に肌を整えるものを作りたかったんですけど、私は細かな作り方までは覚えていなくて、って二人とも全然聞いてませんね」
「あら、ごめんなさい。これを使えばマイカのような若々しい肌に戻れると思うと」
「私も身籠もってから肌荒れがひどくて」
二人とも蓋を開けて匂いを嗅いだり手に付けたりに忙しい。
「義姉様はこれを使う以外にも柑橘類をまめに口にしてください」
「ありがとう、マイカ」
「ケネスさん、これは販売の予定はないのですか?」
「ユーヴィ市では販売を始めています。ですが長期の保存ができませんので、ここに届くまでに傷んでいる可能性が高くなります」
「この町で作ってもらうことはできませんか? おそらく買いたがる女性は多いでしょう」
「そうで——」
バンッ!
「聞くともなしに聞いてしまいましたが、女性としては非常に気になる話が耳に入りましたもので、うっかり入ってしまいましたわ」
「デボラさん、こことここに赤い跡が残っていますよ」
アンナさんが呆れたような声を出した。額と頬にかけてドアの跡がくっきり。どれだけ聞いてたんだろ?
「あら? 娘の手の跡かしら?」
「「「「……」」」」
「それはともかく、ケネスさんでしたね、ロシータの母のデボラです。予算はいくらでも出しますわ。いかがでしょう?」
「ありがたい話ですが、今のところはうちの領地以外での販売は考えていないのですよ」
「何か理由がおありなのですか?」
おそらく誰かからこう聞かれることは分かっているから、答え方も決めている。
「はい。これはマイカの夫としてではなく領主としての考えですが、とにかくユーヴィ男爵領に人を呼びたいというのが一番の理由です。うちに来れば手に入るものを作っているところです。ですので売りたくないわけではない、ということはご理解いただきたい。マイカの実家に家族としてお渡しするのは全然問題ありません。これがデボラさんの分です」
「分かりましたわ。ではこれ以上は無理は申しません。それならば、欲しい人はマジックバッグを持っている商人をユーヴィ市まで向かわせればいい、という話ですね?」
「そう宣伝していただけると助かります」
「デボラさん、どうしてあなたが仕切っているのですか?」
「もちろん話の流れですわ」
デボラさんは思った以上に愉快な人だった。
「ではテスさんの分も含めてここに入れておきますので、なくなればここから取りだしてください」
テスさんは第三夫人。そろそろ子供が生まれそうなので、別宅の方にいるのだとか。
「これに入れている限りは悪くなることはありません。減った分を補充することにします。たくさん使えばいいものではありませんので、必ずマイカが書いた取扱説明書に従ってください」
「ケネスさん、ありがとうございます」
ラクヴィ伯爵邸には富山の薬売りの方式で持ってくることにした。正直なところ、基礎化粧品の原価は安いんだよね。何が高いかと言うと、作るための魔道具。素材は植物がほとんどなので、成分を抽出する必要がある。
すでに王都のロシータさんには同じものを渡していて、今回はラクヴィ伯爵の奥様たち。ご婦人たちのネットワークは馬鹿にできない。ご婦人方の集まりでしれっと宣伝してもらえたら嬉しい。ユーヴィ市では買いやすい値段になっているから、買い付けのためにユーヴィ市に商人が来てくれればと思う。
この国は人があまり動かないから、どうしても情報の伝達が商人頼みになってしまうのがつらいところ。なんとか交通網を整備したいけどね。でも車と電車は作らないよ。
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