新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第二部

村から町へ、そして来客 四月

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「そういうわけで、ソルディ村、アルメ村、トイラ村、シラマエ村の四村を、今月から町にすることにしました。基本的には何も変わりませんが、人が増えれば派遣しているギルド職員を増やした方がいいと思いますので、調整をお願いしますね」

 年明けに王都から作業員たちを呼び、二月の途中まではキヴィオ市との間にある森を切り開いて中央街道を作る仕事をしてもらっていた。開通後、一部の作業員たちはこの領地の兵士やギルド職員として働いている。残りの作業員たちには各町や村に移動してもらい、周辺の街道を整備したり、石畳を敷いたり、森の整備をしたり、そのような土木工事を続けてしてもらっている。その作業員たちのほとんどが、仕事が終わった後もこの領地に残りたいと言ってくれている。

 今回残りたいと言ってくれた作業員たちは、自分たちが仕事をしていた村に住みたいと言っているようだ。愛着が出たようだね。それに正直に言うと、この領地は暮らしやすいとは思うよ。その結果、ユーヴィ市は一七〇〇人ほど、それ以外の一町四村もそれぞれ二〇〇人以上増えることになった。

 ナルヴァ町以外はほぼ人口が倍になるという恐ろしい状態だけど、まあ食料も問題ないし、今はいくらでも仕事はある。ただ、以前から男女比が偏っていたのがさらに大きく偏ったので、何とかしてほしいとギルドからは言われている。

「分かった。二人ずつだったのをさらに二人ずつ増やそう。ここのところ人が増えて動かしやすくなったし、連絡網のおかげで効率的に人を動かせるようになったからな。それにしてもこの半年で急に人も物も町も動き始めたなあ。お前が来たのがきっかけだが」
「まあ僕がこういう性格ですから仕方ありませんよ。それと、一戸建ての魔化ユニットの増産が終わりましたので倉庫のマジックバッグに入れておきました」

 現在この町の中にある建物を順番に改装している。燃料箱バッテリーを使った魔化住宅への改装を希望する市民には、費用の全額をユーヴィ男爵領が負担するということにしている。薪を使わなくても料理ができるし、蝋燭を使わなくても家中が明るくなる。キッチンとトイレと風呂の水回りをセットにして、それ以外の部屋も照明は使え、変換コネクタを使えば他の魔道具も接続できるようになる。家の中に電気配線を通した感じだね。

 先行して宿屋や商店などの改装を行ったところ、「薪を運ばなくてよくなった」「水汲みに行かなくてよくなった」と評価は高い。

「住宅の方も順次改装が進んでいるな。夏までにはあらかた終わりそうだ。やはりドワーフの作業員の力は大きいな」
「彼らがいてくれてこその今の状態ですからね。問題は男性の方が多いことでしょうか。全員が今すぐ結婚を希望しているというわけではありませんが、先のことを考えれば問題ですね」
「ゴルジェイにも言われたが、何か知恵はないか? あれだけたくさんの花に囲まれてんだから、女性の扱いには慣れてるだろう」
「別に女性の扱いが上手だとは思っていませんよ。それに扱いが上手だからって女性が集められるわけでもないでしょう。そもそも勝手に他の場所から連れてきたら問題になるでしょうし。自然と集まってくれるのが一番なのですが」
「そんなに都合のいいことはないだろうが、お前さんの引きの強さで何かあるかもしれんな」
「一応考えますけど、あまり期待しないでください。僕の人脈は片寄っていますから」



 ギルド内の自室に戻ってこの件について考える。

 人を呼んで領民を増やす。言葉にすれば簡単なことだけど、実現するのはとてつもなく難しい。そもそも人の移動が少ない国だからね。町から町へと移動するのは冒険者や商人、そしてドワーフの作業員たちのようにあちこち渡り歩いて仕事をしているような人たちくらいだ。地球のように、旅行で訪れた場所を気に入って何年か後にそこに移住してしまうなんてことはほぼあり得ない。そもそも生まれ育った町から離れない人が圧倒的に多く、大きな町なら城壁から外に出たことがない人だっているくらいだ。

 そもそもうちの領民が増えるということは、別の領地の領民が減ることを表している。領民が減れば麦を作る人が減るから税収も減る。無理に連れてくれば必ずその領地と揉めることになる。それは避けたい。そうなると、どこから人を呼ぶか。

 他の町から連れてくるのが難しいなら、人里で暮らしていないエルフや妖精などの種族を探す。でも伝手がない。そもそも僕はなんちゃってエルフだからね。いまだに【種族:[エルフ?]】だから。連れてくるとすれば、人が余ってそうな王都あたりだろうか。近いうちにまた作業員探しで王都に行く予定だけど、どう考えても男の方が多そうだけど。

 その作業員たちだって、結婚して定住を希望した人たちは残ってくれるだろうけど、そうじゃない人たちは仕事もないのにずっといてくれるはずがない。今でこそ街道の工事などがあるから留まってくれているけど、作業員が増えれば仕事は早く終わる。そうすれば次の仕事が必要になる。そんなに大規模な工事ばかりあるわけじゃない。そうするとそのうち仕事がなくなる可能性もある。そうすれば作業員たちは去ってしまって人口が減ることになる。

 結局のところ、雇用を続けるには拡大路線、つまり新しい事業をどんどん立ち上げないといけない。でも元から産業がほとんどなかった町だから、まずはそのための人材育成をしなければならない。結局は職業訓練学校を拡大していくしかないんだろう。その先生を確保するのがまず大変で、その事業も他の町で盛んに行われていることなら意味がないんだよね。やりたいことはないわけじゃないんだけど。

 そんなことを考えていると、王都から客が来たと連絡があった。



◆ ◆ ◆



「男爵閣下の御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます」

 目の前には床に腹ばいになったエルフの女性。片膝を床に付けたかと思ったら土下座になり、それから五体投地のように腹這いになった。その後ろにはエルフが五人と妖精が五人、そして人間が八人。なぜ女性ばかり? 女性不足だと言ったから?

「いや、もっと気楽に。ほら、体を起こして。それより王都から用事とは?」

 そう言うとエルフの女性は、先ほどまで腹ばいになっていたのが嘘のようにテキパキと体を起こした。

「私はジェナと申します。ここにいる一九名、閣下にお仕えしたく思います」
「そのためにわざわざここまで?」
「はい」
「ちなみに、どうして僕に?」
「昨年の秋ですが、私は閣下の謁見の場におりました。そこで閣下の神々しい姿を拝見し、この方にお仕えしたいと思い、それで同志を募り、仕事の引き継ぎを済ませてからこちらに参りました」
「王宮の方からは何か言われませんでしたか?」
「もちろん許可は頂いております。これが宰相閣下よりお預かりした手紙になります」

 簡単にまとめると、ここにいるのは主に王宮に勤めて魔道具の開発や製作などに関わっている職人たち。エルフは指導者に対して指導をするという最上位の職人、妖精は細かな作業をする職人、人間は一般的な魔道具を作る職人となっている。ここにいる全員がレオンツィオ殿下の離宮で僕が作って置いてきた魔道具を見て、その技術を身に付けたいと言っている。特に期間は設けていないが、しばらく面倒を見てほしい。

「分かりました。みなさんをこの領地で雇うことにします。ですがここはいまだ開拓を始めたところと言ってもおかしくない程度の規模です。とりあえずこれから町の中を案内しますので、みなさんは何を学びたいか、自分なりに見つけてください」
「自分なりにとはどういうことでしょうか? 魔道具ではなく、ということでしょうか?
「いえ、魔道具と一口に言っても、様々な種類があります。この領地には戦争や戦闘に使うための魔道具はほとんどありません。すべてが生活を便利にするためのものばかりです。生活を便利にする、と言っても種類は色々ありますので、興味を惹かれる魔道具を見つけてください、という話です。それでは出ましょうか」



─────────────────────



 ケネスへの呼びかけ

 リゼッタ:ケネス
 カロリッタ:マスター
 エリー:旦那様
 ミシェル:パパ
 マイカ:先輩
 マリアン:お前様
 セラ:先生
 キラ:先生
 カローラ:ご主人様
 マノン:あなた
 サラン:閣下
 ジェナ:閣下←NEW



 男爵領の外で一定の地位や立場にある人からは「ケネス殿」や「男爵殿」と呼ばれる。「ケネス様」や「男爵様」と呼ばれることもある。

 男爵領の中で一定の地位や立場にある人からは「ケネス様」「ケネス殿」「男爵様」「男爵殿」「領主様」「領主殿」などと呼ばれる。

 領主邸の使用人たちからは基本的には「旦那様」と呼ばれる。「ケネス様」「ご主人様」「お館様」などと呼ばれることもある。

 男爵領の領民たちからは一般的に「ケネス様」「男爵様」「領主様」などと呼ばれる。

 服飾美容店の関係者や店員たちからは「オーナー」と呼ばれることが多い。「ご主人様」と呼ぶ店員もいる。

 以前からの知り合いなどは「ケネスさん」や「ケネス君」と呼び続けることもある。

 ルボルだけはいつになっても「ケネス」か「お前」。
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