新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第一部

次の開拓

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 今日はルボルさんとゴルジェイさんの三人で話をしている。

「領主殿、土木ギルドとしては、とりあえず大きな作業はすべて終わりました。領内の街道には石畳を敷き終わった。やはりマジックバッグや魔道具があると早いですな」
「思った以上に早かったですね。もう一か月か二か月はかかると思いましたが」
「作業員が確保できているのが大きいです。結局あの開拓が終わった後、ほとんどがこの領内に残っています。それで問題もないとは言えないのですが」
「何か問題でもありましたか?」
「作業員の多くがこの男爵領に残りたいと言っているので家が足りなくなりそうで」
「集合住宅はそのまま残してありますが」
「それが、どこに住みたいのかと聞けば、自分が作業をした村に残りたいと。愛着が出たそうで。それはそれでいいと思いますが、そのままにしたら村がすべて町になってしまうので、領主殿はそれでいいのかと思ったので一応確認を」

 ……なるほど三〇〇〇人近く増えて、およそ四割が一町四村に住みたがっていると。六割はユーヴィ市か。

「定住は大歓迎ですが、これまでのような集合住宅は小さな村には合わないと思うので、きちんと家を建てた方がいいですよね。しばらく家を建てる方に集中させましょうか。それより男女比は大丈夫ですか?」
「開拓の作業の前半は男がほとんどでしたな。途中からは女が増えましたが、それでもまだまだ少ない。領主殿も考えてくれば助かる」
「考えますけど、無理なこともありますよ。それと、レブ市までの森に街道を通すのが七月からになりました。作業は前回と同じような感じです。途中で大きく岩山を迂回しますので、そこだけは違いますが。近いうちにルボルさんも交えて話をしますのでお願いします」
「分かりました。各所に連絡をして、その頃にはまた人を集められるようにしておきます」
「お前は、思い立ったらすぐに行動するな」
「ここまで行動的な雇い主は初めてですな」
「何もしないよりはいいじゃありませんか。快適な領地運営の環境を整えるのが仕事ですので、実際の運営はギルドに丸投げですけどね」

 連絡については連絡網を完成させたので、これで即時とはいかなくてもかなり早く伝わることになった。

「とりあえず五キロごとに一里塚を作って、そこを拠点に連絡網ができました。一里塚の側には雨宿りができるくらいの東屋を設置しましたので、使いたい人は使ってくださいという感じです」
「至れり尽くせりだな。東屋の管理は必要か?」
「柱と屋根しかありませんから壊れても大丈夫ですよ。そもそも壊れないくらい頑丈にしてあります」
「それならいいか。それで、前に言っていたレブ市との間の街道は、場所は決まったのか?」
「とりあえず東西の出入り口の場所は確定しました。地図だとこのあたりですね」

 地図を見ながら、ルボルさんとゴルジェイさんに出入り口の場所と大まかなルートの説明をする。大まかなルートと言ってもまっすぐ進んで折れ曲がってまっすぐ進むだけなんだけど。

「ユーヴィ男爵領側はアルメ村の北側です。レブ男爵領から来る場合はあの村が入り口になります。レブ男爵領側は、エレーダ町の北側の予定です。この場所だと町の人たちの協力が得られます。主に食事の準備ですね。ユーヴィ市、アルメ村、エレーダ町、レブ市と繋がります」
「領主殿、作業中、この山は大丈夫か? 魔獣も出なくはないはずだが」
「そこはきちんと考えますよ。前回と同じ人数で作業が進めば、七月から始めれば年内には終わる予定です。今回は最初からある程度の人数が期待できますからね。それにお酒の方もたっぷりと用意しましたので、それを期待して加わる人もいると思いますよ」
「お前も人の動かし方が分かってきたみたいだな」
「ルボルさんほどではないですよ」

 まあ、コツを掴んでちょうど楽しくなってきた時期だからね。

「ではまだ三か月ほどありますが、王都の方でもう少し追加の作業員を探して声をかけておきます。今回は距離で言えば三倍くらいありますから」
「土木ギルドの方ではもう一度人集めだな。それまでは家を建てるのに人を使わせてもらう」
「冒険者ギルドの方は……賃金と食事か。食事は人を使って大量に作って保管しておくのでいいか?」
「はい、大量にお願いします。種類も増やしてください。毎日同じ味だと飽きるでしょう。お酒と宿舎は僕の方でやります。予算は……また適当に魔獣を狩って作っておきます」
「それは俺たちには無理だから頼むわ」
「最近ようやく分かったが、うちの領主殿は何だかんだで最後は力技なんだな」
「それが持ち味ですね」

 結局は魔法でゴリ押しなんだよね。ただ、それだけではね。

 街道だって一人でやろうと思えばできるけど、それをやっても意味がないからね。正直なところ、個人的にはお金はいらないから。いかに領内でお金が回るかが大切。

「それともう一つ、そろそろ服飾関係のギルドを立ち上げたいと思います。職業訓練学校で練習として作った布などを服飾ギルドに回し、それを町中にある衣料品店が購入して仕立てるという流れが作れそうです」
「お前さんところの店はいいのか?」
「あれは別で用意しますから大丈夫ですよ。それよりも、練習として作った布は今はギルドの制服くらいにしか使えませんが、どうしても在庫がだぶつきますので、できる限り安く町の衣料品店に卸したいと思います。ギルドも人が増えてきたので、もう一つか二つなら増やせますよね」
「なら調整しておこう。安くて見た目がいい服が町中で気軽に買えるとなればみんなが喜ぶからな」
「ええ。公営服飾美容店の方は少し高めの値段設定にして、次は頑張ってあれが買えるようにしよう、という感じにします」



 一度休憩を入れることにし、僕が作ってきたカステラなどを出す。

「甘いが美味いな、これは。しかし領主殿の発想はどこから来ている? 王都でもこれほどの発想は見たことがないぞ」
「まあ、前から知っていたからとしか言いようがありませんけどね。そうですねえ……ゴルジェイさんは王都が長かったんですよね?」
「ああ、あのあたりでは一番長いくらいだな」
「商業区で庶民が買えるものがどれくらいありましたか?」
「そうだな……。服に食い物に酒に……あとは鍋とか食器とか、それくらいか」
「ええ、僕は大森林を出てからユーヴィ市、キヴィオ市、ラクヴィ市、王都、ルジェーナ市と回りましたが、庶民の生活はどこでも同じなんですよ。人が多いか少ないか、値段が高いか安いかの違いだけなんです」
「そうだな。王都は人だけは多かったが」
「はい。賃金が高いので物も高い。それを除けば人の数の違いだけです。庶民が買える物は必需品だけで、嗜好品は高すぎて手に入らない。だからお金が回らないんです。店はあっても普段の生活に使う日用雑貨と食料品くらいでしょう。しかもどこで買っても同じとなれば、少ないパイを奪い合うだけです。仮に店が倍に増えれば、一店あたりの客は半分になります。それでは新しい店も開けない」
「おいおい、それならこの町で店が増えれば、そのうち潰れる店が出てこないか?」

 これまで腕組みをしていたルボルさんがそれに気が付いた。

「このままだとそうなりますよ。売り上げが減る一方ですから。だから街道を通す必要があるんです」
「なるほど。領主殿は人を呼んで金を落とさせるつもりなのか」
「そうです。今は僕があちこちで魔獣の素材を売ってお金を作っていますけど、それがなくてもお金が集まる仕組みを作っているところです。つまり町の外から来た人がお金を落として帰っていくというやり方ですね。今は先行投資の段階です」

 店は売る。住民は買う。でも服飾美容店で技術を身につけて独立した人が店を開けば店ばっかりが増える。一方で客は増えない。店が倍になれば、単純計算で売り上げは半分になる。そのためには外から来てもらってお金を落としてもらうしかない。

 ユーヴィ市そのものでは今のところお金を生み出す方法がほとんどない状態だ。むしろお金が減っていると言ってもいい。領民の懐には入っているけど、男爵領の金貨や銀貨の備蓄という点では減っている。だから魔獣を狩って外で売ってるんだけどね。それでなんとか賄えるくらいの町だからできる話だけど。

「そのためには危険を排除する必要もあるのでは?」
「ええ、安全保障は第一です。安全だと分かれば通る人は増えます。人が増えれば人の目が気になりますから盗賊は減ります」
「王都の近くは人が多くても盗賊が出たんだが」
「僕も直轄領で一度盗賊に出会いましたが、大規模な商隊は襲いません。そこまで戦力がありませんから。ですから単独の商人や行商人を狙うことが多いようです。商人になりすまして近付き、油断したところで殺して奪うという手口でした」

 大規模な商隊を襲えば得られるものは多いと思うけど、護衛も多いから危険も多い。だから小さな商隊や一人でいる商人ばかりを狙っていたみたいだ。盗賊から逃げて町に駆け込んで報告する人がいないので、どれだけ盗賊がいるのかが把握し切れていなかった。

「それなら護衛を増やしたらいいのか?」
「はい。街道を通行する商人の安全を確保するため、一定の距離ごとに兵士の詰め所を用意します。今のように馬でずっと見回るのは負担も大きいですからね。これまでは人が足りずにできなかったことですが」
「それならキヴィオ市とレブ市にも話を通す必要があるな」
「はい、キヴィオ子爵もレブ男爵も、兵士の一部を派遣するだけだから問題ないでしょう。そのために、砂糖やバナナという商品作物を育てているわけですから」
「たしかに砂糖が安価に手に入るなら人くらい出すか」
「そういうことです。兵士数名の巡回ルートをこちらにしてもらうだけですからね」
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