129 / 278
第三章 第二部
落ち着いた日々と使用人たち、そして移住者探し 五月
しおりを挟む
五月に入って色々なことが落ち着いてきた。
まず、家族について、カローラとセラがめでたく妊娠した。もう五人となると今さら慌てたりしない。超最新型の拘束具は使わなかったとだけ言っておこう。
リゼッタは結局あれから悪阻もなく元気にしている。元々が小柄だから、かなりお腹が目立ってきた。エリーは悪阻はないけど、マノンはそれなりにあるようで、パイナップルをよく食べている。種族の関係かな? でも食べ過ぎると口の中が切れるからね。マイカとカロリッタがウォームアップを始めたけど、君たちはまだだから。
「閣下、お帰りなさいませ」
家族以外のこととしては、いつの間にかジェナさんが使用人になっていた。本当にいつの間にか。いや、彼女には魔法と魔道具の先生をしてもらおうと思ってたんだから、引き抜く前に前もって相談してほしかった。
◆ ◆ ◆
「ご主人様、彼女にはミシェルちゃんとカリンちゃんとリーセちゃんに魔法を教えてもらいます。家庭教師と乳母を兼ねたような仕事ですね」
すでに決定事項のように話をするカローラの隣には、うちの使用人たちと同じ服装をしたジェナさんが立っていた。
「そもそもカリンとリーセには魔法の才能はあるの?」
「はい、ありますよ。それにミシェルちゃんは人なつっこい性格ですが、同じ種族の方が馴染みやすいでしょう」
「うーん、ジェナさんはいいの? いきなり職場が変わったけど」
「はい閣下。私に足りない部分はカローラ様から直接指導をいただけるということです。教えることと教わることの両方を経験できますので、私といたしましては願ったり叶ったりです。それと、私のことは今後ジェナと呼び捨ててください」
「呼び捨ててって……」
「呼び捨てでお願いします」
「ま、まあ、ジェナがいいって言うならそれでいいんだけど……分かった。今年から来年にかけては子供が続けて生まれるから、人が必要なら雇ってもらってもいいけど、あまり無責任に増やさないでね」
「それはもちろんです。リゼッタさんとフェナと相談してから決めますので。勝手に彼女を雇ったことに関しては、ぜひ罰をお与えください」
「それはいいよ」
フェナは料理人として雇われていたけど、今では女性使用人のまとめ役をしてもらっている。イェルンは執事のまま。以前からそうだったように、この屋敷の管理をしてもらっている。執事とは言っても領地の管理をする必要はなくて、その仕事はほぼギルド任せになっている。麦もギルドに入るからね。この二人には人を雇う権限は与えてあるけど、解雇する時は前もって言うように言ってある。
領主になってあらためて感じたのは、人を使うことの難しさ。この家にしてもそうだけど、うちの家族は基本的にどんなことでも自分でしようとする。そうすると使用人の仕事がなくなってしまう。使用人に仕事を与えるのも家族の仕事。だからある程度は使用人に任せ、それでも一部は自分たちでする。妥協点はそこだった。
そして使用人はあくまで使用人であり、家族とは分けて考えなければいけないというのは当然なんだけど……
「エルケ、なんで僕の膝に跨がってるの?」
「マイカ様がそうしなさいとおっしゃいましたので~」
「エルケに何をさせたいんだろう?」
「普通に考えたらこのままキスするか~、この体勢のまましちゃうか~、抱き上げてベッドですよね~」
「いや、頭から庭に放り出すというのもありかな?」
「やーめーてー」
ひとしきりじゃれ合うと満足したのか、エルケは大人しく仕事に戻っていった。彼女の仕事は掃除と洗濯が中心だから、どうしても暇な時間帯ができてしまう。そうなると僕のところに遊びに来るんだよね。それもどうかと思うけど。
「マイカ、エルケに何を吹き込んだの?」
「エルケは先輩に懐いていますから。妹というか、ペットというか、そんな感じですけど。もっと懐いてみたらって言いました」
「懐いているのは分かるけど、エルケに何をさせたいの?」
「無理に家族と使用人を分けて考えなくてもいいんじゃないかと思いまして。家族みたいな使用人がいてもいいと思いますよ」
「家族と分け隔てなくってこと?」
「さすがにイェルンやフェナは難しいと思いますけど、フランカは姉、エルケは妹みたいな感でいいんじゃないですか?」
「本音は?」
「妹枠がいません! あの子に先輩を『お兄ちゃん』と呼ばせるのが目標です。さすがにそれは恐れ多いと言われましたけど」
「エルケが拒否する基準が分からない」
◆ ◆ ◆
久しぶりでもないけど、また王都に来ている。七月から始まる森の開拓の作業員の追加募集のためだ。
前回の作業員たちのほとんどが領内に残ってくれているけど、作業範囲が三倍くらいになるから作業員はもっといてもいい。ついでに女性を増やす方法が見つかればいいんだけど。
「おう、兄ちゃん、いや失礼、男爵様か、何かご用で?」
「ああ、ロジオンさん、久しぶりです。ここのところはどうですか?」
以前ゴルジェイさんがやっていた商店にやってきた。あの時声をかけてくれたロジオンさんが今はこの店を継いでいるみたいだ。
「人が減った影響もあって、ずいぶん静かになっちまいましたが、それでも昼時にはまたそれなりに集まってきます」
「また人を集めてもらってもいいでしょうか?」
「仕事の話で? 中へどうぞ」
「前回はここからここまで街道を通しました。次はここからここになります。前回の三倍です。作業員の大半は残ってくれていますが、できればもう少し欲しいところですね。条件は前回と同じで、移動もこちらで責任を持ちます」
「さすがに前ほどは集まらないと思いますが、それでも一〇〇や二〇〇は集めてみせます。そのうちこの近辺のドワーフがみんなユーヴィ市に行くんじゃないですかい?」
全部でどれくらいいるんだろうね? 移動しながら働いているから、どこにどれくらいいるかは正確には把握できないんだろうだ。
「来年あたり、開拓が一段落すれば、別のところへ移動する人もいるでしょう。村へ移住を決めてくれた人たちは残ってくれるでしょうけどね。それで、もう一つお願いというか、聞きたいことがありまして」
「何でしょう?」
「こんな話を聞かされても困るかもしれませんが、うちの領地は女性が少ないので、移住してくれるような女性がどこかにいないかということなんです。もちろん男性が移住するのはダメというわけではありませんけど、どこかにそのような女性の集団がいるとか、聞いたことはないですか?」
「移住できる女性の集団……」
ロジオンさんは腕組みをして考え込んでしまった。さすがに無理な話だとは思うけど、人脈は絶対に僕よりも広いから、もしかしたらね。
「そうっすね……少し心当たりはありますが、多少問題があってもいいっすか?」
「問題の程度にもよるけどね」
人が増えてもトラブルも増えたら意味がない。
「それは大丈夫なはずっす。まず、さっきの作業員の話と関係ありますが、心当たりの一つはドワーフの女性作業員っすね。継続して仕事があれば長く留まってくれるでしょう。その間に同族の相手を見つけることもあるんじゃないでしょうか。王都はドワーフの男性が減りましたから、相手が欲しい女性はある程度はいるはずっすよ」
「たしかに、それはあり得ますね」
ドワーフだから相手もドワーフと決まっているわけじゃないけど、同族の方が話はしやすいだろうね。
「それともう一つ、こちらがさっき言った少々問題のある集団なんすが、南東の方に人間と獣人が中心の集落がいくつかあります。俺も最近は行ってないんすが、生まれてくるのは女が多くて男が少ない、そして男がみんな町へ出稼ぎに出て行って帰ってこないっていう地域があるんすよ」
「男性が生まれにくいってことですよね? 昔からそうなんでしょうか?」
「聞いた話じゃ、以前からそんな傾向はあったそうっすが、どんどん酷くなったって言ってましたね。俺も何回か仕事で通りましたが、毎回のように『家も土地もやるから、嫁をもらってくれ、村に残ってくれ』って頼まれました」
「王都から近いですか?」
「二重都市群の少し外です。ウース市ってご存知すか?」
頭の中で地図を開く。地名は乗っていないけど通ったところは覚えている。入ってはいないね。
「南東の方ですよね。あのあたりまでは行ったことはありませんが」
「そうっす。王都、ホルスト市、カルスナ市と東に進んで、その南です。そのウース市のさらに南あたりです。二重都市群の南東の外れあたりですかね」
「王都から二週間弱くらいでしょうか」
「それくらいあれば十分着きますね。仕事として頼んでもらえりゃ行ってきますよ。女ばっかりじゃないすけど、いいですかい?」
「ええもちろん。では移住の勧誘もお願いします。強引な勧誘はしないようにお願いします」
住民の半分が移住したくて半分は移住したくないとなったら村が割れる可能性がある。難しいのは分かるけど、そのあたりもある程度は配慮をお願いした。
こちらが提示する条件は以下の通り。まず移住先はユーヴィ男爵領のいずれかの町で、ユーヴィ市でもいいし、他の町でもいい。もし畑をやりたいなら農地は用意するし、他の仕事をしたければ斡旋する。衣食住はきっちりと面倒を見るので、生活に困ることはないことは保証する。いきなり着いてすぐに働けというわけじゃなく、しばらくは向こうの生活に慣れ、そろそろと思った頃に働き始めてくれればいい。
「分かりました。声をかけておきます。そちらも一緒に移動してもらうのでいいっすか?」
「はい、お願いします。開拓の作業は七月からです。準備も含めて、六月の最終週の火の日にまた伺います。どこに迎えに来ればいいでしょうか?」
「そうっすねえ……今回は外から呼ぶことを考えると……王都の南側、このあたりには王都の中で寝泊まりしない商人たちが集まる野営地があります。そこを借りて集めます」
「分かりました。では待ってもらう人たちが困らないように、とりあえずこれだけ渡しておきます。もし足りなかったら今度請求してください。余ったら手間賃として取っておいてください」
「了解しました。それじゃ間違いなく手配しますんで」
「よろしくお願いします」
◆ ◆ ◆
「僕と土木ギルドの名前で、追加の作業員の募集をかけてきました。それと女性が少ないという問題ですが、ロジオンさんに頼みました。どうも二重都市群の外れに男性が少ない地域があるようなので、引っ越してもいいと言う人を一緒に集めてくれるそうです」
街道工事の作業は土木ギルドの担当。そういうわけで帰ってすぐにゴルジェイさんに報告してうる。
「男性が少ない地域……ああ、ああ、おそらくあのあたりですな。ワシは行ったことはありませんが。聞いたところでは男性があまり生まれない地域があるようですな。何が原因なのかは分からないそうですが」
「パッと一つ考えられるのは、血が濃すぎることでしょうか」
「血が濃いって、近親婚ですか?」
「はい。もちろんそうならないように気を付けているとは思いますけど、それでも集落の規模が小さいと、結局はみんなが親戚になりますからね」
「うーん、そこまで小さな村でもないとは思いますが」
「それなら栄養に問題か、それとも土地そのものに何か問題があるのか……」
「パンや肉は問題ないはずですが……」
栄養かな? ビタミンとかミネラルとか。それが原因とは限らないけど。それなら壊血病になるから歯茎から血が出たりするから、もっと病気だと分かりやすいか……。そもそも男性が生まれにくい原因にはならないかもしれないしねえ。でもここは地球とは違うからなあ。風土病とか?
「これもあくまで可能性ですけど、パンと肉しか食べていないのであれば、それが原因の一つの可能性があります。適度に野菜や果物を口にすることも大切ですよ。高価なものでなくてもいいんですけどね。どこにでもあるような木イチゴや柑橘類でいいんですよ」
「あのあたりは森も少なくなりましたから、そういったものは食べていないかもしれませんなあ。ずっと東に行けば大きな山がありますが」
「もしこの領地に来てくれるなら、前から植えているバナナや、これから植えようと思っているパイナップルという果物も栄養がありますので、いずれは改善されるかもしれません。原因がはっきりしないので保証はできませんけどね」
「まあそれでも今の生活よりはいいでしょう」
「それは保証しますよ。それでも生まれ育った村を離れるのは嫌でしょうけどね。とりあえず来月末の火の日に王都の近くに集めてもらうことになりました。作業員と移住者を一緒に運んできますので、振り分けをしたら土木ギルドにお任せします」
「よっしゃ、任されました。ここに来てから仕事が多くて張り合いがありますなあ」
「仕事の後のお酒が美味しいでしょ?」
「その通りですなあ」
まず、家族について、カローラとセラがめでたく妊娠した。もう五人となると今さら慌てたりしない。超最新型の拘束具は使わなかったとだけ言っておこう。
リゼッタは結局あれから悪阻もなく元気にしている。元々が小柄だから、かなりお腹が目立ってきた。エリーは悪阻はないけど、マノンはそれなりにあるようで、パイナップルをよく食べている。種族の関係かな? でも食べ過ぎると口の中が切れるからね。マイカとカロリッタがウォームアップを始めたけど、君たちはまだだから。
「閣下、お帰りなさいませ」
家族以外のこととしては、いつの間にかジェナさんが使用人になっていた。本当にいつの間にか。いや、彼女には魔法と魔道具の先生をしてもらおうと思ってたんだから、引き抜く前に前もって相談してほしかった。
◆ ◆ ◆
「ご主人様、彼女にはミシェルちゃんとカリンちゃんとリーセちゃんに魔法を教えてもらいます。家庭教師と乳母を兼ねたような仕事ですね」
すでに決定事項のように話をするカローラの隣には、うちの使用人たちと同じ服装をしたジェナさんが立っていた。
「そもそもカリンとリーセには魔法の才能はあるの?」
「はい、ありますよ。それにミシェルちゃんは人なつっこい性格ですが、同じ種族の方が馴染みやすいでしょう」
「うーん、ジェナさんはいいの? いきなり職場が変わったけど」
「はい閣下。私に足りない部分はカローラ様から直接指導をいただけるということです。教えることと教わることの両方を経験できますので、私といたしましては願ったり叶ったりです。それと、私のことは今後ジェナと呼び捨ててください」
「呼び捨ててって……」
「呼び捨てでお願いします」
「ま、まあ、ジェナがいいって言うならそれでいいんだけど……分かった。今年から来年にかけては子供が続けて生まれるから、人が必要なら雇ってもらってもいいけど、あまり無責任に増やさないでね」
「それはもちろんです。リゼッタさんとフェナと相談してから決めますので。勝手に彼女を雇ったことに関しては、ぜひ罰をお与えください」
「それはいいよ」
フェナは料理人として雇われていたけど、今では女性使用人のまとめ役をしてもらっている。イェルンは執事のまま。以前からそうだったように、この屋敷の管理をしてもらっている。執事とは言っても領地の管理をする必要はなくて、その仕事はほぼギルド任せになっている。麦もギルドに入るからね。この二人には人を雇う権限は与えてあるけど、解雇する時は前もって言うように言ってある。
領主になってあらためて感じたのは、人を使うことの難しさ。この家にしてもそうだけど、うちの家族は基本的にどんなことでも自分でしようとする。そうすると使用人の仕事がなくなってしまう。使用人に仕事を与えるのも家族の仕事。だからある程度は使用人に任せ、それでも一部は自分たちでする。妥協点はそこだった。
そして使用人はあくまで使用人であり、家族とは分けて考えなければいけないというのは当然なんだけど……
「エルケ、なんで僕の膝に跨がってるの?」
「マイカ様がそうしなさいとおっしゃいましたので~」
「エルケに何をさせたいんだろう?」
「普通に考えたらこのままキスするか~、この体勢のまましちゃうか~、抱き上げてベッドですよね~」
「いや、頭から庭に放り出すというのもありかな?」
「やーめーてー」
ひとしきりじゃれ合うと満足したのか、エルケは大人しく仕事に戻っていった。彼女の仕事は掃除と洗濯が中心だから、どうしても暇な時間帯ができてしまう。そうなると僕のところに遊びに来るんだよね。それもどうかと思うけど。
「マイカ、エルケに何を吹き込んだの?」
「エルケは先輩に懐いていますから。妹というか、ペットというか、そんな感じですけど。もっと懐いてみたらって言いました」
「懐いているのは分かるけど、エルケに何をさせたいの?」
「無理に家族と使用人を分けて考えなくてもいいんじゃないかと思いまして。家族みたいな使用人がいてもいいと思いますよ」
「家族と分け隔てなくってこと?」
「さすがにイェルンやフェナは難しいと思いますけど、フランカは姉、エルケは妹みたいな感でいいんじゃないですか?」
「本音は?」
「妹枠がいません! あの子に先輩を『お兄ちゃん』と呼ばせるのが目標です。さすがにそれは恐れ多いと言われましたけど」
「エルケが拒否する基準が分からない」
◆ ◆ ◆
久しぶりでもないけど、また王都に来ている。七月から始まる森の開拓の作業員の追加募集のためだ。
前回の作業員たちのほとんどが領内に残ってくれているけど、作業範囲が三倍くらいになるから作業員はもっといてもいい。ついでに女性を増やす方法が見つかればいいんだけど。
「おう、兄ちゃん、いや失礼、男爵様か、何かご用で?」
「ああ、ロジオンさん、久しぶりです。ここのところはどうですか?」
以前ゴルジェイさんがやっていた商店にやってきた。あの時声をかけてくれたロジオンさんが今はこの店を継いでいるみたいだ。
「人が減った影響もあって、ずいぶん静かになっちまいましたが、それでも昼時にはまたそれなりに集まってきます」
「また人を集めてもらってもいいでしょうか?」
「仕事の話で? 中へどうぞ」
「前回はここからここまで街道を通しました。次はここからここになります。前回の三倍です。作業員の大半は残ってくれていますが、できればもう少し欲しいところですね。条件は前回と同じで、移動もこちらで責任を持ちます」
「さすがに前ほどは集まらないと思いますが、それでも一〇〇や二〇〇は集めてみせます。そのうちこの近辺のドワーフがみんなユーヴィ市に行くんじゃないですかい?」
全部でどれくらいいるんだろうね? 移動しながら働いているから、どこにどれくらいいるかは正確には把握できないんだろうだ。
「来年あたり、開拓が一段落すれば、別のところへ移動する人もいるでしょう。村へ移住を決めてくれた人たちは残ってくれるでしょうけどね。それで、もう一つお願いというか、聞きたいことがありまして」
「何でしょう?」
「こんな話を聞かされても困るかもしれませんが、うちの領地は女性が少ないので、移住してくれるような女性がどこかにいないかということなんです。もちろん男性が移住するのはダメというわけではありませんけど、どこかにそのような女性の集団がいるとか、聞いたことはないですか?」
「移住できる女性の集団……」
ロジオンさんは腕組みをして考え込んでしまった。さすがに無理な話だとは思うけど、人脈は絶対に僕よりも広いから、もしかしたらね。
「そうっすね……少し心当たりはありますが、多少問題があってもいいっすか?」
「問題の程度にもよるけどね」
人が増えてもトラブルも増えたら意味がない。
「それは大丈夫なはずっす。まず、さっきの作業員の話と関係ありますが、心当たりの一つはドワーフの女性作業員っすね。継続して仕事があれば長く留まってくれるでしょう。その間に同族の相手を見つけることもあるんじゃないでしょうか。王都はドワーフの男性が減りましたから、相手が欲しい女性はある程度はいるはずっすよ」
「たしかに、それはあり得ますね」
ドワーフだから相手もドワーフと決まっているわけじゃないけど、同族の方が話はしやすいだろうね。
「それともう一つ、こちらがさっき言った少々問題のある集団なんすが、南東の方に人間と獣人が中心の集落がいくつかあります。俺も最近は行ってないんすが、生まれてくるのは女が多くて男が少ない、そして男がみんな町へ出稼ぎに出て行って帰ってこないっていう地域があるんすよ」
「男性が生まれにくいってことですよね? 昔からそうなんでしょうか?」
「聞いた話じゃ、以前からそんな傾向はあったそうっすが、どんどん酷くなったって言ってましたね。俺も何回か仕事で通りましたが、毎回のように『家も土地もやるから、嫁をもらってくれ、村に残ってくれ』って頼まれました」
「王都から近いですか?」
「二重都市群の少し外です。ウース市ってご存知すか?」
頭の中で地図を開く。地名は乗っていないけど通ったところは覚えている。入ってはいないね。
「南東の方ですよね。あのあたりまでは行ったことはありませんが」
「そうっす。王都、ホルスト市、カルスナ市と東に進んで、その南です。そのウース市のさらに南あたりです。二重都市群の南東の外れあたりですかね」
「王都から二週間弱くらいでしょうか」
「それくらいあれば十分着きますね。仕事として頼んでもらえりゃ行ってきますよ。女ばっかりじゃないすけど、いいですかい?」
「ええもちろん。では移住の勧誘もお願いします。強引な勧誘はしないようにお願いします」
住民の半分が移住したくて半分は移住したくないとなったら村が割れる可能性がある。難しいのは分かるけど、そのあたりもある程度は配慮をお願いした。
こちらが提示する条件は以下の通り。まず移住先はユーヴィ男爵領のいずれかの町で、ユーヴィ市でもいいし、他の町でもいい。もし畑をやりたいなら農地は用意するし、他の仕事をしたければ斡旋する。衣食住はきっちりと面倒を見るので、生活に困ることはないことは保証する。いきなり着いてすぐに働けというわけじゃなく、しばらくは向こうの生活に慣れ、そろそろと思った頃に働き始めてくれればいい。
「分かりました。声をかけておきます。そちらも一緒に移動してもらうのでいいっすか?」
「はい、お願いします。開拓の作業は七月からです。準備も含めて、六月の最終週の火の日にまた伺います。どこに迎えに来ればいいでしょうか?」
「そうっすねえ……今回は外から呼ぶことを考えると……王都の南側、このあたりには王都の中で寝泊まりしない商人たちが集まる野営地があります。そこを借りて集めます」
「分かりました。では待ってもらう人たちが困らないように、とりあえずこれだけ渡しておきます。もし足りなかったら今度請求してください。余ったら手間賃として取っておいてください」
「了解しました。それじゃ間違いなく手配しますんで」
「よろしくお願いします」
◆ ◆ ◆
「僕と土木ギルドの名前で、追加の作業員の募集をかけてきました。それと女性が少ないという問題ですが、ロジオンさんに頼みました。どうも二重都市群の外れに男性が少ない地域があるようなので、引っ越してもいいと言う人を一緒に集めてくれるそうです」
街道工事の作業は土木ギルドの担当。そういうわけで帰ってすぐにゴルジェイさんに報告してうる。
「男性が少ない地域……ああ、ああ、おそらくあのあたりですな。ワシは行ったことはありませんが。聞いたところでは男性があまり生まれない地域があるようですな。何が原因なのかは分からないそうですが」
「パッと一つ考えられるのは、血が濃すぎることでしょうか」
「血が濃いって、近親婚ですか?」
「はい。もちろんそうならないように気を付けているとは思いますけど、それでも集落の規模が小さいと、結局はみんなが親戚になりますからね」
「うーん、そこまで小さな村でもないとは思いますが」
「それなら栄養に問題か、それとも土地そのものに何か問題があるのか……」
「パンや肉は問題ないはずですが……」
栄養かな? ビタミンとかミネラルとか。それが原因とは限らないけど。それなら壊血病になるから歯茎から血が出たりするから、もっと病気だと分かりやすいか……。そもそも男性が生まれにくい原因にはならないかもしれないしねえ。でもここは地球とは違うからなあ。風土病とか?
「これもあくまで可能性ですけど、パンと肉しか食べていないのであれば、それが原因の一つの可能性があります。適度に野菜や果物を口にすることも大切ですよ。高価なものでなくてもいいんですけどね。どこにでもあるような木イチゴや柑橘類でいいんですよ」
「あのあたりは森も少なくなりましたから、そういったものは食べていないかもしれませんなあ。ずっと東に行けば大きな山がありますが」
「もしこの領地に来てくれるなら、前から植えているバナナや、これから植えようと思っているパイナップルという果物も栄養がありますので、いずれは改善されるかもしれません。原因がはっきりしないので保証はできませんけどね」
「まあそれでも今の生活よりはいいでしょう」
「それは保証しますよ。それでも生まれ育った村を離れるのは嫌でしょうけどね。とりあえず来月末の火の日に王都の近くに集めてもらうことになりました。作業員と移住者を一緒に運んできますので、振り分けをしたら土木ギルドにお任せします」
「よっしゃ、任されました。ここに来てから仕事が多くて張り合いがありますなあ」
「仕事の後のお酒が美味しいでしょ?」
「その通りですなあ」
1
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる