新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第二部

バナナとパイナップルの評価、そして王都の変化

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 昨日作業員の追加を頼みにいった時、殿下たちにバナナとパイナップルの感想を聞いてみようと思ったから離宮にお邪魔した。本来は近くまで来たからと言ってついでにふらっと立ち寄る場所じゃないことは分かっているけどね。義理の弟に当たるから大丈夫は大丈夫なんだけど、あまりふらふらと遊びに来るのもね。



「ほほう、これはまたねっとりとしていて、それほど甘くないから食事の代わりにもできるだろうか。パイナップルの酸っぱさは柑橘とはまた違うな。甘みも十分にあって、歯ごたえも面白い」
「バナナの柔らかい甘さはいいわね。どうしてもパーティーでは砂糖たっぷりの甘すぎるものが多いから。パイナップルの酸っぱさは疲れた時にちょうどよさそうね」
「バナナはうちの領地で作っているものです。パイナップルは試験的に作っているだけなので、本格的な栽培はまだですね。どちらもクルディ王国で作られているものですが、大きな種があります。これは種がないように栽培したものです。実際にはよく見ると種はあるんですけどね」
「種……ああ、この小さい黒い部分か。種が小さくなったから食べやすいのだな」
「ええ、元々はこのような果物です」

 二人とも見たことがあるかもしれないけど、比較のために種ありのバナナを取り出すとそれを切った。

「確かに種ばっかりだな。これだけ種があれば食べにくいな」
「種を取り除けば実が崩れそうですね」
「はい、特に何かをしたわけではありません。たまにこのように種が見えないような実ができることがありますので、そこから増やしました。ちなみにこのバナナですが、チョコレートをかけるとこうなります」

 バナナをスライスしたものに溶かしたチョコレートをかけてみた。

「おお、これはまたなんと言ったらいいのか。ほろ苦くて美味いな」
「香ばしい甘さですわ」
「チョコレートの元になるカカオはまだ栽培していませんが、チョコレートそのものはクルディ王国から入ってきているようです。少し高価ですが王都でも購入できると思いますよ。一応自分用に作ったものがあるので、後でお渡しします。湯煎で溶かして上からかければこうなりますよ」
「ケネス殿、そのあたりを料理長に教えてもらえると嬉しいのだが。ケネス殿が来ているとソワソワするようだからな」

 あの人は僕の顔を見ると新しいレシピを欲しがるからね。減るものじゃないからいいんだけど。

「ええ、もちろん。後でバナナとパイナップルとチョコレートを使ったレシピを渡します。それと、一つお願いがあるのですが」
「ふむ、私にできることなら」
「実は王都に公営の店を出したいと思いまして、商業地区に物件を持っていそうな人をご存じなら紹介してもらえませんか? 建物は小さくでも全然問題ありませんので」
「もちろん喜んで紹介しよう。むしろ私が購入してケネス殿に渡したい。以前の礼だ」
「あれは材料費もいただきましたが」
「いや、それとは別で、前のパルツィ子爵の件でな」

 ああ、あのやんちゃ坊主の件か。精神的に参ってしまって、隔離されたと聞いたけど。屋敷の周りに穴を掘って出られなくしただけなんだけどね。一見すると地底のはるか奥深くまで届きそうなほど深い穴に見えるけど、実際は一〇メートルほどで、底は柔らなくて落ちても怪我をしないし、しかも三週間ほど経過すれば中が見えるようになるという安心設計。

「実は、あれから色々とあって、一度放棄した王位継承権をまた回復することになった」
「お、それはおめでとうございます」
「以前、私を担ぎ上げようとした派閥がいると言っただろう。それが前のパルツィ子爵を中心とした貴族たちで、今回はそれが一掃されたから、王位継承権を回復しても問題ないと陛下が判断した。兄たちが巻き添いのような形で表舞台からは去ることになったから完全におめでたくはないが、私個人にすればおめでたいことになった」
「そうでしたか。ではロシータさんが王妃になる可能性も出てきたということですね?」
「ええ、そうなんです。それなら今後のために子供を作らないといけないことになりますから、そちらもそろそろですね」

 殿下は前パルツィ子爵たちから遠ざかるために王位継承権を返上していた。さらに用心して子供も作らないでいた。でも子供は作らないけど夜の生活は普通にしたいというロシータさんの激しさに負けて以前は元気がなかった殿下だけど、僕が作った薬と指輪のおかげでそちらの方はもう全く問題ないらしい。

「それで、また面倒をかけるが、我々の持っている指輪を子供に受け継げるようにしてもらえないだろうか。子供が大きくなったら渡したいと思うのだが」
「ええ、かまいませんよ。どう受け継げるようにします? ある程度は条件が設定できますが」
「そうだな、私の方は男児に、ロシータの方は女児にできるか?」
「できますが、ロシータさんの方は、嫁ぎ先によってはこの国に残らないかもしれませんけど、それでもいいですか?」
「それでいいのよ。どこに行っても私たちの血を引く女の子が無事でいてくれるようにって思っただけだから」
「ではそうしましょう。お二人の血を引く人が譲り受けて身につけた場合は効果を発揮するようにしますね」

 二人の指輪を受け取って術式を書き換える。全て回復量を(特)にする。

「はい、これで完了です。子供でも孫でもひ孫でもいいですが、所有者と血の繋がりのある人にきちんと事情を説明して渡してください。そうすれば所有権がその人に移ります。盗難防止も付けておきましたので、盗まれたとしても所有者が念じれば、その人のところに戻るようになっています」
「ありがとうございます。そう言えば、ノエミはそろそろじゃなかったかしら」
「二か月ほど前に挨拶に行った時にはお腹が大きくなっていましたね。今年中だと思いますよ」
「ケネス殿の方はどうなのだ? 妻がたくさんいるようだが」
「全部で九人いますけど、そのうち五人がおめでたです」
「「五人!」」
「今年の秋から来年にかけては、屋敷の中が大変なことになりそうで、使用人を増やそうという話になっています」
「マイカとはどうなの?」
「マイカは来月ということになっています。生まれるのは来年の春頃ですね」
「順番待ちがあるというのも大変なものだな」

 殿下に哀れむような目で見られてしまった。



 料理長にバナナとパイナップルとチョコレートを大量に渡し、お菓子のレシピが多いけど、料理の方もいくつか伝えておいた。

 バナナはおやつやデザートの印象があるけど、サラダに入れるのもいいし、チリソースとの相性も悪くない。料理に使うなら完熟よりも少し硬めの方が向いているけどね。

 この離宮ではあまり使い道がないかもしれないけど、調理用バナナのプランテンも渡した。もしかしたら料理長なら面白い使い方を見つけてくれるかもしれないからね。

 パイナップルもデザートのイメージが強いけど、肉を柔らかくする働きがあるから、酢豚的に豚肉と一緒に使ってもいいと思う。ちなみにあれは缶詰のものじゃ効果がないからね。他には、甘酸っぱいソースにして肉や魚のソテーにかける感じかな。どうしても水分が多いからね。でもパイナップルは悪阻つわりの時にも口にしやすいそうだから、そのままでもいいと思う。でも一度にたくさん食べると口の中が荒れることは伝えておいた。

 チョコレートは趣味で作っているけど、まだ町ではカカオの栽培は始めていない。次から次へと新しいものばかり育てても混乱するだろうから、カカオはもうしばらく先でもいいだろう。しばらくは自分用で。



◆ ◆ ◆




 用事も終わって王都から帰ると、さっそく殿下とロシータさんのことをマイカに伝えることにした。

「あ、そうなんですね。落ち着くべきところに落ち着いた感じですね」
「僕が言うのもなんだけど、あの殿下なら能力的には問題ないはずだからね」
「それなら、先輩は国王の義理の弟になりますね」
「それを言ったらマイカだって義理の妹でしょ。あ、それで、そろそろ子供を作るらしいよ」

 殿下とロシータさんから聞いた話は一通り話しておくことにした。マイカとロシータさんは腹違いだけど仲がいいからね。

「もしかしたら私と同じくらいに生むことになるかもしれませんね」
「まあそれくらいになるかな」
「どちらがより元気な赤ちゃんを産むか競争ですね」
「そこを競っても意味ないでしょ」



◆ ◆ ◆



「領主様、バナナは順調でございます」

 王都から帰った翌日、僕はナルヴァ町以外のそれぞれの町を回って殿下にバナナを食べてもらったことを伝えることにした。誰でも自分たちが作ったものを他人が食べて美味しいといってくれると嬉しいからね。

「バナナはちゃんとみなさんの口に入っていますか?」
「ええ、もちろんです。食事の時や空腹の時にバナナを口にするようにしたら、体調を崩す者が減りました。バナナ様々です」
「今日はもう一つ作ってもらいたいものを持ってきました」
「ほほう。どうやらみんな待ちきれないようですね」
「ではさっそく説明しましょうか」

 ギルドの建物の前まで移動すると、集まった人たちに今後の説明をすることにした。

「みなさん、ここまで一生懸命働いてくれてありがとうございます。すでにバナナはユーヴィ男爵領だけではなく、キヴィオ子爵領とラクヴィ伯爵領、さらには王都まで運ばれています」
「もうそこまで届いているのですか?」
「はい、最近はこの領地の物流を改善しました。馬に魔道具を付けることで疲労や怪我を減らし、以前よりもかなり速く安全に移動できるようになっています。そしてこの町で作っているバナナですが、第三王子のレオンツィオ殿下と奥様にも献上され、すでに召し上がっていただきました」
「「「「おおー」」」」
「お二人からの評価も高く、ぜひ王都でも普通に買えるようにしてほしいと頼まれました。そのため、マジックバッグを持った商人が遠からずこの町にもやって来るでしょう。王都では高価でも、ここで買えば安くなります。今後はもう少しだけ量を増やしたいと思います。そしてもう一つ、これも同じように育てたいと思っています」

 そう言って僕はパイナップルを取り出した。

「これはパイナップルという果物です。バナナと同じような栽培方法で大丈夫です。実ができれば枯れますので、茎の部分は同じように紙の原料にしてもらいます」
「温室は増やしていただけるのですか?」
「はい、増やします。バナナの方も増やします。これまでバナナを育てて分かったでしょうが、慌てて収穫する必要もありません。みなさんの働きやすいペースで働いてください。決して無理はしないようにお願いします」

 それからパイナップルの試食会をした。パイナップルは食べ過ぎると口の中が荒れ、場合によっては血が出るので、食べ過ぎにだけは注意するように言った。

 パイナップルは新鮮なままのものと、やはり水分を抜いてドライフルーツにしたものを販売することにした。ドライフルーツにすると軽くなるから、マジックバッグのない商人にとってはいい商品になるだろう。

 僕は温室を増やし、パイナップルを植えると、他の三か所を順番に回った。
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