新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第二部

中央街道の整備再び、そしてお隣との間の小さな問題(簡易地図あり)

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 キヴィオ市との間に作った中央街道の整備を進めて、さらに安全を確保したい。これまでは馬に乗った兵士たちが二人一組で往復して確認していたけど、途中の何か所かに詰め所を作ることにした。兵士の人数に余裕ができたからできることなんだけど。

 まずユーヴィ市からキヴィオ市の間に一定間隔で詰め所を作る。距離としては一日で辿り着ける距離にする。詰め所は宿直の兵士たちが寝泊まりする場所でもあるし、あるいは魔獣が現れた場合は逃げ込むためのシェルターにもなる。詰め所には常に二人以上の兵士を配置する。これは交代制にする。

 それとは別に、これまでのように馬でその間を見て回る兵士も用意する。この兵士たちはユーヴィ市を出発するとキヴィオ市まで詰め所を順番に見回りながら進み、向こうで一泊してから同じようにして帰ってくる。行って帰ってざっくり一〇日になる。

 この国では馬に乗った兵士が町を順番に回る巡回兵が一般的だ。だから僕もその形でやっていたけど、人数が確保できるなら新しいやり方もありだろう。日本で例えれば、交番勤務の警官とパトカーに乗って巡回する警官がいて、パトカーが交番を順番に回って「何か問題は起きてないか?」と聞いていく感じになる。

 この説明をするためにキヴィオ子爵との話し合いに来ている。



「なるほど、常に兵士を歩かせることで、商人たちに安心感を与え、万が一には詰め所に逃げ込めばいいという話ですな」
「ええ、兵士たちには十分な装備を持たせ、魔獣であれ盗賊であれ、退治できるようにしておきます。盗賊はあまり出ないでしょうが」
「そうですね。最近では魔獣の話もあまり聞かなくなりました。パダ町の方も落ち着いたものですよ」

 たしかに魔獣の話は聞かなくなったね。前はたまに出ていたけど。大森林の魔獣ほどじゃないから、冒険者がいれば十分対処できるんだけどね。

「では、この形でいいでしょうか?」
「ええ、うちとしては問題ありません。兵士たちの宿舎については、一度にそれほど多くないでしょうから、兵士の詰所に部屋をいくつか用意しましょう。身分証を見せることで泊まれるようにしておきます」
「はい、お願いします」
「そう言えば、最近ユーヴィ市からバナナなる果物が流れてきていますが、あれはこのあたりで育つものですか?」
「いえ、本来はもっと南のクルディ王国のものですね。うちでは温室を作ってそこで栽培しています」
「そこまでしないと育たないものなのですね」
「そうですね。南国のものは暖かく、北国のものは寒くないと枯れますからね。僕の方も試行錯誤です。ようやく目処が立った感じでしょうか」
「はっはっは。このままではいずれあっという間に抜かされてしまいそうですなあ」

 警戒感を持たれているわけじゃないよね? 領地全体の人口は全然違うからね。

「そもそもの規模が違いますけどね。それにうちは今、必死でやっていますから」
「それはそうでしょうね。町を大きくするのは大変ですから。ですがそれに関して、一つ頭の痛い問題が出ていまして、できれば相談に乗っていただきたい」
「今ここで聞いてもいい話ですか?」
「ええ、それは問題ありませんが、あまり大っぴらにはしないでいただけると助かります。まあすでに噂になっていますから、隠す必要もないと言えばないのですけどね。酒場に入れば聞こえてくるかもしれません」
「何を聞いても公言して回ることはないとお約束します」
「では、今すぐ何かがあるわけではありませんが、パダ町とヴァスタ村の話です」

 キヴィオ子爵から聞いたのはパダ町とヴァスタ村がユーヴィ男爵領に取り込まれたがっているという話だった。たしかにこの二か所はうちに近い。でもそんな話が出てきたのには色々と理由があるようだ。

 キヴィオ子爵領がユーヴィ市以西を切り離したことは領内では歓迎されているらしい。当時はユーヴィ市と五つの村を合わせても二五〇〇もいなかった。キヴィオ子爵領の人口が二万二〇〇〇人から二万三〇〇〇人くらいだから、一〇パーセント強になる。

 大森林の魔獣が危険なのは誰でも知っている。当時のナルヴァ村は暴走があれば大量の魔獣に囲まれ、その度にキヴィオ市から兵士と冒険者を討伐のために送っていた。実際は討伐できるようなものじゃなくて、魔獣たちを疲れさせて大森林へ帰らせるのが精一杯だった。それでも毎回亡くなり人はそれなりにいるし、怪我人もかなり出る。人的被害も金銭的被害も馬鹿にならない。それがなくなるわけだ。しかもうちとの契約で麦は当面は問題がない。

 でもユーヴィ市を切り離したことよって、キヴィオ市が領地の中でもかなり西の端になってしまった。元々は小さな男爵領だったからそれでも問題なかったけど、今では西を除いて町の数はそれなりに増えている。だからもっと東の町の代表からは領都を領地の中心へ移してほしいという話が上がっているらしい。

「具体的な場所の候補とかはあるのですか?」

 僕がそう聞くと子爵は地図を取り出して説明してくれた。

「キヴィオ市からラクヴィ伯爵領へ向かって街道を進むと、少し南にそれた場所にサミ町という場所があります。その北あたりの街道沿いが第一候補です。ここだと東西の街道を整える手間が省けますし、北にあるレブ男爵領の領都と南にあるサガード男爵領の領都のほぼ中央になります」



 キヴィオ市とラクヴィ市の間の街道は東に進むにつれてやや南に下がる。レブ市とサガード市の間に街道ができれば、北に進むにつれてやや東に寄る。十字が少し右に倒れて少し歪んだ感じだ。

「僕でも移すとなればそこを選ぶでしょうね」
「やはりそうなりますね。そうなるとパダ町とヴァスタ村は領地の外れも外れになってしまいます。そこの住民としては捨てられると感じたのでしょう。そういうことはないと伝えはしたのですが、人の心というのは難しいものです」
「僕が余計なことをしてしまいましたか……」
「いえ、どのみち領地経営がやや行き詰まっていたのは間違いありませんのでお気になさらず。衰退していたわけでもありませんが、すべてが横ばいでした」

 パダ町とヴァスタ村は位置的には仕方ないのかなあ。どうしてもユーヴィ市の方が近いからね。

「しかし……領都移転によるメリットとデメリットにはどんなものがあるのですか?」
「そうですね……まずデメリットの方ですが、城壁を作ったり家を建てたり、人手が必要ですね。雇うとなると金がかかります。徴用するにしてもすべてが無償というわけにはいきませんし、無理にやらせればやる気は下がります。どうしても農閑期にせざるを得ませんからね。まあ金銭的にはケネス殿が持ち込んでくれた魔獣がことのほか高く売れましたから、余裕ができましたが」
「なんにせよ、人とお金が必要ですか」
「ええ。メリットの方は、まずは人と物が動きます。作業員が移動すれば食事でも宿泊でも金が落ちます。もう一つは領都が領地の中心に行くわけですから、物の流れが良くなります。領都に近い町の代表は人が増えるでしょうから喜ぶでしょう」

 そうなると今のキヴィオ市は廃止? それなりに大きな町だと思うけどね。ラクヴィ市から西で二万人を超えている町はなかったはず。

「今のキヴィオ市はどうなるのですか?」
「新しい市として、代官を置くことになります。名前は新しくなりますが、『旧キヴィオ市』という名前も併用します」
「なるほど、ユーヴィ市の代官職はなくなりましたが旧キヴィオ市の代官職ができるわけですね。しかも元領都の代官ということで、規模も大きいと。希望者も多そうですよね」
「ええ、だからパダ町とヴァスタ村を切り離してでも領都を移す話になっているわけです。どうやらそういう方向へ話を持っていった者がいるようでして」
「あー、サミ町やその周囲にある町の関係者が商人にでも頼んでそういう話を広めさせた可能性がありますね」
「やはりそう考えますよね。明らかに作為的なんですよ。ユーヴィ男爵領に人が流れているのは間違いありませんが、だからと言って急にキヴィオ市を移転する話になるとは思えません」
「でも移転は進めるつもりですよね」
「ええ、ここまで来たらなかなか止めることはできませんからね」
「それなら、僕個人と取り引きしませんか?」



◆ ◆ ◆



「お前も人がいいというか何というか……」
「パダ町とヴァスタ村が編入できるなら多少はいいでしょう。少し出稼ぎをしてくるだけですからね。さすがに余所の貴族が領都を作るのは問題がありますので、本当に城壁を作るだけですね。整地くらいはしますけど」
「まあお前にしかできないからなあ。で、どうするんだ?」
「普通に作りますよ。その書類の通り、パダ町とヴァスタ村の切り離しが発表されたら動きます。向こうから連絡があるまではギルド長以外には秘密にしておいてください。どうも吹聴している人はいるみたいですけどね」

 新キヴィオ市の城壁を作る位置に沿って杭を打ってもらうことにした。僕がそのすぐ外側に城壁を作る。城壁のデザインは今のものと同じにし、高さも変えない。ただし今後の成長を考えて以前よりも広くなる。場所の設定と杭打ちは向こうの関係者に頑張ってもらうしかない。そこまで本数は多くなくていいけどね。極端な話、四隅さえ分かればいいから。

 それでパダ町とヴァスタ村の編入の件だけど、町や村なら国は何も言わない。勝手に作ればいいだけ。所属が変わる場合も国に届け出はするけど国は細かいことは何も言わない。町長や村長にお金を払うのは領主。税を受け取るのも領主。領主はまとめて国に報告する。町や村を増やせば税収は多くなるけど手間もかかるし町長や村長に支払う給料も増える。無駄に増やしても得はない。だから国が気にするのは市だけ。

 町から市になるには国に届け出がいる。きちんと代官を置き、ギルドを設置することで国から許可を得る。ユーヴィ市などはそのパターン。

 パダ町とヴァスタ村についてはユーヴィ男爵領に編入させることは決定している。それをどう活用するか。これまでの町と同じように扱うのは当然だけど、実は領主権限で優遇したいくらいありがたい。南に目を向けるとね。

 ヴァスタ村はパダ町の南にあり、北以外の三方を森に囲まれている袋小路の奥にある。この村の南からまっすぐ南東へ街道を通せばサガード市が近い。切り拓く距離は中央街道と同じかやや長いくらい。これでユーヴィ市、パダ町、ヴァスタ村、サガード市と繋げることができる。ナルヴァ町、シラマエ町、トイラ町、パダ町、ヴァスタ村、サガード市と繋げることもできる。他には繋げられないんだけどね。北と南は岩山で、西は大森林だから。

 その前に、七月からはレブ市までの森の開拓をするから、サガード市の方はその進み具合次第かな。しばらくは大きな仕事はないから、大森林の様子を見るついでに大森林の岩山から城壁の材料を集めておこう。
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