新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第二部

パダ町での現地説明(簡易地図あり)

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 ヴァスタ村での説明が終われば、次はパダ町。こちらも基本的には同じになる。反応もよく似たものだろうね。ただし作るものが違って、こちらはココナッツ。いわゆるヤシの実。

 ヤシの木は種類が色々あるそうだけど、僕が手に入れたのはココヤシだった。若い実はココナッツジュースになる。成熟させればココナッツミルク、ココナッツオイル、ココナッツフレークが採れるし、外の皮からはたわしなども作れる。幹の部分は建材としても使えるそうだし、無駄になる部分がないとも言われる。ただ、ヤシの木は背が高いからね。収穫の時に注意は必要かな。



「今日はこの町で作ってもらう予定の作物について説明に来ました。この国ではまだ育てている場所はほとんどありません。食品にも化粧品にもなりますし、捨てるところがないと言われています。ココヤシという植物です」

 僕は成熟したココナッツを取り出すとみんなに見せる。巨大すぎて、ここから芽が出るというイメージが湧かないかもしれない。

「それは、実ですか?」
「はい、ココヤシの実で、ココナッツという名前になります。ヤシの実という言い方もありますね」
「ココナッツですか。ナッツなら木にできるわけですか?」
「はい。若い実はこのような色をしていますが、成熟するとこのように茶色くなります。まず、若い実を割ってみます」

 ギルド職員が若いココナッツの実に穴を開けて中のジュースを取り出す。少しずつコップに入れて配る。

「それほど甘くないのですね」
「そこまで強い味ではありませんね。若い実にはたくさん水が入っていて、これをココナッツウォーターやココナッツジュースと呼びます。非常に栄養があって、美容にもいい飲み物です」

 女性陣の一部がピクッと反応した。職員さん、おかわりを注いであげてください。

「またこのジュースを発酵させるとこのようになります。シロップに浮かべてみましたのでスプーンで食べでみてください」
「不思議な食感です」
「クニクニします」
「ナタデココという食べ物です。これも美容にいいですね」

 そんなに急がなくても逃げませんよ。それに職員さんたちの分もちゃんとありますから睨まない。

「実は成熟すると水分が減り、代わりにこのようになります」

 成熟した実を半分に割る。中には固まった胚乳が貼り付いている。

「この白い部分をそぎ落として水と一緒に煮込んで漉すとこのようなものになります。これはココナッツミルクというもので、香辛料を利かせた料理によく合います。また砂糖を入れて飲み物としてもいいですね」

 タピオカを作ってもいいかも。中華料理の最後に出てくる、タピオカの入ったココナッツミルクはわりと好きだった。でも原料のキャッサバには毒があったか。そもそもこっちではキャッサバを見たことがない。

「みなさんにはこの植物の栽培をしてもらいます。そして来年以降になりますが、街道の整備をしますので、ココナッツをここの特産品としてアピールします」
「あの、領主様。アピールしてもここまでは人が来ないのではないでしょうか?」
「いえ。そのために街道の整備をしますから。この地図を見てください」

 そう言うとまた地図を取り出して説明することにした。結局のところ、言葉だけでは説得力がなく、地図が一番効果があることがこれまでで分かっている。ギルドで街道の説明をする時もそうだったからね。地図に線を引きながら説明すると、頭の中でイメージしやすいから。



「パダ町とヴァスタ村を含めた地図になっています。先にヴァスタ村で説明しましたが、現在ここに街道が通っています。来月からここに街道を通す工事が始まります。そして来年はこの部分に街道が通しますので、それと同時に領内のすべての街道に石畳を敷くことになります。すると、例えばですが、レブ市からナルヴァ町に砂糖を買いに来た商人は、まっすぐ帰らないとすればどこを通って帰るでしょうか? はい、そちらの女性?」
「え? あ、ええと、キヴィオ市とかサガード市とかでしょうか」
「そうですね。キヴィオ市に行くにせよサガード市に行くにせよ、パダ町は通りますね。他にも、サガード市からやって来てヴァスタ村とパダ町で買い込んでからキヴィオ市へ行く商人も出てくるかもしれません」
「道が一つできるだけで全然違うのですね」
「はい。道がなければ人は移動できません。だからまずは道です。道がなければ作ればいい。そうすれば人は動きます。将来を見越して南にあるヴァスタ村を来月から町にすることになりました。それだけ人が動く、人が来る、そう考えています。パダ町がパダ市になるのもそれほど遠いことではないかもしれませんね」



 ギルドに戻ったら、ゴルジェイさんに話の経過を説明する。

「領主殿、どうでしたか?」
「問題なしですね、今のところ。まずは年明けからヴァスタ村とサガード市の間の森を切り拓き、それと並行してユーヴィ市からパダ町、ヴァスタ村、サガード市の南の街道、そしてパダ町からキヴィオ市までの街道の整備になります」
「やるなら一気に早いほうがいいでしょうな。作業員を総動員しましょう。それとは別件ですが、一ついいですかな?」
「はい。何でしょうか?」
「領主殿が作っている酒ですが、あれを作りたいと言っている職人たちがおります。作らせてもいいでしょうか?」
「それは構いませんよ。いずれは作ろうと思っていましたから。それなら原材料の調達も含めて、一つギルドを作った方がいいでしょうね」
「酒造りもドワーフたちの得意とするところです。すぐには無理でしょうが、経験者を探して立ち上げの準備を進めておきましょう」
「そちらは任せました。酒造りの担当者を見つけたら引き継いでください」



 商人ギルドではコーバスさんにヴァスタ村とパダ町で作るものの再確認。

「ヴァスタ村はカカオ、パダ町はココナッツを栽培することになりました」
「農産物を変えたのは、競合しないためですか?」
「半分はそうですね。バナナとパイナップルばかりでも問題になりますしね。それに、バナナやパイナップルはほとんどそのまま食用になりますが、ココナッツの方はある程度は加工しますので食材や化粧品になります。単にジュースとしても美味しいですけどね」
「食と美ですか。特に貴族には好まれそうですね」
「我先にとやって来てほしいところですね。それと、先ほどゴルジェイさんと話をしたばかりですが、いずれは本格的に酒造りをするということで、いずれギルドを作ることになりました」
「あのきつい酒ですか?」
「他にも色々ありますけどね。とりあえずはゴルジェイさんに担当者を探してもらって、決まり次第ギルド長になってもらって引き継いでもらいます」

 ココナッツからはココナッツジュース、ココナッツミルク、ココナッツオイル、ココナッツフレークができる。ココナッツオイルは塗ってよし飲んでよしな油だから売れると思う。ココナッツジュースからはナタデココもできる。若い実のまま収穫するのは三分の一くらいでいいかな?

 ココナッツって好き嫌いがある食べ物だと思うけど、例えばココナッツミルクを普段の料理に少し足すだけで味が急に変わるからね。あると料理のバリエーションが増える。

 育ててみて分かったことは、ココナッツはさすがに勝手に根が伸びて広がることはなかった。勝手に広がるサトウキビとバナナとパイナップル。それらとココナッツの何が違うかというと、ココナッツはヤシの木になる。つまり木だ。サトウキビとバナナとパイナップルは種類としては草だから勝手に広がっていくのかも。この世界の植物はまだ謎が多い。

 ちなみにゴムの木も屋敷の裏の温室で育てて実験しているけど、やはり木だから種で増える。前から育てているカカオもそう。今のところ、木は種で増え、草は地中で根を伸ばして増えるみたいだ。他にも試してみないと確信はできないけど。



◆ ◆ ◆


 
「カロリッタさん、とうとう私たちの順番ですね」
「ですね~。とうとうママですね~」
「種族が気になりますね。どんな子供でも可愛いと思いますけど」
「そうですね~。でもマスターも私も~普通に生まれたわけではないので~どうなるかは気になりますね~」

 こっちも覚悟はできてるんだから、わざわざ僕の目の前で口にしなくてもいいんじゃないかと思うんだけど、どうしてもアピールしたいみたいだね。こっちも少しは乗っかろうか。

「やっぱりマイカとの子供はエルフか犬人の確率が高いんだろうね。カロリッタとの子供はどうなるんだろう?」
「エルフか妖精でしょうか~。そもそもマスターは~純粋なエルフではないですよね~」
「まだ[エルフ?]から変わっていないよ。『?』がすごく気になるけど、カローラでも知らないそうだからね」
「カローラさんも結局こっちで子育てまですることになりましたね」
「まあ覚悟はできたけど、子育てが終わってもこっちにいそうだね」
「休暇届は出したそうですから~当面は問題にはならないですよ~。地上世界にやって来たのも~一応はうっかりミス扱いですからね~」
「でもカローラって、人前ではできる上司じゃなかったの?」

 カロリッタによると、全力でできる女性を演じていたみたいだけどね。リゼッタですらカローラのことをものすごく有能な上司と思っていたくらいだからね。有能なのは間違いないけど。

「大半の部下からは~そのように思われていたと思いますけど~コンラートさんは~何となく気付いていて~それとなくフォローしていましたよ~。あの人のフォローがなければ~残念お姉さんとしか思われなかったと思います~」
「なんであんなに残念お姉さんなんだろう?」
「基本がそうですから~どう取り繕っても無理ですね~」
「黙っていれば絶世の美女なのに、謎ですよね」



「へっくしゅっ! あら? どこかで誰かに悪口を言われている気がします」
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