新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第二部

市民生活ギルドのあれこれ

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 市民生活ギルド。ユーヴィ市にある冒険者、商人、薬剤師、土木、大工、酒造、服飾、市民生活の八つのギルドの一つ。他のギルドと比べると何をしているのか分かりにくいけど、ある意味では非常に重要。

 名前から分かるように、市民からの相談の窓口になっている。困ったことや要望などを受け付けている。要するに市役所の市民生活課や環境課に近い。そして今のところ一番重要な仕事。それは燃料箱バッテリーの交換作業。

 この町の領主邸を除く公共施設や民間の建物の多くには燃料箱バッテリーが使われている。人の頭よりも一回りくらい小さい箱の中に、立方体に加工された魔石が四八個入っている。文字通りバッテリーの働きをする。一戸建ての住宅に住む人は、これが空になると市民生活ギルドに持って行き、充填されたものと交換してもらう形になっている。領主邸で必要ないのは、僕が屋敷に個別の魔道具を設置しているから。

 集合住宅の場合は市民生活ギルドの職員たちが順番に交換して回る。もちろん専用のマジックバッグがあるので、大量の燃料箱バッテリーを持ち歩く必要はないけど、もし燃料箱バッテリーが空になってしまえば魔道具は使えないし明かりもつかない。もちろん集合住宅ならみんなが一斉に使えなくなってしまう。それがないように定期的に交換するようになっている。

「A号棟交換完了」
「B号棟も完了」
「C号棟も完了です」
「D号棟も終わりました」
「数は合っていますね」
「問題ありません」
「では次へいきます」

 目の前で職員たちが燃料箱バッテリーの交換を終えて次の場所へ向かう。

 町の景観を壊さない程度の高さのニュータウンができている。さすがに二〇階や三〇階の高層ビルを建てるのは問題がありそうなので、集合住宅はすべて四階までにしている。元々あった建物は四階までなのでそれに合わせる形にして、総合ギルドの建物だけは目印になるように八階建てにしている。



◆ ◆ ◆



「市民からの相談で多いのは……ああ、このあたりですね」

 市民生活ギルドのギルド長イルジナさんは元々は薬剤師ギルドにいた女性で、そこのギルド長のルカスさんの推薦でここのギルド長になった。

 市民生活ギルドは市民からの苦情や相談を受け付けている。内部で対処できることは対処してもらい、対処が難しそうなものに関しては僕のところに話が来る。今のところはそれほど来ていないけど、たまにこちらから確認に来ることにしている。

「大きな問題はありませんが、相談ならそれなりにあります。相談内容としては、子育てやごみに関するものが多いですね。それと最近増えてきたのは料理や服の悩みでしょうか」
「子育てとごみは分かるとして、料理と服?」
「はい、料理はレシピについてですね。食料そのものについては、公営農場の野菜と魔獣から採れる肉でかなり改善されました。ただ、食材があっても料理の腕前が追いつかない状態のようです。燃料代もかからなくなりましたし、油脂の価格も下がりました。それで調理の幅は増えましたが、どうしても新しい調理方法が上手くいかないそうです」
「これは服飾美容室で料理を習った人たちを雇って、住民向けの料理教室かな。雇うのはお任せします」
「ではそのように手配します。場所はどこかいいところをご存知ですか?」

 場所ねえ。どこにでもあると言えばあるけど……店の裏かな?

「本店の裏については、機能の大半が職業訓練学校に移りましたので、そこを使いましょうか。今は店で必要な読み書き計算と礼儀がほとんどですので、場所はあるでしょう。設備もありますから。連絡はしておきます」
「よろしくお願いします」



「そして服関係ですが、こちらは困っているというよりも純粋に相談です。子供の服が安価になったのはいいのですが、子供はすぐに大きくなりますし、膝や肘が破れることもあります。そういった服をどうしたらいいのかという相談があります」
「僕が来る以前、子供服は一般的にどう扱われていましたか?」
「そうですね。子供服はすぐに傷みますので、傷んだ部分を補修したり、その部分だけ付け替えたりすることが多かったですね」
「それなら以前と同じように直してもいいと思うけど……」

 破れたらそこを直すのはおかしなことじゃないと思う。問題にするほどかな?

「それが、去年から町で売られている服は以前のものに比べるとおしゃれですので、それを自分でバラして作り直すのに抵抗があるようです。それにどうしても自分で直した部分だけ目立ってしまいますから」
「それは……どうしたらいいのか……手芸教室でも開くべきか」
「基本的な針仕事ができる人はたくさんいます。今と比べれば地味な服装ばかりでしたので、手直しは難しくありませんでした。でも領主様や奥様方の持つ洗練されたデザインの服はありませんでしたので、上手に直せないようです。料理と同じく住民向けに手直しのコツを教える会などをしていただけると喜ぶ人は多いと思います」
「なるほどね。ちょっと考えてみます。優先順位としては料理の方が上ですね。ところで、ごみはどんな問題がありますか?」
「ごみの回収場所が遠いということですが、それはどうしようもありません」
「でもまあ、それも含めて考えておきます」



 ギルドの自室で頭の中を整理する。町の中では絶対に僕にしかできないことはしない。これは僕がいなくなったとしても町がやっていけるようにするためだ。集合住宅なんかは多少は強引かもしれないけど、作ろうと思えば作れるからね。燃料箱バッテリーを充填するシステムだけは僕にしかいじれないけど、それもいずれは何とかしたいと思う。

 まずはごみ関係。

 ごみは各自である程度溜まったら処分場へ持っていく。以前は町の端の方に穴を掘って捨てて、それをたまに焼いていたらしいけど、そうすると溜まったものが勝手に発酵して臭いが出る。だからコンポスト(生ゴミ処理機)を置いて、その中に捨てるように指導した。コンポストの数を増やしてもいいけど、溜まった堆肥を運ぶ必要もあるから、あまり増やしてもね。でもそれを仕事にしてもいいのか。でもそれほど人数はいらないなあ。

 次は料理関係。

 料理についての相談は、レシピが不足しているのと、レシピ通りに作れる腕がないこと。以前はそれこそ焼くか煮るだけだった。ユーヴィ市はまだマシだけど、キヴィオ市は人口が多いから薪も手に入りにくかった。だから薪代がかかるような煮たり茹でたりする料理はほとんどしていなかったとエリーは言っていた。ラクヴィ市はさらに大都市だけど、ここは料理好きのマイカが頑張ったらしく、伯爵に頼んで町中で薪が手に入りやすくしていたらしい。

 ユーヴィ市では燃料代が必要なくなったし、植物油も動物油も価格が下がったから、揚げ物などの新しい調理方法も広がり始めた。でも作ったことのない料理はなかなか上手く作れない。エリーだって揚げ物はしたことがなかったからね。揚げ物は怪我や火事に繋がることもあるから不安もあるのかもしれない。温度を間違えると火が通らなかったりベタベタになったり真っ黒焦げになるからね。やっぱり料理教室は必要か。

 もう一つが服飾関係。

 子供服関係は、どうしたものかなあ。僕が初めてユーヴィ市に来た時、ここが地味な町だと思ったのは、あまりにも色がなかったからなんだよね。見た感じは石と土だけ。ギルドなどの公的な建物は綺麗だったけどね。それ意外では白い宿木亭の白さは目立ってたね。

 正直なところ、もったいないから直したいけど直すとそこだけは変に目立つからどうにかしたいと言われるとは思わなかった。でも焼いちゃいましょうとも言えないからね。

 料理と一緒に市民講座的にやってもいいと思うけど、職人が作った服を修理しておかしく見えないようにするためには、職人と同程度の腕が必要になる。それなら職人を育てるとの変わらなくなってしまう。

 この世界では古着は一般的で、穴を塞いだものが売られていたりする。肘や膝の部分が破れることが多いだろうから、その部分をアップリケのようにしてもいいかもしれない。子供服だけじゃなくて、大人用でもいけるかも。職人の作業服とかね。

 それ以外だとリサイクル、リユース、リメイクあたりになると思う。料理の件も含めてあちこちと相談しますか。
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