新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第三部

ゴムの使い道

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 パラと呼ばれていた木。やはりパラゴムノキと同じで、幹に斜めに傷を入れることによって樹液が出る。これがラテックス。それを集めて酸を加えると生ゴムができる。生ゴムは弾性が弱いので、よく伸びるようにするためには硫黄を加える。硫黄を加える量を増やすと黒くて硬いエボナイトになる。

 パラが育てられているクルディ王国では、パラは畑などの害獣避けのために植えられていることが多い。野獣はラテックスを嫌がるからだ。木の種類によっては非常に苦いし、かぶれることもある。クルディ王国ではゴムを作るためには使われていないらしく、ゴムの作り方が知られているのかどうかも分からない。もっと遠くの国では使われているかもしれないけど、そこまでは調べていない。



 まずは輪ゴムあたりでテストするか。

 ラテックスを乾燥させて生ゴムを作る。生ゴムに配合剤を入れて練り、さらに加硫促進剤と硫黄と顔料を加えて練ってから加熱する。配合剤と加硫促進剤って必要かな? 魔法だけで作るなら不要かもしれないけどねえ。成分が分からないから、とりあえず横に置いておくということで。

 五パーセントは柔らかすぎる。一〇パーセントでもまだ柔らかい。一五パーセントでそれなりの弾力。二〇パーセントは少し硬いかな。二五パーセントを超えたらかなり硬い。三〇パーセントを超えたら明らかに硬い。このゴムをタイヤに使うなら、一五から一八パーセントかな。輪ゴムに使うなら六から八パーセントくらいか。八だと硬いかな?

 ゴムも色々な種類があるし、自動車のタイヤは複数の部品からできているけど、さすがに猛スピードで飛ばすことはないだろう。でこぼこ道や石畳を走る衝撃が減ればいい。石畳で滑らないように溝は付けておこう。

 タイヤは商人ギルド、輪ゴムなどは服飾ギルドかな。



「何か面白いものがありそうですね」
「私の方も斬新なものを期待しています」

 商人ギルドのコーバスさんと服飾ギルドのペトラさん。

「僕が持ってくるものは、いつも斬新ですか?」
「我々にとっては常に何かしら新しいものがありますよ」
「ええ、本当にそう思いますわ」
「そうですか。今日持ってきたのは、これです」

 ゴムを付けた馬車の車輪を会議室の机の上に並べた。

「まずこれは馬車の車輪ですね。これまで蛇の皮を使っていましたが、その代替品です」
「ほう、これは……適度に弾力がありますね。振動を抑えるものですか?」
「押さえるのではなく吸収する感じですね」

 この国の馬車は、一般的には木の車輪で、場合によっては鉄の輪を取り付けている。鉄の輪を付けているのは木が割れないようにするためだ。木と鉄だからだから衝撃も伝わるし、曲がる時にはやかましい。簡易的なダンパーは付いているけど、それなりに衝撃は伝わる。

 この領内で公的に使う馬車の車輪は、木の車輪に蛇の皮を張り付けていた。でもゴムがあるならゴムを使えばいい。車のチューブレスタイヤのような構造にはできないので木に貼り付けているだけなんだけど、それでも十分に静かになる。強い衝撃はダンパーに任せればいい。

「ほほう。あの蛇の皮とあまり変わりませんね。これなら十分静かになるでしょうね。蛇の皮は……本来は気軽に手に入るものでもありませんから」
「まあそうですね。それに、必要だからってあの蛇だけ狙って狩れるわけではありませんから」

 お尻に棘付きの防具を付けて歩き回るのはできれば遠慮したい。

「ゴムの元になるのはこのパラの樹液と硫黄です。パラはどこかの町で栽培しようと思います。硫黄は火山の火口付近にできやすいので、採取依頼を出して集めてもらうことになるでしょうね」
「では栽培を始めたらまとめて生産できるように、今のうちに依頼を出しましょう」

 ギルドを一ヶ所にまとめた結果として、依頼票の貼り出しも一ヶ所にして、内容に応じて受付窓口を変えるようにした。よく似た内容をバラバラに出すよりは一本化した方がいい。採取依頼にしても魔獣や野獣の素材なら冒険者ギルド、薬草なら薬剤師ギルドのようになっている。よく似た依頼がかぶることがあったとしても、それは後ろで調整すればいい。

 服飾ギルドの方はタイヤ以外のゴムの話。

「ペトラさんに見てほしいものもゴムですが、もう少し柔らかめにしてあります」

 僕が出したのは一般的な輪ゴム、もっと太めで物を束ねるのに使うゴムバンド、もう一つは平ゴム。ウエストに通すゴムのやや細めのものだ。種類としてはコールゴムと呼ばれる。

「硫黄の量を減らすことでこのように柔らかくて伸びる素材にもできます」
「たしかによく伸びますね」
「伸ばしすぎると切れますけどね」

 そう言いながら思い切り引っ張って、ペトラさんの目の前で切ってみる。

「少しずつではなく、一気に切れるのですね。それを服関係で使うのですよね? どのように使うのでしょうか?」
「例えばこの平ゴムは細い糸状のゴムが並んでいます。これをこのようにズボンやスカートの腰のところに通して、このように結べば」
「なるほど。紐やベルトを使わなくても落ちないわけですね」
「そうです。結ぶとその部分が気になるかもしれませんので、重ね合わせて縫ってしまえば邪魔になりませんね。他には袖口に入れたりズボンの裾に入れれば、まくり上げるのが楽になります」
「なるほどなるほど。農作業に向くでしょうね」
「他には職人にもいいでしょうね。液体などを扱う場合、袖が濡れないようにできますから」
「ふんふん。では輪ゴムとやらの方は?」
「例えばこれです。シュシュという名前です」

 アクセサリーとしては定番のシュシュを取り出した。模様を変えていくつか作ってある。

「中に輪ゴムが入っています。髪を束ねたり、アクセサリーとして手首に付けたり、色々な使い方ができますよ。ゴムで直接髪を束ねると痛いですからね」
「紐で縛るよりも手軽ですね。それにこの輪ゴムと端切れを買って、自分で作ることもできるということですね」
「ええ、輪ゴム一本一本は大した値段ではありません。問題があるとすれば、どのゴムも天然の素材ですので、ずっと使えるわけではありません。普通に使えば三年から四年くらいでしょうか。硬くなったりくっついてしまったり。そうなったら交換ですね」
「安価で便利な素材ですが寿命があるわけですね。いきなりすべてを置き換えるものではないのでしょうね」
「そうですね。併用でいいと思いますよ。それに向かない場合もあるでしょう。こちらの太めに作っているゴムバンドは、例えば棒状の物などを一時的に束ねるのに便利です」

 ゴムの生産はまだ開始していないので、とりあえずサンプルを置いてきた。ゴム車輪の方は実際に使ってみた感想も欲しいので、荷馬車を二つ、ギルドの裏手に置いてきた。蛇皮車輪の在庫がなくなり次第置き換えていく予定。当分は大丈夫だろうけど。

 輪ゴムなどの方今回作った分しかないので、とりあえずペトラさんにはどのようなものに使いそうかをギルド内で案を出してもらい、それを元に追加でサンプルを作ることにした。その間に硫黄を安定供給できる目処を立ててもらい、それから専用の魔道具を作ることになる。



◆ ◆ ◆



 ゴムの木の栽培をどこで行うか。どこでも収穫できる麦は省略して、領地内で栽培もしくは生産されているものを一覧にして考える。

 ユーヴィ市:精肉、他

 ナルヴァ町:麦、サトウキビ、紙

 ソルディ町:石材、バナナ、パイナップル

 アルメ町:バナナ、パイナップル

 トイラ町:バナナ、パイナップル

 シラマエ町:バナナ、パイナップル

 パダ町:ココナッツ

 ヴァスタ町:カカオ



 バナナとパイナップルの栽培を始めてから体調が悪い人が減ったらしい。もちろんどの町も周辺には森があるので果物は採れるし、麦や芋だけではなく野菜だって栽培している。そこまで栄養が足りていないわけではないけど、麦と芋が食の中心だから、足りない栄養素もある。

 バナナもパイナップルも、生育環境をちょっといじっているので、採れる量はかなりある。でも人口が増えてきたらもう少し増やしてもいいかもしれない。栄養事情の改善に繋がるならね。ナルヴァ町とパダ町とヴァスタ町にはバナナとパイナップルの大規模農場はないけど、住民たちが口にできるくらいには作られている。

 それよりもゴムの話だ。ゴムを馬車のタイヤや服の素材として使うなら、やっぱりユーヴィ市がいいだろうか。

「ジェナ、新しい植物を育てるとしたら、どの町がいいと思う?」
「負担を考えればパダ町とヴァスタ町は避けるべきでしょう。ナルヴァ町は他よりは人口が多いですが、麦と砂糖と紙がありますので考えものです。人口を考えればユーヴィ市しかないのではないでしょ……はっ、申し訳ございません。差し出がましいことを口にしました。ぜひ罰をお与えください!」
「いや、別に差し出がましくないよ」

 どこからともなくムチを取り出したジェナを止める。どこかで見たことのある光景だね。

「やっぱりユーヴィ市になるよね」

 ユーヴィ市は村から町、町から市と成長してきたから、城壁は上から見ると四角にはなっていない。おそらくだけど、住む場所がギリギリになった頃に門の外に人が家を建て始め、それを取り込むように新しい城壁が造られて古い城壁が壊された。城門は東西南北にあるけど、かなり歪んだ八角形に近い。いっそのこと四角くしようかな? 広げた部分を公営の農地にできないだろうか。
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