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第三章 第三部
油脂と農地の問題
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「捨てるのももったいないので取ってありますが、何とかならなりませんか?」
「うーん、搾りましょうか」
今日は冒険者ギルドの管理している倉庫に来ている。ここは僕が狩ってきた魔獣を保管して解体する場所。解体のために多くの人が雇われていて、雇用問題に一役買っている。また短期労働も可能なので、ちょっとお金が必要な時にアルバイト感覚で働けるし、場合によっては肉の切れ端などを持って帰れるので、それなりに評判はいい。
町でそこまで大量に肉が必要かどうかと言えば必要ない。でも街道工事のような大工事の際には大量の食事が必要だし、中にある限りは腐らないから問題ないと思ってたまに追加しに来ている。
「不純物を取り除いてラードにしてしまいましょうか。いや、豚じゃないからラードじゃないか。でも牛でもないからヘットじゃないし」
「使い道さえ決まれば名前はどうでもいいのですが」
「あ、すみません。そうですね、これまでは適当に切って配ったりしてたんですよね?」
「はい、肉を焼いたりするのに使っていたようです。捨てるくらいありますので、欲しい人が来たら渡す感じになっていました。マズかったですか?」
「いえ、まったく問題ありませんよ。まあ使えるものは使ってしまいましょうか」
ここで解体されるのは主に大森林で狩ってきた猪、熊、蛇、鳥など。他には暴走の時にまとめて狩った中にいた虎やライオンなど、入り口近くにはいない魔獣もいる。見たことのない魔獣がたまにいるみたいだけど、だいたい同じだろうという感じで解体しているらしい。
この倉庫が完成した時、中に積まれた大量の魔獣を見て腰を抜かした人が多かったけど、半年以上も経てばさすがに慣れるようだ。「次いくか?」「ああ、引っかけた。じゃあいくぞ」「おう、ゆっくり下ろせ」という声が聞こえてくる。
さすがに地面に直置きするのも問題があるので、棚に並べるようにして、クレーンを設置している。足をロープで結んでそこにクレーン引っかけて下ろしている。完全に日常の作業だね。
「では抽出してみましょうか」
猪肉の脂身から不純物を取り除いて獣脂を用意する。鍋に獣脂を入れたら火を入れて溶かす。温度は八〇度くらいを維持。猪肉に塩と数種類のハーブをまぶして寝かせる。ここは熟成樽で時間短縮。そこに猪肉を入れ、八〇度くらいで三時間ほど煮る。時間がもったいないのでそこもまた熟成樽を使う。鍋ごと温度を保つ容器に入れてから熟成樽に入れる。これで三時間に設定して、終わったら取り出す。
「これがコンフィという料理です。本当はガチョウやアヒルをその鳥から採った脂で調理したものをコンフィと呼ぶそうです。他の肉を使ったものは違うそうですが、まあいいでしょう」
「油で煮たのですか?」
「ええ、油煮ですね」
焼き色を付けたければ後から焼けばいいけど、今日のところはそのまま食べる。
「さすが魔道具ですね。ちゃんと中まで火が通っていますね」
「今日は魔道具で短縮しましたが、肉は塩と香辛料をまぶして一晩寝かせます。そして煮込むのは三時間ほどです。水を使わないので肉がパサパサになりません」
「たしかに柔らかくてしっとりしています」
「それにそのまま冷ませば保存できます。保存庫などを使わなくても多少は日持ちがするのが利点ですね」
「これは、新しい調理方法として使えますね」
「ええ。ですが最初にしっかりと味をつけないと、なんとなくぼんやりした感じになってしまいますよ」
本来は肉の保存のために作られた料理らしいからね。保存食ってどれもそうだけど、基本的にはしっかりと味つけがされている。ソーセージだって漬物だってそう。
「領主様、このコンフィというものを余った脂肪を使って作ってみてもいいでしょうか?」
「かまいませんよ。もしそれが名物になれば嬉しいですからね。ただ注意することがいくつかありますので、そのあたりを書き出しておきます」
「ありがとうございます」
レシピを渡してよろしくでは無責任だから、注意事項も一緒にね。油で煮る際に温度が高すぎると揚がってダメだし、火事になれば大変だから、そのあたりはキッチリと言っておく。それと、保存が利くとは言っても、さすがに保存庫に入れたほどには長持ちしないし、一度取り出してしまうと早めに食べなければならない。保存食よりもむしろ新しい調理方法として広めた方がいいんじゃないかな。
獣脂が増えるなら、植物油ももっと増やしてもいい。料理のレパートリーが増える。家の畑ではオリーブ油、菜種油、大豆油、米油、ゴマ油、アマニ油などを搾っているけど、あくまでそれは自家用。町の中では植物油はほとんど使われていないのが現状。肉や野菜を焼くだけなら、脂肪の部分を貰ってくればそれでいいわけだからね。ユーヴィ市あたりでは揚げ物とかはしないから植物油はほとんど必要なかった。でも獣脂ばっかりも、ねえ……。
植物油なら菜種油、オリーブ油くらいだろうね。大豆や米は穀物として使う方が多い。ゴマやアマは栽培というか収穫が大変。特にゴマは衝撃を与えると種が飛び散るからそっと収穫しないといけない。それを考えたらやはり菜種油かな。
そうなると土地の問題がある。最近はそれほど危険じゃないけど、それでも城壁の外に畑はね。畑は城壁や柵の内側に作るのが一般的だから。空いている場所はあるけど、農場をあちこちに分散させるのも効率が悪いからね。やっぱり城壁をもう少し外側に移動させて、できたスペースの一部を公営の農場にするしかないね。一部だけ壊してその部分だけ外へ広げると凸凹するから。担当部署と話をするか。
◆ ◆ ◆
「俺は農地の担当者じゃないんだが」
ルボルさんに相談しようとしたらそんな答えが返ってきた。こういう相談を持って行く人がいないんだよね。
「でも以前は代官の次くらいだったんでしょ? 町のことならよく知っているじゃないですか」
「まあな。城壁なあ……。城壁を移動させるとなると、門前宿が門前ではなくなってしまうくらいだが……」
「城門前の広場をもっと広くすれば、門前宿もそこまで遠くなった感じはしないでしょう。朝市をする場所も広くなりますから。どうしても門前でなければダメだという宿屋や店があれば、僕が移動させますよ」
「それはお前にしか無理な方法だな」
「とりあえず城門は四隅を広げる感じですね。こんな風に」
まずは今の町の形を描き、四隅を広げて正方形に近い形にする。
「これまで四方にしかなかった城門を増やします。北西と南西には公営の農場を作ります。先日のゴムの木の栽培とゴムの生産、菜の花の栽培と菜種油の生産はそこですることになりますね。広さがありますので、他の農産物も作れると思います」
「東じゃダメなのか?」
「ダメではありませんが、西以外の三方は他からやって来た人たちの受け入れが多くなりますからね。農地よりも商業地区の方が向いていますよ」
「それもそうだな。分かった、他にも話をしておく。それよりも食料関係のギルドはどうなってる? 肉はうち、小麦は商人ギルドがやっているが、そろそろ手一杯になってきている」
「なかなか見つからないんですよね。ギルド長を任せるような人材となると」
「確実に堅実に仕事をしてくれるなら誰でもいいんじゃねえか?」
「誰でもいいって言ってもねえ。一人は無理になったし、確実に堅実に仕事をしてくれる人なんて——」
!
あ、いた。
「思いついたみたいだが」
「一人心当たりがいます。こっちに引っ越すと言っていましたから、見かけたら声をかけます」
「ああ、頼む」
「ただ、ギルド長までやってくれるかどうかは分かりません。キヴィオ市でギルドの受付をしていた人で、人柄はまったく問題ありません」
「実際に仕事をするのは下だからな。まとめ役になれるなら大丈夫だろう。それよりも、何でもかんでも冒険者ギルドに話を持ってこられても困る」
「仕事がないよりはいいでしょう」
「ありすぎても困るんだよ」
「それなら仕事振り分けギルドと名前を変えましょうか?」
「それはもっとやめてくれ」
「うーん、搾りましょうか」
今日は冒険者ギルドの管理している倉庫に来ている。ここは僕が狩ってきた魔獣を保管して解体する場所。解体のために多くの人が雇われていて、雇用問題に一役買っている。また短期労働も可能なので、ちょっとお金が必要な時にアルバイト感覚で働けるし、場合によっては肉の切れ端などを持って帰れるので、それなりに評判はいい。
町でそこまで大量に肉が必要かどうかと言えば必要ない。でも街道工事のような大工事の際には大量の食事が必要だし、中にある限りは腐らないから問題ないと思ってたまに追加しに来ている。
「不純物を取り除いてラードにしてしまいましょうか。いや、豚じゃないからラードじゃないか。でも牛でもないからヘットじゃないし」
「使い道さえ決まれば名前はどうでもいいのですが」
「あ、すみません。そうですね、これまでは適当に切って配ったりしてたんですよね?」
「はい、肉を焼いたりするのに使っていたようです。捨てるくらいありますので、欲しい人が来たら渡す感じになっていました。マズかったですか?」
「いえ、まったく問題ありませんよ。まあ使えるものは使ってしまいましょうか」
ここで解体されるのは主に大森林で狩ってきた猪、熊、蛇、鳥など。他には暴走の時にまとめて狩った中にいた虎やライオンなど、入り口近くにはいない魔獣もいる。見たことのない魔獣がたまにいるみたいだけど、だいたい同じだろうという感じで解体しているらしい。
この倉庫が完成した時、中に積まれた大量の魔獣を見て腰を抜かした人が多かったけど、半年以上も経てばさすがに慣れるようだ。「次いくか?」「ああ、引っかけた。じゃあいくぞ」「おう、ゆっくり下ろせ」という声が聞こえてくる。
さすがに地面に直置きするのも問題があるので、棚に並べるようにして、クレーンを設置している。足をロープで結んでそこにクレーン引っかけて下ろしている。完全に日常の作業だね。
「では抽出してみましょうか」
猪肉の脂身から不純物を取り除いて獣脂を用意する。鍋に獣脂を入れたら火を入れて溶かす。温度は八〇度くらいを維持。猪肉に塩と数種類のハーブをまぶして寝かせる。ここは熟成樽で時間短縮。そこに猪肉を入れ、八〇度くらいで三時間ほど煮る。時間がもったいないのでそこもまた熟成樽を使う。鍋ごと温度を保つ容器に入れてから熟成樽に入れる。これで三時間に設定して、終わったら取り出す。
「これがコンフィという料理です。本当はガチョウやアヒルをその鳥から採った脂で調理したものをコンフィと呼ぶそうです。他の肉を使ったものは違うそうですが、まあいいでしょう」
「油で煮たのですか?」
「ええ、油煮ですね」
焼き色を付けたければ後から焼けばいいけど、今日のところはそのまま食べる。
「さすが魔道具ですね。ちゃんと中まで火が通っていますね」
「今日は魔道具で短縮しましたが、肉は塩と香辛料をまぶして一晩寝かせます。そして煮込むのは三時間ほどです。水を使わないので肉がパサパサになりません」
「たしかに柔らかくてしっとりしています」
「それにそのまま冷ませば保存できます。保存庫などを使わなくても多少は日持ちがするのが利点ですね」
「これは、新しい調理方法として使えますね」
「ええ。ですが最初にしっかりと味をつけないと、なんとなくぼんやりした感じになってしまいますよ」
本来は肉の保存のために作られた料理らしいからね。保存食ってどれもそうだけど、基本的にはしっかりと味つけがされている。ソーセージだって漬物だってそう。
「領主様、このコンフィというものを余った脂肪を使って作ってみてもいいでしょうか?」
「かまいませんよ。もしそれが名物になれば嬉しいですからね。ただ注意することがいくつかありますので、そのあたりを書き出しておきます」
「ありがとうございます」
レシピを渡してよろしくでは無責任だから、注意事項も一緒にね。油で煮る際に温度が高すぎると揚がってダメだし、火事になれば大変だから、そのあたりはキッチリと言っておく。それと、保存が利くとは言っても、さすがに保存庫に入れたほどには長持ちしないし、一度取り出してしまうと早めに食べなければならない。保存食よりもむしろ新しい調理方法として広めた方がいいんじゃないかな。
獣脂が増えるなら、植物油ももっと増やしてもいい。料理のレパートリーが増える。家の畑ではオリーブ油、菜種油、大豆油、米油、ゴマ油、アマニ油などを搾っているけど、あくまでそれは自家用。町の中では植物油はほとんど使われていないのが現状。肉や野菜を焼くだけなら、脂肪の部分を貰ってくればそれでいいわけだからね。ユーヴィ市あたりでは揚げ物とかはしないから植物油はほとんど必要なかった。でも獣脂ばっかりも、ねえ……。
植物油なら菜種油、オリーブ油くらいだろうね。大豆や米は穀物として使う方が多い。ゴマやアマは栽培というか収穫が大変。特にゴマは衝撃を与えると種が飛び散るからそっと収穫しないといけない。それを考えたらやはり菜種油かな。
そうなると土地の問題がある。最近はそれほど危険じゃないけど、それでも城壁の外に畑はね。畑は城壁や柵の内側に作るのが一般的だから。空いている場所はあるけど、農場をあちこちに分散させるのも効率が悪いからね。やっぱり城壁をもう少し外側に移動させて、できたスペースの一部を公営の農場にするしかないね。一部だけ壊してその部分だけ外へ広げると凸凹するから。担当部署と話をするか。
◆ ◆ ◆
「俺は農地の担当者じゃないんだが」
ルボルさんに相談しようとしたらそんな答えが返ってきた。こういう相談を持って行く人がいないんだよね。
「でも以前は代官の次くらいだったんでしょ? 町のことならよく知っているじゃないですか」
「まあな。城壁なあ……。城壁を移動させるとなると、門前宿が門前ではなくなってしまうくらいだが……」
「城門前の広場をもっと広くすれば、門前宿もそこまで遠くなった感じはしないでしょう。朝市をする場所も広くなりますから。どうしても門前でなければダメだという宿屋や店があれば、僕が移動させますよ」
「それはお前にしか無理な方法だな」
「とりあえず城門は四隅を広げる感じですね。こんな風に」
まずは今の町の形を描き、四隅を広げて正方形に近い形にする。
「これまで四方にしかなかった城門を増やします。北西と南西には公営の農場を作ります。先日のゴムの木の栽培とゴムの生産、菜の花の栽培と菜種油の生産はそこですることになりますね。広さがありますので、他の農産物も作れると思います」
「東じゃダメなのか?」
「ダメではありませんが、西以外の三方は他からやって来た人たちの受け入れが多くなりますからね。農地よりも商業地区の方が向いていますよ」
「それもそうだな。分かった、他にも話をしておく。それよりも食料関係のギルドはどうなってる? 肉はうち、小麦は商人ギルドがやっているが、そろそろ手一杯になってきている」
「なかなか見つからないんですよね。ギルド長を任せるような人材となると」
「確実に堅実に仕事をしてくれるなら誰でもいいんじゃねえか?」
「誰でもいいって言ってもねえ。一人は無理になったし、確実に堅実に仕事をしてくれる人なんて——」
!
あ、いた。
「思いついたみたいだが」
「一人心当たりがいます。こっちに引っ越すと言っていましたから、見かけたら声をかけます」
「ああ、頼む」
「ただ、ギルド長までやってくれるかどうかは分かりません。キヴィオ市でギルドの受付をしていた人で、人柄はまったく問題ありません」
「実際に仕事をするのは下だからな。まとめ役になれるなら大丈夫だろう。それよりも、何でもかんでも冒険者ギルドに話を持ってこられても困る」
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