新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
146 / 278
第三章 第二部

ユーヴィ男爵邸の使用人たち(一)

しおりを挟む
 我が家の使用人の数がなんだかんだで増えた。僕が領主になった時に屋敷に残っていたのは、執事のイェルンの下に男性使用人が四人と女性使用人が四人の合計九人だった。後から聞いたら代官と一緒にいなくなった使用人もいたそうだ。

 最初からいた中の一人であるアレイダは、エリーの兄のロベールさんと結婚し、今はこの国の一番東にあるヴァリガ市にいる。辞めたアレイダの代わりとして白い宿木亭の看板娘シルッカが入り、カローラがミシェルたちの家庭教師としてジェナを引っ張ってきて一〇人になった。そして今後は貴族の屋敷としての体裁を整えるため、そして秋からのベビーラッシュに備えるため、さらに一二人が追加された。正直なところこんなに必要ないと思うけど、雇用を与えるという点では重要になる。

 例えば乳母兼家庭教師として雇った二人は、子育ての経験があって読み書き計算もできて礼儀正しい。子供がある程度の年齢になるまで長期で雇うことになっているけど、ユーヴィ市にだって子育て経験者は多い。でもそれが仕事には繋がらない。誰でもできることだと思われているからね。

 まだ領主になって半年も経ってないから仕方ないけど、もう少ししたら本格的に雇用についてはなんとかしなければいけない。今のところ、職業訓練学校は上手くいっているようで、それなりの技術を身につけた職人が出てきたらしいけど、この町だけではどうしても仕事が少ない。他の町や他の貴族とも連携して、人材を活用できる方法を見つけないと。



 現在の使用人と職種を見て、他に必要な使用人がいないかどうかを考える。職種と言っても、あくまでその仕事が中心というだけで、手が空いていれば何でもすることがほとんどだ。職歴と仕事の内容で給与はみんな違うけど、それ以外の待遇は基本的に同じ。門衛だけは夜間の仕事もあるから少し違うけどね。イェルンとフェナの二人には、リゼッタに相談の上で必要に応じて人を雇う許可を与えている。クビにするのは僕が許可してからだけど。

 独身で寮に入りたいなら入れるし、通いでいいならそれでもいい。既婚者には家も用意してあるので、イェルンは妻のイレーナと、レンスは妻のヤコミナ、娘のカリンとリーセと一緒に暮らしている。フランカは既婚だけど夫が町の衛兵をしているから、通いのままになっている。

 とりあえず今の使用人はこうなっている。

 イェルン 執事
 フェナ 家政婦長

 ジェナ 秘書、家庭教師(魔法)

 シルッカ 料理長
 シャンタル 料理人
 フランカ 料理人

 テクラ 助産師、乳母
 ティネケ 助産師、乳母
 モニク 乳母、家庭教師
 サスキア 乳母、家庭教師

 エルケ 一般女中
 リーサンネ 一般女中
 ティルザ 一般女中

 エーリク 庭師、御者
 サンデル 庭師、御者
 シーラ 厩舎係、御者

 レンス 守衛
 セース 守衛
 ティース 守衛
 マリウス 守衛
 エト 守衛
 マレイン 守衛



 庭師は庭の手入れだけじゃなくて、来客があった場合は家の中まで案内するし、屋敷の中に花を飾るのも仕事だから、礼儀作法やセンスも必要らしい。この二人は職業訓練学校の卒業生だ。

 エーリクとサンデルの二人は庭師として雇われているけど、必要に応じて御者をしてもらうこともある。動物も好きで、馬の世話もしたことがあるそうなので、いざとなればその仕事も任せられる。二人とも立派な体格をした男性だけど、子供の頃から花を育てるのが好きだったらしく、募集を見て真っ先に応募したらしい。

「まさに天職です」
「同じく」

 うちの庭はいつでも花が咲き乱れている。実はここは管理者として調節したわけじゃなく、マリアンのアドバイスに従っただけだ。

「鱗を粉末にして土に混ぜれば植物がよく育つぞ。しかも長持ちする。混ぜるのはちょびっとじゃぞ、ちょびっと。塩をまぶすようにパラパラっとな。あまりたくさん入れるととんでもないことになるからのう」
「例えば?」
「一瞬で育って一瞬で枯れて種が落ちる。それをひたすら繰り返す」
「気を付けるよ」

 何かの間違いで敷地がびっくり花畑のようになったら困る。間違えないように、調味料を入れるような穴の開いた容器を作り、そこに鱗の粉末を入れた。食卓塩みたいになったけど気にしない。僕しか使わないから。



 厩舎係はシーラという女性。馬の世話のために厩舎で寝泊まりすることも多いから、一般的には大変な仕事だ。なぜ女性が申し込んだのかと思ったら理由は簡単だった。

「馬人のシーラです。馬の考えていることが分かります」

 確かに馬の耳と尻尾がある。面長じゃないし、耳と尻尾を隠せば人間と違わない。栗毛を後ろで束ねたやや背が高い女性で、マリーと並んだらいいコンビになりそう。

「まさに適任だね。うちの馬たちは頭がいいから迷惑をかけることは少ないと思うけど、よろしくね」
「旦那様、この子たちの頭の良さはおかしいくらいです。掛け算も割り算もできますよ」
「そういう子たちなんだよ。雌二匹は妊娠中だから、そちらの面倒も見てくれるかな?」
「え? あ、はい、承知しました」

 一応貴族として馬車を使う場面もある。一人だけなら[転移]で移動するけどね。

 馬たちはここと異空間を行ったり来たりする。屋敷の厩舎と異空間の厩舎を繋いでいるから、走りたい時は向こうで走り、こっちに戻って寝ることが増えている。シーラにも異空間のことは教えているので、馬の様子を見るために試しに向こうに行ってみた。

「旦那様、私も走っていいですか?」
「いいけど、そんなに目を輝かせるようなこと?」
「これだけ広くて何もなくて安全な場所はありません」
「……ああ、そうか。そうだったね」

 かなり安全になったとは言っても、町の外にはまだ魔獣や野獣が出るからね。好きなだけ走ったらいいと思う……って足が速い。さすが馬人。彼女も御者ができるそうだから、必要に応じて任せようと思う。



 最初からいた女性使用人たちは、フェナが食事係、フランカとアレイダとエルケが掃除担当だったけど、アレイダが結婚して抜けた。使用人を増やす際にフェナを家政婦長にして、正式に女性使用人のまとめ役になってもらった。そしてアレイダの代わりに入ったシルッカを料理長にして、新しく入ったシャンタルをその下に、そしてフランカを補佐にした。

 シルッカは厨房にいることが多く、レパートリーを増やすためにエリーやマイカと話をすることが多い。ちなみに料理の腕前は、さすが宿屋の娘だけあって上手だった。後はレパートリーを増やすだけ。

「マイカ様、男性を落とすにはまず胃袋を掴むべきですね」
「でもうちで一番料理が上手なのが先輩ですよ」
「そうでした……」

 シルッカはまだ僕を狙っているみたいだけど、そう簡単には狙わせない。僕に近寄らないようにするために彼女を忙しい調理長にしたわけじゃないけど、結果としてそうなった。



 新しく来たシャンタルは服飾美容店で料理の勉強もしていたから、腕前の方は問題ない。

「服飾美容店を出ても料理の勉強ができるようで嬉しいです」
「エリーは暇があれば自分で作るからね。色々と教わったらいいよ」

 シャンタルは料理好きで、いずれは店を持ちたいらしい。それまでにお金を貯めつつ料理のレパートリーをさらに増やしたいそうだ。



 フランカは主婦だけあって料理は上手だから、できれば彼女に料理長を任せたかったけど、町の衛兵をしている夫のことがあるからどうしても屋敷に来る時間帯が日によって違う。それに子供ができているからあまり無茶はさせたくない。そういうわけでシルッカとシャンタルの補佐ということにした。

「旦那様、申し訳ありません」
「いや、いいんだよ、それは。復帰のタイミングも任せるからね。子供が生まれたらうちの子供たちと一緒に乳母に面倒を見てもらってもいいし、しばらく家の方で子育てしてから復帰してもらってもいいから」
「ありがとうございます」



 エルケはこれまでと同じように主に掃除を担当する一般女中という扱いになった。来年にはまあ、どうやら使用人じゃなくなることになりそうだ。その話を忘れてくれたらいいんだけど、無理だろうね。

 エルケの部下となったのがリーサンネとティルザの二人。まだ若くて、使用人の中で最年少の二人。今のところは掃除が中心。一般女中とは要するに雑用担当。食事の準備や掃除など、一通りのことをしてもらう。蜂蜜搾りも仕事の一つ。うちの家族は自分の部屋は自分で掃除するから、それ以外の場所を掃除することになる。掃除用の魔道具もあるからそこまで仕事が多くはない。

「エルケ先輩を見習い、頑張って旦那様にアピールします」
「我々の努力をよく見ていてください。スカートの中を見ていただいてもかまいません」
「そこは頑張らなくていいよ、本当に」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...