新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第二部

ユーヴィ男爵邸の使用人たち(二)

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 助産師はテクラとティネケの二人。彼女たちは出産経験があり、さらには出産の手助けをすることも多かったそうだ。二人には手が空いているなら乳母の仕事もしてもらうことになっている。

 乳母は乳児に乳を与え、もう少し大きくなると躾をしたり言葉を教えたりする。家庭教師はその先さらに読み書き計算などを教える。だからどちらの仕事もそれなりの教養は必要になる。

 乳母のモニクとサスキアも既婚者で、しかも服飾美容店で働いた経験がある。元から読み書き計算は身に付いていたそうだけど、それ以外の知識を身に付けたいと思って働いていたそうだ。

 ちなみに乳母をする四人には、この前作った哺乳瓶を渡してある。これはマイカのアドバイスで作ったもので、口に含む部分はゴムで、本体部分はマリアンの鱗を使っている。落としても割れないし、鱗の魔力のせいか雑菌が繁殖しないらしい。

「さすが旦那様です。素晴らしい観察眼です。口に含む部分の硬さは、まさに女性の乳首と同じ硬さですね」
「たしかに。これは場数を踏まないと分からないことですからね」
「変な感心の仕方をするね」



 門衛は人数を増やした上で守衛と名前を変えた。それと同時に装備も変更することにした。甲冑を着て門のところに立つのは大変だからね。そもそも領主邸が襲撃されることはないだろう。もし襲撃されたとしても、そこにあるのは守る側よりも守られる側の方が圧倒的に強いという罠。

 守衛はこれまでのような甲冑姿ではなく、サファリスーツの上からさらにボディーアーマーを着たような服装をしている。頭にはヘルメット、腕や足の一部にはプロテクターを付けている。

「これは軽くていいですね。暑くありませんし」
「これまでと違って頼りなく思えるかもしれないけどね。刃ややじりが通らないことは保証するけど、金属鎧のように形があるわけじゃないから、殴られた衝撃は伝わることには注意してね」
「ありがとうございます。甲冑より動きやすいですから、それは動きでカバーすることにします」



 最後にもう一つ新しくできた仕事、それは秘書。ジェナのために用意した彼女専用の仕事だ。用意したのはカローラ。ジェナはミシェルたちの家庭教師をしながら僕の秘書もすることになった。カローラは秘書とは言っていなかったけど、実際の内容は秘書そのものだった。

「ご主人様、ジェナには素晴らしい素質があります。ぜひ側に置いて、その才能を開花させるべきです」
「その言い方には怖いものがあるんだけど」
「大丈夫です。彼女がソナにいて、ご主人様にとって害になることはないでしょう」
「そりゃ害になるようなら側には置かないけどね」

 実害はない。でも僕を持ち上げすぎるから精神的に疲れる。初対面の時に彼女が五体投地したのには理由があった。どうやら僕のことをハイエルフという伝説上の種族だと思ったらしい。それを知ったのは、彼女を秘書にするかどうかという話し合いの時だった。

 ちなみにこの世界にはハイエルフはいない。ハーフエルフもいない。もしいるとすれば、どこか遠い遠い別の世界——カローラたちの管理している多くの世界のずっと向こうの知らない場所——から転移してきた人ということになる。僕はそのハイエルフだと思われていたわけだ。



◆ ◆ ◆



「閣下、いえ、ご主人様! ご主人様がお持ちの叡智の一欠片でも、この非才なる身にご教示いただければと存じます」
「ジェナ、硬い硬い。はいはい、もっと表情を柔らかくして」

 再び五体投地しそうになるジェナを引き起こす。

「そもそもどうして僕にそこまで教えてほしいの? 王都で魔道具は見たって言ってたけど、実際にこの町で色々と見て、そこまでおかしなものはなかったでしょ? 燃料箱バッテリーの周辺は自分でも少しおかしいと思うけど」
「私が閣下の謁見の場にいたことは以前にお伝えしたかと思います」
「それを見てこっちに来る気になったんだよね」
「そうです。あの場での閣下の神々しいお姿を拝見し、恥ずかしい話ですが、あまりの衝撃につい漏らしてしまいました」
「……」
「漏らせとおっしゃるなら今すぐにでも漏らします」
「いや、できれば聞きたくなかった話だと思っただけだよ」
「……そうですか」

 そこで残念そうな表情をされてもね。カローラの言う才能ってそっち方面?

「それで後日レオンツィオ殿下がお持ちの魔道具を見せていただきましたが、その時に閣下のあまりの発想のすごさに衝撃を受けました。それがユーヴィ市に来ようと思った一番のきっかけです」
「そんなにすごい発想だったかなあ」
「何をおっしゃいますか! あの調理用の鉄板でさえ、絶対に火傷をしないように工夫されていました! 絶対に私には思いつかないことです!」

 あれってミシェルが火傷しないように対策しただけなんだけどね。鉄板の真ん中あたりにあるものを取ろうと手を伸ばすと、身長の関係で顔がちょうど鉄板にかなり近くなるんだよ。それを見てちゃちゃっと足したんだけど。

「私はそれまで魔法と魔道具を同一視していました。道具に魔法を組み込みさえすれば魔道具になると。それは里のみんなも、長老たちでさえ同じだったと思います」
「でも基本はそれじゃない?」
「はい、基本はそうだと思います。ですが、鉄板を熱する魔道具はあっても、火傷防止を施した魔道具は見たことがありませんでしたし、私自身にそのような発想がありませんでした。その時の同僚たちも同様でした。そしてユーヴィ市に来て閣下のご尊顔を拝見しっ、この方こそっ、まさに伝説のハイエルフだと確信するにいたりましたっ!」
「ジェナ、どうどうっ」
「はっ、しっ、失礼いたしました」
「それと一応言っておくと、僕はハイエルフじゃないからね」
「違うのですか?」

 これ以上説明すると、ステータス云々の話にも触れなければいけないんだけど、どうするかな……。

「ジェナは、人には努力によって身につけられる技術があって、それを見ることができる者がいるって言ったら信じる?」
「それは閣下やカローラ様たちが見ることのできるステータスのことですね」
「もう聞いたの?」
「はい」
「そうか、聞いてたのか……」

 後戻りさせることは無理だったね。

「それなら、僕の種族のこともカローラから聞いた?」
「それは伺っていません。ただのエルフではないとお聞きましたので、ハイエルフであろうと勝手に思い込んでいました。それ以外は特に伺っていません」
「なるほどね」

 ある程度までなら大丈夫か。ステータスについては、スキルも含めてそういうものがと言うことは一部には広まっている。でもそれを証明する手段がない。ステータスを見る手段がないからね。

「僕の種族は[エルフ?]ってなってる」
「その『?』にはどのような意味があるのですか?」
「それがよく分からなくてね。とりあえずハイエルフも存在しないらしい。じゃあ僕は何者かって話になるんだけど、自分でもよく分からない」
「閣下がハイエルフでもそうでなくてもかまいません。お側にいさせてください。閣下の持つ知識の一端にでも触れたいのです」

 ジェナは最初から、他の留学生たちとは少し違った。どう言ったらいいのか分からないけど、見ているものが違うような気がしていた。研究馬鹿と言ったら彼女には申し訳ないけど、知りたいことは徹底して知りたい、そのような性格なんだろう。

「それなら……秘書にでもしようかな」
「秘書とはどのような立場でしょうか?」
「上司の書類仕事の手伝いをしたり、予定を確認したりするために常に近くで「それでお願いします!」



◆ ◆ ◆



 そういう経緯があって僕の秘書になったんだけど、どうなるのかな?
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