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第三章 第三部
馬の出産
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もうすぐ出産が始まる。と言っても妻たちではなく、馬のソプラノとアルトのこと。シーラからそろそろですと言われて準備はしていた。少し早いような気もするけど、そういうものだと思っておこう。
「ふんふん、寒くない時期なので問題はないと……。じゃあ大丈夫だね」
「問題なさそう?」
「はい、食事も問題ありませんし、寒い時期でもないので大丈夫そうです。向こうじゃなくてこっちでも大丈夫そうです。それにしても、不思議ですね」
「何かあったの?」
「このあたりの馬が夏の終わり近くに子供を産むことはありません。一番多いのが冬の終わりから春にかけてです。普通なら出産まで一〇か月くらいですから、今が出産ということは、去年の秋の終わりから冬の前あたりに種付けされたと思います。繁殖の時期じゃないはずです」
「まあうちの子たちは人間味あふれるからね」
今も入り口から覗いているけど、二頭とも入り口のところに前足をかけて頭を出すって、ドアから覗き見をする子供みたいなんだよね。でも調べてみても元人間とかでもないし、念話で会話もできない。ものすごく人間味あふれる頭のいい馬。
夫婦の組み合わせとしてはソプラノとテノール、アルトとバスらしい。子供の名前はまたみんなで考えるのか、それとも親たちが付けるのか、またマリアンが付けるのか。
それからしばらくすると、最初にソプラノが、それからアルトが産んだ。しばらくはキョロキョロしていた子馬たちだけど、一時間も経たないうちに立ち上がると、母馬の後ろについて歩き始めた。その後ろに父馬が続く。
「旦那様、本当に馬なんですよね?」
「そうだよ。どう調べても馬なんだよね。中に人が入っているわけじゃないし」
「変な言い方ですが、どこで手に入れたんですか?」
「元々は盗賊たちの馬車を引いていて、盗賊たちを捕まえたら懐かれてね。それでうちの子になった。去年の夏だね」
シーラにはあの四頭が僕のところに来た経緯を説明した。
領主になる前、西から東へ向かって進んでいる時に、スーレ市の手前で商人に化けた盗賊たちと出会ったから捕まえたこと。その時に盗賊たちが乗っていた馬車の馬を引いていたのがあの四頭だったこと。わりと最初からあんな感じだったこと。
「その盗賊たちがどこで馬を手に入れたかは分からないんですか?」
「それは聞いたことがなかったね。盗賊だから奪ったんだと思うけど」
「行ったことはありませんが、パルニ公爵領は名馬の産地として知られていますから、もしかしたらそのあたりかもしれませんね」
「シーラはソプラノたちに興味あるの?」
「あんな頭のいい馬が四頭もどこにいたかはすごく気になりませんか?」
「言われてみればそうだけど、ああいうものだと思ってたからなあ。機会があれば聞いてみるよ。それか、調べに行く時には一緒に行く?」
「ぜひ! よろしくお願いします」
パルニ公爵領か。直轄領の南だから、機会があれば寄ってみようかな。北の元公爵領の方は大変なことになっているようだけど、南の方は問題なさそうだから。
◆ ◆ ◆
「では、この中から選んでもらうということでいいのかな?」
「みんなで選んだ候補はそれくらいじゃ」
「ポンポン出るものでもありませんしねぇ」
ソプラノとテノールから生まれたのは雄で、アルトとバスから生まれたのは雌だった。使用人も含めてみんな紙を渡し、雄雌それぞれの名前を考えてもらうことにした。それを並べてその中から本人たちに選んでもらうことにした。使用人たちの分も含めて雄雌それぞれ三〇ほど名前の候補がある。
元からいた四頭は非常に頭が良いけど、その子供たちもなかなか頭がいい。スキルは遺伝しないけど頭がいいのは遺伝するのか、こっちが言ったことをきちんと理解している。
「それじゃ、まず雄の方からね。どれがいい?」
仔馬は順番に眺めると、一枚の紙を咥えて持って来た。どれどれ。
「……どうしてこれを選んだの? そもそもなぜこれがここに?」
仔馬が首をかしげる。いや、悪いわけじゃないけどね。
「この子の名前はセントーン。プロレス技を入れたのは誰?」
「わたし! あしがはやそうななまえだったから!」
どこで知ったんだろう。少女漫画にプロレスってあるの? ちなみに足の速さにはまったく関係なくて、倒れている相手の横に立ってジャンプして回転しながら背中を相手に打ちつける技のこと。ちなみに避けられると自爆になるけど、体勢が受け身になっているから見た目ほどは痛くないらしい。
「語感的にはそうかなあ。それじゃ、雌の方も選んでもらおうか」
僕がそう言うと雌は頭を下げてから紙を眺め、一枚咥えて僕のところに持って来た。この子は?
「この子はサントゥール。また渋いところを選んだね。中東の楽器だったっけ?」
「ツィンバロムみたいなイランの楽器ですね。あれとかインドのクリスタルボウルなら、いつまでも聞いていられました」
「結果として、なんとなく似たようなそうでないような名前になったね」
「兄妹っぽくていいじゃないですか」
「兄妹でも従兄妹でもないと思うけど言いたいことは分かる。統一感があるのかな」
ソプラノ、テノール、セントーン、アルト、バス、サントゥール。おかしな感じはしないかな。内容を考えたら疑問はあるけど。
「ふんふん、寒くない時期なので問題はないと……。じゃあ大丈夫だね」
「問題なさそう?」
「はい、食事も問題ありませんし、寒い時期でもないので大丈夫そうです。向こうじゃなくてこっちでも大丈夫そうです。それにしても、不思議ですね」
「何かあったの?」
「このあたりの馬が夏の終わり近くに子供を産むことはありません。一番多いのが冬の終わりから春にかけてです。普通なら出産まで一〇か月くらいですから、今が出産ということは、去年の秋の終わりから冬の前あたりに種付けされたと思います。繁殖の時期じゃないはずです」
「まあうちの子たちは人間味あふれるからね」
今も入り口から覗いているけど、二頭とも入り口のところに前足をかけて頭を出すって、ドアから覗き見をする子供みたいなんだよね。でも調べてみても元人間とかでもないし、念話で会話もできない。ものすごく人間味あふれる頭のいい馬。
夫婦の組み合わせとしてはソプラノとテノール、アルトとバスらしい。子供の名前はまたみんなで考えるのか、それとも親たちが付けるのか、またマリアンが付けるのか。
それからしばらくすると、最初にソプラノが、それからアルトが産んだ。しばらくはキョロキョロしていた子馬たちだけど、一時間も経たないうちに立ち上がると、母馬の後ろについて歩き始めた。その後ろに父馬が続く。
「旦那様、本当に馬なんですよね?」
「そうだよ。どう調べても馬なんだよね。中に人が入っているわけじゃないし」
「変な言い方ですが、どこで手に入れたんですか?」
「元々は盗賊たちの馬車を引いていて、盗賊たちを捕まえたら懐かれてね。それでうちの子になった。去年の夏だね」
シーラにはあの四頭が僕のところに来た経緯を説明した。
領主になる前、西から東へ向かって進んでいる時に、スーレ市の手前で商人に化けた盗賊たちと出会ったから捕まえたこと。その時に盗賊たちが乗っていた馬車の馬を引いていたのがあの四頭だったこと。わりと最初からあんな感じだったこと。
「その盗賊たちがどこで馬を手に入れたかは分からないんですか?」
「それは聞いたことがなかったね。盗賊だから奪ったんだと思うけど」
「行ったことはありませんが、パルニ公爵領は名馬の産地として知られていますから、もしかしたらそのあたりかもしれませんね」
「シーラはソプラノたちに興味あるの?」
「あんな頭のいい馬が四頭もどこにいたかはすごく気になりませんか?」
「言われてみればそうだけど、ああいうものだと思ってたからなあ。機会があれば聞いてみるよ。それか、調べに行く時には一緒に行く?」
「ぜひ! よろしくお願いします」
パルニ公爵領か。直轄領の南だから、機会があれば寄ってみようかな。北の元公爵領の方は大変なことになっているようだけど、南の方は問題なさそうだから。
◆ ◆ ◆
「では、この中から選んでもらうということでいいのかな?」
「みんなで選んだ候補はそれくらいじゃ」
「ポンポン出るものでもありませんしねぇ」
ソプラノとテノールから生まれたのは雄で、アルトとバスから生まれたのは雌だった。使用人も含めてみんな紙を渡し、雄雌それぞれの名前を考えてもらうことにした。それを並べてその中から本人たちに選んでもらうことにした。使用人たちの分も含めて雄雌それぞれ三〇ほど名前の候補がある。
元からいた四頭は非常に頭が良いけど、その子供たちもなかなか頭がいい。スキルは遺伝しないけど頭がいいのは遺伝するのか、こっちが言ったことをきちんと理解している。
「それじゃ、まず雄の方からね。どれがいい?」
仔馬は順番に眺めると、一枚の紙を咥えて持って来た。どれどれ。
「……どうしてこれを選んだの? そもそもなぜこれがここに?」
仔馬が首をかしげる。いや、悪いわけじゃないけどね。
「この子の名前はセントーン。プロレス技を入れたのは誰?」
「わたし! あしがはやそうななまえだったから!」
どこで知ったんだろう。少女漫画にプロレスってあるの? ちなみに足の速さにはまったく関係なくて、倒れている相手の横に立ってジャンプして回転しながら背中を相手に打ちつける技のこと。ちなみに避けられると自爆になるけど、体勢が受け身になっているから見た目ほどは痛くないらしい。
「語感的にはそうかなあ。それじゃ、雌の方も選んでもらおうか」
僕がそう言うと雌は頭を下げてから紙を眺め、一枚咥えて僕のところに持って来た。この子は?
「この子はサントゥール。また渋いところを選んだね。中東の楽器だったっけ?」
「ツィンバロムみたいなイランの楽器ですね。あれとかインドのクリスタルボウルなら、いつまでも聞いていられました」
「結果として、なんとなく似たようなそうでないような名前になったね」
「兄妹っぽくていいじゃないですか」
「兄妹でも従兄妹でもないと思うけど言いたいことは分かる。統一感があるのかな」
ソプラノ、テノール、セントーン、アルト、バス、サントゥール。おかしな感じはしないかな。内容を考えたら疑問はあるけど。
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