新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第三部

卵と牛乳と贅沢な食べ物

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 ユーヴィ市の端の方では放し飼いの養鶏場を作り、日々卵を増やし続けている。もしニワトリを見つけたら引き取ると伝えているので、たまに増えるそうだ。だから白レグ意外にも色々な鶏が増えている。チャボも一緒に飼っているけど喧嘩もしていないようだ。先日ディキリ町の西にある山で捕まえてきた鳥たちはまだ異空間の方。

 というわけで異空間の家の裏手に作った飼育小屋のところに来ている。卵が嬉しいのかマイカがいて、キラとセラも畑の世話をしながら鳥たちの世話をしてくれているようだ。

「先輩、あの鳥は結局アヒルですか? カモですか?」
「見た目はアヒルだけど野生っぽいからね。ちょっと待って」

 最近は動物の飼育にちょうどいいんじゃないかと思うようになってきたよ、[鑑定(管理者用)]。



 【種族:[アヒモ]】



 なぜ混ぜるかな。



「アヒモらしいよ」
「はい?」
「だからアヒモ」
「……アヒモ……アヒモ……」

 そういう名前の二足歩行ロボットがあったなあ。

 こっちのガチョウっぽい方は?



 【種族:[ガチョウン]】



 こちらもひどい。



「こっちはガチョウンね」
「ガチョウン?」
「そう、ガチョウン」
「ガチョウと……?」
「おそらくだけど、がんじゃない?」

 マイカが肩を震わせ始めた。

「どうしてっ、混ぜるんですかっ⁉ アヒルとガチョウに対するっ、挑戦ですかっ⁉」

 マイカ的にはこの名前はダメだったらしい。何か思うところがあるんだろう。ちなみに僕はこの名前を見た時、トロンボーン奏者でコメディアンのあの人を想像した。

「僕もそう思うけど、これも作為的じゃない?」
「作為的って?」
「いや、某管理者の話」
「あっ」

 アヒルはカモから、ガチョウは雁から、ある意味では作られたわけだから、そもそもこの世界で野生でいることはないと思うんだよね。いたとしても、あの名前はないと思う。どう見てもたちが悪い洒落だろう。

「もし種族名までいじれるとすれば大変なことなんだろうけどね」
「後でカローラさんに聞いてみましょうか」
「そうだね。ああ、そう言えば、セラとキラはこの二種類は見たことある? あの山の南に続いていた山で見つけたんだけど」
「見たことないです。もし見つけていたら、多分〆ていましたよ?」
「美味しそう」
「その目はやめなさい。肉用じゃないから」

 あの山はよく見たら南北に続いた双子山になっていた。北側の山だけで直轄領の二重都市群がすっぽりと入るくらいの大きさがあるけど、南側にも同じくらいの大きさの山があり、その間はある程度は上がることになるけど、東西に移動しようと思えばできる。山道じゃなくて疎林という感じかな。

 あの時北側の山にはチャボがいた。アヒモとガチョウンがいたのは南側の山だった。余裕があればあの山を一度調べてみるか。

「ところで先輩、その名前はやめましょう」
「普通にアヒルとガチョウにする?」
「はい、あれはアヒルとガチョウに対する冒涜です」
「じゃあ、うちではとりあえずアヒルとガチョウと呼ぼう」

 名前はあまり関係ないからね。



「ああ、アヒモとガチョウンですか?」
「「知ってた⁉」」

 まさかカローラの口からすっと出てくるとは思わなかった。鳥っていっぱいいるじゃない。何億も世界があるなら鳥の種類だってたくさんあるでしょ。聞いた瞬間にすぐ返ってくるとはさすがに思わなかった。

「はい。あれは元々地球のアヒルとガチョウを元にして、別の世界で品種改良された野鳥です」
「野鳥なの?」
「野鳥になるように改良された、というのが正しいですね。マガモを家禽にしてアヒルができ、そのアヒルをどんな環境もで生きていけるように品種改良したのがアヒモです。マガモは野鳥ですので、産卵期以外は普通は卵を産みませんし、産んでも一〇個前後です。それと比べるとアヒルは一年間に一〇〇個も二〇〇個も産みます。それを期待されたようですね」

 世界は広い。

「それじゃ、あの名前は一体どういうことですか? アヒルでもよかったんじゃないですか?」
「その世界にはこれまでいなかった鳥ですから、誰かが名前を付けたのでしょう。アヒモになった理由はよく分かりませんが……アヒルとマガモという鳥が元になっているのを聞いて、適当に付けたからでは?」
「そんな理由で……」

 マイカががっくりと肩を落とす。そこまでアヒルとガチョウに肩入れする理由なんてあったっけ? 特に好きとか嫌いとか聞いたことはないかな。

「アヒルとガチョウの何が気になるの?」
「……笑いませんか?」
「笑わない」
「小学生のころ、私は背は真ん中くらいでしたけど、足が大きかったんです」
「それでなんとなく分かった」
「デイジーとあだ名を付けられたこともありました」
「男の子はドナルドになるよね」



◆ ◆ ◆



 まだ量が十分じゃないけど、とりあえず卵もミルクも手に入るようになった。そういうわけで農畜水産物ギルドと流通の件で話し合った。

 牛と山羊のミルクは農畜水産物ギルドの意向で、主に全粉乳と脱脂粉乳とバターにして販売することになった。やっぱり液体のままでは管理が難しいと。もしどうしても搾りたての牛乳が欲しければ牧場まで足を運べば飲めるようにはしようということになった。

 ギルドでの話し合いでは、最初は脱脂粉乳はあまり使わないだろうから、全粉乳とバターだけでいいのではないかと言われた。あえて脱脂粉乳にするメリットがないと。

「ミルクの代わりとして使うのであれば脂肪分を取り除く必要はないのでは?」
「バターを作る時には脱脂乳ができますからね。それを無駄にするのもどうかと思いまして」
「それなら……もっとバターを減らしてみるのはどうでしょうか?」
「でもバターも必要になると思うんですよ。それに脱脂粉乳は乳脂肪分がほぼありませんので、カロリーも控えめです。でもカルシウムやタンパク質など、体に必要な成分の量はほとんど変わりませんので、カルシウムの不足しがちな女性や年配の方にもにお勧めです。美容にも」
「美容にも?」
「はい。直接的な効果はありませんが、栄養があるのに脂肪分が低いので、牛乳に比べると太りにくいというのが一番のメリットでしょうね」

 これが決め手だったね。

 脱脂粉乳というと、僕はパンを焼くために使うものしか買ったことがないけど、ずっと上の世代は小学校の給食で飲んでいたらしい。それが非常に不味かったと言っていた。でも日本にいたころ、カルシウムを摂るために脱脂粉乳を水に溶かして飲んだこともあったけど、僕は特に不味いとは思わなかった。あっさりしているなと思ったくらい。たしかに何か足りないかなという気がしたけど、それは乳脂肪分がなかったからだろう。

 脱脂粉乳はどうせバターを作る際に出るものだし、美容と健康にいいから何かに混ぜて乳飲料にすればいいと言った。例えばバナナジュースとかイチゴジュースにしてもいいと思う。水に溶かすのに少しコツが必要だけどね。ただ摂りすぎると乳糖のせいでお腹がゆるくなるのは牛乳と一緒なので注意が必要。どんなものでも摂りすぎれば毒になる。水だって

 とりあえず今日のところは殺菌済みの牛乳と卵、砂糖、小麦粉、重曹、水で生地を作り、熱した鉄板の上に広げ、プツプツと気泡が出たところでひっくり返して裏面も焼く。しばらくして十分持ち上がったら皿に乗せ、バターとメープルシロップをかける。バナナをスライスして、ホイップしたクリームを添え、そこにチョコレートをかける。

「こ、これは……一年前まではけっして口にできなかったような、な、なんて贅沢な食べ物……」
「パンケーキです。どれもほとんどなかったですからね。これだけだと栄養が偏りますので、切った果物を添えてもいいですね」

 サトウカエデは山に生えていたから、若木を少し持ち帰って異空間の森の方に植えている。挿し木で増やしてメープルシロップを作ってもいいだろう。蜂蜜は元からわりとどこにでもあるし、砂糖がナルヴァ町、そしてメープルシロップもどこかで作りたいね。
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