新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
182 / 278
第三章 第四部

お祝いの準備と託児所の話

しおりを挟む
 長男が生まれた。名前はケネスの『K』とリゼッタの『R』を隣同士にしてクリストファーKristopherとした。愛称はクリスKrisでいいだろう。

「なんという尊いお名前! どうして私はクリスティンやクリスティーナではなかったのでしょうか!」

 そう言ったのは僕の秘書をしているジェナ。僕の息子の名前に自分の名前を寄せなくてもいいと思うけどね。



 そのジェナが家庭教師をしているミシェルの話。

 僕に自分以外の子供ができたらミシェルにどういう影響が出るかと心配したけど、全くの杞憂だった。そもそもこの屋敷にいるみんなに遊んでもらっているし、まだ六歳なのに自立心がたっぷりだ。むしろエリーが構うと嫌がるようになった。もしかして反抗期?

「ちがうよ。ママがおやばなれできてないだけ。そろそろ落ちついてもいいんじゃない? 赤ちゃんもできてるんだから」
「まあエリー自身に子供っぽいところがあったからなあ」
「ママは甘えんぼうだからね」
「その点ではミシェルの方が大人だね」
「えへへ」

 そうは言ってもまだ六歳。頭を撫でるとへにゃっとした顔になる。

「……あの、旦那様? 本人を目の前にして娘と一緒に私のことをこき下ろすのはやめにしませんか?」
「別にこき下ろしたわけでも何でもないと思うけど? ねえ、ミシェル?」
「うん、ママのことを話してただけ」
「あの子供っぽかったミシェルが立派になって……」
「そういう言い方は、子どもはいやがると思うよ?」

 ミシェルの鋭いツッコミにエリーが崩れ落ちる。お腹によくないからやめなさい。だいぶ近いんだから。



◆ ◆ ◆



「ではお祝いのために、一度工事などは止めるとしましょう」

 昨日のうちにサラン経由でギルドには伝えてあったけど、あらためてギルド長たちに伝えたら、土木ギルドのゴルジェイさんがお祝いをしようと言い、それで一週間ほどぶっ続けでお祝いをしようということになった。めでたいことがあると普通はそうするらしい。

「それなら倉庫にあるお酒なども放出しましょう。工事の完了までにはまた追加しておきますので」
「分かりました。手配しておきます」
「しかし、とうとうお前も子持ちか」
「まあ時間が経つのは早いですね。そもそもルボルさんにはお孫さんもいるじゃないですか」
「まあな。孫は可愛いぞ。仕事をしているのが馬鹿らしくなるくらいだ」
「どんな顔して孫をあやすのか気になりますけどね」
「絶対に『じいじが帰ったぞー』とか言ってそうですね」
「いや、『帰りまちたよー』とか言っていると思うな」

 ぷっ……

「「「「あーっはっはっはっは」」」」
「お前ら、笑いすぎだろう……」

 薬剤師ギルドのルカスさんと商人ギルドのコーバスさんの言葉にみんなが吹き出す。ルボルさんとルカスさん、そしてコーバスさんは、僕が領主になる前からそれぞれギルド長をしているから、お互いに元から顔見知りだ。でも以前よりは明らかに仲が良くなっている。以前は単なる顔見知り程度だったらしいからね。

 しかし、ルボルさんの返事にキレがないのは、それほど外れていないのかな?



 ギルドの倉庫には、僕が家の方で作っているお酒や燻製などの保存食が大量に入っている。旅をしている間は食事に飽きないように色々な保存食を作っていたけど、今は屋敷にいるから口にすることが減った。

 今では肉は農畜水産物ギルドの管轄になっていて、雇われた人たちが連日肉を捌いている。賃金だけではなく、現物も支給されるということでそれなりに人気がある仕事になっているそうだ。骨に付いたくず肉をこそぎ落として作ったソーセージも出回るようになった。屋台の中にはソーセージを売っている店も出てきている。そろそろパンに挟む店が出ないかな?

 たまに大森林に出かけて魔獣の状態をチェックしつつ、適度に間引いているんだけど、魔獣はなかなか減らないねえ。減らない方が肉に困らないのでありがたいと言えばありがたい。狩った一部はギルドに持ち込み、一部は持ち帰って食事の材料になる。食事で使われなかった部位などは保存食に加工される。

 フェナが作ることはないけど、フランカ、エルケ、シルッカたちはサラミでもソーセージでも喜んで作っている。材料はいくらでもあるので、好きなだけ練習できる感じた。作られたソーセージなどは使用人の食事としても配られている。

 フランカは夫のバーレントさんが衛兵をしているので、ソーセージなどはよく持ち帰ってから食べるそうだ。その他にも食べられる肝など、精が付くものも持ち帰っていたので、それも妊娠した理由らしい。まだ産まれるのは先だけど、その時はしばらく休んでまた復帰すると。子供はうちで預かればいいからね。預かる、か……。

「託児所的なものは無理かな?」

 リビングでぼうっと考えていた時、ポロッと口にしてしまった。

「初めて聞く名前ですねぇ」
「それは何なのです?」
「孤児院?」
「いやいや、僕はこの世界では孤児院と呼ばれるような場所で育ったけど、それはまた別。僕やマイカが暮らしていた国では夫婦共働きが多くて、子供が産まれてしばらくしたら、子供を預けて職場に戻る人も多かったからね」

 この国にないものを説明するのは難しいな。マノンとセラとキラが分かるようにするには……。

「なんと言ったらいいのか……子育てを専門としている人たちを何人も雇って、たくさんの赤ん坊や子供たちの世話をまとめてする施設と言ったら分かるかな?」
「そういうことでしたか。私もてっきり孤児院と同じようなものかと思いました」
「まあ、もう少し例えると、うちならモニクとサスキアの二人を乳母や家庭教師として雇っているけど、一般家庭にはそんな余裕はないでしょ。だからそう言った施設を作って、複数の乳母を雇って、昼間は預かった子供や赤ん坊の世話をする。施設は子供を預けるそれぞれ親からお金を受け取り、その一部を乳母に渡す。教会とは違うでしょ?」
「私はできれば自分で子育てしたいと思いますけどねぇ」
「そうしたくてそうできるのが一番良いんだろうけどね」

 生活するためには働かなくてはならない、でも働きたくても子供を預けられない。何て言ったっけ? ああ、待機児童だったかな? だいぶ日本を思い出すことも減ってきたなあ。

「まあそういう施設もあったってことなんだけどね。ユーヴィ市は来年あたりから出産ブームになると思うよ。人口が一気に増えたからね。北街道が完成したらお見合いパーティーをするつもりだから、そこでカップルが増えると思うし」
「この家が~その発祥の地ですね~」
「ご主人様の努力のたまものです」

 説明をしているところに、リゼッタの様子を見に行っていたカロリッタとカローラが戻ってきた。

「みんなが頑張ってくれているから町が大きくなったんだと思うよ」
「いえ、夜の方の話です」
「そっちの頑張り?」

 そりゃまあ、九人が妊娠中だからね。でも僕が頑張ったと言うよりも、あのお酒の力じゃないかな?

「それはいいけど、リゼッタはどうだった?」
「もう大丈夫そうですよ~。久しぶりにリスに戻って~走り回っていました~。『あーっはっはー』って高笑いしてました~。あんなリゼッタさんは~かな~り珍しいですね~」
「久しぶりにあの姿を見ましたね。以前はなかなか人の姿になりたがらなかったほどですが」

 産後の肥立ちがどうこうの話ではなく、もうすでに魔獣狩りに行く気満々だったから、この二人にチェックしてもらっていたわけ。

「じゃあ、明日にでもちょっと出かけてくるよ。みんなは無理しないでね。そう言えば他のみんなは?」
「エリーさんと~ミシェルちゃんは~フェナと一緒に~仲良さそうに話してました~」
「マリアンさんとマイカさんはベビー服を作っていました」

 エリーはフェナに子育ての相談でもしてたのかな? ベビー服はまだ早いんじゃない? せいぜいおくるみでしょ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...