新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第四部

雇用問題とお見合いパーティーの計画 一一月

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 雇用問題を考える。

 職業訓練は順調に進んでいる。でも職人をどれだけ育てても働く場所が十分にない。もちろん店を作ることはできるけど、その先がない。そろそろ本格的に対策をしないと、と思っていた頃、北街道が完成しそうだと連絡が入った。



「予定よりかなり早く終わります。無茶はしない範囲でいいところを見せて頑張ったようです。ギリギリを攻めたところでいいことなんかなんもないでしょうが……」

 ゴルジェイさんの後任として現場監督を任されているドワーフのイサイさん。もはや街道工事の専門家と呼んでもいい彼が少しあきれ気味にそう言った。

「領主様、予定よりもかなり早く終わりそうですが、お見合いパーティーは年末に近いと伝えています。どうしましょうか? 予定を変更しても大丈夫でしょうか?」

 現場に出ているギルド職員がそう聞いてきた。

 それぞれの現場には数人ずつ職員が常駐している。何か緊急事態が起きた時などに、すぐにユーヴィ市に戻って連絡をするためだ。今まで特に大きな事故や問題は起きていない。小さな問題はほとんどが現場で解決されていた。

 彼女が伝えてきたのはお見合いパーティーの予定の変更について。作業員たちには『工事が終わればお見合いパーティーをするから、無理して仕事中に異性にアピールはしないように』と伝えていた。

「そうですね……さすがに今日明日では無理なので、来週の週末にしましょう。光闇無の三日くらいやりましょうか。場所はユーヴィ市の南側にします。魔獣や野獣が来ないように対策はしておきます」
「分かりました。では各町に案内を出します。文面は以前に作ったもので同じで大丈夫でしょうか?」
「ええ、そのままで大丈夫です。移動の際には怪我などをしないように、護衛はしっかりと付けてください」
「はい、承知しました」
「その前にここの開通祝いをしましょう。とりあえずお酒とかは十分あると思うので、後のことは任せます」

 ユーヴィ市とキヴィオ市の間に通した中央街道は、最終的に二八〇〇人ほどが参加して、およそ二か月かかった。今作っている北街道は距離としてはその三倍はある。そして当初の人数は二四〇〇人で、予定は七月から半年の予定だった。

 実際に工事が始まると、八月の段階で予定よりも早く進んでいるという連絡はあった。でも途中で一部の作業員を別の場所に振り分けたから、最終的には半年近くかかると考えていたら、実際には五か月もかからなかった。途中でクリスが生まれたから、そのお祝いで一週間ほど作業が止まったけど、ほぼ影響がなかった。

 嬉しい誤算だけど、だからと言って今から南街道の工事に入れるわけいもいかないので、年内の大規模工事はこれで終わりかな。年が明けたらヴァスタ町からサガード市まで南街道を通すから、とりあえず街道作りもそれで終わりそう。その頃には本格的に雇用をどうにかしないと。



◆ ◆ ◆



 お見合いパーティー。

 元々ユーヴィ市は男性の方が多かった。そこにドワーフの作業員たちが一〇〇〇人単位で移住し、明らかに男性が多くなってしまった。現在街道の工事に参加している作業員はドワーフだけじゃないけど、八割五分はドワーフ、残り一割五分が力の自信のある獣人と人間、あるいはミノタウルスなどの亜人となっている。

 この作業員たちのうち、特にドワーフの作業員たちは現場にいる女性作業員たちに自分の力をアピールすることが増えた。例えば両手で斧やチェーンソーを持ち、二倍早く作業を進めようとしたりした。

 このチェーンソーの正式名称『魔法ノコギリ』から分かるように、[風刃]の魔法を非常に狭い範囲で連続して使うことで木を削るように切る魔道具になっている。でもスイッチを押したまま体に当てたら皮膚と肉が切られてしまうことになる。魔法の範囲的に大怪我にはならないはずだけど、あまり怪我をされても困る。だからアピールはお見合いパーティーでするようにと伝えた。ただ、男性の方がどうしても多いのでどうしようかと思っていたら、女性の移住者がやって来た。

 彼女たちは、ほぼ女性しか生まれなくなった場所で生まれ育った女性たち。そもそもの原因は、かつてこの惑星にやって来た管理者が悪さをして、その周辺の村々を男性がほぼ生まれない場所に変更してしまったからだ。今ではその土地は誰も住んでいないし、もし誰かが住み着いても問題がないように設定は解除してある。ただ、彼女たちと男性をくっつければいいかというと少々ややこしい話になる。

 彼女たちが住んでいた村にはほとんど男性がいなくて、既婚者は少数。男性慣れしていないので、ユーヴィ市などの男性の方が多い場所では気後れしてしまって上手く話せないそうだ。もちろん全員が全員というわけじゃないけど、恥ずかしくておどおどしてしまう。でも結婚したい女性は多いらしい。

 無理やりお見合いパーティーに参加させるのもどうかと思ったけど、村の代表たちからは『男性嫌いではないので大丈夫なはずです。機会を作ってあげてください」と言われたから大丈夫だと思うことにした。慣れてもらうしかないよね。

 ドワーフの作業員たち、移住してきた女性たち、元々この領地にいた独身者たち、そんな人たちを集めたお見合いパーティーが来週末に行われることになった。



◆ ◆ ◆



「託児所の素案はこんなものか」

 場所と規模を考え、どれくらいの人数でどれくらいの子供の世話をするか。一時保育のみにするのか、それとも一時保育と毎日預かるのを併用することになるのか。

 あくまで子供を預かって世話をするだけなので、しっかりとした教育を施すわけじゃない。言葉の使い方くらいは教えるけど。文字は学校を作ってからの話になるのかな。

「閣下、こちらがアンケートの結果をまとめたものです。年齢ごとに分けてあります」
「ありがとう、ジェナ」

 子供を持つ家庭のうち、託児所があれば利用したいと考えている家庭がどれくらいあるかを調査してもらった。もちろん全ての子持ちの家庭に聞けたわけじゃないけど、大まかな傾向だけでも分かれば助かる。

「ええと、この資料を見ると……〇歳と一歳は一時預かりの希望が九割近くで、四歳以降は仕事をしている日は預かってほしいという希望が七割を超えるのか」
「はい。生まれてからしばらくは他人に預けるのは不安なようで、自分で世話をしたいと思うようです。二歳と三歳は半々程度ですが、四歳以降は明らかに託児所の利用を希望しています。少し手間がかかるようになるからのようです」
「他に何か気になったことはあった?」
「希望調査以外はこちらの書類にまとめてあります」

 ジェナの几帳面な字でまとめられた書類が渡された。



 費用はどれくらいかかるのか。

 預けている間の食事はどうなるのか。

 子供の食事は自分で用意すべきなのか。

 どれくらい早くからどれくらい遅くまで預かってくれるのか。

 預けている時間で費用は変わるのか。

 おしめなどの洗濯はどうなるのか。

 追加料金を払って勉強を教えてもらうことは可能なのか。

 手伝いに行くことは可能なのか。

 領主様はどれくらいの頻度で来るのか。

 領主様は子連れに興味はあるのか。



「気になることがある人もそれなりにいるようだね。最後の方はちょっとおかしいけど」
「はい、なにぶんこれまでなかった施設のことですので、色々な質問が出たようです。最後の三つの質問もそれなりにありました。エリー様とミシェルちゃんの影響が大きいようです」
「あー……」

 ミシェルはエリーの連れ子だということはかなりの人が知っている。だからシングルマザーも対象だと思われているようだけど……。

「ひょっとして、愛人探しをしていると思われてる?」
「それはないと思いますが、夫のいない女性なら、接近してくる可能性はあり得ると思います」

 子供をダシに使うとは考えたくないけどね。

「でも、ある程度は関心があると思っていいのかな。シングルマザーもお見合いパーティーで相手が見つかればいいんだけどね」
「シングルマザー……ですか?」
「あ、そういう言い方はこっちではなかったかな。子育てが必要な年齢の子供がいる状態で夫と離婚したり死別したり、あるいは未婚のままで子供ができた女性のことだね。男性ならシングルファーザー。どっちも表すならシングルペアレント。そういう言い方があったんだよ」
「そのような状態を表す言葉はなかったと思います。そうなれば周囲が声をかけてみんなで育てることが多かったようですが」
「それで上手くいく状態じゃなかったんだろうね、あのころは」

 僕自身が施設育ちだから、やっぱり親が子供を育てやすい環境を作りたいとは思うんだよね。自分がどういう状況で預けられたかは分からないし、そこまで環境がひどくなかったからトラウマにはなっていないけど。

「とりあえず、町中でお見合いパーティーを宣伝してもらおうか。字が読めない人も多いから、声を出してもらう形になるけど」
「ではそのあたりは伝えておきます。それでもう一件、託児所という名前については変更した方がいいのではないかという意見も出ています」
「問題があった?」
「やはり聞いた瞬間は子供を託す、つまり手放して任せる場所だと受け取る人が多いようです。もちろん内容を説明すれば理解してもらえるのですが」
「あー、そうか。それなら名前も含めてもう少し練るよ」
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