207 / 278
第三章 第四部
こけら落とし
しおりを挟む
ユーヴィ市の劇場では、市立劇団ヅカによるこけら落とし公演が行われる。名前はまあ、いいんじゃない? 今回は劇団の結成記念公演ということで、無料開放している。ただ収容人数に限度があるので、二日連続で合計四回の公演を予定している。年内はこれが最初で最後になる。
作品としては建国物語が選ばれた。やはりフェリン王国の劇団としてはこれを上演しないわけにはいかない。その中に少し僕が力を貸した部分がある。一つはスポットライト。色ガラスを重ね合わせることによって様々な色を作り出すことができる。そしてもう一つは幻影で作った竜。
「ううむ。なかなか見事じゃな」
「実際のマリアンとはかなり違うけど、これはこれでありでしょ」
「ワシとあまり似た姿を用意されても、それはそれで照れるからのう」
舞台裏に設置した竜の幻影を表示させる装置。ただそれだけ。舞台があって、そこから張り出し舞台が出ている。舞台の奥から張り出し舞台にかけてマリアンの上半身がヌッと出て来るようになっている。さらには首や手の角度を調節することもできる。そして今回は初回特典として、今回しかない演出がある。それは表には出さないけど、あえて文字にすれば「声の担当:マリアン(本人)」という部分。声だけね。もし本人が出たいと言っても劇場が崩れるからね。今はお腹に赤ん坊がいるから、そもそも竜の姿に戻れないけど。
劇団ヅカはポリーナさんを座長、マリアンを顧問としている。ポリーナさんはギルド職員じゃないけど、いわゆる技術系公務員のような立場として雇っている。職業訓練学校の先生たちと枠組みは同じ。今回ポリーナさんは役者としては舞台に立たず、進行役としての語りの役を務め、演出と指導にほぼ全エネルギーを使っているようだった。
「でも無茶はしない方がいいですよ」
「はい。あのような恥ずかしい姿を見られることになるとは思ってもみませんでした」
ポリーナさんは台本に手を入れながら机で寝てしまったんだけど、寝ながらも右腕が天を掴むかのようにピーンと天井に向かって伸びていた。それをマリアンが写真に撮って見せてくれた。
「指が揃っていませんでした。まだまだ精進が足りませんね」
「それが恥ずかしかったんだ」
◆ ◆ ◆
「うーむ、移動の時に金を落とすというのは王族や貴族としては必要なことだが、なにせ時間がかかるのがな」
「たしかに。ここまで普通なら四か月弱、どれだけ急いでも二か月少々はかかります。私も結婚してからは遠出をしていませんね」
「馬車も大変ですからね」
そして今回、台本の提供をしてくれた陛下、そしていくつもの芝居でスポンサーになっている殿下とロシータさんを特別席にお招きしている。彼らの接待役としてマイカが側に付いている。血の繋がりはないとしても、マイカは陛下の息子の妻の妹になるから。
ちなみに王妃殿下は来ていない。そもそも人前にあまり出なかった人らしいけど、まあ、あれだね。あの一連の不正事件で、第一王子や第二王子と同じく、公の場には姿を見せないということになっているらしい。ここは王都じゃないから他人に見られても問題ないとは思うけど、僕を見たくないかも。
「便利は便利ですが、一対一でしか繋げることができません。また相当魔力が必要ですので、維持するのもなかなか大変ですよ」
「魔道具は術式を書き込むと聞いたことがあるが、どこに書いてあるのだ?」
「この内側になります。ちょっと剥がしてみますね」
この転移ドアは一見すると足の付いた単なる木の板で、開いたりはしない。部品は減らす方が故障しにくいからね。魔力が流れると表面が向こうと繋がるので、そこに入るだけ。入らなくても声や音は聞こえるので話もできる。
陛下が興味を持ったようなので、転移ドアの表面を少し剥がすようにして中を見せる。簡単に言うと、木のドアに頑丈な壁紙が貼ってあったような状態。術式はドア本体に書き込まれている。ドア本体は薄い板を二〇枚重ねた構造になっているので、魔力をしっかりと集めることができる。壁紙は術式が破損しないように貼ってあるだけ。
「これは……細かいな。目が痛くなる」
「一番重要な部分は真ん中の板にあって、それ以外は魔力を集めるための術式です。このドアの表面の一八倍ありますので、この国の端から端まで十分に繋げることができます。一度にあまり長い間は繋げられませんが」
「これはもう一方のドアがある場所にしか行けないわけだな?」
「はい。これはペアになるように固定しなければなりませんので、仮にお渡ししても、そのままではここにしか来られません」
「いつでも好きな場所に移動するというのはなかなか難しいか」
「海の中とか空の上とか、移動に失敗すれば大変なことになりかねませんね」
僕が使っている転移ドアって、二点間をワープして、ドアAを通ればドアBに出るような形になっている。この場合はドアAとBをセットにしてあるから、置く場所を変えても問題ない。ただ遠くなればなるほど魔力の消費量は増える。そして転移ドアと呼んでいるけど、実際には空間を繋げているだけだから[転移]が使われているわけじゃない。
ロープの端と端をドアAとBの場所とする。端と端を手に持ってくっつける。これがこのドアのやっていること。そこまで簡単な話じゃないけど、空間を無理やり繋いでいるからとりあえず[転移]とは呼べない。でも他に呼び方が思い付かないので転移ドアとしている。移動ドアもおかしいからね。
とりあえず誰もがどこへでも好き勝手に移動できるドアを作るのは今は無理。魔法の[転移]の場合は頭の中に行ったことのある場所が浮かぶから、その中から行きたい場所を選んで移動する。[転移]をドアに組み込めば、自分が行ったことのある場所にしか行けないと思う。しかも一方通行。帰って来られないからね。自分が向こうへ行くだけで、ドアはその場所に残ってしまうから。それならアクセサリーなどに内蔵した方がよっぽど使い勝手がいいと思う。
それ以外での方法となると、座標設定かな。方向と高さと距離をセットにすれば大丈夫かもしれないけど、もし間違えて「いしのなかにいる」とかになったら大変。単純な話、惑星は丸い。だから文字通り一直線に移動すればどんどん地表から離れてしまう。その補正とかもかなり面倒くさそう。地表が平らだったらよかったのに。
まあ日本でもそこまで移動が自由だったわけじゃないから、今はせいぜい馬の負担を減らして移動速度を上げるくらいがせいぜいだと思う。
例えばだけど、リレーのような感じで町から町へと設置するのはできなくはない。ナルヴァ町からユーヴィ市、ユーヴィ市から旧キヴィオ市のようにして、それを一番東のヴァリガ市まで繋げることはできる。別の方向へ行きたいならそれ用の分岐点を作ればいい。ユーヴィ市からパダ町、パダ町からヴァスタ町、それからさらに先へ。問題となるのは魔力の消費量。当たり前だけど魔力を食うからね。僕が側にいる時は僕が直接魔力を流せばいいけど、そうでなければ長時間は難しい。街道工事の現場に置いておいたドアは、使っていない時は魔力を切っていたし。
それにもし商人が使おうとすれば、馬車が通れるくらい大きくしなければならない。面積が増えれば増えるほど魔力の消費量は増える。王都や二重都市群くらいになると商人の馬車も増えるから、そうなると使いっぱなしってことにもなって完全に魔力が足りなくなる。燃料箱を使えば魔力不足の回避はできるとは思うけど、そうするとすべての町に燃料箱の充填室を設置して、ということになる。
技術的にはできるけど、もし設置するなら全部の町や村に設置しなければ、間にあるところが困ることになる。物が入ってこなくなるから。東海道・山陽新幹線がのぞみだけになれば困る駅があるのと同じ。新富士とか掛川とか三河安城とか厚狭とか。
◆ ◆ ◆
舞台は中盤の山場に差しかかっている。
「貴殿に聞いてもらいたい願いがあって、ここに参った」
「……何だ?」
「いずれこの国は大きくなる。いや、私が大きくする。だがそれまでには時間がかかろう。その間、何度かこの国の国境近くを飛んでもらいたい」
「飛ぶくらいは大した労力でもないが、何のためだ?」
「この国を攻めることは危険だと周辺国に思わせたいのだ。彼らがしばらく近寄らぬように」
「なるほどな。だが、そのようなことをしてワシにどのような益がある?」
「貴殿が人ごときに害されることはないだろうが、眠りが妨げられるくらいはあり得よう。周りにある国が攻め込んで来れば、間違いなく国中から騒がしい音が聞こえるようになる。それを避けるためと思えば、たまに空の散歩をする程度のことは大した労力でもないだろう。私ならそう思う」
「……ふーむ。お主の言葉も一理あるか……。うむ、ここはお主の話に乗せられるとしよう。しばらくの間、北と東、国境近くまで顔を見せてやろう。その代わり、お主のところの兵たちが驚いて逃げぬよう、言い含めることを忘れぬようにな」
「かたじけない。いずれ必ず礼に参る」
ここはマリアンとフェリチアーノ王が実際にした可能性があるやりとり。マリアンだって二〇〇〇年前のことだからはっきりとは覚えていないようだけど、それっぽく再現しているらしい。マリアンの声はそれっぽく聞こえるように、拡声器の魔道具で声を大きくした上に周波数を下げ、お腹に響くようにしている。さらに色ガラスのフィルターを使ってスポットライトで舞台を照らしている。
「ふう。ワシ、自分ではなかなか上手くできたと思うんじゃが、どうじゃった?」
「迫真だったね。幻影のせいもあったけど、みんなじっと聞いていたからね」
舞台裏へ行ってマリアンを出迎える。まだフェリチアーノ王が礼を言いに来る場面が残っているから、もう一度出番はあるけどね。
◆ ◆ ◆
この話は有名だ。だから王立劇場の専属劇団だけではなく、様々な劇団がそれぞれ独自の設定を入れている。話の筋は同じだが、言い回しなどはかなり違っている。
ケネス殿には専属劇団の台本を譲ったのだが、ほとんど同じながら何か所かは大きく違っていた。国王として、これまで様々な劇団が上演する建国物語を見たが、今回の演出に関してはたしかにそうだと思える部分が多くある。
「私はあのようなやりとりは初めて見たが、かなり変えてあるようだな、レオン」
「ええ、マリアン殿は古代竜なので、そのあたりを取り入れたようですね」
そう言えばマリアン殿が演出に関わっていたな。あの竜の演出は見事だった。漏らすかと思ったぞ。
「マリアン殿はシムーナ市の北の山にいたと言っていたそうだな」
「ええ、ヴェッツィオ陛下もシムーナ市でマリアン殿と会っていたそうで、その写真がかつて広間に飾ってありました」
「あの写真にあのような意味があろうとは、誰も思わなかっただろうな。誰とどう繋がっているのか分からないものだ」
息子の結婚相手の妹の夫がケネス殿というのも不思議なものだ。さらに彼の妻の一人を、これはずっと昔のことだが、私の曾祖父がナンパして財布が空になるまで奢らされたという話も聞いた。私も若いころにやんちゃはしたが、語り継がれることはないだろう。それにしてもシムーナ市ばかりだな。
「本当に今さらだが、古代竜ってそんなにたくさんいるものなのか?」
「そう言えば、何頭もいると聞いたことは……んん?」
「ねえ、マイカは知ってるんじゃないの?」
「ええっと……言ったらダメとは言われてませんけど、聞きたいですか?」
「そこで止められると気になって仕方がないわ」
それは私も同感だ。
「では言いますと、フェリチアーノ王と約束したのはマリアンさん本人です。前に王都でお芝居を観た時にそう聞きました」
「「「……」」」
「そのお礼としてフェリチアーノ王はこの国の紋章に竜の姿を入れたそうです。マリアンさんはわざわざ礼に来る律儀な男だったと言ってましたね」
「「「……」」」
国王としてこの芝居が観ることができてよかったと思う反面、知らない方がよかったと思うこともあって、今は何を言っていいのか分からないな。いずれこの演出が広まって、あたかも最初からこれが本来の話だったようになってくれれば、このモヤモヤ感も少しは薄らぐ……のか?
作品としては建国物語が選ばれた。やはりフェリン王国の劇団としてはこれを上演しないわけにはいかない。その中に少し僕が力を貸した部分がある。一つはスポットライト。色ガラスを重ね合わせることによって様々な色を作り出すことができる。そしてもう一つは幻影で作った竜。
「ううむ。なかなか見事じゃな」
「実際のマリアンとはかなり違うけど、これはこれでありでしょ」
「ワシとあまり似た姿を用意されても、それはそれで照れるからのう」
舞台裏に設置した竜の幻影を表示させる装置。ただそれだけ。舞台があって、そこから張り出し舞台が出ている。舞台の奥から張り出し舞台にかけてマリアンの上半身がヌッと出て来るようになっている。さらには首や手の角度を調節することもできる。そして今回は初回特典として、今回しかない演出がある。それは表には出さないけど、あえて文字にすれば「声の担当:マリアン(本人)」という部分。声だけね。もし本人が出たいと言っても劇場が崩れるからね。今はお腹に赤ん坊がいるから、そもそも竜の姿に戻れないけど。
劇団ヅカはポリーナさんを座長、マリアンを顧問としている。ポリーナさんはギルド職員じゃないけど、いわゆる技術系公務員のような立場として雇っている。職業訓練学校の先生たちと枠組みは同じ。今回ポリーナさんは役者としては舞台に立たず、進行役としての語りの役を務め、演出と指導にほぼ全エネルギーを使っているようだった。
「でも無茶はしない方がいいですよ」
「はい。あのような恥ずかしい姿を見られることになるとは思ってもみませんでした」
ポリーナさんは台本に手を入れながら机で寝てしまったんだけど、寝ながらも右腕が天を掴むかのようにピーンと天井に向かって伸びていた。それをマリアンが写真に撮って見せてくれた。
「指が揃っていませんでした。まだまだ精進が足りませんね」
「それが恥ずかしかったんだ」
◆ ◆ ◆
「うーむ、移動の時に金を落とすというのは王族や貴族としては必要なことだが、なにせ時間がかかるのがな」
「たしかに。ここまで普通なら四か月弱、どれだけ急いでも二か月少々はかかります。私も結婚してからは遠出をしていませんね」
「馬車も大変ですからね」
そして今回、台本の提供をしてくれた陛下、そしていくつもの芝居でスポンサーになっている殿下とロシータさんを特別席にお招きしている。彼らの接待役としてマイカが側に付いている。血の繋がりはないとしても、マイカは陛下の息子の妻の妹になるから。
ちなみに王妃殿下は来ていない。そもそも人前にあまり出なかった人らしいけど、まあ、あれだね。あの一連の不正事件で、第一王子や第二王子と同じく、公の場には姿を見せないということになっているらしい。ここは王都じゃないから他人に見られても問題ないとは思うけど、僕を見たくないかも。
「便利は便利ですが、一対一でしか繋げることができません。また相当魔力が必要ですので、維持するのもなかなか大変ですよ」
「魔道具は術式を書き込むと聞いたことがあるが、どこに書いてあるのだ?」
「この内側になります。ちょっと剥がしてみますね」
この転移ドアは一見すると足の付いた単なる木の板で、開いたりはしない。部品は減らす方が故障しにくいからね。魔力が流れると表面が向こうと繋がるので、そこに入るだけ。入らなくても声や音は聞こえるので話もできる。
陛下が興味を持ったようなので、転移ドアの表面を少し剥がすようにして中を見せる。簡単に言うと、木のドアに頑丈な壁紙が貼ってあったような状態。術式はドア本体に書き込まれている。ドア本体は薄い板を二〇枚重ねた構造になっているので、魔力をしっかりと集めることができる。壁紙は術式が破損しないように貼ってあるだけ。
「これは……細かいな。目が痛くなる」
「一番重要な部分は真ん中の板にあって、それ以外は魔力を集めるための術式です。このドアの表面の一八倍ありますので、この国の端から端まで十分に繋げることができます。一度にあまり長い間は繋げられませんが」
「これはもう一方のドアがある場所にしか行けないわけだな?」
「はい。これはペアになるように固定しなければなりませんので、仮にお渡ししても、そのままではここにしか来られません」
「いつでも好きな場所に移動するというのはなかなか難しいか」
「海の中とか空の上とか、移動に失敗すれば大変なことになりかねませんね」
僕が使っている転移ドアって、二点間をワープして、ドアAを通ればドアBに出るような形になっている。この場合はドアAとBをセットにしてあるから、置く場所を変えても問題ない。ただ遠くなればなるほど魔力の消費量は増える。そして転移ドアと呼んでいるけど、実際には空間を繋げているだけだから[転移]が使われているわけじゃない。
ロープの端と端をドアAとBの場所とする。端と端を手に持ってくっつける。これがこのドアのやっていること。そこまで簡単な話じゃないけど、空間を無理やり繋いでいるからとりあえず[転移]とは呼べない。でも他に呼び方が思い付かないので転移ドアとしている。移動ドアもおかしいからね。
とりあえず誰もがどこへでも好き勝手に移動できるドアを作るのは今は無理。魔法の[転移]の場合は頭の中に行ったことのある場所が浮かぶから、その中から行きたい場所を選んで移動する。[転移]をドアに組み込めば、自分が行ったことのある場所にしか行けないと思う。しかも一方通行。帰って来られないからね。自分が向こうへ行くだけで、ドアはその場所に残ってしまうから。それならアクセサリーなどに内蔵した方がよっぽど使い勝手がいいと思う。
それ以外での方法となると、座標設定かな。方向と高さと距離をセットにすれば大丈夫かもしれないけど、もし間違えて「いしのなかにいる」とかになったら大変。単純な話、惑星は丸い。だから文字通り一直線に移動すればどんどん地表から離れてしまう。その補正とかもかなり面倒くさそう。地表が平らだったらよかったのに。
まあ日本でもそこまで移動が自由だったわけじゃないから、今はせいぜい馬の負担を減らして移動速度を上げるくらいがせいぜいだと思う。
例えばだけど、リレーのような感じで町から町へと設置するのはできなくはない。ナルヴァ町からユーヴィ市、ユーヴィ市から旧キヴィオ市のようにして、それを一番東のヴァリガ市まで繋げることはできる。別の方向へ行きたいならそれ用の分岐点を作ればいい。ユーヴィ市からパダ町、パダ町からヴァスタ町、それからさらに先へ。問題となるのは魔力の消費量。当たり前だけど魔力を食うからね。僕が側にいる時は僕が直接魔力を流せばいいけど、そうでなければ長時間は難しい。街道工事の現場に置いておいたドアは、使っていない時は魔力を切っていたし。
それにもし商人が使おうとすれば、馬車が通れるくらい大きくしなければならない。面積が増えれば増えるほど魔力の消費量は増える。王都や二重都市群くらいになると商人の馬車も増えるから、そうなると使いっぱなしってことにもなって完全に魔力が足りなくなる。燃料箱を使えば魔力不足の回避はできるとは思うけど、そうするとすべての町に燃料箱の充填室を設置して、ということになる。
技術的にはできるけど、もし設置するなら全部の町や村に設置しなければ、間にあるところが困ることになる。物が入ってこなくなるから。東海道・山陽新幹線がのぞみだけになれば困る駅があるのと同じ。新富士とか掛川とか三河安城とか厚狭とか。
◆ ◆ ◆
舞台は中盤の山場に差しかかっている。
「貴殿に聞いてもらいたい願いがあって、ここに参った」
「……何だ?」
「いずれこの国は大きくなる。いや、私が大きくする。だがそれまでには時間がかかろう。その間、何度かこの国の国境近くを飛んでもらいたい」
「飛ぶくらいは大した労力でもないが、何のためだ?」
「この国を攻めることは危険だと周辺国に思わせたいのだ。彼らがしばらく近寄らぬように」
「なるほどな。だが、そのようなことをしてワシにどのような益がある?」
「貴殿が人ごときに害されることはないだろうが、眠りが妨げられるくらいはあり得よう。周りにある国が攻め込んで来れば、間違いなく国中から騒がしい音が聞こえるようになる。それを避けるためと思えば、たまに空の散歩をする程度のことは大した労力でもないだろう。私ならそう思う」
「……ふーむ。お主の言葉も一理あるか……。うむ、ここはお主の話に乗せられるとしよう。しばらくの間、北と東、国境近くまで顔を見せてやろう。その代わり、お主のところの兵たちが驚いて逃げぬよう、言い含めることを忘れぬようにな」
「かたじけない。いずれ必ず礼に参る」
ここはマリアンとフェリチアーノ王が実際にした可能性があるやりとり。マリアンだって二〇〇〇年前のことだからはっきりとは覚えていないようだけど、それっぽく再現しているらしい。マリアンの声はそれっぽく聞こえるように、拡声器の魔道具で声を大きくした上に周波数を下げ、お腹に響くようにしている。さらに色ガラスのフィルターを使ってスポットライトで舞台を照らしている。
「ふう。ワシ、自分ではなかなか上手くできたと思うんじゃが、どうじゃった?」
「迫真だったね。幻影のせいもあったけど、みんなじっと聞いていたからね」
舞台裏へ行ってマリアンを出迎える。まだフェリチアーノ王が礼を言いに来る場面が残っているから、もう一度出番はあるけどね。
◆ ◆ ◆
この話は有名だ。だから王立劇場の専属劇団だけではなく、様々な劇団がそれぞれ独自の設定を入れている。話の筋は同じだが、言い回しなどはかなり違っている。
ケネス殿には専属劇団の台本を譲ったのだが、ほとんど同じながら何か所かは大きく違っていた。国王として、これまで様々な劇団が上演する建国物語を見たが、今回の演出に関してはたしかにそうだと思える部分が多くある。
「私はあのようなやりとりは初めて見たが、かなり変えてあるようだな、レオン」
「ええ、マリアン殿は古代竜なので、そのあたりを取り入れたようですね」
そう言えばマリアン殿が演出に関わっていたな。あの竜の演出は見事だった。漏らすかと思ったぞ。
「マリアン殿はシムーナ市の北の山にいたと言っていたそうだな」
「ええ、ヴェッツィオ陛下もシムーナ市でマリアン殿と会っていたそうで、その写真がかつて広間に飾ってありました」
「あの写真にあのような意味があろうとは、誰も思わなかっただろうな。誰とどう繋がっているのか分からないものだ」
息子の結婚相手の妹の夫がケネス殿というのも不思議なものだ。さらに彼の妻の一人を、これはずっと昔のことだが、私の曾祖父がナンパして財布が空になるまで奢らされたという話も聞いた。私も若いころにやんちゃはしたが、語り継がれることはないだろう。それにしてもシムーナ市ばかりだな。
「本当に今さらだが、古代竜ってそんなにたくさんいるものなのか?」
「そう言えば、何頭もいると聞いたことは……んん?」
「ねえ、マイカは知ってるんじゃないの?」
「ええっと……言ったらダメとは言われてませんけど、聞きたいですか?」
「そこで止められると気になって仕方がないわ」
それは私も同感だ。
「では言いますと、フェリチアーノ王と約束したのはマリアンさん本人です。前に王都でお芝居を観た時にそう聞きました」
「「「……」」」
「そのお礼としてフェリチアーノ王はこの国の紋章に竜の姿を入れたそうです。マリアンさんはわざわざ礼に来る律儀な男だったと言ってましたね」
「「「……」」」
国王としてこの芝居が観ることができてよかったと思う反面、知らない方がよかったと思うこともあって、今は何を言っていいのか分からないな。いずれこの演出が広まって、あたかも最初からこれが本来の話だったようになってくれれば、このモヤモヤ感も少しは薄らぐ……のか?
1
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる