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第三章 第二部
新たな名物?
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ユーヴィ男爵領では現在、サトウキビ、バナナ、パイナップル、ココナッツ、カカオの栽培をして、さらにその繊維から紙も作っている。今のところ名産品や名物と言えるのはそれくらいだと僕は思っていた。
「コークも名物に入れていいと思うんだよねー。そろそろ正式に販売しない?」
そう言いに来たのは他の誰でもないアシルさんだ。元アメリカ人で、今は職業訓練学校で鍛冶を教えている。奥さんは元日本人のフランシスさん。彼女は陶芸の先生をしている。
「魔道具がないと香料の抽出が難しいですが、砂糖以外はそこまで高価な材料は使っていませんので製造と販売は可能です」
「それならいっそのことコークとジンジャーエールを一緒に販売しよう!」
「まあ中身は大丈夫なんですよ、中身は。問題は容器の方なんですよ」
この世界ではガラスが高価なんだよね。ガラスだけじゃなくて陶磁器や金属製品も。早い話が窯を使わなければいけないものは高い。平民が使う食器は木でできているものがほとんど。
僕は自分でガラス容器を作っているから必要なのは原料代だけ。アシルさんに渡しているコーラは僕が作った瓶に入ったものだ。[結界]で作った魔法の鋳型の中に原料を入れ、[加熱]で溶かして[冷却]でゆっくり冷ます。グラスだってコーラ瓶だってこれで作っている。でも大量に作れるものじゃないからね。
「アシルさんや僕が知っているような、一人分の瓶や缶で売るのは無理でしょう。現状ではさすがにコストがかかりすぎます。売るとすれば、もっと大きな容器に入れて、パーティーなどで開ける感じになるでしょうか」
「やっぱり一人分ずつは無理かなあ……」
「コーラと言えばあの瓶にしたいのは分かりますが、ガラスが高価ですからね。でも樽を密閉して揺らしすぎると蓋が飛びます。一応ガラス瓶については伝手はありますが、だからと言って安くはならないんですよ」
瓶の口のところにゴムの代わりにコルクっぽい木を薄く切って乗せ、そこに王冠っぽい蓋を[魔力手]を使ってグッと取り付けている。それをマジックバッグに入れているから炭酸が抜けることはない。
ガラスの伝手はキヴィオ市で、あの町はガラス職人が多いから、頼めば喜んでガラス瓶を作ってくれると思う。でも中身よりも容器の方がはるかに高いとなると、さすがに買う人はいないでしょ。でも貴族ならいけるかな?
「うーん、それなら技術の進歩に任せるしかないか……」
「専用の魔道具を作ればできなくはないのですが、やり過ぎると技術が発達しないですし、この国の経済が崩壊しますからね」
僕一人が自分用に作るくらいの量なら問題にはならないけど、ガラス瓶が安価で大量に作られるとなるとガラス職人たちが職を失ってしまう。この領地だけが栄えても仕方ないからね。
もう一つやり方を考えるとすれば、レオニートさんが旧キヴィオ市の代官になった後の話だけど、ガラス製造に必要な行程の一部を魔道具化して、それを提供するのと引き換えにガラス瓶を融通してもらうという案。一番お金のかかる窯の部分は職業訓練学校でも魔道具になっているから、それを提供する形だね。魔力は自前で用意してもらうか、燃料箱もセットにするかは分からないけど、そういうやり方もあると言えばある。その前にこちらで何かができるとすれば——
「アシルさんが新しい容器を開発してみるとか?」
「うーん、瓶が難しいなら、缶かなあ。ケネス君もプラスチックはさすがに作れないよね?」
「元の仕事柄、ざっくりとした理屈だけは分かるんですけどね。原油や天然ガスからナフサを取り出して、さらにそこから取り出したエチレングリコールとテレフタル酸を脱水縮合させたのがポリエチレンテレフタラートだということは覚えていますけど、原油も天然ガスもないんですよ。どこかには埋まっているとは思いますけど」
「そうだねえ。石油様々だったね」
「あったとしても精製プラントを建てるわけにもいきませんからね」
ペットボトルだろうが服だろうが、石油なしで作れるものって限られるんだよね。飲み物には紙パックもあったけど、あれも内側はポリエチレンやアルミでコーティングされているし、少なくとも電子機器系は全滅。そうなると全てが手仕事に逆戻りしてしまう。歯ブラシは材料がないし、トイレットペーパーも作れないからね。結局この世界と変わらなくなってしまう。しかも魔法すらない。
「だから容器を作るとすればガラスか金属になります。缶飲料は、アルミか鉄になるでしょうね。鉄の場合は錆びないようにクロムメッキが使われていました」
「メッキは僕もやったことがないねー」
「僕も細かな工程まではさすがに知りません。そもそも電気がない世界なので、電気メッキができないのが最大の難点です。クロムがあれば魔法で無理やりできなくはないですが、それでも高価なことには変わりないですからね」
「うーん、すぐには無理だろうけど、新しい素材や容器を考えてみるよ。去年までは鍛冶も引退してどうなるのかなと思ってたけど、これで人生にハリが出るねー。とりあえず頑張ってみるよ」
「僕の方はとりあえず、大きな瓶を作ってもらって、それに密閉用の口を付けることにします」
梅酒を作るガラス瓶ってあるじゃない。金属の留め具が付いたやつ。あの仕組みを使ったコーラ瓶なら作れる。でも自販機で買うようなサイズでは売れないだろうね。容器代がかかりすぎるから。
一〇リットルくらいのワインボトルを作り、口の部分は金具を取り付けて、塞ぐ部分はゴムを使う。炭酸ガスはそこまで強くしないから、よほど揺らさなければ大丈夫だと思う。できる限りマジックバッグに入れておくということにすれば蓋が飛ぶことはないと思う。
試験的にいくつか瓶詰めしてみて、評判が良さそうなら貴族相手に売ってみるのもいいね。それとも王都の公営商店でもいいかもしれない。あの店はユーヴィ男爵領に商人を呼び込むために売れそうなものを並べているんだけどね。マジックバッグはあるから、普段はそこに入れてカップ売りしてもいいのかも。とりあえず持って行くべき場所は……あそこかな?
◆ ◆ ◆
「ほうほう、どちらも喉越しが素晴らしい。暑い時期にはぴったりだな」
「ええ、すっと汗が引きますね」
フェリン王国の夏は日本の夏のように蒸し暑くないし、気温もそこまでは上がらないけど、暑いのは暑い。今は六月で、そろそろ本格的に暑くなる。そうなれば冷たい飲み物が美味しいのはどの世界でもどの国でも変わらない。
殿下とロシータさんには申し訳ないけど、僕が作ったものに対して王族や貴族がどのような反応をするかを確認するには、二人がピッタリなんだよね。身内ということもあるし、率直な反応が返ってくるから。
「ジンジャーエールはそのままでもいいですが、お酒を割って飲む方法もあります。エールと混ぜるとシャンディ・ガフというカクテルになります。コーラの方は様々な植物から取り出した香料が入っていますので、薬のような癖のある香りがします。こちらにも癖の少ない蒸留酒で割って飲むカクテルもありますね。どちらも口当たりはいいですが、それなりに砂糖が入っていますので、飲みすぎない方がいいですね」
「あまり甘く感じないが、それでも砂糖が多いのか?」
「ええ、むしろスッキリしていると感じるほどですね」
「ざっくりこれくらいは入っています」
僕は皿にグラス一杯あたりの砂糖を入れて二人に見せると、二人は目をまん丸にした。
地球の場合は砂糖の一日の摂取量は二五グラムが目安になっていた。五〇〇ミリリットルのペットボトルで考えると、普通の炭酸飲料は五〇グラムから六〇グラムの間くらいなので、それ一本で一日の目安の二倍は入っている。スポーツ飲料でも二〇グラムから三〇グラムの間が多いので、それでも一日の目安と同じくらいになる。飲み過ぎはよくないね。
炭酸ガスは文字通り酸だから、それが溶け込むことによって弱酸性の液体になる。だから酸味が出て糖分を感じにくくなる。そしてガスが抜けると酸味が消えるから、甘さが強く感じられるようになる。さらに冷やせば甘みは感じにくくなるし、温くなればベタッと甘さが気になるようになる。
「そこが味覚の面白いところです。でも砂糖が多いということは、体調を崩して食事が喉を通らない時でも、これを飲めば多少は栄養補給になって体力が落ちるのを防ぐことができます。砂糖を除けば、体に悪いものは入っていませんので、飲み過ぎなければ問題はありません」
「ふむ。たしかに目新しいな。これもユーヴィ市で作っているのか?」
「まだ商用にはしていません。あくまで個人用ですね。売るとすればこのように大きめの瓶に入れた形になると思います。どうしても容器代が高くなりますので」
「色々聞いて申し訳ないが、炭酸ガスというものは、たまに山の近くの泉に湧いているものと同じか?」
「おそらく同じものです。自然のものは、湧水が地面の中で炭酸ガスの中を通ってきたためですが、僕の場合は魔法で抽出してから水に溶かし込んでいます」
殿下が言った泉は、マリアンが住んでいた山の麓にあるシムーナ市の周辺にあるらしい。以前マリアンのことを調べに出かけたところ、泉から細かな泡が出ていたので気になって触ってみたらプチプチと面白い感触がしたとか。時間があったら行ってみようか。
基礎化粧品の時もそうだったけど、やはり殿下やロシータさんが使っているとか口にしているとか、そのような評判は馬鹿にできない。二人に試してもらったものはしっかり売れているからね。
一部の基礎化粧品——例えば蒸留酒などに柑橘の種を漬けたローションなど——の作り方は、もし聞かれたら教えてもいいと伝えてある。でもロシータさんと同じものを手に入れることがステータスになるというのは貴族の中ではごく普通のことで、貴族の御用商人や、その話を聞いて儲かると思った商人たちがユーヴィ市に来ている。殿下が王位継承権を回復すれば時期国王になる可能性が高まるので、ロシータさんも王妃になる可能性が高くなったことも関係あるんだろう。
貴族からお金を巻き上げるだけでよければ、王都の店に高価な商品をずらっと並べればいいだけの話なんだけどね。でもどうすればユーヴィ男爵領にもっと人が来てお金を落としていってくれるかを考えれば、あくまで王都の直営店は呼び水にしか使わない。だからユーヴィ男爵領に来てもらう手段を増やすための商品はお店に並べることにした。
直営店では、領内の移動手段になっている乗合馬車の馬や巡回兵の乗る馬に付けている首輪型の魔道具の廉価版を販売している。魔石が必要かどうかの違いだけど。[身体強化]や[回復]の術式が組み込まれていて、魔石を交換すればずっと使える。このような魔道具はすでに作られていたけど、数が少なかったからどうしても高価になっていた。それを妥当な値段で販売しただけ。これを使ってユーヴィ市まで来てくださいという販促だね。
「コークも名物に入れていいと思うんだよねー。そろそろ正式に販売しない?」
そう言いに来たのは他の誰でもないアシルさんだ。元アメリカ人で、今は職業訓練学校で鍛冶を教えている。奥さんは元日本人のフランシスさん。彼女は陶芸の先生をしている。
「魔道具がないと香料の抽出が難しいですが、砂糖以外はそこまで高価な材料は使っていませんので製造と販売は可能です」
「それならいっそのことコークとジンジャーエールを一緒に販売しよう!」
「まあ中身は大丈夫なんですよ、中身は。問題は容器の方なんですよ」
この世界ではガラスが高価なんだよね。ガラスだけじゃなくて陶磁器や金属製品も。早い話が窯を使わなければいけないものは高い。平民が使う食器は木でできているものがほとんど。
僕は自分でガラス容器を作っているから必要なのは原料代だけ。アシルさんに渡しているコーラは僕が作った瓶に入ったものだ。[結界]で作った魔法の鋳型の中に原料を入れ、[加熱]で溶かして[冷却]でゆっくり冷ます。グラスだってコーラ瓶だってこれで作っている。でも大量に作れるものじゃないからね。
「アシルさんや僕が知っているような、一人分の瓶や缶で売るのは無理でしょう。現状ではさすがにコストがかかりすぎます。売るとすれば、もっと大きな容器に入れて、パーティーなどで開ける感じになるでしょうか」
「やっぱり一人分ずつは無理かなあ……」
「コーラと言えばあの瓶にしたいのは分かりますが、ガラスが高価ですからね。でも樽を密閉して揺らしすぎると蓋が飛びます。一応ガラス瓶については伝手はありますが、だからと言って安くはならないんですよ」
瓶の口のところにゴムの代わりにコルクっぽい木を薄く切って乗せ、そこに王冠っぽい蓋を[魔力手]を使ってグッと取り付けている。それをマジックバッグに入れているから炭酸が抜けることはない。
ガラスの伝手はキヴィオ市で、あの町はガラス職人が多いから、頼めば喜んでガラス瓶を作ってくれると思う。でも中身よりも容器の方がはるかに高いとなると、さすがに買う人はいないでしょ。でも貴族ならいけるかな?
「うーん、それなら技術の進歩に任せるしかないか……」
「専用の魔道具を作ればできなくはないのですが、やり過ぎると技術が発達しないですし、この国の経済が崩壊しますからね」
僕一人が自分用に作るくらいの量なら問題にはならないけど、ガラス瓶が安価で大量に作られるとなるとガラス職人たちが職を失ってしまう。この領地だけが栄えても仕方ないからね。
もう一つやり方を考えるとすれば、レオニートさんが旧キヴィオ市の代官になった後の話だけど、ガラス製造に必要な行程の一部を魔道具化して、それを提供するのと引き換えにガラス瓶を融通してもらうという案。一番お金のかかる窯の部分は職業訓練学校でも魔道具になっているから、それを提供する形だね。魔力は自前で用意してもらうか、燃料箱もセットにするかは分からないけど、そういうやり方もあると言えばある。その前にこちらで何かができるとすれば——
「アシルさんが新しい容器を開発してみるとか?」
「うーん、瓶が難しいなら、缶かなあ。ケネス君もプラスチックはさすがに作れないよね?」
「元の仕事柄、ざっくりとした理屈だけは分かるんですけどね。原油や天然ガスからナフサを取り出して、さらにそこから取り出したエチレングリコールとテレフタル酸を脱水縮合させたのがポリエチレンテレフタラートだということは覚えていますけど、原油も天然ガスもないんですよ。どこかには埋まっているとは思いますけど」
「そうだねえ。石油様々だったね」
「あったとしても精製プラントを建てるわけにもいきませんからね」
ペットボトルだろうが服だろうが、石油なしで作れるものって限られるんだよね。飲み物には紙パックもあったけど、あれも内側はポリエチレンやアルミでコーティングされているし、少なくとも電子機器系は全滅。そうなると全てが手仕事に逆戻りしてしまう。歯ブラシは材料がないし、トイレットペーパーも作れないからね。結局この世界と変わらなくなってしまう。しかも魔法すらない。
「だから容器を作るとすればガラスか金属になります。缶飲料は、アルミか鉄になるでしょうね。鉄の場合は錆びないようにクロムメッキが使われていました」
「メッキは僕もやったことがないねー」
「僕も細かな工程まではさすがに知りません。そもそも電気がない世界なので、電気メッキができないのが最大の難点です。クロムがあれば魔法で無理やりできなくはないですが、それでも高価なことには変わりないですからね」
「うーん、すぐには無理だろうけど、新しい素材や容器を考えてみるよ。去年までは鍛冶も引退してどうなるのかなと思ってたけど、これで人生にハリが出るねー。とりあえず頑張ってみるよ」
「僕の方はとりあえず、大きな瓶を作ってもらって、それに密閉用の口を付けることにします」
梅酒を作るガラス瓶ってあるじゃない。金属の留め具が付いたやつ。あの仕組みを使ったコーラ瓶なら作れる。でも自販機で買うようなサイズでは売れないだろうね。容器代がかかりすぎるから。
一〇リットルくらいのワインボトルを作り、口の部分は金具を取り付けて、塞ぐ部分はゴムを使う。炭酸ガスはそこまで強くしないから、よほど揺らさなければ大丈夫だと思う。できる限りマジックバッグに入れておくということにすれば蓋が飛ぶことはないと思う。
試験的にいくつか瓶詰めしてみて、評判が良さそうなら貴族相手に売ってみるのもいいね。それとも王都の公営商店でもいいかもしれない。あの店はユーヴィ男爵領に商人を呼び込むために売れそうなものを並べているんだけどね。マジックバッグはあるから、普段はそこに入れてカップ売りしてもいいのかも。とりあえず持って行くべき場所は……あそこかな?
◆ ◆ ◆
「ほうほう、どちらも喉越しが素晴らしい。暑い時期にはぴったりだな」
「ええ、すっと汗が引きますね」
フェリン王国の夏は日本の夏のように蒸し暑くないし、気温もそこまでは上がらないけど、暑いのは暑い。今は六月で、そろそろ本格的に暑くなる。そうなれば冷たい飲み物が美味しいのはどの世界でもどの国でも変わらない。
殿下とロシータさんには申し訳ないけど、僕が作ったものに対して王族や貴族がどのような反応をするかを確認するには、二人がピッタリなんだよね。身内ということもあるし、率直な反応が返ってくるから。
「ジンジャーエールはそのままでもいいですが、お酒を割って飲む方法もあります。エールと混ぜるとシャンディ・ガフというカクテルになります。コーラの方は様々な植物から取り出した香料が入っていますので、薬のような癖のある香りがします。こちらにも癖の少ない蒸留酒で割って飲むカクテルもありますね。どちらも口当たりはいいですが、それなりに砂糖が入っていますので、飲みすぎない方がいいですね」
「あまり甘く感じないが、それでも砂糖が多いのか?」
「ええ、むしろスッキリしていると感じるほどですね」
「ざっくりこれくらいは入っています」
僕は皿にグラス一杯あたりの砂糖を入れて二人に見せると、二人は目をまん丸にした。
地球の場合は砂糖の一日の摂取量は二五グラムが目安になっていた。五〇〇ミリリットルのペットボトルで考えると、普通の炭酸飲料は五〇グラムから六〇グラムの間くらいなので、それ一本で一日の目安の二倍は入っている。スポーツ飲料でも二〇グラムから三〇グラムの間が多いので、それでも一日の目安と同じくらいになる。飲み過ぎはよくないね。
炭酸ガスは文字通り酸だから、それが溶け込むことによって弱酸性の液体になる。だから酸味が出て糖分を感じにくくなる。そしてガスが抜けると酸味が消えるから、甘さが強く感じられるようになる。さらに冷やせば甘みは感じにくくなるし、温くなればベタッと甘さが気になるようになる。
「そこが味覚の面白いところです。でも砂糖が多いということは、体調を崩して食事が喉を通らない時でも、これを飲めば多少は栄養補給になって体力が落ちるのを防ぐことができます。砂糖を除けば、体に悪いものは入っていませんので、飲み過ぎなければ問題はありません」
「ふむ。たしかに目新しいな。これもユーヴィ市で作っているのか?」
「まだ商用にはしていません。あくまで個人用ですね。売るとすればこのように大きめの瓶に入れた形になると思います。どうしても容器代が高くなりますので」
「色々聞いて申し訳ないが、炭酸ガスというものは、たまに山の近くの泉に湧いているものと同じか?」
「おそらく同じものです。自然のものは、湧水が地面の中で炭酸ガスの中を通ってきたためですが、僕の場合は魔法で抽出してから水に溶かし込んでいます」
殿下が言った泉は、マリアンが住んでいた山の麓にあるシムーナ市の周辺にあるらしい。以前マリアンのことを調べに出かけたところ、泉から細かな泡が出ていたので気になって触ってみたらプチプチと面白い感触がしたとか。時間があったら行ってみようか。
基礎化粧品の時もそうだったけど、やはり殿下やロシータさんが使っているとか口にしているとか、そのような評判は馬鹿にできない。二人に試してもらったものはしっかり売れているからね。
一部の基礎化粧品——例えば蒸留酒などに柑橘の種を漬けたローションなど——の作り方は、もし聞かれたら教えてもいいと伝えてある。でもロシータさんと同じものを手に入れることがステータスになるというのは貴族の中ではごく普通のことで、貴族の御用商人や、その話を聞いて儲かると思った商人たちがユーヴィ市に来ている。殿下が王位継承権を回復すれば時期国王になる可能性が高まるので、ロシータさんも王妃になる可能性が高くなったことも関係あるんだろう。
貴族からお金を巻き上げるだけでよければ、王都の店に高価な商品をずらっと並べればいいだけの話なんだけどね。でもどうすればユーヴィ男爵領にもっと人が来てお金を落としていってくれるかを考えれば、あくまで王都の直営店は呼び水にしか使わない。だからユーヴィ男爵領に来てもらう手段を増やすための商品はお店に並べることにした。
直営店では、領内の移動手段になっている乗合馬車の馬や巡回兵の乗る馬に付けている首輪型の魔道具の廉価版を販売している。魔石が必要かどうかの違いだけど。[身体強化]や[回復]の術式が組み込まれていて、魔石を交換すればずっと使える。このような魔道具はすでに作られていたけど、数が少なかったからどうしても高価になっていた。それを妥当な値段で販売しただけ。これを使ってユーヴィ市まで来てくださいという販促だね。
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