新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第四部

いずれ引き継ぐために

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 今日が終われば正式に領主になってから一年になる。最初は興味が一割で嫌気が九割だったけど、今では引き受けてよかったと思う。人も増えたし町にやってくる商人も増えた。多少強引なやり方ではあったけど、街道を通したのがよかった。全部あれのおかげだね。領地全体の経済が上手く回るようになればいいんだけど、まだそこまではいかない。もう一本街道を通して、東と北と南に繋がってからようやくスタートだと思っている。

 やることはやったし言うことは言ったけど、僕や妻たちじゃなければできないようなことはそこまで多くない。強いて言えば大森林の魔獣を狩ってくることと燃料箱バッテリー周辺の一部くらいだろうか。

 大森林から吸い上げた魔素は僕が作った魔素保管用異空間に溜められている。そこから別の異空間に移動させて魔力に変換している。そこからもう一つ別の異空間に移して、そこで魔力を分岐させてそれぞれの場所で使えるようにしている。その一つがユーヴィ市総合ギルドの燃料箱バッテリーの充填室に繋がっている。

 今のところはうちと新キヴィオ市、そして旧キヴィオ市の合計三か所のみ。契約先を増やすだけ増やして使えなくなるなんてことがあったらダメだから、今のところは無理をして増やすつもりはない。溜まった魔力は増え続けているから問題ないとは思うけど、フォレスタのようにいきなり不思議な存在が生まれることもないわけではないので、時々は様子を見ながら運用することになると思う。

 しかしまあ、とりあえずこの一年は我ながらよく働いたと思う。でもそろそろ動きたいんだよね。よく動いてるって思われるかもしれないけど、それとは違うから。知っているところを移動するのと知らないところを移動するのは気分的にも違ってくる。単なる繰り返しなのか、それとも未知を経験するのか。異文化に触れるというは後者になる。それも繰り返すうちに前者になっていくから、常に新しい文化に触れていないと未知は経験できない。これはもうさがだね。

 領主一年目に蒔くべき種は蒔いた。子作りの話じゃなくて領地のことね。だからそろそろ先へ進もうと思っている。

 最初この世界に来た頃は、とりあえず東に向かって王都まで行き、そこからどんどん東へ向かおうと思っていた。でも進んだり戻ったりしているうちに領主になった。その間に家族になった中で、親に挨拶をしていないのはジェナだけ。それならまずはクルディ王国が先かな。

 うちの特産品はほとんどクルディ王国からやって来た。サトウキビ、パイナップル、バナナ、パラ(ゴムの木)、カカオ、ココナッツなどなど。まだ町では栽培はしていないけど、異空間の方ではコーヒーの木を栽培している。コーヒーは来年作ろうと思っている町のどこかで栽培できればいいかな。

 新しい町の候補地としては、ナルヴァ町とシラマエ町の間、ナルヴァ町とソルディ町の間。ユーヴィ男爵領を時計に例えると、それぞれ七時半と一〇時半の方向になる。あるいはユーヴィ市と旧キヴィオ市の間に走る中央街道の途中、アルメ町からエレーダ町の間に走る北街道の途中、ヴァスタ町とサガード市の間に走る南街道の途中、とりあえず森を切り拓いた街道の途中には町は欲しい。



 実はそれ以外にも考えていることはある。ナルヴァ町とユーヴィ市のちょうど中間点、今は街道の分岐と一里塚があるだけなんだけど、そこにも一つ町を作りたい。これは商業活動を活性化するためじゃなくて、領内で人の動きを活発にするため。要するに、安全を確保した上で、もっと領民に領内を移動してほしいから作る中継のための町。もっと先の話になるとは思うけど、いずれはそこに領都を移動させるのもありだと思う。もっともそれは子供の代になるだろうね。僕にとってのユーヴィ市は今の場所だから。

 まあそのようなことを進めるためには、一つ一つ僕が面倒を見なくても、ギルドを中心にして勝手に動いてくれるようにならないといけない。もちろん好き勝手されるとキヴィオ市みたいになるけど、守るべきルールは守った上で、その中で自由に動けるようになるといい。

 その一つの形として劇団ヅカと児童館が相互協力がある。僕が促した部分はあるけど、劇団が編集した物語を児童館で紙芝居や人形劇にし、それで子供たちが慣れてきたら劇場に連れて行く。小さい頃から歌や演劇に触れる機会を作るのが目的。ポリーナさん自身も小さな頃から舞台に上がるのを目指していたようだから、積極的に動いているようだ。まあ頑張るのはいいけど、不思議な体勢で潰れないでほしいね。怖いから。



 他には食べ物の話。ある意味では僕が一番力を入れたところだね。

 農畜水産物ギルドの管轄となった公営農場と公営牧場は安定して領内に食材を供給してくれている。個人の畑で作られている野菜とは競合しそうでしていない。

 現在のところ、個人で畑をしている人の多くは公営農場でも働いている。そして自分の家の畑で作った野菜の半分は自分用、残った分を市場で売るなど、ダブルワークのようになっている。農場でできた種を持ち帰ることもできるし、自分で作って売る分には値段の調整もできるからね。

 完成したばかりの牧場には異空間で飼っていた牛と山羊、そして町の中で飼っていたニワトリたちを移したけど、見ている限りは問題なさそう。いずれはそこで乳搾り体験とかをできるようにしたい。

 牧場はユーヴィ市の外にある。歩いて三〇分くらいだけど。個人では町の外に出ない人が多いから、外へ出るきっかけとなってくれればいい。

 普通の人は本当に町から出ないんだよ。お見合いパーティーをしたけど、あれも人数的に町中は難しいから外でとなった。でもあまり離れると怖がられるから、城門を出てすぐところになった。ちゃんと柵を作って兵士に警備させて。それくらいしないと外へは出ない。国内のあちこちに旅行とはいかなくても、領内くらい普通に歩いて移動するくらいは普通になってほしい。

 人が増えて町が増えて、そのお陰で町の外の治安が良くなって、そうやって少しずつ安全な場所が増えていくのを待つのはもどかしいけど、そうなった時は嬉しいだろうね。



 僕ではなく、主にマリアン、エリー、マイカの三人が主体となって取り組んだのが美容とファッション。肌が隠れればそれでいいという程度だった服装が、王都よりもお洒落になっていると思う。

 王都は田舎よりはお洒落だけど、それでも庶民の服装はマイカに言わせると「ギリギリのラインですね」というくらい。大々的に売り込んではいないけど、ユーヴィ市で仕立てられた服はかなりの数が東の方へと運ばれているはず。ある意味ではファッションの最先端を行っている。尖りすぎていないかが心配になることはあるけど。

 美容液の方は貴族の女性によく売れている。次期国王の義妹いもうとが作っているというネームバリューは馬鹿にできない。実際に肌の具合が良くなったという報告は多く、それに伴って夫が夜に頑張るようになったという報告も入っている。精力剤も売れているからだ。

 元々そちらは殿下に渡していただけなんだけど、これも口コミで話が広がり、王都の公営商店で取り扱っている。『一発必中』や『百発百中』を使おうにも、そもそも元気がなければどうしようもないからね。だから基本的には貴族用として販売されている。



 コンコン

「ケネス、ミシェルちゃんが料理ができたって呼んでますよ」
「分かった、すぐ行く」

 ミシェルは弟と妹ができてからお姉さんらしくなった。料理をすることも増えたし、言葉遣いもかなりしっかりしてきた。できれば僕じゃなくて他にいい相手を見付けてくれればそれが一番なんだけど、どうなることやら。

 しかしまあ今年最後の日くらいは先のことは忘れて、家族みんなでのんびり過ごしたいね。
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