新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第四部

年越祭

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「ケネスさん! 年末はお祭りはしないんですか⁉」
「今年はやりましょうか。去年はまだ正式に領主じゃなかったですからね」

 ミリヤさんからそう聞かれたのは今年の……一〇月ごろだったかな? 何の祭りかというと年越祭というお祭り。

 年末の光と闇と無の日の三日間、それと年始の火の日を入れて合計四日間は、日本でいうところの大晦日から三が日のようなお祭りになる。一年の無事に感謝し、翌年の無事を祈る。基本的にはそうだけど、まとまった休みが取れるのはここくらいなのでみんなで騒ぐ。年末三日間は大いに騒いで、年始はゆっくりするのが普通なんだそうだ。

 一週間は火の日から始まる火水風土光闇無の七日、一か月は四週間の二八日、一年は一二か月の三三六日。基本的に休みはない。年末年始の四日のみが国が定めた休みになっている。三三二日働いて四日休む。有休、つまり年次有給休暇のようなものは制度としてはまったく存在しない。働かなければお金はもらえない。働いていないと見なされればお金はもらえない。労働環境としてはどうかと思うけど、ここではそういうものらしいよ。文字通り『働かざる者食うべからず』が基本。

 もちろん三三二連勤なんてあるわけない。実際には雇用者が決めるので、例えば街道工事で雇った作業員たちは六日働いて一日休みというシステムにしていた。特にドワーフ族は連続何日でも働けるそうだけど、一日くらいは体を休めてもらおうと思って六日目に賃金を支払った。買い物に行きたいかもしれないからね。

 中には使用人にまったく休みを与えず、休んだら契約違反だとして賃金を与えずに放り出すような雇い主もいるようだけど、悪い話というのはあっという間に広がるからね。結局はそういうところに人は近付かなくなって潰れるだけになってしまう。

 領主邸の方も休みは交代で取るように言っているし、みんな実際にそうやって休んでいる。丸一日じゃなくても半休を取ってもいいことにしてあるから、午前は用事をして午後から働きに来ることもあるね。エルケが「今日は半休で~す」と言って午前中は僕にくっついていることもある。僕としても諦めて好きにさせている。

 だからギルド職員も基本的に休みはない。だけどもちろん休みたい日はある。さすがに同じ部署の職員が全員いなくなるのは困るから、まあ交代で適当に休みを取ってねと言っている。以前のように人数が足りなくてルボルさんが受付にいるということは完全になくなった。

 そういうわけで、ミリヤさんから催促されたわけじゃないけど、今年は領主の主催で年越祭をやっているところ。さすがに僕も一年の最後くらいはゆっくりしたいから、今日の光の日がギルド職員をねぎらうための立食パーティーの日になっている。ギルド内の大会議室が会場で、ギルド職員は昼から夜までいつ来てもいい。

「それにしても、この町もずいぶんこの一年で変わったなあ。うめえな、これ」
「去年僕がやって来た頃は代官が夜逃げしていましたね。それは虎肉のコンフィですね」
「魔獣の暴走もあって、代官もいなくなって、あの頃は本当にどうなるかと思いましたが、何とかなりましたね。たしかにこれはしっとりしていますね」
「何とかなったというよりも、領主様が無理やり何とかした感じがしますけどね。思ったほど油っこくないですね」

 ルボルさん、コーバスさん、ルカスさんと一緒に窓から町を眺め、グラスを傾けながらあの頃の話をする。最初からあったギルドの三人はやはり仲が良い。

「まあ無理やり気味なのは認めますけどね。その無茶振りに付いてきてくれるのがみなさんじゃないですか」
「無茶振りだと分かっているなら手加減してくれ」
「はいはーい‼‼ どうして男だけで飲んでるんですか⁉⁉ 辛気くさいですよ‼‼ こんなところにいい女がいるのに‼‼」

 半分ような感じでミリヤさんが近付いてきた。辛気くさくはないと思うけどね。男臭いけど。とりあえずいつも以上に声が大きい。

「お前は男ができたらもう少し大人しくなるかと思いきや、全然そんなことねえな」
「ジャンはこんな私がいいって言ってくれたんです‼‼ 私のの虜ですからね‼‼」
「それは何度も聞いたっつうの! お前のアピールポイントはそれしかないのか? ああ⁉」

 いつものようにルボルさんとミリヤさんが言い合いを始めると、周りがみんな耳を塞ぐ。声が大きいんだよね。そろそろ料理を追加しておこうかな。

 この日のために作ったわけじゃなく、「料理教室で使えないかな」とか、「こんな料理があった気がするな」とか、「こうやったら美味しいんじゃないかな」とか考えて試作したものが多い。そのような料理が大量にマジックバッグに入っているから、そういう在庫をこの際に一斉に処分。増えすぎるとややこしくてね。味的には問題ないから。

「手伝います」
「ああ、ありがとうございます……ってハンナさん?」
「こういう下働きの方が落ち着くんですよ」

 僕がテーブルに置いた料理をきれいに並べていってくれる。堂々と食べていてもいいと思うんだけどね。

「まだ慣れませんか?」
「慣れていないわけではないですが、どんと座っているのも落ち着かなくて」
「ハンナさんより数か月早くギルド長になったペトラさんはああなってますよ」
「あの人はすごいですよね」

 ペトラさんはヨーロッパの晩餐会でも全然おかしくなさそうなホルターネックの真っ赤なイブニングドレスを着こなしている。背中がガッツリ見えているね。

「あら、領主様。どうかされましたか?」
「素敵なドレスですね。ペトラさんがデザインを?」
「いえ、ミレナが仕立ててくれました。背中がなかなか扇情的でいいですね。ハンナさんもいかがですか? 可愛らしいから多分お似合いですよ」
「いえいえいえ、滅相もない……」
「そこまで嫌がらなくても」
「いえいえいえ、嫌なわけでは……」

 ハンナさんの言いたいことはよく分かる。今の僕が言うのはおかしいけど、僕も小市民だからね。あまり派手な服とかは得意じゃない。謁見の時の礼服はちょっとやりすぎだったね。

「ちょっと、ケネスさん‼‼ 勝手にどこに行くんですか⁉⁉ ちゃんと聞いてくださいよ‼‼」
「はいはい、何ですか?」
「全然真剣さが足りませんよ‼‼ えっと‼‼ ルボルさんはこの町で実質ナンバーツーじゃないかって話してたんです‼‼ ケネスさん相手に堂々と意見を言えますし‼‼ どうせならギルドのトップでもいいんじゃないかって言ってたんですよ‼‼」
「勝手に話を進めるな! 気にしないでくれ。こいつが勝手に暴走してんだ」
「でもルボルはそれくらいの能力はあるからな」
「たしかに。代官からも信用されていたなあ」

 コーバスさんとルカスさんの言うとおりだね。僕もルボルさんを領主代行みたいな人だと言ったことがあるから。実績も能力も十分。まあ問題はやる気だろうね。やる気と言うべきか面倒くさがりっぽく見せる口癖と言うべきか。とりあえず前から考えていた計画を実行するために、少し盛り上げてみようか。

「じゃあこの場でルボルさんの来年からの役職を決めましょうか。ルボルさんにふさわしいと思える役職名を挙げてください」

 僕がそう言うと、ミリヤさんが真っ先に手を上げた。

「はいはーい‼‼ 総ギルド長で‼‼」
「首席ギルド長はどうでしょう」
「そのままですが、ギルド代表」
「第一ギルド長とか」
「いっそギルド顧問などはいかがでしょうか」
「ギルド司令に一票」
「長官などはどうですか?」
「ギルド王なんかどうだ?」
「なんでみんな乗るんだよ……」

 みんなノリが良くて助かる。ルボルさんは困っているみたいだけど、ここは僕のために頑張ってもらおう。

「いいじゃないですか、お祭りで。ではここに投票箱を用意します。年明けからのルボルさんにふさわしい役職名を書いて入れてください。ただし記名式で、必ず一人一票でお願いします。他の人たちにも言っておいてくださいね」
「よーし、じゃあルボルの出世に……カンパーイ!」
「「「「カンパーイ!」ンパーイ!」パーイ!」カンパーイ!」」「カンパ「カンパーイ!」」」」
「おいおい、マジか?」
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