新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第三部

不屈の闘志

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 我々は勝ちしか狙いません。だからこそ何度足止めをされても最終的な勝利を目指す。それが我々のです。具体的に言えば玉の輿領主様の妻か愛人の座

 周りからは『不屈の闘志ザ・ドーントレス』などと勝手に呼ばれているようですが、不屈という言葉を使う時点でダメです。我々は負けは認めていません。負けても最終的に勝つのではなく、負けることなく勝ちを狙います。負けるのではなく踏ん張って耐えているのです。

「それは詭弁では?」
「すべては気の持ちようです」

 そう、すべては気の持ちようです。負けたら負けです。勝たなければ。だからこそ仲間の連携を強めます。

《チャーリーよりシエラへ。タンゴを視認》
《こちらシエラ、了解。オスカーとリマはポイント・エコーに待機》
《こちらオスカー、了解》《リマも了解》
《シエラよりジュリエットへ、待機は完了か?》
《ジュリエットよりシエラへ。アルファ、ブラボー、デルタ、ゴルフ、ロミオ、ヴィクターが待機済み》
《シエラ、了解。おのおの、奮戦せよ》



《……という状況であります》
《サラン、ありがとう》

 ギルドへやってくると、たまに誰もいないのに気配を感じることがある。彼女たちはギルド職員よりも諜報員の方が向いてるんじゃないかな?

 エレベーターポイント・エコーに向かうと思わせておいてそのまま倉庫に向かう。

《そろそろ情報が漏れていると考えないのでありましょうか?》
《薄々はバレていると思っているのかもしれないけどね》

 倉庫に入ったら奥へ進み、そのまま自分の執務室まで[転移]で移動。もう少ししたら諦めてエレベーターから出るだろう。

《閣下、そろそろ十分では?》
《方向性がおかしいのは分かっているんだけどね。彼女たちがやる気をなくさないようにするのも大事かなと思ってね》
《閣下はおかしなところで部下に配慮をするのでありますね》
《性格なんだよ》

 地図があるからどこに人がいるかは分かるようになっている。それにしても、誰がNATOのフォネティックコードを? ちなみに国によって違うけど、タンゴはT、シエラはSだから、それぞれの頭文字が目標ターゲット狙撃手スナイパーを表し、特殊部隊などが好んで使う。シエラは……服飾ギルドにいる、あのキリッとした秘書タイプの職員か。

《オスカーよりシエラへ、タンゴをロスト》
《またか……。シエラより各員、散開せよ》



 やはり今回も無理でしたか。そう簡単に撃墜できるターゲットだとは思っていませんが、そろそろ手応えが欲しいところです。そろそろ仕事に戻——

「シュチェパーンカさん、また仕事中に持ち場を離れてお散歩ですか?」
「え? あ、いえ、ギルド長、そういうわけ、では……」
「そういうわけでもないのなら、先ほどからそこで何をしていたのですか?」
「そ、それはその……」
「前回もそうでしたが、私にも言えないような理由で仕事をサボるのであれば、ここを辞めていただくことも考えなければなりませんが」
「そ、それは……」

 ここで辞めさせられたら領主様にアピールする機会が一つ失われてしまいます。

「それが嫌なら、また罰ですね」
「え? ひょっとしてまたあれですか?」
「ええ、意外と評判がいいのですよ。シュチェパーンカさんはスタイルがいいので映えますからね」
「ギルド長、少し体調が悪いので今日のところは——」
「そこの二人、あなたたちも首が嫌なら彼女を捕まえなさい」
「「はい」」
「ちょ、ちょっと……」



◆ ◆ ◆



「領主様、いかがですか?」
「いかがですかと聞かれてもね……」

 ペトラさんに会議室に呼ばれたかと思えば、目の前にある台の上で服飾ギルドの女性職員が三人立っている。三人が着ているのはドレスと言えばドレスだけど、そうでないと言えばそうでない何か。水着とドレスの中間くらい? 一応言っておくと、ストリップとかそういうのじゃないから。僕たち以外にも周りには職員が一〇人ほどいて、クリップボードを手に何かをチェックしている。

「シュチェパーンカさん、領主様の前ですよ。もう少し足を広げて堂々と胸を張りなさい。手は体の横で少し離して」
「ギルド長、そうは言ってもこれ以上は……」
「普段の気の強さはどこに行ったのですか? もっとしっかりと前を向きなさい。オフェリアさんとレンカさんは堂々としていますよ」

 ここにいるのはシエラとオスカーとリマか。あの中にいた三人だね。

「ギルド長、もっと際どいのはありませんか?」
「ポロリしてもいいですか?」

 ポロリは自分からするんじゃないと思うんだけど、絶対どこかに日本人がいるよね。ちなみにその服でポロリしようとすれば破るしかないでしょう。胸元を思いっきり引っ張っているけど、ほら、下にいた職員が怒ってる。

「この三人は仕事はできるのですがたまにサボることがあって、それで今回はこのように罰を与えています。ここで試作している服の品評会も兼ねています」
「罰って言いますけど、二人は喜んでいるような気がしますけどね」
「いえ、主犯はシュチェパーンカさんのようなので、彼女が反省すればそれでかまいません。二人はついでです」
「「ついで⁉」」



「それにしても、よくこんな罰を思いつきましたね」
「娘に相談したらところ、新作発表も兼ねたこのような罰の案を出されました。真面目な女性ならこういう罰が効果的だろうと」
「発案はミレナさんでしたか。たしかにこれは効き目がありますね」

 周りにいるのは女性ばかりとは言え、さすがに囲まれて見られれば恥ずかしいだろう。気の強そうな女性がモジモジしているのはギャップがね。好きな人は好きだろう。僕にはそういう趣味はないけど。

「それで、呼ばれたから来ましたけど、僕はここで彼女たちを見て何をしたらいいんですか?」
「どうしたらサボらなくなるかを考えていただければと」
「それなら、彼女たちを見ながら話をする必要はないんじゃないですか?」
「今日は新作発表がありましたので、ついでに見ていただいて目の保養になればいいと思っていましたが……。そうですね……シュチェパーンカさんはともかく、オフェリアさんとレンカさんは、奥様方に比べれば一段どころか五段も六段も落ちるでしょうか」
「「ひどっ!」」
「それは冗談として、彼女たちは何度もサボっていますので、一度キッチリ言い聞かせるにはどうしたらいいかと思いまして。目の前で自分たちの罰について相談されるのは嫌なものでしょう」
「それはそうですね。でも、キッチリねえ」

 彼女たちが何のためにサボっているかは分かっていて、それを見て見ぬフリをしていたのは僕の責任か……。迷惑というほどではないと思っていたけど、それで何度も仕事をサボるのなら罰は必要。何かこう、彼女たちにだけ極めて効果的な罰は……。

「それなら、サボれない場所に配属を変えましょうか。王都の公営商店とか」
「え? そ、それは……」

 まさかそう言われるとは思っていなかったようで、シュチェパーンカさんが明らかに動揺している。

「何か問題がありましたか?」
「い、いえ……」

 しょぼんとしてしまった。彼女が好きとか嫌いとかはないけど、ちゃんと働いてもらわないとね。王都の勤務も交代制だから、行ったら行きっぱなしじゃないし。

「それとも、例えばその台ごと担がれて町中をパレードすることになるのとどちらがいいですか?」
「台ごと担がれる方がいいです!」
「あ、そう?」
「はい!」

 そうくるとは思わなかった。

「さすが領主様ですね。衆目に晒して辱めを与えるとは。やはり噂は本当でしたか」
「いや、これだけ見られるのが嫌なら王都に行く方を選ぶと思ったからなんですけどね、って噂って何ですか?」
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