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第三章 第四部
町の外
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「先輩、仕事の話で思い出したんですけど、町の外で暮らしている人たちにも何か仕事はありませんか?」
「あの人たちねえ」
マイカが言ったのは、文字通り町の外で暮らす人たち。町から追い出されたとか、そういう話ではない。
この国にある町はほぼ間違いなく城壁に囲まれている。それは魔獣や盗賊などがいるからなんだけど、そういう状況でも町の外で暮らす人たちがいる。ユーヴィ市の近くにも以前から小さな村がある。それも一つではなく複数。彼らは町の中で暮らすのではなく、半日から一日くらい離れた場所で暮らしている。
こういう集落はどこにでもあって、一般的な理由としては、町で暮らすとお金がかかるから外で暮らすという人が多い。これは城壁の外側に貧民街ができるのと理屈の点ではほぼ同じ。他の理由としては、新しい集落を作ろうと思って町を出ていったのはいいけど、そこまで大きな集落にならずに結局は数軒から一〇軒程度で固まっている、ということもある。
いずれの理由にしても、麦と野菜と芋を育てて食べていれば生きていくには困らないということで、そういう集落は主に畑を耕して、作った野菜を朝市に売りに来たりする。今でも朝市で話をすることがあるから、そういう人たちとも顔見知りだけど、彼らはそういう生活がいいらしい。
ユーヴィ市の近くの集落の場合、野菜などをユーヴィ市に運んで朝市で売り、そしてその売り上げで必要なものを購入して集落に帰る。朝市は彼らが必要なものを購入する手段ともなっている。
「無理に町の中で暮らせとも言えないからね。家も畑もあるわけだから。町で暮らしたいと思うまでは今のままでいいと思うよ」
「エルケのところとか、どうしても生活に差が出てしまうような気がするんですけど」
「まあもう少し様子を見よう。彼らが来たいと思った時にはいつでも受け入れられるように準備はしておくけどね」
エルケの実家はそのような集落の一つにある。エルケが妻になると決まる前の話だけど、父親とは朝市で顔を合わせて話をしたこともある。それから彼女を妻として迎え入れることが決まり、そのために一度実家の方へ顔を見せに行ったこともある。
実はこちらから顔を見せに行く必要は全くない。これはエリー、セラ、キラ、マノンも同じ。これだけ広い国だから、『便りがないのが良い便り』となっていて、普通は一度町から出たらよほどでなければ連絡は取らないし顔を見せることもない。結婚だって勝手にすることも多く、気が付いたらどこかに孫がいるなんてことも普通にあるだろう。マノンの場合は紹介者がいたから親同士が顔を合わせたらしいけど、相手の親の顔を知らないというのはざらにある。でも僕としては妻の実家くらいには顔を出しておきたいかな。半日で行ける場所だから特にね。
◆ ◆ ◆
「戻りました~」
エルケが元気よく玄関を開ける。
「エルケ、こんな時期にどうしたの? そちらの方は?」
この人が母親のドロタさんだね。
「男爵様で~す」
「初めまして、ユーヴィ男爵のケネスです」
「ええ? こここちらこそ初めまして。とととりあえず中へどうぞ。エルケ、りょりょ領主様のご案内を」
「は~い。こっちで~す」
屋敷だけでああいう感じじゃなくて、家でもこうだったのか。
「今は夫は不在なのですが、今日はどのようなご用件でしょうか?」
少し落ち着いたドロタさんにまずは一通りの説明をすることにした。
「はい、エルケを妻として迎えることになりましたので、その報告に来ました」
「妻ですか……え? エルケを?」
「はい」
「何かの冗談では?」
「疑問に思うかもしれませんが、本当です」
「思い直しませんか?」
母親にもそう言われるって、やっぱりね。
「お母さんもひどいですよ~」
「あなたはいつまでも落ち着きがないからでしょう」
「私は私で~す」
「……前向きなのはいいですけど、ほどほどにね」
「は~い」
悪い子じゃないんだけどね。元気が良すぎるというか、少し子供っぽいというか。
「おーい、お客様か……って、領主様?」
久しぶりに会ったフゴさんが足を地面から浮かせるほどビックリした。
「ああ。フゴさん、お邪魔しています」
「あなた、ちょっと……」
部屋に入ってきたフゴさんをドロタさんが引っ張って行き、しばらくすると二人で一緒に戻ってきた。
「領主様、考え直しませんか?」
戻ってきたフゴさんが僕を見ていきなりそう言った。
「お父さんも~何なんですか~?」
「いや、父親としては娘の結婚を嬉しく思う反面、うちの娘が領主様の妻になると思うと。迷惑をかけるばかりではないかと思うのですが」
「いえいえ、エルケがいることで屋敷の中が明るくなりますので助かっています」
「はあ、まあそこまでおっしゃるなら」
二人とも腑に落ちない感じなんだよね。
「それで、こういうことになったのは五月あたりでしたが、来年の夏を待って向かえ入れることになりました」
「それでしたら親としては何も言うことはありません。娘をよろしくお願いします」
「はい。間違いなく大切にしますので」
「大切にされま~す」
まあこの話はこれで終わりかな。今日はこの報告以外にもう一つ話があって、実はそちらがメインだったりする。
「それで、フゴさんとドロタさんは妻の家族ということになりますので、住む場所については多少の配慮もできますが、どうしますか?」
「住む場所ですか」
「はい。ユーヴィ市に来るつもりがあるなら家と畑は用意します。息子さんやこの集落の人たちを誘ってもらってもかまいません」
「前にも申し上げた通り、ありがたいお話ですが……」
フゴさんの家系はやはりユーヴィ市から離れて村を作ろうとした一派の子孫で、現在このあたりには一七世帯が暮らしている。二人の息子でエルケの兄も結婚して少し離れた場所で家を構えている。
「私は曾祖父たちが作ったこの場所で育ちました。ドロタも同じです。私たちはこの村が好きですし、ここを離れたいとは誰も思っていません」
「いえ、私は町の方がいいですよ。エルケもいますし」
「…………え? マジで?」
ドロタさんがサラッとそのようなことを口にした。フゴさんが固まる。
「はい。あなたたち男性陣はいつも誇りやら意地やら何やらを持ち出してきますけど、そんなものではお腹は膨れません。きちんと住む場所も畑も用意してくださるということなのに、私の意見も聞かずに勝手に断ろうとして。それに、先ほどあなたは『前にも申し上げた通り』っておっしゃいましたけど、私はそのような話は一度も聞いていないのですが、それは一体どういうことですか?」
フゴさんの旗色が悪くなったようだ。彼には『ご家族と相談してください』と以前に言ったと思うけど、言っていなかったみたいだね。夫婦の話し合いは大事だよ。
「ドロタさん、新しい町や村を作る予定もいくつかあります。ユーヴィ市に限らず場所はいくらでもありますし、希望はできるだけ聞きます。またお知り合いの方々にも伝えてください。急ぎませんのでゆっくりで問題ありませんよ」
「ありがとうございます。どうも夫とは意思疎通が上手くできていなかったようです。一度しっかりと話し合うことにします」
「それでは本日は慌ただしいことになって申し訳ありません。お邪魔しました」
「何のお構いもできませんで」
「また来るね~」
ドロタさんがフゴさんを締め上げ始めたのでさっさとお暇することにした。
「お母さん、かなり怒ってましたね~」
「大事なことはきちんと話し合わないとダメだってことだね」
◆ ◆ ◆
エルケの実家はああなったけど、意外と妻は町に行きたいのに夫はその場所に拘っているというのはあるかもしれないね。もう一度しっかり確認してみてもいいかな。朝市に来ていたのは男性ばっかりだったからね。
町の外で暮らすということは、当然ながら城壁の外で暮らすということと同じ意味になる。うちの領内できちんと認められた町は、ユーヴィ市、ナルヴァ町、ソルディ町、アルメ町、トイラ町、シラマエ町、パダ町、ヴァスタ町だけ。村よりも小さな集落はいくつもあるけど、そこで暮らす人たちは正式には領民ではないことになる。
もちろん何か危険があって救いを求めてきたら受け入れるけど、こちらから町に入りなさいとは言わない。来るも自由、来ないも自由。もちろん一度は声をかけたし、巡回兵に近くを通るように言っているけど、きちんとした城壁はないから、魔獣が突っ込んでくることも盗賊が襲ってくることもないとは言い切れない。せいぜい木の柵が作ってあるとか、その程度だから。
別に今の場所にきちんとした村を作ってもらってもかまわない。その場合はきちんと村長を決め、それから税についての取り決めをする。毎年一定の税を領主に納める。その代わりに領主はその村に何かあればきちんと守る。つまり、町の外で暮らしている人たちとはそのような取り決めをしていないということになる。
それなら今度は貴族が国へ払う税はどうなるのかという話だけど、この国では市の数によって税が変わる。うちはユーヴィ市しかないけど、お隣も今はキヴィオ市しかない。だから実は税はほぼ同じ。人口は一桁違うけど。町や村の数、あるいは人口はほぼ関係ない。
このあたりは建国当時、産めや増やせやで国を大きくしようとしたので、領内の人口については触れなかったらしい。その代わり、領地の発展を示すには市の数が大切ということになったらしい。貴族領の領都は一〇〇〇人を切っていても市となるのは、最低限の税を納めてもらうためにそうしているそうだ。
だからお隣と比べればうちは税の負担が大きいように思えるけど、うちには色々と収入源があるからね。そもそもうちが重いというよりも、キヴィオ子爵領が軽いというべきだろう。
このように、多少の危険性はあっても気楽に町の外で暮らしたい人たちがいる一方で、領主にとっても町で暮らさない人がいるということには一定のメリットがある。それは人口が集中しないこと。一〇〇〇人を超えたら市になる。そうすると国に払う税が高くなる。日本的な感覚だとおかしく感じるかもしれないけど、それなら一〇〇〇人を超えないように七〇〇人くらいの町が複数ある方が領主としては嬉しいわけだ。
日本では平成の大合併という政策があって、政府主導で市町村を合併させて財政基盤を強化させようとしたけど、これはその逆。どうせ交付金がないなら、無駄に市を増やすのではなく町で止めておこうという方法。
人口一万人の領地があるとして、領都も含めてすべて一〇〇〇人の町になっている場合と、領都だけ五〇〇〇人でそれ以外が五〇〇人の町になっている場合なら、市が一〇ある前者は、市が一つしかない後者に比べて税を一〇倍払わないといけない。それだけの税収が見込めないなら市を作るメリットがない。
もちろん町が市になれば領主として発展に貢献したということで評価されるけど、国からの交付金のようなものはほとんどないから、正直なところメリットがない。ギルドを作らなければいけないので、そのあたりで多少の補助金は出るけど、運営費はほぼ領地が出すからね。
そういうわけで、キヴィオ子爵領はユーヴィ市を切り離したので税はほぼ半減して、それから新しい領都ができたのでまた戻ったことになる。
僕としては本当に町の外に住みたいならそれでいいと思う。中の方が生活は便利だと思うけど、これまでの生活を捨ててまで町に引っ越したいと思えるかはその人次第だからね。
ちなみに僕は、国へ支払う税が上がってもいいので、町を市にするつもり。どんどん人口は増えているし、お金を落としてくれる商人も増えている。一度流れができれば、その後はその流れに任せればいい。そして飽きられないように、たまに新作を出すことを忘れない。それを考えるのが大変なんだけど。
もちろん自分一人で頑張ったところでここまで上手くはいかなかったと思う。一番大きなのは殿下とロシータさんと懇意になったこと。あの二人が宣伝してくれるからね。日本だろうが異世界だろうが、ブームは自然発生することもあるし作られることもある。無茶はしない程度に利用させてもらっている。
そうは言ってもほとんどが食べ物だけどね。この世界では娯楽が少ない。先日ようやく劇場ができたけど、それ以外にたいした娯楽がない。先日の料理大会とか、やりようによっては色々とできると思うけど、まだ実施できるほどには計画が煮詰まっていない。
娯楽……娯楽……娯楽……。
うーん……。
「楽しいこと……何かないかなあ……」
「旦那様、あまり溜めると体に悪うございます。娼館にでも行ってサッパリとなさってはいかがかと私は愚考いたします」
「フェナ、そういう意味の楽しいことじゃないからね」
「あの人たちねえ」
マイカが言ったのは、文字通り町の外で暮らす人たち。町から追い出されたとか、そういう話ではない。
この国にある町はほぼ間違いなく城壁に囲まれている。それは魔獣や盗賊などがいるからなんだけど、そういう状況でも町の外で暮らす人たちがいる。ユーヴィ市の近くにも以前から小さな村がある。それも一つではなく複数。彼らは町の中で暮らすのではなく、半日から一日くらい離れた場所で暮らしている。
こういう集落はどこにでもあって、一般的な理由としては、町で暮らすとお金がかかるから外で暮らすという人が多い。これは城壁の外側に貧民街ができるのと理屈の点ではほぼ同じ。他の理由としては、新しい集落を作ろうと思って町を出ていったのはいいけど、そこまで大きな集落にならずに結局は数軒から一〇軒程度で固まっている、ということもある。
いずれの理由にしても、麦と野菜と芋を育てて食べていれば生きていくには困らないということで、そういう集落は主に畑を耕して、作った野菜を朝市に売りに来たりする。今でも朝市で話をすることがあるから、そういう人たちとも顔見知りだけど、彼らはそういう生活がいいらしい。
ユーヴィ市の近くの集落の場合、野菜などをユーヴィ市に運んで朝市で売り、そしてその売り上げで必要なものを購入して集落に帰る。朝市は彼らが必要なものを購入する手段ともなっている。
「無理に町の中で暮らせとも言えないからね。家も畑もあるわけだから。町で暮らしたいと思うまでは今のままでいいと思うよ」
「エルケのところとか、どうしても生活に差が出てしまうような気がするんですけど」
「まあもう少し様子を見よう。彼らが来たいと思った時にはいつでも受け入れられるように準備はしておくけどね」
エルケの実家はそのような集落の一つにある。エルケが妻になると決まる前の話だけど、父親とは朝市で顔を合わせて話をしたこともある。それから彼女を妻として迎え入れることが決まり、そのために一度実家の方へ顔を見せに行ったこともある。
実はこちらから顔を見せに行く必要は全くない。これはエリー、セラ、キラ、マノンも同じ。これだけ広い国だから、『便りがないのが良い便り』となっていて、普通は一度町から出たらよほどでなければ連絡は取らないし顔を見せることもない。結婚だって勝手にすることも多く、気が付いたらどこかに孫がいるなんてことも普通にあるだろう。マノンの場合は紹介者がいたから親同士が顔を合わせたらしいけど、相手の親の顔を知らないというのはざらにある。でも僕としては妻の実家くらいには顔を出しておきたいかな。半日で行ける場所だから特にね。
◆ ◆ ◆
「戻りました~」
エルケが元気よく玄関を開ける。
「エルケ、こんな時期にどうしたの? そちらの方は?」
この人が母親のドロタさんだね。
「男爵様で~す」
「初めまして、ユーヴィ男爵のケネスです」
「ええ? こここちらこそ初めまして。とととりあえず中へどうぞ。エルケ、りょりょ領主様のご案内を」
「は~い。こっちで~す」
屋敷だけでああいう感じじゃなくて、家でもこうだったのか。
「今は夫は不在なのですが、今日はどのようなご用件でしょうか?」
少し落ち着いたドロタさんにまずは一通りの説明をすることにした。
「はい、エルケを妻として迎えることになりましたので、その報告に来ました」
「妻ですか……え? エルケを?」
「はい」
「何かの冗談では?」
「疑問に思うかもしれませんが、本当です」
「思い直しませんか?」
母親にもそう言われるって、やっぱりね。
「お母さんもひどいですよ~」
「あなたはいつまでも落ち着きがないからでしょう」
「私は私で~す」
「……前向きなのはいいですけど、ほどほどにね」
「は~い」
悪い子じゃないんだけどね。元気が良すぎるというか、少し子供っぽいというか。
「おーい、お客様か……って、領主様?」
久しぶりに会ったフゴさんが足を地面から浮かせるほどビックリした。
「ああ。フゴさん、お邪魔しています」
「あなた、ちょっと……」
部屋に入ってきたフゴさんをドロタさんが引っ張って行き、しばらくすると二人で一緒に戻ってきた。
「領主様、考え直しませんか?」
戻ってきたフゴさんが僕を見ていきなりそう言った。
「お父さんも~何なんですか~?」
「いや、父親としては娘の結婚を嬉しく思う反面、うちの娘が領主様の妻になると思うと。迷惑をかけるばかりではないかと思うのですが」
「いえいえ、エルケがいることで屋敷の中が明るくなりますので助かっています」
「はあ、まあそこまでおっしゃるなら」
二人とも腑に落ちない感じなんだよね。
「それで、こういうことになったのは五月あたりでしたが、来年の夏を待って向かえ入れることになりました」
「それでしたら親としては何も言うことはありません。娘をよろしくお願いします」
「はい。間違いなく大切にしますので」
「大切にされま~す」
まあこの話はこれで終わりかな。今日はこの報告以外にもう一つ話があって、実はそちらがメインだったりする。
「それで、フゴさんとドロタさんは妻の家族ということになりますので、住む場所については多少の配慮もできますが、どうしますか?」
「住む場所ですか」
「はい。ユーヴィ市に来るつもりがあるなら家と畑は用意します。息子さんやこの集落の人たちを誘ってもらってもかまいません」
「前にも申し上げた通り、ありがたいお話ですが……」
フゴさんの家系はやはりユーヴィ市から離れて村を作ろうとした一派の子孫で、現在このあたりには一七世帯が暮らしている。二人の息子でエルケの兄も結婚して少し離れた場所で家を構えている。
「私は曾祖父たちが作ったこの場所で育ちました。ドロタも同じです。私たちはこの村が好きですし、ここを離れたいとは誰も思っていません」
「いえ、私は町の方がいいですよ。エルケもいますし」
「…………え? マジで?」
ドロタさんがサラッとそのようなことを口にした。フゴさんが固まる。
「はい。あなたたち男性陣はいつも誇りやら意地やら何やらを持ち出してきますけど、そんなものではお腹は膨れません。きちんと住む場所も畑も用意してくださるということなのに、私の意見も聞かずに勝手に断ろうとして。それに、先ほどあなたは『前にも申し上げた通り』っておっしゃいましたけど、私はそのような話は一度も聞いていないのですが、それは一体どういうことですか?」
フゴさんの旗色が悪くなったようだ。彼には『ご家族と相談してください』と以前に言ったと思うけど、言っていなかったみたいだね。夫婦の話し合いは大事だよ。
「ドロタさん、新しい町や村を作る予定もいくつかあります。ユーヴィ市に限らず場所はいくらでもありますし、希望はできるだけ聞きます。またお知り合いの方々にも伝えてください。急ぎませんのでゆっくりで問題ありませんよ」
「ありがとうございます。どうも夫とは意思疎通が上手くできていなかったようです。一度しっかりと話し合うことにします」
「それでは本日は慌ただしいことになって申し訳ありません。お邪魔しました」
「何のお構いもできませんで」
「また来るね~」
ドロタさんがフゴさんを締め上げ始めたのでさっさとお暇することにした。
「お母さん、かなり怒ってましたね~」
「大事なことはきちんと話し合わないとダメだってことだね」
◆ ◆ ◆
エルケの実家はああなったけど、意外と妻は町に行きたいのに夫はその場所に拘っているというのはあるかもしれないね。もう一度しっかり確認してみてもいいかな。朝市に来ていたのは男性ばっかりだったからね。
町の外で暮らすということは、当然ながら城壁の外で暮らすということと同じ意味になる。うちの領内できちんと認められた町は、ユーヴィ市、ナルヴァ町、ソルディ町、アルメ町、トイラ町、シラマエ町、パダ町、ヴァスタ町だけ。村よりも小さな集落はいくつもあるけど、そこで暮らす人たちは正式には領民ではないことになる。
もちろん何か危険があって救いを求めてきたら受け入れるけど、こちらから町に入りなさいとは言わない。来るも自由、来ないも自由。もちろん一度は声をかけたし、巡回兵に近くを通るように言っているけど、きちんとした城壁はないから、魔獣が突っ込んでくることも盗賊が襲ってくることもないとは言い切れない。せいぜい木の柵が作ってあるとか、その程度だから。
別に今の場所にきちんとした村を作ってもらってもかまわない。その場合はきちんと村長を決め、それから税についての取り決めをする。毎年一定の税を領主に納める。その代わりに領主はその村に何かあればきちんと守る。つまり、町の外で暮らしている人たちとはそのような取り決めをしていないということになる。
それなら今度は貴族が国へ払う税はどうなるのかという話だけど、この国では市の数によって税が変わる。うちはユーヴィ市しかないけど、お隣も今はキヴィオ市しかない。だから実は税はほぼ同じ。人口は一桁違うけど。町や村の数、あるいは人口はほぼ関係ない。
このあたりは建国当時、産めや増やせやで国を大きくしようとしたので、領内の人口については触れなかったらしい。その代わり、領地の発展を示すには市の数が大切ということになったらしい。貴族領の領都は一〇〇〇人を切っていても市となるのは、最低限の税を納めてもらうためにそうしているそうだ。
だからお隣と比べればうちは税の負担が大きいように思えるけど、うちには色々と収入源があるからね。そもそもうちが重いというよりも、キヴィオ子爵領が軽いというべきだろう。
このように、多少の危険性はあっても気楽に町の外で暮らしたい人たちがいる一方で、領主にとっても町で暮らさない人がいるということには一定のメリットがある。それは人口が集中しないこと。一〇〇〇人を超えたら市になる。そうすると国に払う税が高くなる。日本的な感覚だとおかしく感じるかもしれないけど、それなら一〇〇〇人を超えないように七〇〇人くらいの町が複数ある方が領主としては嬉しいわけだ。
日本では平成の大合併という政策があって、政府主導で市町村を合併させて財政基盤を強化させようとしたけど、これはその逆。どうせ交付金がないなら、無駄に市を増やすのではなく町で止めておこうという方法。
人口一万人の領地があるとして、領都も含めてすべて一〇〇〇人の町になっている場合と、領都だけ五〇〇〇人でそれ以外が五〇〇人の町になっている場合なら、市が一〇ある前者は、市が一つしかない後者に比べて税を一〇倍払わないといけない。それだけの税収が見込めないなら市を作るメリットがない。
もちろん町が市になれば領主として発展に貢献したということで評価されるけど、国からの交付金のようなものはほとんどないから、正直なところメリットがない。ギルドを作らなければいけないので、そのあたりで多少の補助金は出るけど、運営費はほぼ領地が出すからね。
そういうわけで、キヴィオ子爵領はユーヴィ市を切り離したので税はほぼ半減して、それから新しい領都ができたのでまた戻ったことになる。
僕としては本当に町の外に住みたいならそれでいいと思う。中の方が生活は便利だと思うけど、これまでの生活を捨ててまで町に引っ越したいと思えるかはその人次第だからね。
ちなみに僕は、国へ支払う税が上がってもいいので、町を市にするつもり。どんどん人口は増えているし、お金を落としてくれる商人も増えている。一度流れができれば、その後はその流れに任せればいい。そして飽きられないように、たまに新作を出すことを忘れない。それを考えるのが大変なんだけど。
もちろん自分一人で頑張ったところでここまで上手くはいかなかったと思う。一番大きなのは殿下とロシータさんと懇意になったこと。あの二人が宣伝してくれるからね。日本だろうが異世界だろうが、ブームは自然発生することもあるし作られることもある。無茶はしない程度に利用させてもらっている。
そうは言ってもほとんどが食べ物だけどね。この世界では娯楽が少ない。先日ようやく劇場ができたけど、それ以外にたいした娯楽がない。先日の料理大会とか、やりようによっては色々とできると思うけど、まだ実施できるほどには計画が煮詰まっていない。
娯楽……娯楽……娯楽……。
うーん……。
「楽しいこと……何かないかなあ……」
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