新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第四部

魔道具の改造

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 うちの家族には異空間への出入りができる魔道具を渡している。これは元々、僕とリゼッタとカロリッタが外を歩いている時、僕が出入り口を開かなくても異空間にいる家族が外に出たり中に入ったりするためのものだった。だから出る時は基本的に僕のいるところに出る。僕が異空間にいるなら、僕が最後にいた場所に出る。僕の魔力を真似ることで、僕が出入り口を開いたことにしているだけだから。

 最近は異空間の家はあまり活用されていない。温泉旅館の方はリゼッタと二人でのんびりするのに使うこともあるけどね。

 畑は実験農場的に使っているし、全然使わないというほど来ないわけでもない。家の中の荷物は屋敷に行ったから、別荘扱いになるのかな。

 セラとキラは畑に行くことがあるから異空間をよく使う。でも最近は屋敷の裏の畑を見た後、厩舎の方から異空間にいくことが増えたみたいで、魔道具を使わなくてもよくなったそうだ。だから異空間への出入り用の魔道具に手を加えることにした。

「前に渡していたアクセサリーだけど、最近はあまり使うことがないでしょ? だから新しくしようと思うんだけど、リゼッタはどう思う?」
「そうですね……。家の方はほとんど使わなくなりましたが、あのアクセサリーはあれで思い出がありますので、機能を無効にして普通のアクセサリーにしてもいいのではないでしょうか?」
「……うーん、それもそうか。それならみんな揃って指輪にしようか」
「パパ、私のもけっこんゆびわ?」
「ミシェルのは普通のアクセサリーね」
「ぶー」
「ミシェル、もう少し待ちましょう」

 前の魔道具が指輪だったリゼッタ、カロリッタ、セラ、キラ、マノンについては、二つ一緒に付けてもおかしくない指輪にする。他はあらためてリクエストを聞いてデザインする。普段から身に付けるならあまり邪魔にならないデザインがいいだろうから、できる限りシンプルにする。

 異空間へ移動する機能は残してもいいと思うけど、僕のところに出る意味はもうあまりないからね。移動に関しては、異空間への移動と屋敷のポーチへ移動できるようにしておこう。

 その他の機能としては、とりあえず殿下たちに渡した指輪のように、物理と魔法と薬物と精神に対する耐性を上げるようにしておけば大丈夫だろう。

「ケネス、魔力を蓄える機能を付けたらどうでしょうか?」
「魔力切れに備えて?」
「はい。魔力切れで気を失うことがないとは言い切れませんので」
「魔力切れね。この中で魔力切れになりそうなのって……」

 リゼッタ、カロリッタ、エリー、ミシェル、マイカ、マリアン、セラ、キラ、カローラ、マノン。

「どれだけ使っても全然減らないか、ほとんど使わないかのどちらかだね」
「不要ですね。余計なことを言いました」
「いやいや、リゼッタ。言ってくれると助かるから。でも他に何か欲しい機能はない?」
「パパのばしょが分かるきのう!」
「僕の場所ね。分かっても遠かったらどうするの? それも入れてもいいとは思うけど」
「うーん、ねんわ?」
「それなら普通に異空間に行って[念話]でよくない?」

 別に場所を探られたくないとか、そういうのはないけど、場所が分かってどうなのっていう気はする。ちなみに相当な魔力がないと遠くまで念話は届かない。でも異空間に行けば、その異空間は僕の近くにあるから、僕がどこにいても届くようになる。

「そう考えると、意外とないですねぇ」
「まあ、最初に各種耐性が上がるという機能があって、そこから他にって話だからね」
「魔道具って、戦いにはあまり役立たないですからねぇ」

 そう、この世界に来て分かったけど、戦闘用の魔道具って本当に微妙。例えば魔法の剣は魔道具の一種だけど、それで魔獣を切りつけるとする。でも剣ってどれだけ切れ味が良くても所詮は金属に刃が付いているだけでしょ。しかも頑丈さ重視だから刃はおまけみたいなもの。さらに刃に厚みがあるから、剣で切るというよりは叩き潰すようになる。刃筋を立てて引くように切るなんてことはしない。

 それにステータスの数値は強さを表すけど、攻撃力は必ずしも数値に比例しない。【筋力:[〇一〇〇]】の人が【筋力:[〇二〇〇]】の人の二倍切れるかというと、そんなわけはない。所詮はあくまで数値。結局は剣の切れ味がどうくらいあるかになる。この世界で多い西洋の剣に似た剣は鈍器、日本刀はものすごく切れる包丁。それくらい違う。

「逆にご主人様に居場所を知ってもらえるというのはどうですか?」
「知ってどうなるの?」
「そうですね……一人で寝室にいる時にご主人様が私の部屋に来ていきなり……きゃっ」

 妊婦は大人しくしていなさい。みんな妊婦だけど。

「欲しい少女漫画がすぐ手元に届くとか……いりませんね」
「分かっているなら図書室くらい歩いて行こうよ。少女漫画は日々追加されてるんだから」

 マイカはどんどん面倒くさがりになっている気がする。たまにびっくりするほど活動的になるけどね。僕のストーカーまがいのことをしていたころを思い出して、たまには自分から動いてもいいと思うけど。

「他には……なさそう?」
「お前様よ、漫画に出てくるメールやメッセージを送る機能はどうじゃ?」
「メールやメッセージか……。[念話]と何かを組み合わせたらいけるかもしれないけど、それも遠くまで届かないよ」
「メール?」

 ミシェルはメールを知らないようで、当然僕に聞いてくる。ミシェルが読んだ中にはなかったのかな? 最近は少女漫画よりも体を動かしてばっかりだからね。

「文字で言いたいことを伝えるもの、かな」
「手がみとはちがうの?」
「手紙が元になっているんだけど、何て言ったらいいのかな……」

 あれが近いか。

「カロリッタ、ヘルプさん時代に使っていたあれって、外にいてもできる?」
「できますよ~」
「ミシェルにあれで挨拶してくれる?」
「は~い。じゃあ~ミシェルちゃ~ん、行きますよ~」
「え? 何が? え? ええっ、何これ?」
「どうですか~? 返事できますか~?」
「ええっと……こう?」
「そうですよ~」

 おそらくミシェルの頭の中には《A>こんにちは~》とか《Q>これでいいですか?》とかが出ていると思う。

「パパ、さっきのすごい。あれできない?」
「カロリッタ、あれって誰でも使えるものなの?」
「スキルとしては~[ヘルプ]という名前ですが~マスターにはありそうな気がしますね~」
「ええっと[ヘルプ]……[ヘルプ]……あるね。どうして僕に?」

 カロリッタの固有のものじゃなかったの?

「私が~宿っていたからでしょうね~」
「あるけど使いにくいなあ。そのままだと使いにくいから、少し設定を弄ったらいいか。カローラ、スキルの改造って問題?」
「すでに存在するものから新しく作るなら問題ありません。改悪すると問題になります。それにしても、いつの間にできるようになったのですか?」
「あちこちの土地の設定を変更したりチェックしたりしてたから、設定を見る癖が付いたらしい。改造が問題ないならやってみようか。[ヘルプ]を弄って新しいスキルを作って、それを付与して……でも中継をどうするかな」

 やっぱりすぐは無理か。ちょっと時間をかけてキッチリ作った方がいいね。

「すぐには無理だから、できたらみんなに渡すね」

 どうやって作ろうかと考えている時が一番楽しいんだよね。

「ところで閣下、その指輪はご家族の方のみでしょうか?」
「勝手に異空間に行かれたら困るから、家族だけのつもりだけど」

 ジェナが聞いてきたけど、そもそも家族用だから、普通は家族のみだね。

「リゼッタ様、そのあたりはいかがお考えですか?」
「そうですね……。私としては、ケネスに迷惑をかけないというのであれば、妻や愛人、あるいはそれに準ずる存在であれば問題ないと思います。もうケネス次第です。どうですか?」
「え?」

 投げられたけど、それって結局僕次第じゃない? でも僕は一度断ったよね?

「先生、仲間は多くてもいいと思いますよ?」
「シーラも」

 どこからシーラの話が?

「どうしてシーラなの?」
「いつでもご飯の用意をしてくれます」
「ご飯がすぐに出てくる」
「馬と一緒に餌付けされてない?」

 ちゃんとしたご飯? まあ主人の妻が使用人に食事の準備をさせるのはおかしなことではないけど、ちょっと心配になった。

「畑で一緒に働くことが多いです」
「貴重な労働力」

 まあシーラは厩舎の方から異空間へ移動していたからね。パルニ公爵領にも一緒に行ったけど、普通の性格で非常に楽だった。これがシルッカだったらそう簡単には終わらなかったと思う。まあ馬の調査にシルッカは連れて行かなかったと思うけど。

「分かった。妻とは違う扱いにはするけど、信用できる者には必要に応じて渡すことにする、ってことでどうかな」
「閣下、それでは私は準妻ということでよろしいでしょうか?」
「いや、準家族ってとこだね」
「……そうですか」

 そこでしょげられても困るけど、妻をどんどん増やすつもりはない。そのあたりはしっかりとしないとになるからね。

「ジェナ、ケネスはああ言っていますが、それほど感触は悪くないと思います。ここからは押しすぎず引きすぎず、適度な距離を保って接していれば、いずれ門は開かれるでしょう」
「リゼッタ様、ありがとうございます」

 そのあたりを話し始めると疲れる疲れる。僕はそこまで話が得意じゃないからね。社会人としてそれなりにプレゼンで鍛えられたけど、あれはある意味では当たり障りのないことをもっともらしく言えるスキルだから。

「それならジェナにも渡すよ。デザインはごく普通にするね」
「はい、それで問題ありませんが、閣下、私は奥様方が以前から持っている魔道具はいただいていません。そちらは首輪にしていただきたいと思います」
「…………それも欲しいの?」
「はい。材料費が高いというのであれば、私がこれまで稼いだお金をすべてお渡しします。それで首輪を作っていただけないでしょうか?」
「首輪を?」
「はい。カローラ様と同じ首輪をいただければと思います」

 たいした金額でもないよ。どこでにでもある素材だからね。でも普通、女性に首輪を渡す? カローラたちには押し切られた感じだから仕方がないけど。実際にはチョーカーだけどね。

「じゃあ、それも一緒に渡すよ。お金はいいから。何の変哲もない普通のアクセサリーだからね」
「ありがとうございます。閣下には生涯変わらない忠誠とともにこの身も捧げますので、物々交換でお受け取りください」
「そっちの受け取りは遠慮しておくよ」
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