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第三章 第二部
不発だった諸々のこと
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昨年の終わりごろ、某所にて。
「それにしても、ここのところはさっぱりだな」
「ああ、東の方は一掃されたそうだ。ここのところ商人の数は増えているが、護衛がしっかりついているから手を出すのはな……」
「ラクヴィ伯爵め、余計なことを……」
とある町の領主邸に集まった者たちが渋い顔で額を合わせていた。
「それにしてもどこから漏れた?」
「捕まった盗賊が吐いたんじゃないか?」
「いや、あいつらは自白すると命を落とすことになるようになっているらしい。だから吐かせることはできないそうだ」
「それなら余計に分からないな」
「分からないが、パルツィ子爵が白状して、そこから芋づる式だ。おそらくこれまでのやり方で利益を上げるのは無理だろう」
「バレなかったのがせめてもの救いだな。今後は別の方法を考えるか」
ここは王都からも遠く、芋づる式には捕まらなかった。つるが細すぎてたどれなかったのだ。だからこそ旨味も少ないが、露見する危険性も低かった。
昨年の夏、ケネスが盗賊たちを捕まえて根城を突き止め、それをスーレ市の衛兵隊に突き出した。その盗賊たちは王都に移送されてそこからラクヴィ伯爵が尋問を行ったところ、盗賊が一部の貴族と結託していることが判明した。だがその尋問も簡単にできたわけではなかった。
「閣下、全員死んでおります」
「何があった?」
「彼らが何かをしたとか、閣下が何かをしたとか、そのようなことは一切ありませんでした」
「それなら、なぜこいつらは死んだんだ?」
ラクヴィ伯爵が尋問を始めると、この場に連れてこられた三人の盗賊たちが次々と泡を吹いて倒れ、体を引き起こした時にはすでに死んでいた。
「何か強い魔法や暗示でもかけられていたのか。口を割ると死んでしまうような」
「もし魔法や暗示なら、それをかけた術者を見つけ出さなければ解除できませんね」
「くそっ、面倒なことを…………ん? それならこいつらはどうして根城のことを喋ったんだ?」
「ああ、そうですね……たしかケネス殿は『告白酒』を飲ませて聞き出したと言っていました」
「その名前を口にするな! 思い出しただけでも……」
ラクヴィ伯爵は怒鳴って机を叩き付けかけたが、すんでのところで抑えた。目の前にいるのは自分の部下ではないからだ。
「だがそれで聞き出せたのなら……自白を強要しなければいけるのか? まあダメ元でやってみるか。おい、二人ほどその酒をたっぷり飲ませてから連れてきてくれ」
「分かりました」
その尋問に同行していたのはスーレ市から盗賊たちを移送してきた衛兵隊の隊員たちだった。ケネスは『自白酒』と呼んでいたが、彼はその酒を盗賊たちに飲ませて酔わせ、単なる会話として聞き出しただけだった。その手法も衛兵隊には伝えられていた。
「本当にベラベラ喋ったな」
「はい。我々も話には聞いていましたが、目の前で見るとその有効性が分かりますね」
「あいつのやり方を真似するのは腹が立つが……仕方がない。今後は尋問をこれに切り替えるか。無駄な手間が省ける。残りも順に飲ませて連れてきてくれ」
「はっ」
盗賊たちの口から結託していた貴族の名前が分かり、さらにその貴族たちにも『告白酒』だと言わずに飲ませることで情報を吐かせ、ということを繰り返した。その結果、不正貴族同士の繋がりや盗賊たちとの連絡の取り方、ついでにこれまで行ってきた様々な不正などもまとめて吐かせることで、直轄領の内部や周辺で行われていた不正がほぼ一掃されることになった。おまけとして、一部の貴族に関しては本人や妻の不貞行為まで明らかになり、正妻にボディーブローを食らい、権勢が地に落ちる前に自分自身が地に伏した公爵もいた。
その公爵は「私が無実であることを、誰よりもまず最愛の妻の前で証明したい」と正妻を同行させていた。尋問の場で「あなたは何か悪いことをしましたか?」と聞かれると、領地の内外で関係を持った女性の名前を次々に挙げ、さらに隠し子も相当な人数に上ることが判明し、その直後にボディーブローが炸裂した。その場にいた役人たちはいたたまれない気持ちになったとか。
◆ ◆ ◆
「ユーヴィ市がな……」
「どうも優秀な冒険者らしい。手を出すのはマズいだろう」
「それならパダ町の近くをまた荒らさせるか?」
「盗賊は確保できるのか?」
「雇い主を失って困っているやつらはまだまだいる。すでに一部に連絡は取っている」
「そうか、仕事が早いな。それと同時に必要な物資の値段を釣り上げる。さすがに塩がなければ生活できまい。早いうちに悪い芽は摘んでおこう」
所詮はユーヴィ市。まだ多くの者たちはそう思っていた。キヴィオ市から森を迂回してパダ町を通り、さらにその先まで一〇日ほどかかる。ユーヴィ市はキヴィオ市にかなり依存している。キヴィオ市自体にもそれほど産業はないが、ラクヴィ伯爵領より西側では最大の町である。そして物資の集積所としての機能もある。
ユーヴィ市は麦と野菜には困らないものの、それ以外はほとんどの物資はキヴィオ市から運んでもらっていた。それならそのルートを締め上げればいい値段で売れるはず。
◆ ◆ ◆
「なぜ森のど真ん中に街道を通す⁉」
「そもそもあれだけの作業員たちはどこから来たんだ?」
「あれだけの作業員を食わせるだけの食料はあるのか?」
「そもそもそれだけの金がどこにある? 貧乏領地じゃなかったのか?」
彼らがケネスについての正確な情報を得ていればもう少し警戒したかもしれない。だが彼は[転移]で移動し、一か所に留まることは少ない。かと思えば町中でのんびりと買い物をすることもあり、屋台や商店の店主と親しかったりもする。本人にも自覚があるが、基本的には落ち着きがない。理屈で考えて思いつきで行動するので、周りからはいきなり突拍子もないことをすると思われている。
「しかもユーヴィ市から砂糖だと⁉」
「だが間違いなく砂糖だ。我々の知っている砂糖とは違って真っ白だぞ」
「よく分からない果物も大量に運ばれているし、どうなってるんだ!」
「仕方がない。ユーヴィ市はひとまず無視だ。我々としてはいかに利益を確保するかだ」
「そうだな。いい案があるんだが、聞くか?」
「儲けが出るんだろうな?」
「もちろんだ」
それはある意味では離反策だった。自分たちが行おうとした陰謀は成功しなかったが、パダ町とヴァスタ村ではキヴィオ市に対する不満が高まっていた。一時的にとは言え必要物資の値段が上がり、さらには北に街道が通ったので町の重要度がほぼなくなったからだ。そしてここを通る馬車のほとんどはユーヴィ市の公営馬車ばかりになっていた。
「なるほど。燻っているところを燃え上がらせるわけか。だがそれでどうなる?」
「そこで我々が声を上げるわけだ。パダ町とヴァスタ村はキヴィオ子爵領から離れてユーヴィ男爵領に入りたがっていると。そうなればキヴィオ市は領地の西の端になる。もっと領地の中央にある方が発展の面からも物流の面からもいいのではないか。そう訴えるわけだ」
「そうすると、最初は不安を煽り、そこから不満を口にするように持って行き、それでキヴィオ市に訴えさせるわけか。領民から不安や不満が出ているなら、子爵としてもそれを完全に無視はできまい」
「そうなると新しい領都はどこだ?」
「領地の中央に近いとなると……このサミ町か」
「いや、さすがにここはないだろう。おそらくもう少し北の街道沿いになるだろうな。分岐のあたりだ」
「たしかにそうだな。しかし、そうすれば人が動いて金が落ちる……」
「領都から離れた町の町長にさせられたと思っていたが、ようやく中央に戻れることになりそうだな」
「前祝いをしておこうか」
「そうだな」
◆ ◆ ◆
「それにしても、こんな近くに犯人がいたとは」
「私も仕事で出入りすることはよくありましたが、さすがにギルドが温床とは見抜けませんでした」
「いや、レオニートが気にすることではない。すべて私の監督不行き届きだ。それにしても、よくもまあこれほど引っかき回してくれたものだ」
カロリッタ殿から、この領地内で不審な動きをしている者がいると連絡があった。ケネス殿がパダ町とヴァスタ村の話を聞き、それでカロリッタ殿が調査をしていくと、キヴィオ市を通り越してサミ町のあたりのいくつかの町まで繋がっていたそうだ。それを聞き、今後のことについて重要な話があると関係者を一人ずつ呼び出した上で『告白酒』を使って事実を聞き出すと、そもそも不正の温床が商人ギルドだった。当然だが、カロリッタ殿が挙げた名前は全員が黒だった。しかし、『告白酒』にこのような使い方があったとはな。
「しかし、イヴォとズビシェクまでもか」
「町長はなんとかできるとしても、ギルド長と副ギルド長はすぐに人選が必要ですね」
「そうだな。それにしても……登用するにしても人がいなことにはどうしようもない」
商人ギルドのギルド長と副ギルド長が不正に関わっていた。キヴィオ市からユーヴィ市までは、かつてはパダ町を通るルートしかなかった。ユーヴィ市がうちから切り離されると、もう余所の領地だということで物資に値段を一気に上げ、パダ町から西を干上がらせようとした。ケネス殿がユーヴィ市公用の馬車を走らせて物資を運んでいたらしいので、そちらから購入できていたようだが、そういうこともあって不満が溜まっていたようだ。商人ギルドが原因だが、私の目が行き届かなかったのも原因だろう。耄碌したと思いたくはないな。
不正に絡んでいたギルドの上層部は二人だけだったが、他のギルドも入れると、役職のない職員が七三人も関わっていた。商人ギルドに関してはほぼ八割が不正に絡んでいたという有様だ。当分は商人ギルドが機能しないのを前提で動くしかない。町の代表たちも全部で八人ほど消えることになったので、そちらの代わりも探さなければ。
今回の件だが、不正に金儲けをしようと思った町の代表たちと、不正に利益を上げたいと思った商人ギルドが手を組んで荒稼ぎをしようとした、というのが正しい。実際にはあまり上手くいかずに焦り、少々派手に動こうとしたところで露見したようだ。実質的な被害は……パダ町とヴァスタ村を切り離したこと、それとキヴィオ市の移転か。これはもう前向きに考えるしかない。
「閣下、ここはお隣の知恵を借りましょうか」
「お隣というと、ケネス殿か?」
「ええ。来月からはキヴィオ市が移転します。どうしても困ったらギルドをまとめるというのをやってみてはどうでしょうか?」
「ギルドをまとめるか……。建物を一か所に集め、ギルド長はそのままにして、職員にはすべてのギルドの仕事を一通り覚えさせる、だったか?」
「ええ、人が足りないのを解消するためだったそうです。ギルド長はそのまま置いて、他の職員は融通し合うとか。結局のところ、受付の仕事というのはどのギルドでもほとんど違いがありませんので、内部で仕事を振り分ければいいだけと言っていました」
「たしかにそうだな。ある程度は反発もあるかもしれんが」
「既得権益を失うなら反発もあるでしょうが、次は新しい場所で、しかも立地は良くなります。ユーヴィ市よりもギルドの数が多いので大変かもしれませんが、タイミングとしてはここしかないでしょう」
「そうだな、そうやって前向きに色々と考えてみるか。やれやれ」
「それにしても、ここのところはさっぱりだな」
「ああ、東の方は一掃されたそうだ。ここのところ商人の数は増えているが、護衛がしっかりついているから手を出すのはな……」
「ラクヴィ伯爵め、余計なことを……」
とある町の領主邸に集まった者たちが渋い顔で額を合わせていた。
「それにしてもどこから漏れた?」
「捕まった盗賊が吐いたんじゃないか?」
「いや、あいつらは自白すると命を落とすことになるようになっているらしい。だから吐かせることはできないそうだ」
「それなら余計に分からないな」
「分からないが、パルツィ子爵が白状して、そこから芋づる式だ。おそらくこれまでのやり方で利益を上げるのは無理だろう」
「バレなかったのがせめてもの救いだな。今後は別の方法を考えるか」
ここは王都からも遠く、芋づる式には捕まらなかった。つるが細すぎてたどれなかったのだ。だからこそ旨味も少ないが、露見する危険性も低かった。
昨年の夏、ケネスが盗賊たちを捕まえて根城を突き止め、それをスーレ市の衛兵隊に突き出した。その盗賊たちは王都に移送されてそこからラクヴィ伯爵が尋問を行ったところ、盗賊が一部の貴族と結託していることが判明した。だがその尋問も簡単にできたわけではなかった。
「閣下、全員死んでおります」
「何があった?」
「彼らが何かをしたとか、閣下が何かをしたとか、そのようなことは一切ありませんでした」
「それなら、なぜこいつらは死んだんだ?」
ラクヴィ伯爵が尋問を始めると、この場に連れてこられた三人の盗賊たちが次々と泡を吹いて倒れ、体を引き起こした時にはすでに死んでいた。
「何か強い魔法や暗示でもかけられていたのか。口を割ると死んでしまうような」
「もし魔法や暗示なら、それをかけた術者を見つけ出さなければ解除できませんね」
「くそっ、面倒なことを…………ん? それならこいつらはどうして根城のことを喋ったんだ?」
「ああ、そうですね……たしかケネス殿は『告白酒』を飲ませて聞き出したと言っていました」
「その名前を口にするな! 思い出しただけでも……」
ラクヴィ伯爵は怒鳴って机を叩き付けかけたが、すんでのところで抑えた。目の前にいるのは自分の部下ではないからだ。
「だがそれで聞き出せたのなら……自白を強要しなければいけるのか? まあダメ元でやってみるか。おい、二人ほどその酒をたっぷり飲ませてから連れてきてくれ」
「分かりました」
その尋問に同行していたのはスーレ市から盗賊たちを移送してきた衛兵隊の隊員たちだった。ケネスは『自白酒』と呼んでいたが、彼はその酒を盗賊たちに飲ませて酔わせ、単なる会話として聞き出しただけだった。その手法も衛兵隊には伝えられていた。
「本当にベラベラ喋ったな」
「はい。我々も話には聞いていましたが、目の前で見るとその有効性が分かりますね」
「あいつのやり方を真似するのは腹が立つが……仕方がない。今後は尋問をこれに切り替えるか。無駄な手間が省ける。残りも順に飲ませて連れてきてくれ」
「はっ」
盗賊たちの口から結託していた貴族の名前が分かり、さらにその貴族たちにも『告白酒』だと言わずに飲ませることで情報を吐かせ、ということを繰り返した。その結果、不正貴族同士の繋がりや盗賊たちとの連絡の取り方、ついでにこれまで行ってきた様々な不正などもまとめて吐かせることで、直轄領の内部や周辺で行われていた不正がほぼ一掃されることになった。おまけとして、一部の貴族に関しては本人や妻の不貞行為まで明らかになり、正妻にボディーブローを食らい、権勢が地に落ちる前に自分自身が地に伏した公爵もいた。
その公爵は「私が無実であることを、誰よりもまず最愛の妻の前で証明したい」と正妻を同行させていた。尋問の場で「あなたは何か悪いことをしましたか?」と聞かれると、領地の内外で関係を持った女性の名前を次々に挙げ、さらに隠し子も相当な人数に上ることが判明し、その直後にボディーブローが炸裂した。その場にいた役人たちはいたたまれない気持ちになったとか。
◆ ◆ ◆
「ユーヴィ市がな……」
「どうも優秀な冒険者らしい。手を出すのはマズいだろう」
「それならパダ町の近くをまた荒らさせるか?」
「盗賊は確保できるのか?」
「雇い主を失って困っているやつらはまだまだいる。すでに一部に連絡は取っている」
「そうか、仕事が早いな。それと同時に必要な物資の値段を釣り上げる。さすがに塩がなければ生活できまい。早いうちに悪い芽は摘んでおこう」
所詮はユーヴィ市。まだ多くの者たちはそう思っていた。キヴィオ市から森を迂回してパダ町を通り、さらにその先まで一〇日ほどかかる。ユーヴィ市はキヴィオ市にかなり依存している。キヴィオ市自体にもそれほど産業はないが、ラクヴィ伯爵領より西側では最大の町である。そして物資の集積所としての機能もある。
ユーヴィ市は麦と野菜には困らないものの、それ以外はほとんどの物資はキヴィオ市から運んでもらっていた。それならそのルートを締め上げればいい値段で売れるはず。
◆ ◆ ◆
「なぜ森のど真ん中に街道を通す⁉」
「そもそもあれだけの作業員たちはどこから来たんだ?」
「あれだけの作業員を食わせるだけの食料はあるのか?」
「そもそもそれだけの金がどこにある? 貧乏領地じゃなかったのか?」
彼らがケネスについての正確な情報を得ていればもう少し警戒したかもしれない。だが彼は[転移]で移動し、一か所に留まることは少ない。かと思えば町中でのんびりと買い物をすることもあり、屋台や商店の店主と親しかったりもする。本人にも自覚があるが、基本的には落ち着きがない。理屈で考えて思いつきで行動するので、周りからはいきなり突拍子もないことをすると思われている。
「しかもユーヴィ市から砂糖だと⁉」
「だが間違いなく砂糖だ。我々の知っている砂糖とは違って真っ白だぞ」
「よく分からない果物も大量に運ばれているし、どうなってるんだ!」
「仕方がない。ユーヴィ市はひとまず無視だ。我々としてはいかに利益を確保するかだ」
「そうだな。いい案があるんだが、聞くか?」
「儲けが出るんだろうな?」
「もちろんだ」
それはある意味では離反策だった。自分たちが行おうとした陰謀は成功しなかったが、パダ町とヴァスタ村ではキヴィオ市に対する不満が高まっていた。一時的にとは言え必要物資の値段が上がり、さらには北に街道が通ったので町の重要度がほぼなくなったからだ。そしてここを通る馬車のほとんどはユーヴィ市の公営馬車ばかりになっていた。
「なるほど。燻っているところを燃え上がらせるわけか。だがそれでどうなる?」
「そこで我々が声を上げるわけだ。パダ町とヴァスタ村はキヴィオ子爵領から離れてユーヴィ男爵領に入りたがっていると。そうなればキヴィオ市は領地の西の端になる。もっと領地の中央にある方が発展の面からも物流の面からもいいのではないか。そう訴えるわけだ」
「そうすると、最初は不安を煽り、そこから不満を口にするように持って行き、それでキヴィオ市に訴えさせるわけか。領民から不安や不満が出ているなら、子爵としてもそれを完全に無視はできまい」
「そうなると新しい領都はどこだ?」
「領地の中央に近いとなると……このサミ町か」
「いや、さすがにここはないだろう。おそらくもう少し北の街道沿いになるだろうな。分岐のあたりだ」
「たしかにそうだな。しかし、そうすれば人が動いて金が落ちる……」
「領都から離れた町の町長にさせられたと思っていたが、ようやく中央に戻れることになりそうだな」
「前祝いをしておこうか」
「そうだな」
◆ ◆ ◆
「それにしても、こんな近くに犯人がいたとは」
「私も仕事で出入りすることはよくありましたが、さすがにギルドが温床とは見抜けませんでした」
「いや、レオニートが気にすることではない。すべて私の監督不行き届きだ。それにしても、よくもまあこれほど引っかき回してくれたものだ」
カロリッタ殿から、この領地内で不審な動きをしている者がいると連絡があった。ケネス殿がパダ町とヴァスタ村の話を聞き、それでカロリッタ殿が調査をしていくと、キヴィオ市を通り越してサミ町のあたりのいくつかの町まで繋がっていたそうだ。それを聞き、今後のことについて重要な話があると関係者を一人ずつ呼び出した上で『告白酒』を使って事実を聞き出すと、そもそも不正の温床が商人ギルドだった。当然だが、カロリッタ殿が挙げた名前は全員が黒だった。しかし、『告白酒』にこのような使い方があったとはな。
「しかし、イヴォとズビシェクまでもか」
「町長はなんとかできるとしても、ギルド長と副ギルド長はすぐに人選が必要ですね」
「そうだな。それにしても……登用するにしても人がいなことにはどうしようもない」
商人ギルドのギルド長と副ギルド長が不正に関わっていた。キヴィオ市からユーヴィ市までは、かつてはパダ町を通るルートしかなかった。ユーヴィ市がうちから切り離されると、もう余所の領地だということで物資に値段を一気に上げ、パダ町から西を干上がらせようとした。ケネス殿がユーヴィ市公用の馬車を走らせて物資を運んでいたらしいので、そちらから購入できていたようだが、そういうこともあって不満が溜まっていたようだ。商人ギルドが原因だが、私の目が行き届かなかったのも原因だろう。耄碌したと思いたくはないな。
不正に絡んでいたギルドの上層部は二人だけだったが、他のギルドも入れると、役職のない職員が七三人も関わっていた。商人ギルドに関してはほぼ八割が不正に絡んでいたという有様だ。当分は商人ギルドが機能しないのを前提で動くしかない。町の代表たちも全部で八人ほど消えることになったので、そちらの代わりも探さなければ。
今回の件だが、不正に金儲けをしようと思った町の代表たちと、不正に利益を上げたいと思った商人ギルドが手を組んで荒稼ぎをしようとした、というのが正しい。実際にはあまり上手くいかずに焦り、少々派手に動こうとしたところで露見したようだ。実質的な被害は……パダ町とヴァスタ村を切り離したこと、それとキヴィオ市の移転か。これはもう前向きに考えるしかない。
「閣下、ここはお隣の知恵を借りましょうか」
「お隣というと、ケネス殿か?」
「ええ。来月からはキヴィオ市が移転します。どうしても困ったらギルドをまとめるというのをやってみてはどうでしょうか?」
「ギルドをまとめるか……。建物を一か所に集め、ギルド長はそのままにして、職員にはすべてのギルドの仕事を一通り覚えさせる、だったか?」
「ええ、人が足りないのを解消するためだったそうです。ギルド長はそのまま置いて、他の職員は融通し合うとか。結局のところ、受付の仕事というのはどのギルドでもほとんど違いがありませんので、内部で仕事を振り分ければいいだけと言っていました」
「たしかにそうだな。ある程度は反発もあるかもしれんが」
「既得権益を失うなら反発もあるでしょうが、次は新しい場所で、しかも立地は良くなります。ユーヴィ市よりもギルドの数が多いので大変かもしれませんが、タイミングとしてはここしかないでしょう」
「そうだな、そうやって前向きに色々と考えてみるか。やれやれ」
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