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第三章 第三部
豆腐と寒天の話
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暑さを感じ始めると食べたくなるのが豆腐と寒天。これまで基本的には手に入るもので色々なものを作ってきた。サトウキビ、パイナップル、バナナ、ココナッツ、カカオなどは南のクルディ王国でなら手に入る。町では栽培していないけど、パラ(ゴムの木)やコーヒーもクルディ王国から来たものを異空間の家の畑で栽培している。
僕がいなければ絶対に作れないものはこの領地には少ない。いずれ僕がいなくても領地が経営できるように、普通の手段でできることを広げている。え、魔道具? 魔道具は存在するからね。温室だってある。僕はそれを組み合わせただけ。規模は大きいかもしれないけど、この世界に存在しないものは領地では使っていないし作っていない……はず。それでどうしてわざわざこのような話をしたかというと、ようやく豆腐と寒天を作る気になったから。少し前から市民生活ギルドで新しい料理の話をしているから、職員に手伝ってもらって試食などをしてもらう。
フェリン王国は、北は湖を挟んでヴェリキ王国と、東は川を挟んでレトモ王国と、南は海と地峡を挟んでクルディ王国と繋がっている。海があるのは南部だけ。そこには僕はまだ行ったことがないから魚介類は獲れなかった。でもよく考えたら他にも海があった。それはこの大陸の一番西。大森林をずっと西まで行くと大陸の端があって海がある。そこもフェリン王国の一部だと言えば一部だし、それなら西の端だからユーヴィ男爵領の一番西の端だとも言える。つまりうちの領地。
「でもいい運動どころじゃないなあ」
散歩がてら大森林の一番西まで来ている。この山を越えたら海がある。フェリン王国は国土そのものはかなり広い。アフリカ大陸を横に倒して二回り小さくしたくらいになる。大森林の面積はその一〇倍くらいあるんじゃないかってくらい広い。ナルヴァ町から歩いたとしたら二、三年くらいかかりそう。
まず海水をがっさりと収納し、それを元に塩を作ることにする。苦汁は海水から塩である塩化ナトリウムを取り除いた残りの部分。ということで、大量の海水から大量の塩と大量の苦汁ができた。テングサのようなものも見つかったから寒天も作れそう。昆布っぽいものもあるからいい出汁が取れそう。
元はと言えば塩を作るためにここまで来た。ユーヴィ市周辺で塩がどのように使われているかだけど、料理以外だと保存食を作る時などに使われていた。干し肉や漬物など。肉はそのまま干すと腐ることが多いから、塩をしっかりと塗り付けてから干すことが多かった。塩をまぶすことで水分が外に出て、しかも塩分が入り込んで殺菌の効果もある。要するに塩がないと料理だけではなく保存食も作れなくなってしまう。
ユーヴィ市では僕が燻製作りを広めたから、捌いた肉の端っこなどは燻製として販売されることもある。簡易的な燻製である熱燻は日持ちがしないから、丸一日しっかり燻す温燻が使われている。でも保存食として買っても保存されたことがない、とルボルさんは言っていた。
ソーセージだってベーコンだってハムだって、塩がなければ作れない。領内にドワーフが増えたことが原因の一つらしいけど、最近は塩の消費量が増えてきた。蒸留酒と分厚い燻製肉の組み合わせが彼らの口に合うらしい。あまり食べ過ぎると塩分の摂り過ぎじゃないかと思ったけど、彼らは王都でもスープの色が変わるほど調味料を入れていた。よく汗もかくそうだから問題がないのかもしれない。本当ならどこか別の町から買うのがいいんだけど、ここまで運ぶのも時間がかかるから領内で作ることにした。
それで塩を作れば苦汁ができる。そうすると豆腐ができる。大豆はそのまま食べることが多かったけど、枝豆と冷や奴が好きなマリアンが「豆腐は美容にいいそうじゃ」と口にしたら、真似をした服飾美容店の店員たちが広げらしい。でも枝豆は時期があるとして、豆腐は苦汁が必要。一応は卵の殻と酢で代用できるんだけど……
「なかなか卵を口にする機会がありませんので」
「物がなければどうしようもないね」
卵自体が高価だからね。日本みたいな養鶏場があるわけじゃないから。レモンや酢を使ってカッテージチーズのように作ることもできるけど、あれでは冷や奴はできない。ちょっと酸っぱくなるし。だから豆腐が作れる人は限られていた。
それなら鶏っぽい鳥など、卵を産む動物を増やせばいいかと思ったけど、そもそも卵の殻は代用品だからね。塩を作るついでにきちんとした苦汁を用意して、さらにテングサを集めて寒天を作ろうか、というのがここまでの話の流れ。
一通り揃ったので、これからギルドで作り方を見せるところ。
「では今から豆腐を作ります。しっかり覚えてください」
「美容にいい食べ物ですよね」
「食べ過ぎたら意味がないですよ」
「食べれば食べるほど美しくなるとかは?」
「ありません」
とりあえず大豆から豆乳を作る。
「搾って残ったおからも体にいいですよ。そのままだと味がありませんが。それと、日持ちがしないので早めに食べてください」
豆乳を弱火にかけながら苦汁を入れて軽く混ぜる。透明な上澄みが出てくるので火を止めてしばらく待つ。上澄みをお玉ですくって捨てたら型に入れて重石を乗せて一五分から二〇分ほど待つ。固まったら水に二〇分から三〇分ほどさらしてアクを抜く。もちろん時間がかかるところは魔道具で短縮する。
軽く冷やしたらショウガをおろして醤油をかけて。
「定番の冷や奴ですね」
「冷たいので『冷や』は分かりますが、『奴』って何ですか?」
「武家で働く下働きのことですね。元々は蔑んで使う言葉だったようです。その奴たちが着る袢纏……羽織の一種ですが、それは四角形を染めた模様だったそうです。だから料理では、奴の袢纏の模様のように大きく四角く切るというのを『奴に切る』と言い始めたそうです。そこから切った豆腐を奴と呼ぶようになったとか。他の説もありますけどね」
「冷やっこいからかと思いました」
「その説もありますよ」
もう一つは寒天。
寒天はテングサだけではなくて他の海藻でもできるそうだけど、今回はテングサだけを使う。厳密に言えばテングサっぽい海藻だけを使う。
ユーヴィ市は海が遠すぎるから、伝統的な作り方をする必要はないね。海が近ければ産業にできるかもしれないけど、ここはいつものように領主がどこからか見つけてきた不思議な食べ物という扱いにしておこう。
まずはテングサの汚れをしっかりと取る。それをしっかりと煮込んで寒天質を取り出す。取り出した寒天質から不純物を取り除く。それを広げて冷ます。冷めたら凍らせて水分を取り除く。要するにフリーズドライ。最後に砕いて粉寒天ができる。粉寒天は煮溶かして固める以外に使い道がないのが欠点と言えば欠点。
寒天を作って思ったけど、その前にトコロテンでもいいのか。個人的にはトコロテンは葛きりと一緒で黒蜜の方が合うと思っているので、名物にするなら甘味の方で売ろうかな。三杯酢でもいいんだけど、あれはいつ食べるものなのかがよく分からない。あれっておやつ?
天突きを用意して試しにトコロテンを作って、黒蜜をかけて、さあどうだ。
「なんとかっ……頑張ってっ……食べますっ……ふっ!」
「箸がだめならフォークしかないと思うよ」
逃げるトコロテンを箸で追いかける。箸は使えてもトコロテンはハードルが高いかな?
「あ、甘くて冷たくて、つるっとした舌触りがいいですね」
「黒蜜は砂糖を作る途中の黒砂糖を溶かしたものだから全部は飲まない方がいいよ……って飲んでから言うのもなんだけど」
黒蜜用に少し黒砂糖を作った方がいいかな? 黒砂糖って精製していないからミネラルは多いからね。一割くらいでいいから黒砂糖に回してみるか、それとも別のところで黒砂糖を作るか、それは後でいいか。
僕がいなければ絶対に作れないものはこの領地には少ない。いずれ僕がいなくても領地が経営できるように、普通の手段でできることを広げている。え、魔道具? 魔道具は存在するからね。温室だってある。僕はそれを組み合わせただけ。規模は大きいかもしれないけど、この世界に存在しないものは領地では使っていないし作っていない……はず。それでどうしてわざわざこのような話をしたかというと、ようやく豆腐と寒天を作る気になったから。少し前から市民生活ギルドで新しい料理の話をしているから、職員に手伝ってもらって試食などをしてもらう。
フェリン王国は、北は湖を挟んでヴェリキ王国と、東は川を挟んでレトモ王国と、南は海と地峡を挟んでクルディ王国と繋がっている。海があるのは南部だけ。そこには僕はまだ行ったことがないから魚介類は獲れなかった。でもよく考えたら他にも海があった。それはこの大陸の一番西。大森林をずっと西まで行くと大陸の端があって海がある。そこもフェリン王国の一部だと言えば一部だし、それなら西の端だからユーヴィ男爵領の一番西の端だとも言える。つまりうちの領地。
「でもいい運動どころじゃないなあ」
散歩がてら大森林の一番西まで来ている。この山を越えたら海がある。フェリン王国は国土そのものはかなり広い。アフリカ大陸を横に倒して二回り小さくしたくらいになる。大森林の面積はその一〇倍くらいあるんじゃないかってくらい広い。ナルヴァ町から歩いたとしたら二、三年くらいかかりそう。
まず海水をがっさりと収納し、それを元に塩を作ることにする。苦汁は海水から塩である塩化ナトリウムを取り除いた残りの部分。ということで、大量の海水から大量の塩と大量の苦汁ができた。テングサのようなものも見つかったから寒天も作れそう。昆布っぽいものもあるからいい出汁が取れそう。
元はと言えば塩を作るためにここまで来た。ユーヴィ市周辺で塩がどのように使われているかだけど、料理以外だと保存食を作る時などに使われていた。干し肉や漬物など。肉はそのまま干すと腐ることが多いから、塩をしっかりと塗り付けてから干すことが多かった。塩をまぶすことで水分が外に出て、しかも塩分が入り込んで殺菌の効果もある。要するに塩がないと料理だけではなく保存食も作れなくなってしまう。
ユーヴィ市では僕が燻製作りを広めたから、捌いた肉の端っこなどは燻製として販売されることもある。簡易的な燻製である熱燻は日持ちがしないから、丸一日しっかり燻す温燻が使われている。でも保存食として買っても保存されたことがない、とルボルさんは言っていた。
ソーセージだってベーコンだってハムだって、塩がなければ作れない。領内にドワーフが増えたことが原因の一つらしいけど、最近は塩の消費量が増えてきた。蒸留酒と分厚い燻製肉の組み合わせが彼らの口に合うらしい。あまり食べ過ぎると塩分の摂り過ぎじゃないかと思ったけど、彼らは王都でもスープの色が変わるほど調味料を入れていた。よく汗もかくそうだから問題がないのかもしれない。本当ならどこか別の町から買うのがいいんだけど、ここまで運ぶのも時間がかかるから領内で作ることにした。
それで塩を作れば苦汁ができる。そうすると豆腐ができる。大豆はそのまま食べることが多かったけど、枝豆と冷や奴が好きなマリアンが「豆腐は美容にいいそうじゃ」と口にしたら、真似をした服飾美容店の店員たちが広げらしい。でも枝豆は時期があるとして、豆腐は苦汁が必要。一応は卵の殻と酢で代用できるんだけど……
「なかなか卵を口にする機会がありませんので」
「物がなければどうしようもないね」
卵自体が高価だからね。日本みたいな養鶏場があるわけじゃないから。レモンや酢を使ってカッテージチーズのように作ることもできるけど、あれでは冷や奴はできない。ちょっと酸っぱくなるし。だから豆腐が作れる人は限られていた。
それなら鶏っぽい鳥など、卵を産む動物を増やせばいいかと思ったけど、そもそも卵の殻は代用品だからね。塩を作るついでにきちんとした苦汁を用意して、さらにテングサを集めて寒天を作ろうか、というのがここまでの話の流れ。
一通り揃ったので、これからギルドで作り方を見せるところ。
「では今から豆腐を作ります。しっかり覚えてください」
「美容にいい食べ物ですよね」
「食べ過ぎたら意味がないですよ」
「食べれば食べるほど美しくなるとかは?」
「ありません」
とりあえず大豆から豆乳を作る。
「搾って残ったおからも体にいいですよ。そのままだと味がありませんが。それと、日持ちがしないので早めに食べてください」
豆乳を弱火にかけながら苦汁を入れて軽く混ぜる。透明な上澄みが出てくるので火を止めてしばらく待つ。上澄みをお玉ですくって捨てたら型に入れて重石を乗せて一五分から二〇分ほど待つ。固まったら水に二〇分から三〇分ほどさらしてアクを抜く。もちろん時間がかかるところは魔道具で短縮する。
軽く冷やしたらショウガをおろして醤油をかけて。
「定番の冷や奴ですね」
「冷たいので『冷や』は分かりますが、『奴』って何ですか?」
「武家で働く下働きのことですね。元々は蔑んで使う言葉だったようです。その奴たちが着る袢纏……羽織の一種ですが、それは四角形を染めた模様だったそうです。だから料理では、奴の袢纏の模様のように大きく四角く切るというのを『奴に切る』と言い始めたそうです。そこから切った豆腐を奴と呼ぶようになったとか。他の説もありますけどね」
「冷やっこいからかと思いました」
「その説もありますよ」
もう一つは寒天。
寒天はテングサだけではなくて他の海藻でもできるそうだけど、今回はテングサだけを使う。厳密に言えばテングサっぽい海藻だけを使う。
ユーヴィ市は海が遠すぎるから、伝統的な作り方をする必要はないね。海が近ければ産業にできるかもしれないけど、ここはいつものように領主がどこからか見つけてきた不思議な食べ物という扱いにしておこう。
まずはテングサの汚れをしっかりと取る。それをしっかりと煮込んで寒天質を取り出す。取り出した寒天質から不純物を取り除く。それを広げて冷ます。冷めたら凍らせて水分を取り除く。要するにフリーズドライ。最後に砕いて粉寒天ができる。粉寒天は煮溶かして固める以外に使い道がないのが欠点と言えば欠点。
寒天を作って思ったけど、その前にトコロテンでもいいのか。個人的にはトコロテンは葛きりと一緒で黒蜜の方が合うと思っているので、名物にするなら甘味の方で売ろうかな。三杯酢でもいいんだけど、あれはいつ食べるものなのかがよく分からない。あれっておやつ?
天突きを用意して試しにトコロテンを作って、黒蜜をかけて、さあどうだ。
「なんとかっ……頑張ってっ……食べますっ……ふっ!」
「箸がだめならフォークしかないと思うよ」
逃げるトコロテンを箸で追いかける。箸は使えてもトコロテンはハードルが高いかな?
「あ、甘くて冷たくて、つるっとした舌触りがいいですね」
「黒蜜は砂糖を作る途中の黒砂糖を溶かしたものだから全部は飲まない方がいいよ……って飲んでから言うのもなんだけど」
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