新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第三部

出張

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 目の前ではうちから来た女性職員たちが、キヴィオ市のギルド職員たちに総合ギルドの仕事の流れなどを説明している。増えたね。出張は二〇人じゃなかったっけ?

「ルボルさんの指示で増員しました。二〇人よりも三〇人の方が仕事がはかどるのが一点、キヴィオ市で相手を見つけてキヴィオ市のギルドでの勤務を続ける希望が増えれば恩が売れるだろうというのが一点」
「ルボルさんらしい言い方だね。正直に力を貸したいと言えばいいのに」
「実際にアタックを開始している職員もいます」
「それは仕事が終わってからだときちんと言ってください」



 大きな仕事は一段落したので家でゆっくりできるようになったと思ったけど、今日は出張でキヴィオ市に来ている。僕は今日だけで、職員たちはしばらくこちらに滞在することになる。

「これほど人が足りないというのが大変だとは……。ケネス殿には手間をかけますが、よろしく頼みます」
「いえいえ、ディルク殿、困った時はお互い様です」

 カロリッタから大まかには聞いていたこととレオニートさんから手紙で教えてもらったことに加えて、もう少し詳しいことをキヴィオ子爵から説明された。今回の件は基本的には隣の貴族領のことだから、ここに来るまで僕の方から詳しいことを聞こうとはしなかった。

 今回あらためて聞いたところ、パダ町とヴァスタ村の件では商人ギルドを中心にして役人やギルド職員の不正がかなりひどかったそうだ。他のギルドも含めて最初に七〇人以上が処分され、そこからさらに他の不正もぞろぞろと見つかったと。カロリッタが告白酒の使い方を教えたことで見つかった不正が増えたそうだ。

 それで徹底的に調査したところ、冒険者ギルドと製パンギルドはほぼ白だったらしいけど、商人ギルドはほぼ黒で、残りのギルドは四分の三から五分の四が黒といったところ。冒険者ギルドや製パンギルドで黒だと判断されたのは今回の不正とは関係なく、単なる着服だったそうだ。それはそれで問題だけど、横の繋がりはなかったらしい。

 冒険者ギルドは代々のギルド長がしっかりしていているらしい。製パンギルドはキヴィオ子爵領の屋台骨だったから、こちらは領主がしっかりと管理していたそうだ。

 それ以外のギルドは文字通りガタガタになってしまったため、とりあえず今は冒険者ギルドの近くに仮の総合ギルドを建て、一度そこに全員に集まってもらった。



「最初に話を聞いた時は、各ギルドの一部の職員を商人ギルドに移すか、あるいは他の町からしばらく呼ぶか、どちらかにしようと思いました。とりあえずそれで凌げばいいと。ケネス殿のやり方を提案してくれたのはレオニートでした。どうしても人手が足りなければギルドをまとめればいいのではないかと」
「そうですね。うちよりも町の数も多いですし、他の町から職員を移すのもありですね」

 商人ギルドの方はカロリッタがチクったせいで不正が露見したけど、他のギルドはほとんどが内部告発だったらしい。商人ギルドのギルド長と副ギルド長が処分されたと聞いて、うちのギルド長も処分してもらおうと動いた結果、不正の原因は取り除かれたけど、ギルドの上の方がごっそりといなくなった。ほとんどのギルドが役職なしの職員だけになってしまった。

 ギルド長は内部昇格の形でとりあえず埋めたものの、その状態で新キヴィオ市と旧キヴィオ市の二つに分けるとギルド職員がどう考えても足りなくなりそうなのでうちのやり方を導入しようとした。その準備をしていたところ、本来はそれを仕切るはずの役人たちも不正に関わっていたことが判明したので処分することになった。キヴィオ市の移転を目論んでいたサミ町周辺の町長たちも処分されたので、それも埋めなければならない。そちらにも信用できる人を回さなくてはならなくなり、どうしようもないほど人手不足になった。

 うちとキヴィオ子爵領は町の数が一桁違う。ギルドが置かれている町も多い。だからキヴィオ市にはそれぞれの町のギルドをまとめるための役人がたくさんいる。その役人たちが不正を仕切っていたせいでディルク殿の耳にもまったく不正の話が入っていなかった。

「本当に情けない話です。ただ、息子が継ぐ頃には町がきれいになっていると思えば、なんとかもう少し頑張ろうかと」
「引退する年齢でもないでしょう。ここでひと踏ん張りして町の立て直しが終わればまた気分が変わりますよ」

 結局のところ、ユーヴィ市がキヴィオ子爵領だったころから、子爵の甥を中心にして様々な不正が行われていた。キヴィオ子爵領はラクヴィ伯爵領よりも西側では一番大きな貴族領だけど、今は成長が横ばいだと子爵は言っていた。つまり色々とちょろまかされていたようで、それが続けば成長しようがない。その主犯格だった子爵の甥——今さらだけどアレシュという名前だそうだ——が国外に逃げたことで、どうもその不正が上手くいかなくなったようだ。

「昔から頭のいい甥でしたが、まさかそこまで悪知恵を働かせて不正をしていたとは思いませんでした。分かっていたら牢屋に放り込んだのですが……」
「国外に出たのなら慣れない土地で悪さをする地盤もないでしょうし、それなりに苦労するでしょう」

 役人や町長、ギルドの上の方、それに盗賊、このあたりが結託して不正をしていた上に、さらに東の方とも繋がっていて、大変なことになっていたようだ。僕が知っている話と合わせると、東の方のまとめ役が前パルツィ子爵なら、西のまとめ役がキヴィオ子爵の甥だったと。二人に繋がりがあったかどうかは今のところは分からない。それと、王都から遠く離れた場所だからから、甥としては権力的にどうこうすることはできなかったので、街道を荒らしたりして稼いでいたようだ。

 遡って調べてみたところ、以前はそこまでの不正はなかったようで、つまりその甥がそもそもの原因だったと。とりあえず一度膿を出し切ったところで人手も足りなくなったことだし、それなら新しい体制でやっていこうということになったらしい。



「それにしても、ユーヴィ市のギルド職員は優秀ですね」
「うちはちょっと特殊な育て方をしましたので」
「特殊ですか?」
「ディルク殿には以前私が店をしていると言ったと思いますが、その店でまず読み書き計算と礼儀作法を叩き込んでから仕事を覚えさせました。一部はギルド職員として採用しました。ユーヴィ市は働く場所が少なかったので、手に職を付けさせる一環ですね。ギルド職員になるかならないかは別として、読み書き計算ができて礼儀作法がきちんとしていれば、もしユーヴィ市を出て他の町に行っても仕事が見つかるのではないかと」
「外へ出ることを推奨しているのですか?」
「どこで働いてもいいと思うんですよ。ユーヴィ市にはとにかく仕事がなかったので、まずは受け皿を作って仕事を与えたり、それを発展させて職人を育てています。現在はそういう人たちが独立して店を開き始めています。ですがそのうち店もそんなには必要なくなると思いますので、そうすれば外へ出るしかなくなります」
「そもそもの考え方がやはり違いますね」

 キヴィオ市に限った話じゃないけど、技術のある人はその領地内で大切にして外には出さないことが多い。それは全然間違いではなくて、領主としては本当はそうあってほしいと思う。でもユーヴィ市のキャパを考えれば、そこまで職人ばっかり増やしてもどうしようもないという考えもある。人口六〇〇〇人程度の領地に、例えば仕立て屋が五〇〇人も必要ない。結局食べられなくなるだけ。それなら外で仕事を見つけた方がまだいい。そのためにはできるだけ高い技術を身に付けてほしいので職業訓練学校がある。

「技術は秘匿するものだと思っていましたが、何でも知っているケネス殿からすれば、秘匿する意味がないのでしょうね」
「何でも知っているわけではありませんが、他の人よりは知っている自信はあります。それで技術の話ですが、あまり秘匿しすぎるとそこで利権が発生してしまいますので、ある程度の時間が経てば公開することも考えなければならないと思うんですよ」
「それはレオニートに伝えた色ガラスの話ですか?」
「ああ、もう聞いたんですね。それも一つです。色ガラスを作り始めたとして、最初はみんなが欲しがるでしょう。そしてその技術を知りたいと思うはずです」
「それは当然でしょうね」
「仲間になりたい人たちは仲間に引き込んだらいいと思います。いずれは漏れるからです。技術が漏れるまでにしっかりとを周囲に名前を売り、色ガラスと言えばキヴィオ市、と呼ばれるようになっていれば成功ですね」
「なるほど。模倣されてもそれより上に行けばいいと」
「はい。粗悪な模倣品も出るかもしれませんが、明らかにが違えばすぐに分かります。差を広げておくことは必要ですね」

 ブランド戦略というのは他との差別化。それができないとどこも同じになってしまう。種なしのバナナやパイナップルはある意味ではブランド戦略。ユーヴィ男爵領では南国でしか育たない果物が採れるというのがそれ。そのための技術は今のところ外には出していないけど、商人たちが買い付けに来ているわけだから、温室は見られている。その情報を持ち帰って自分のところで再現できるかどうか。いずれは技術を広めたいとは思うけど、それはもう少し先になると思う。

 まず温室に使うガラスが高いこと。石油から作られる合成樹脂がないから、使うならガラスしかない。マリアンの鱗はプラスチックのような素材だから代わりになると思うけど、さすがに温室には使わない。そもそも竜の鱗は非常に高価らしいからね。

 次に魔道具が高いこと。温室で南国の果物を栽培するには、温室内の温度を高めにし続ける必要がある。もちろん火を焚いて温度を上げることもできるけど、寒暖差が必要なので上げたり下げたりする必要があり、火を焚いて調節するのはなかなか難しい。薪が大量に必要になるし、温室の中で火を焚くと一酸化炭素中毒になる可能性もあるので、魔道具を使わないとかなり大変。だから温度調節の魔道具もあった方がいい。

 いずれはそうやってうちの真似をする場所が出てくるかもしれないから、魔道具の販売を始めることにした。ジェナと一緒にユーヴィ市に来た留学生たちがみんな一定の基準に達したということで、来月あたりに魔道具技術者ギルドを立ち上げることにした。技術者を育てるということになっているけど、しばらくの間は製造が中心になりそう。
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