新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第三部

芋づるの端

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「まさかこれほどひどかったとは……」
「私も甘く見ていました」

 私とレオニート、そしてここに集めた一〇人の役人たちで五月に発覚した不正の後処理をしているが、二か月近く経ってもそれが終わらず、もはや何をどう処理したらいいのかすら分からなくなっている。

 六月にキヴィオ市の移転を発表した。城壁はケネス殿に頼んで作ってもらってあるから、それ以外としては内部に建物を用意して徐々に組織と住民を移動させるだけ。だから旧キヴィオ市の代官に任命したレオニートには町の維持を任せ、私は新キヴィオ市への移転の音頭を取ることになっていた。だがその作業は遅々として進んでいない。それもこれも移転に関わる多くの役人が不正に関わっていたからだ。

 最初に判明した不正はサミ町の周辺にあるいくつかの町の町長たち、それに力を貸していた商人ギルドのギルド長イヴォと副ギルド長ズビシェク、そしてその指示で動いていたギルド職員が五〇人ほどだった。他のギルドでも二〇人以上が関わっていたので処分した。それで落ち着くと思ったら、そこまでは単なるにすぎず、ですらなかった、という話だ。

「余計なことをしなければこんな手間はなかったのかもしれないが……」
「『藪をつついて蛇を出す』とは違うでしょう。明らかな不正が山盛りですからね。今のうちに見つかっただけでもよしとしましょう」
「それはそうなんだがな。膿を出し切ろうとしたら膿しかなかったのでは……」
「まだ骨と皮が残っているからマシですよ」

 イヴォとズビシェクの処分を発表すると、この町にある大半のギルドからギルド長と副ギルド長に対する告発状が立て続けに届いた。そこから納税関係や治安関係の役人を中心にして、役人の不正も大量に見つかった。

 ラクヴィ伯爵領からキヴィオ子爵領まで、道そのものはいくつもあるが、ある程度安全が確保されている街道のは直轄領からラクヴィ市、そしてキヴィオ市まで伸びている街道のみ。キヴィオ市に運ばれた物資が北のレブ男爵領や南のサガード男爵領まで運ばれる。キヴィオ市は西の中継地点となっているので、際立った特徴はないがこのあたりでは一番大きな町として栄えてきた。しかしその繁栄を私物化しようとした者たちがいた。

 一部の町長は盗賊と結託して街道を行く商人から物資を奪い、それを私物化した上で商人ギルドに流し、商人ギルドはすべてを知った上でそれを買い取っていた。商人ギルドは金になりそうな物を運んでいる商人の情報を掴んでいるので、盗賊を護衛として商隊に紛れ込ませ、キヴィオ市から他の地域に向かう商人を襲わせていた。

「結局あのあたりには物資がまったく届いていなかったのか……」
「商人ギルドが絡んでいた依頼はほぼ全滅ですね。他の分はまだマシでしょうか」
「冒険者ギルドや製パンギルドで何もなかったのが救いだな」
「自画自賛で申し訳ありませんが、冒険者ギルドに関しては常に仕事内容を厳しくチェックするように言っていますので」

 どうも主犯は以前キヴィオ市の代官を任せていた甥のアレシュだったようだ。優秀だと思ったので代官を任せていたわけだが、余計な方向に優秀だったわけだ。見抜けなかった自分が恥ずかしいが、今さら悔やんでも仕方がない。

 これらの不正については内容からしても情状酌量する余地はなく、犯罪者として処分した。そして空いた地位を不正に関わっていなかった役人やギルド職員から選べば、当然ながら人手が足りなくなる。今はギリギリの経営しかできなくなっているので、とりあえず新市の方へ引っ越す前に、まずは領地の立て直しをしなければまったく身動きが取れない。

「まったく……アレシュがここまでやっていたとは……。甥とは言え、今からでも探し出して首を刎ねてやりたいくらいだ」
「たしかに彼にはそのような素振りはありませんでした。よほど偽るのが上手だったとしか思えませんね」
「弁も立つし度胸もあると思っていたが……。ルミールが頼りになれば……」
「いない人の話をしてもどうしようもないでしょう。向き不向きがありますから」

 ルミールは私の長男だが領地経営にはまったく関心を示さず、若いころから旅に出て各地で民話を集めている。四、五年に一度は戻ってくるが、それ以外に帰ってくることはない。領地は三男のパトリクに任せると言っているので継ぐことはないだろう。パトリクは成人はしているが一三だ。まだまだ勉強が必要な身で、町を任せるにはもう少しかかるだろう。次男のヴィートはポルツ男爵の一人娘に惚れて結婚し、向こうを継ぐ準備をしているそうだ。思うようにはいかないのが人生というものなのだろう。

「いっそのこと領地全部をケネス殿に差し出したら上手くやってくれると思うようになってしまった」
「まあ彼なら間違いなく建て直してくれるでしょうが、それは少々恥ずかしいでしょう」
「少々どころではなく、先祖に顔向けができなくなる。さすがにそのようなことはしないが……すまん、ここのところ愚痴っぽくていかんな」

 レオニートは私と歳が近いのでつい愚痴を言ってしまう。彼をギルド長として引っ張ってきたのは私だが、もしこの町に彼がいなかったらどうなっていたのかと想像すると寒気しかしない。

「心中お察しします。とりあえずケネス殿にはうちからギルドをまとめる手法を教わりに行くか、もし可能ならこちらに来てもらって教えてもらうか、その件で問い合わせてみます」
「ああ、それで頼む。皆ももうしばらく頑張ってくれ」



◆ ◆ ◆



「閣下、キヴィオ市から手紙が届いています」
「ありがとう。引っ越しの経過報告かな?」

 ジェナが手紙を持ってきてくれた。六月からキヴィオ市が徐々に引っ越すことになっているからね。まあ建物がないから人が移動するのはもう少し先か。旧キヴィオ市の新しい名前でも決まったのかも。

「……思った以上に大変なことになっているね」
「もしかして閣下の出番ですか?」
「そうだねえ、来週あたりちょっと出かけることになるかな」

 レオニートさんからの現状報告と依頼を兼ねた、かなり切羽詰まった手紙だった。「厚かましいお願いですが」という言葉が何度も出てくる。

 カロリッタがチクったことによって発覚した不正から芋づる式に不正が見つかった。一度膿を出し切るために徹底的に調査したところ、不正に関わっていたのはキヴィオ市だけで三〇〇人以上、他の町も入れて全部で六〇〇人近くになり、その人たちを処分したら領地の運営に必要な人手が足りなくなった。町長やどうしても必要な役職に頼りになる人材を割り当てると実働部隊が足りなくなり、欠員を補充しようにもすぐには埋まらない。だからうちでやっているギルドをまとめるやり方を導入したいと。

 そのためには本来はユーヴィ市に職員を行かせて教わるのが筋だけど、そのための人員確保も難しいので、できればキヴィオ市に指導に来てほしい。そして可能ならしばらく職員を貸して欲しい。そのようなことが書かれていた。追伸には「ディルクがいっぱいいっぱいになっているので本当によろしくお願いします」と書かれていた。

 キヴィオ子爵がいっぱいいっぱいなのは分かったけど、レオニートさん自身もいっぱいいっぱいなのが文面から伝わってくる。字が荒れているし、子爵を普通に名前で呼んでいるから。たしか同い年か一つ違いか、それくらいだった気がする。仲が良いんだろうね。

 キヴィオ市はユーヴィ市よりもずっと大きいからギルド職員の人数も当然多いんだけど、ギルドの数が多すぎるから職員の総数が減ると大変なことになる。例えば、一〇〇人が三つのギルドに分かれるならまだ問題ないけど、一〇のギルドに分かれたら一つのギルドあたり一〇人。これでは運営ができない。受付にいるのは数人だけど、後ろではそれなりの人数が働いているからね。荷物を受け取ったり送ったり、書類を作ったり、交渉したり。正直やることは多い。ルボルさんが受付に座っていたのは、実働部隊がカツカツでやっていた上に受付のレナーテさんが休んでいたから。



◆ ◆ ◆



「というわけで、お隣もうちと同じやり方を導入することになりました。指導と応援ために二〇人ほど派遣します。その人たちにはキヴィオ市に滞在してもらうことになります。七町への出張と同じ扱いにしてください」
「勤務時間はどうなりますか?」
「こことほとんど変わりません。朝から夕方までですね。向こうの職員に仕事の流れを教えながら自分もキヴィオ市のギルド職員として働くということになります。夜は好きに過ごしてください」
「それならすぐに集まると思います……と集める以前に向こうから集まってきますね。はいはい、みなさん! きちんと抽選にしますから押さないでください!」

 まだ出会いが少ないからね。男女ともにキヴィオ市の方が多いから。ギルド職員の仕事の中でも公用馬車で荷物を運ぶ仕事は意外に人気がある。長期で町を離れることになるけど、町の外の人との出会いがあるから。そう考えると、やっぱりもう少し気軽に領地の外へ行けるようにしたいと思う。でも転移ドアを設置して誰もが使えるようにするのは違う気がするから。あれは街道工事の現場と町の間の移動くらいにしか使っていない。もう少し何か方法はないかな。
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