新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第四部

保育士募集、そして教会

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 思った以上に学校の需要がありそうなので、予定を早めて保育士の募集をすることにした。保育士という名前にしているけど、日本で例えるなら保育所から幼稚園、そして小学校の中学年くらいまでを扱う先生。一応の目安としては一〇歳までを預かることになっている。それ以降なら働くことが増えるからね。

 需要を確認すると、赤ん坊のうちは自分で子育てをしたいという親が多かった。でも少し大きくなって手がかかるようになると助けてほしい時があると。普通は近所同士で助け合うことが多いけど、仕事が少しずつ増えてきたので、両親とも働きに出ることも増えてきた。

 景気が良くて一人だけの収入で十分やっていけるならもう一人は働く必要はないと言えばない。でも働く場所ができてきたのに働かないというのがらしい。

 この国では男性が働いて女性が家事や育児をすることが以前なら普通だったけど、それは女性が働く場所がなかったことが大きな理由の一つだった。男女ともに若い方が賃金が安いというのも理由で、若いうちから下働きなどとして働き、それなりの年齢になったら相手を見つけて結婚。そこで女性は仕事を辞めることがほとんどで、そして空いた分の仕事はまた若い女性が埋める、そういう流れができていた。だからなるべく好条件の男性を見つけようとする。結果として積極的な女性が多い土地になるんだろう。

 結婚した女性は子供を産めば子育てをする。子供が大きくなって時間ができればさあ仕事、とはならないのがこの町だった。仕事がないから。最近は町中で衣類を販売する店や飲食店なども増えてきた。それでも一気に一〇〇も二〇〇も店ができるわけじゃないし、従業員を雇えるほどの店もまだ多くはないから、まだまだ働ける場所は少ない。だから子育て経験のある女性を保育士として雇うことにした。来年あたりはベビーラッシュになりそうだから、数年後にはそれなりに利用者が増えると思う。

 ちなみに名前は予定通り変更になった。最初は託児所という名前で計画を進めていたけど、子供を託すという言葉が別の意味に取られる可能性があるので、児童館と変えた。中身は何も変わらないんだけどね。

 児童館のトップは館長ということになり、保育士さんたちはそのままだけど、呼び方は先生になるんだろうね。

「これが募集要項になります。一応簡単に読み書きができるのを条件に入れています」
「分かりました。ではこれで張り出しますが、なかなかの人数ですよね」
「ええ、最初は余ってもいいと思うんです。とりあえずこの仕事のことを知ってもらうことと働ける場所を増やすことですね。まだまだ子供を預けることに不安がある人が多いようですから、ある程度慣れてくれるまではしかたないかと」
「そう簡単に慣れてくれますか?」
「そこはそれ、預けた子供が『また行きたい』と言ったら連れて来るでしょう。日常会話でそういう話が広がってくれれば徐々に増えると思うんです」
「それでは子供にまた来たいと思わせないといけませんね」
「そこも考えていますよ」

 子供に目を向けさせるなら娯楽だね。今のところ考えているのが読み聞かせ。でも絵がある方がいいだろうと思って紙芝居の形式にすることを考えている。

 この国でも童話はある。妖精が出てくるものが多いね。レジスを見せたら喜ばれるかな? いや、泣かれるかもしれない。幼児のうちはそういう童話を中心にして、それからもう少し大きくなると冒険ものなどを見せてもいいと思う。一番上になれば初代国王の建国物語などを見せてもいいと思う。単に楽しませるだけじゃなくて道徳ものも混ぜる必要があるね。

 紙芝居とか読み聞かせとかって、子供にとっては影響力が大きいんだよね。そして一度見たものでもまたすぐに見たがるのが不思議なところ。僕も何度小さな子たちにねだられたか。

 懐かしの風景として出てくるような紙芝居は見たことはないけど、模造紙を使った紙芝居は学生時代にボランティアでやったことはある。模造紙を二枚繋げた巨大な紙芝居で、持ち手が何人もいて、声を出す担当も複数いて、声のみのお芝居のような形でやっていた。

 文字が読めるようになれば自分で絵本を見てもいいと思うけど、それまでに物語というものに慣れておけば、すんなりと絵本に入れると思う。

「なるほど。ただ聞かせるだけでなく、絵を見せるわけですね」
「紙がありますからね。どうせなら有効活用しましょう」
「絵の方はどうしましょう。こちらも募集しますか?」
「そうですね。小さな子供向けの話が多いので……この町で小さな子供に聞かせるような童話を中心にしてください。もちろんそれ以外でもいいですけど」
「では保育士と兼ねられるなら兼ねる形で募集をかけておきます」

 とりあえず保育士の確保は任せて、僕は建物を作ることにする。

 作業員たちは街道工事で大忙しだったから今はお休み。町中で飲食などにお金を落としてくれているようで、町としては願ったり叶ったり。支払った賃金を回収するのが目的じゃないけど、いかに領内でお金を使う場所があるかというのが大事。「宵越しの金は持たねえ」と割り切りすぎると後で困ることになるから注意が必要だけど、ほどほどには使ってよ、ってことで。

 貯金というのは老後のために必要というのは分かる。特にこの世界は社会福祉なんて考えはないからね。それならお金がなくなったらどうするのか。子供のところに行くというのが一番多い。その頃には子供も子育てが終わっているから、親の面倒を見るくらいの余裕はある。そうでなければ物乞いをするか教会のやっている炊き出しに行くか、どちらかだろうね。

 ユーヴィ市はそこまで貧しい人は多くなかったから、教会の炊き出しも滅多に行われていないみたいだったけど、例えば大森林の暴走があるとしばらくは物流が途絶えがちになるから、教会が備蓄の食糧を使って炊き出しを行っていたそうだ。

 そしてここまでほとんど話に出なかったけど、ユーヴィ市にもそれなりにきちんとした教会がある。今日はそちらにも行くことになっている。

「領主様、これはこれは」
「チェスラフ司祭、その後はいかがですか?」
「ええ、あれからはまったく問題なく、助かっております」
「気を付けてくださいね。死んでしまっては意味がないですからね」
「ははは、さすがに懲りました。無茶はやめます。何かありましたら必ず修理をお願いすることにします」

 司祭は苦笑しながら僕に頭を下げるけど、下手をしたら命を落としていた。一度この教会の下敷きになったから。



◆ ◆ ◆



「教会が崩れた?」
「はい。天井の一部が落ちたようです」
「だから言ったのに」

 急いで教会まで行くと、手前部分が崩れていた。身廊と呼ばれる手前の部分だ。すでに衛兵や街の人たちが瓦礫を退け始めている。

「誰か下にいたりしますか?」
「司祭と信者数人がいるはずです」

 瓦礫の下には……三人か。まだ死んではいないけど、かなり下の方か……。

「はい。ちょっとそこを空けてね」
「あ、はい」
「おい、領主様が来たぞ! そこを空けろ」

 瓦礫を[魔力手]で次々と触ってマジックバッグに入れる。

「「「「おおっ」」」」

 瓦礫がなくなって突然現れた三人に歓声が上がるけど、さすがにそれに応える余裕はないよ。

 三人とも怪我がひどいので肉体回復薬ヒールポーションを飲ませる。

「ぅ……ぁ……」
「もう大丈夫です。これが聞こえたら、とりあえず動かずに静かに呼吸を整えてください」

 実はこの教会は、僕が領主になった時にはすでにかなり傷みが激しかった。でもチェスラフ司祭は「教会の建物に使うお金があるなら民たちにお使いください」と言って修繕もろくにしなかった。僕が魔法で直すことを提案しても、「その時間を民たちにお使いください」と言われた。

 僕がよく知っている聖職者はミロシュ主教くらいだけど、あの人も含めて自分のことには無頓着な人が多い。おそらくは信仰によって精神的に満たされているからだと思うけど、死んだら終わりだからね。

「領主様、怪我人は?」

 担架を抱えた兵士たちが駆けつけた。

「とりあえず命に別状はありません。肉体回復薬ヒールポーションを飲ませましたので、いずれ落ち着くと思います。とりあえずはどこかへ移動させてあげてください」
「分かりました」

 兵士たちが三人を連れて行くと、崩れた教会と町の人たちだけが残された。向こう半分もそのうち崩れそうだね。

「みなさん、ご協力ありがとうございました。このままでは残りの部分が崩れるかもしれませんので、近付かないようにしてください」

 どうしたらこういう倒れ方をするのか分からないけど、玄関を含めた手前の壁が前に倒れ、それに引きずられて屋根が落ちた感じか。この町が市になった頃に建てられたものらしいけど、急いで建てられてそのままだったのかもしれない。何にせよ補強と一部立て直しは必要だね。

 とりあえずロードコーンを教会の敷地周辺に置き、人が入らないようにする。今年になってから工事現場ではロードコーンが使われているので、この中は危ないから入ったらダメというのは浸透しつつある。見物人はいるけどね。

 まず、現存している部分を[魔力手]を使ってとりあえず補強する。あの変色している部分は雨漏りをしていたか、少なくとも染み込んでいたんだろうね。

 そこまで寒い土地じゃないけど、ユーヴィ男爵領でも摂氏〇度近くまで下がることもある。水は温度が下がると体積が減るけど、およそ摂氏四度を下回ると逆に増え始める。つまりヒビに入り込んだ水が凍れば体積が増え、ヒビが広がる。一度広がれば次はもっと先まで水が入るからさらに広がる。それが何度も繰り返されると、そのうち完全に割れる。

 現存部分はヒビを埋めて表面を滑らかにして、さらに[強化]をかけた。崩れ落ちた部分はできる限り元の部材を使い、[魔力手]で支えつつ積んで固めていく。ジグソーパズルみたいにやっているけど、完全に砕けて足りない部分は多いだろうから、そこはナルヴァ町の城壁を解体したときに出た石を足して作り直す。完全に元通りどうかは分からないけど、とりあえず形はこんなものだろう。



◆ ◆ ◆



 まあそんなことがあった。三人とも翌日には完全に回復して、司祭には手間をかけたと謝られたけど、手間とかは問題ないんだよ。何事も人命優先。

 これは僕が領主になって最初の頃、とにかく忙しくて何もできなかった頃の話だね。あの頃は街道工事を始めて、領内でバナナなどの栽培を始めて、職業訓練学校の準備を始めて、街道が開通したらユーヴィ市の人口が三倍近くになって、今考えればとんでもない状態だったなと思う。

「はい、チェック完了です。なまじ大きな建物ほど何かあった場合は被害が大きくなります。おかしな音がしたとか、砂が落ちてきたとか、気になることがあったら連絡してください」
「はい、ありがとうございます」

 どれだけしっかり作った建物でも、やっぱりメンテナンスは必要だからね。領主邸だって、冗談で「マリアンが踏んでも壊れない」とか言っているけど、それでもチェックはしているから。他にも、ギルドの建物は八階建てだから、余計にメンテナンスには気を使う。

 逆に言えば、最初にメンテナンスのことを考えて建てておけば、後から無駄にお金や手間がかかることもない。メンテナンスフリーとまでは言わないけど、僕が建てた建物は相当長持ちするように建てている。「あの人が建てたらすぐ壊れるよね」とか言われたくはないからね。
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