新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
177 / 278
第三章 第三部

逃亡犯(一)

しおりを挟む
 王都を取り巻く二重都市群よりもさらに東、直轄領の中でも一番東にあるポーリ市からずっと北に行った山の近く。山から少し南に小高い丘があり、そこには一つの町がある。町の名前はポーカ。周囲は高い城壁に囲まれ、その外側には広い堀が掘られ、城壁には側防塔も備わっている。出入り口は南にある跳ね橋一つのみで、許可を受けた者しか入ることができない。

 町の中には石でできた高い塀のある屋敷が建ち並び、門の前には常に槍を持った兵士が立っている。これらの屋敷はすべて身分の高い者を隔離しておくための監獄だ。敷地内では魔法を使うことはできなくなっている上に、収容者にも魔法が使えなくなる魔道具が首にはめられている。。

 平民が罪を犯せば死刑か強制労働だが、貴族であればそれなりの配慮がある。国王から与えられる名誉ある死、つまり自殺を選ばないのであればここに入るしかない。

 食事は一日三回出される上に酒まで付いてくる。飢えて死ぬことは絶対にないが、敷地から外に出ることはできず、屋敷の中には聖書を除いては暇を潰せるようなものは何もない。できるのは敷地内の庭を散歩する程度のもので、要するに終身の軟禁である。これまで大いに人生を楽しんできた貴族たちにとって、このような退屈な場所は墓場と同じようなものだろう。

 収容される犯罪者の身分が高いため、ここの警備は王城と並んで厳重となっている。一度入れば二度と出られないと言われているほど厳しく、実際にそう。つい先日、この話は過去のこととなった。



「周囲には見当たりません」
「見当たらないで済むか! 草の根分けても探し出せ!」
「はいっ!」

 朝になると二つの屋敷からそれぞれ収容者が消え、四人の兵士が殺されていた。共謀する可能性をなくすために、各屋敷には一人しか収容されていない。そして誰がどの屋敷に入っているのかは収容者自身には分からない。

「どこから出た?」
「堀も調べましたが何もありませんでした」
「門の方も昨日の報告では何もありませんでした」
「昨晩の担当を全員連れて来い。話を聞きたい」
「はっ」

 二人の部下が昨日夜警をしていた兵士たちを探しに行くが、彼らが見たのは荷物がそのまま残されている部屋だけで、肝心の兵士たちは見当たらなかった。

「……買収されたか、もしくは最初からこのような場合に備えて潜り込んでいたか……。昨日から今日にかけて町に出入りした者を調べろ」

 隊長以下、手の空いている者全員で調べた結果、昨日町の入り口で門衛をしていた兵士のうち、四人が行方が分からなくなっていた。昨日は物資を運ぶ荷馬車が町に入ってきて、そのチェックを行った兵士の中にその四人も含まれていたことが分かった。その荷馬車は明け方に町を離れたようだった。

「……隠してどうなるものでもない。とりあえず王都へ早馬を出す。失態については今後の働きぶりで挽回するしかない……」

 隊長は逃亡者と行方不明になった兵士たち、そして殺された兵士たちの名前を一覧にした報告書を作成すると、町で一番足が速い馬に一番馬の扱いが上手い兵士を乗せ、王都に向かわせた。



◆ ◆ ◆



「陛下、先ほど良くない報告が届きましたがどうしますか? 聞きますか?」

 たちの悪い冗談を言いながら宰相が入ってくる。ここで「余は悪い報告など聞きとうない」とでも言って国を滅ぼすような趣味は私にはない。過去には自分に都合の悪い話を持ってきた家臣を殺し、二度とそのような話を聞かないために後宮にこもり、殺される直前まで襲撃に気付かずに国が滅びた例もある。

 宰相の冗談は不謹慎かもしれないが、去年までは冗談の一言ですら言えないような状況だったから、まあこれくらいは許そう。何度も言うようなら少々罰が必要になるだろうが。

「聞きたくないとは言わんぞ。この国を初代国王の祖国のようにはしたくないからな。どのような内容だ?」
「ポーカからの報告です。元タルティ公爵と元パルツィ子爵が逃げました」
「なに⁉」

 あの町から逃げられる者がいるのか? これまで逃亡に成功したものは一人もいなかったはずだ。

「警備隊長からの報告です。兵士一二名も行方不明。おそらく逃亡の手助けをしたものと思われると」
「あらかじめ手下の者たちを紛れ込ませていたのか……」
「警備隊長もおそらくそうではないかと書いております。逃亡が判明した前日に町の正面門の担当をしていた四名、そしてその夜に二つの屋敷の夜警を行っていた兵士を含めて八名、合計一二名が行方不明。四人の兵士が殺されたそうです。逃亡の前日には荷馬車が到着しており、門でその荷物のチェックを行った者が行方不明になった兵士だったそうです。外部にも協力者がいたものと思われる、ということです」

 あの町に収容されている犯罪者は貴族ばかりだ。だから警備は厳重にしている。一つの屋敷には一人のみ、そして誰がどこに入っているかは収容者同士には分からないようになっている。だから仮に元パルツィ子爵が上手く屋敷を抜け出したとしても元タルティ公爵がどの屋敷にいるかは分からない。誰かが漏らしたのでなければ。もちろん町の中に潜り込んでいた者だろう。

 外部の協力者が荷物を運んできた商人になりすまし、あらかじめ潜入していた者たちが二人を屋敷から連れ出し、荷馬車に匿って逃げ出した。そういう流れではないだろうか。

 できれば考えたくなかったが、後ろ暗いところのある貴族が自分の部下をあらかじめ潜入させていることもあるかもしれない。一度しっかりと身元の確認をした方がいいだろう。元パルツィ子爵の件で、ポーカ送りにはならなかったが降爵になった者もいるからな。

「警備隊長にはもう一度兵士たちの身元を確かめさせろ。とりあえず罰するのは後だ」
「承知しました」

 ……

 ふう。ようやくあれから一年ほど経って落ち着いてきたかと思えば、こうなるか。単に逃げただけなら餓死する可能性が高いが、外部に協力者がいるとなると、おそらく資金援助も受けている可能性が高い。

 なにせこの国は広い。早馬を飛ばしてもあの場所から数日ではここまでたどり着けない。むろん討伐隊は編成するが、それ以外に打てる手は打っておかなければな。恩人に手間をかけさせるのは申し訳ないが、ここは恥を忍んで助力を頼もう。彼なら何とかなりそうな気がする。

「すぐにレオンのところに行く。用意をせよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...