新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第三章 第四部

移籍が続く

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「お疲れさまでした。それじゃ、向こうでも頑張ってね」
「はい、ありがとうございます。向こうの家が、ユーヴィ市ほど便利ではないことだけが気がかりですが」
「でも去年まではそんなものだったでしょ? 気になるようならうちの魔道具を購入してください、ということで」
「いずれは一式揃えられるように頑張ります」

 退職した職員はもう僕の部下じゃない。だから少しくだけた話し方をする。領主として、ギルド職員とは距離を保っている。ギルドを辞めれば……顔見知りかな?

 ユーヴィ市の総合ギルドでは結婚退職が続いている。退職と言うけど仕事を辞めるわけではなくてキヴィオ市で働くだけ。向こうで相手を見つけた人が現れ始めた。

 役人やギルド職員が足りないせいでキヴィオ市の移転が進まないという連絡を受け、うちから職員を派遣することになった。最初は女性職員が多かったけど、途中から男性職員も派遣するようになった。

 ユーヴィ市のギルドの場合、元々は男性職員の方が多かった。受付は女性が多かったけどね。そこで服飾美容店で読み書き計算と礼儀を身につけた人たちをギルド職員として採用することにした。その時に入った職員は女性が圧倒的に多い。

 当時はとにかく働く場を作る必要があったので、性別も種族も既婚も未婚も関係なくどんどん店員を採用し、鍛え、そしてギルドに送り込んだ。もちろん服飾美容店以外からもギルドに入った人は多い。ところが、服飾美容店組とそれ以外の職員の間に溝ができてしまった。

 服飾飾美容店で鍛えられた職員、その中でも特に女性職員は、背筋がピンと伸び、受け答えはハキハキとし、仕事に妥協がない。エリーやマイカたちによってそのように鍛えられてしまった。そうすると女性職員はたくさんいるものの、結婚相手を探す段階で気圧されてしまう男性職員が出てきて、総合ギルドよりも各町にある公営商店を兼ねた出張所の方が人気が出るようになった。町の人たちとの触れ合いがあるからね。それで今回、町の外で相手を見つけたい職員を中心に派遣をすることになった。

 もちろん全員が相手を見つけて結婚したわけじゃないけど、キヴィオ市への派遣に参加したのは相手が欲しい人が多かった。ただ、生活環境が変化するので、そこで違和感を感じる職員はいるようだ。

 ユーヴィ市の住宅は魔化仕様に変更されている。他の町でも順次変更しているので、変えたくないという人以外はほとんどの家が変わっていると思う。照明や水などはそのまま使えるし、魔道具を用意は魔力切れを気にせずに使える。一般的には魔石を使わないといけないからね。一方でお隣のキヴィオ市は大きな町だけど、インフラとしては他の町と大きくは変わらない。つまり昔のままだった。

 魔道具が当たり前のように使われている環境からすべてが手作業になる環境に引っ越すわけだから、まあ不便と思うこともあると思う。でも去年までの環境に戻っただけだから、すぐに慣れると思う。それよりも結婚相手が見つかったんだから、そっちの方が意味があると僕は思うけど。

「とりあえずこの新婚セットを購入します。残りは頑張って稼ぎます」
「無理はしないようにね。向こうにも店は用意するから」

 結婚退職する職員に対しては、お疲れさまの意味も含めて、魔道具職人ギルドで作られている製品を格安で購入できるようにしている。まあ社割みたいなものだね。

 先ほどの環境の話だけど、あまりにも環境が変わるとストレスになるだろうから、ある程度は配慮するようにしている。もちろんただ安くして終わりというわけじゃない。宣伝も兼ねてもらう。

 キヴィオ市で暮らし始めた元うちの職員たちから話を聞いた人たちが、うちの魔道具を購入するのを期待しているわけ。そもそも人数が違うから、売れ始めれば大きいよ。

 ギルドを作った時にも思ったけど、この国では魔道具は不必要に高い。作れる人が少ないのはあるけど、たくさん作らなくても生活できるから、ほどほどの数しか作らない。だから魔道具は高価なまま。それならそれなりの値段になるまでうちが作って販売することにしている。

 日本円で考えると、日本なら数千円で買えそうなものが、この国なら数十万円、場合によっては数百万円で販売されている。それでも売れるから値段が下がらない。値段が下がらないから誰も買わない。その状況を変え、なんとか数万円まで下げるのが今の目標。

 値段が下がっても作れば売れるから、魔道具職人は困らないからね。作る数を増やさなければならなくなるだろうけど。まあこの国の経済に大きな影響は与えたくないけど、この件に関しては口を挟むことにしている。

 そういうわけで、三口のコンロ、オーブン、洗浄機(食洗機と洗濯機を兼ねたもの)、給水器(きれいな水がでる魔道具、水温調節機能付き)、ハンドミキサー、ブレンダー、ミシン、掃除機、小型保存庫(時間が止まる)、小型熟成庫(速度調節機能付き)、照明、温水洗浄便座、そしてそれらに必要な魔石をまとめた新婚セットを用意した。文字通り新婚さんが最初に揃える家電みたいな感じ。これだけあればまず困らないというものばかり。

 これ以外となると、もっと高機能な保存庫や熟成庫、あるいはエアコンなどになってくる。あれば便利だけど、そこまでは必要ないと思える魔道具が多い。

「魔石の充填だけが気がかりですが、大丈夫ですよね?」
「向こうで魔化住宅が増えれば魔石は必要ないけどね。しばらくゴタゴタするかもしれないけど、レオニートさんには頼んであるから、来月には大丈夫になると思う。そうしたら変換ケーブルも用意するから」
「それくらいなら頑張ります。今までありがとうございました」

 彼女で……男女合わせて一七人目かな。このギルドは五〇人くらい抜けても大丈夫なようになっているけど、あまり抜けると大変だから、そろそろ補充が必要かな。

 キヴィオ市……新キヴィオ市も旧キヴィオ市も、ユーヴィ男爵領で普及している魔化住宅を採用することになっている。キヴィオ子爵とレオニートさんは、魔道具の普及というよりも生活の向上を進めたいそうだ。それでユーヴィ市からそのノウハウというか設備一式を提供することになった。このあたりは僕は直接絡んだわけじゃなく、ギルド職員たちが向こうでプレゼンし、それを聞いたレオニートさんが子爵に話をしたらしい。

 その影響で多少の計画変更はあったけど、そこはうちの職員たち。あっという間に移転の計画の細部を変更して、新キヴィオ市の公共の建物をすべて魔化することになった。旧キヴィオ市の方は順番に魔化ユニットを取り付けていくことになっている。部下が優秀すぎて、勝手に話が進んでいた。

 ちなみにこのように勝手に話が進められるのは嫌とは思わない。妻や愛人を押し付けられることを除けば。領主は金を出す。領民はそれを使って自分たちの町を作る。それでいいと思う。いつまでも僕が指示しなければ何もできないようなら、それは部下ではなく奴隷みたいなものだろう。言われたことだけ淡々とするような。だからきちんと手順を踏んで、それで予算の範囲内で計画が進められれば、それで何も問題ないと思っている。

 さすがにキヴィオ市ではうちのようにいきなり無料というわけにはいかないだろうから、希望者には有料でということになる。聞いたところでは、新キヴィオ市と旧キヴィオ市の魔化住宅は、燃料箱バッテリーを使用する、屋内にそのための配線を通す、給水器できれいな水が使える、とりあえずそれだけは決まったそうだ。僕がするのは燃料箱バッテリーを用意するのと、そのための充填設備を設置すること。燃料箱バッテリーについては一部は魔道具技術者ギルドで製造できるようになった。

 現在のところ、大森林の魔素はユーヴィ男爵領の住宅などに魔力を供給することにしか使われていない。今後は新キヴィオ市と旧キヴィオ市でも使われることになる。場合によってはキヴィオ子爵領の他の町でも使われるだろうから、この近辺で一気に普及しそう。今のところ変換された魔力の量は……ユーヴィ男爵領とキヴィオ子爵領を合わせて、まだ三〇〇〇年は大丈夫。増え続けているからね。

 まあ、暴走が起きないように魔素を抜き取ろうと思っただけなんだけど、結果としては生活の質の向上に役立っていると思えば、このやり方を考えた甲斐はあったかなと思う。問題は、今の段階では三〇〇〇年は大丈夫だけど、もしかしたら魔素が尽きて魔力が不足するかもしれない。それまでに代替手段を考える必要はあるけど、三〇〇〇年かあ……ん? 何あれ? 繭?
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