新米エルフとぶらり旅

第三章 第四部

改造農地の活用方法が……出てこない

　ナルヴァ町を一番最初として、そこから西へ合計一六か所、やたらと植物がよく育つ場所がかつての管理者によって作られた。それぞれ直径二キロほどの農地があり、そこから西へ一〇キロ進むとまた直径二キロの農地。ただし四か所ごとに設定が過激になり、ナルヴァ町を含めて一番東の四か所は収穫量は三倍、速度は二倍、その西側四か所は収穫量は五倍、速度は五倍。さらに西側四か所は収穫量は五倍、速度は一〇倍。一番西側の四か所は収穫量は五倍、速度は五〇倍。

　速度五〇倍は、正直なところ今のところはまともに育てられる見込みはない。五〇日かかるものが一日で育つ。それだけならいいけど、収穫し損ねたらそこから種が落ちてまた生え、おそらくそれがエンドレス。これまでおかしな生え方をしていないのは、あのあたりにも魔獣や野獣はいるから、おそらく食べられたんじゃないかと思う。そうじゃなければ直径二キロの不思議な森ができているはずだからね。

　僕は別に売られた喧嘩は必ず買うというような性格じゃないけど、ここまでされて活用できなければ負けたような気分になった。だからどう使うべきかを考えている。でもなかなかいい案がない。

　東側四か所のうちナルヴァ町以外の三か所は、米で一か所、小麦で一か所、そして大麦と豆類で一か所となり、農畜水産物ギルドが人を雇って世話をしている。そこまではいい。

　そのあたりはまだナルヴァ町に近い。歩いたとしても一日でたどり着ける距離になる。でもそれより西に行くと大森林に近付いてしまう。これが問題点。

　大森林の出入り口は塞げるようになっている。現在は開いていて、暴走が近付けば閉めるようになっている。暴走は五年から一〇年の周期で起き、五年より短くはならない。そしてほとんどが五年から七年ごとに起きる。だから暴走から四年は開けておき、それから閉めてしまい、暴走が終わるまでは閉めっぱなしにする。それが基本方針。

　町の方に危険はほとんどないとは言っても、そこはこれまで危険な場所で暮らしていた人たちばかりだから、できる限り近付きたくないと思うのは当然だろう。だからナルヴァ町の西側三か所で働いている人たちは、そこで働いてもいいと言った人に限られている。移動は公営農場から転移ドアを使うから、何かあってもすぐに戻れるんだけどね。それでも、その場所よりもさらに西側にはできれば行きたくないと言っている人がほとんどだった。

　収穫量が五倍、成長速度は五倍。ここで何かを上手く育てられれば、かなりの収穫量になる。年に一度収穫するものなら、同じ期間で二五倍採れるわけだから。値崩れを起こしそうだから慎重に扱う必要はあるけど。

　僕一人でするのも、できるかできないかで言えばできるんだけど、それもねえ。だから農地として使える準備だけはして、何を育てるか、誰に働いてもらうかを考えなければいけない。



◆　◆　◆



「大森林を塞ぐというアイデアを出したマリーのことだから、何か案はない？」

　ここは『三人寄れば文殊の知恵』だ。二人しかいないけど。

「別にあたしは塞ぐと言ったわけじゃないんだけど」
「まあまあ」
「うーん、農地としてはものすごく優秀なのに、人が怖がって近寄ってくれない。でも安全を確保するための城壁はあって、移動も一瞬でできて、何も危険性はない……ってことでいいのよね」
「そうそう。やっぱりどれだけ安全だと言っても、このあたりの人たちには大森林は魔獣が溢れるというのが染み付いているから、よほどじゃないと無理なんだよね」

　これまで危険だと教えられてきた大森林がもう危険ではないと言われたとしても、数世代くらい経たないと無理かもしれない。実際あれから暴走が起きてないし、大丈夫だという保証はないから。僕だってできる限り安全は確保するけど、一〇〇パーセント問題ないと言い切れるわけでもない。

「それなら、普通に仕事を得られない人たち？」
「そうすると犯罪者とか貧民街スラムの住人とかになるね」
「それも何と言ったらいいのか、使い潰すような感じに思えるわね。働かせるだけ働かせておいて、いざとなったら捨ててもいいとか」
「そうなるんだよ。大森林の近くで強制労働させていると思われるのも問題があるからね」
「うーん、そういう場所で働いてもいいと言ってくれる人たちで、かつある程度は人数が必要なわけよね。無理じゃない？」
「やっぱりそうなるよね」

　ナルヴァ町に近い三か所は働いてくれる人がいるけど、それより西側は嫌がられる。万が一にも歩いて戻ることになれば、ナルヴァ町まで一日では帰れなくなる可能性があるから。さすがに騙だまして連れて行くわけにもいかないから保留のままかな。僕が何かをしてもいいけど、そうすると僕がいないと作業が進まなくなる。どう考えてもこのような結論にしかならない。画期的なアイデアとかが出ないかなあ。

　使い道がないからってユーヴィ市のごみ捨て場として使うのも問題があるし。あちらは市民生活ギルドが上手くやってくれているらしい。

　捨てるにしてもごみの中に何が入っているか分からないから、どこから何が生えてもおかしくない。もしおかしなものが生えたら焼却処分しかないからね。文字通りごみ焼却場になってしまう。



◆　◆　◆



「領主様、そもそも人を使うのがそもそも無理じゃありませんか？」
「でも、人以外に使えるのって、何かありますか？」

　農畜水産物ギルドで現状報告をしている。今のところは無理だという話。

「人でなければ野獣か魔獣か。領主様なら使役できそうですが、そのあたりはどうですか？」
「意思疎通できる生き物もいなくはないのですが、労働ということになると限度がありますよ。手の形が形ですから」
「数がいればいいわけでもありませんね」

　例えばサラン。彼女たちは両手で器用にペンを持って字を書くことができる。指の間に器用に紙を挟んで持ち上げることはできる。魔素吸引丸太を作っている時には丸太を運んでくれた。

　でもそれは彼女たちの手でできることをしているだけであって、鎌を持って麦を刈るとか、鍬で畑を起こすとか、そのようなことはできない。どうしても体格的に限度がある。最近はかなり力が強くなったそうだけど、どれだけ力が強くなっても体が小さいのはどうしようもない。手のひらに乗れるくらいだから。

　領主邸にいる馬たち。最初にいた四頭、そこから生まれた二頭、さらに新しく買った四頭、みんな言葉を理解するようになっている。でもあくまで馬なので、人を乗せたり馬車を引いたりするのはできるけど、仕事ができる骨格にはなっていない。

　器用に二本足で立つこともあるけど、あの蹄ひづめでは細かな作業はできないからね。四則計算なら問題なくできるから、上手くやれば戦力にはなると思うけど、物を持ち上げたりするのはやはり無理。

　それ以外だと……もし大森林からハウルベアを連れて来て働かせることができるとしても、やはりあの手では器用に道具を使うのは無理だと思う。それなら森から出ないように説得する方が現実味があるけど、言葉を理解しないからね。

「一応農地としては使えるようにしてありますので、人手が見つかればすぐに使えるようにはなっています。しばらくはそのままですね」
「もったいないですけど、そうなりますね。領主様が道具を扱える生き物を連れてくるまで待ちますね」
「道具を使える生き物って……」

　人くらい器用な手をしているなら……猿？　そう言えば猿の魔獣は見ていないね。大森林でも見かけなかった気がする。でもさすがにどこかの国にはいるだろう。もしかしたら豚も国が違えばいるかもしれない。フェリン王国にいないだけで。

「どこかで出会えば勧誘してもいいですが、意思疎通ができて道具が使える生き物が見つかるのと、大森林を人が怖がらなくなるのと、どちらが早いと思いますか？」
「そこは領主様の引きの強さに期待しています」
「その言い方は誰から教わったの？」