新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第二部

エルフとオーク

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「魔物が言葉を理解している?」
「はい。言葉は話せませんが、こちらが言っていることは理解しています」

 先ほどの広間に戻ると、この森にいる魔物たちが言葉を理解できるようになっていることをアランさんたちに説明した。当然だけど「はいそうですか」と受け入れてもらうことも難しいだろう。そんなにすんなりと受け入れてもらえるのならもう少し状況は違っただろうからね。

「魔物がそこまで頭がいいとは聞いたことがない」
「何か別の存在と見間違えたとかではないのか?」
「冒険者が獣を狩るために動物の皮を被っていただけでは?」

 やっぱりそう思われるよね。だからこそきちんと説明しないといけない。

「ここに来るまでに出会ったオーク、ゴブリン、コボルドは、もちろん話すことはできませんが聞いて理解することができました。それも一人や二人ではなく、全部で五〇〇人を超えます」

 人数にばらつきはあるけど、ここに来るまで五人から二〇人ずつほど出会った。今は専用の異空間に家を建ててそこで暮らしている。こちらの言っていることは理解しているし、手を挙げて挨拶してくれる。匹とか体とかで数えていいのかどうか分からなくなったから、人と同じ数え方をしている。

 オークがおよそ二五〇と一番多く、次がコボルドでおよそ一五〇、ゴブリンがおよそ一〇〇。今後はどうなるか分からない。

「それで、一度彼らの代表に会ってもらえませんか? そうすれば、知能の高い魔物は危険ではないということが分かるはずです」
「うむ、危険がないなら会ってもいいが、どこに行けば会えるのかな?」
「ここに呼びますよ。ジミー、ちょっと出て」
「ブフッ」

 異空間の入り口を出して中に話しかけると、中から一人のオークが出てきた。そしてジミーを見た長老たちがぽかーんと口を開けている。これなら大丈夫そうだね。

「これが……あのオーク?」
「ええ、オークたちの代表を任せているジミーです」
「フゴッフ」

 Tシャツにダボダボのオーバーオールに麦わら帽子という出で立ちのジミーは鼻を鳴らすと帽子を取り、その帽子を胸に当てながらみんなに向かって頭を下げた。異空間にいる三種族には、雄雌や種族に関係なく、オーバーオールを着せている。

 まさに百聞は一見にしかず。しかもいい意味で強烈な印象を与えられる。ジェナが毒気を抜かれたのもこの服装を見たからだった。ピッチフォークを持たせれば農民そのもの。

「たしかに顔はオークだが……普通に服を着ているのか。我々のものとは少し違うようだが」
「これは私が彼らに用意したものです。実は彼らは森にあるものでこのような服を作って着ていましたが、これではなかなか気付いてもらえないようで……」

 そう言って彼らが着ていた服を見せる。わりと上手だと思うけどね。素材には葉っぱや木の皮などを使って、それを木のツタで繋げて形にしている。

 でも遠目に見たら服だとは分からないし、エルフには理解してもらえなかった。でもさすがに今の格好なら普通の魔物じゃないというのは理解してもらえるだろう。

 シャツにズボンの方がたしかに人に近いとは思うけど、オークやコボルドの指ではボタンをかけるのが少々難しい。それならTシャツを着てからオーバーサイズのオーバーオールを履いたらいいんじゃないかと思って履かせてみた。

 オーバーサイズにしたのには理由がある。一つはコミカルに見えること。そして細かなサイズ調整が必要ないこと。

 オークは二足歩行の猪だから手と足がやや短くて細く、胴が太い。ゴブリンは全体的に小柄で、人間の子供くらいの身長。コボルドは二足歩行の犬だから足が細めなのはオークと同じだけど、手足は長めで胴は太くはない。

 それ以外には、オークとコボルドには尻尾がある。オークとコボルドの耳は頭の上にあるけど、ゴブリンは細い耳が人間と同じ位置から横に伸びている。だからオークとコボルドの麦わら帽子には耳を出す穴を開けている。

 それにオーク、ボブリン、コボルドと言っても一人一人体格は少しずつ違う。もちろんゴブリンやコボルドも。だからそれぞれの種族でTシャツもオーバーオールはXXSからXXLまで七種類ずつ、合計二一種類パターンずつ作った。

 肩の部分はゴムになっているから、脱ぎ着は簡単になっている。素材自体は服飾ギルドに個人的に注文した布地などを使っている。縫ったのは僕だけど。

「この姿を見れば、我々としても無闇に殺生をしたいとは思わなくなるなあ……」
「さすがに急に仲良くというのは無理だと分かっています。それでも彼らが安全な場所に移動するくらいは認めていただきたいと」
「安全な場所へ移動?」

 そう疑問に思うのは当然だろうね。仮にも自分たちが倒していた魔物たちを保護するために移動させるというのは考えが及ばないと思うし、どうやって移動させるかという問題もある。

「はい。この森とは関係のない遠い場所に彼らの集落を作っています。そこへ移動するためのドアの形をした魔道具を町の外に置きますので、もしこの森に住む魔物たちが町へ近づいてきた場合、そこへ行けば仲間がいると声をかけてあげてほしいんです」
「なるほど。呼びかけてみて判断すると」
「ええ、彼らは言葉を理解していますので、それを聞いて反応するかどうかで判断できます。聞こえればそちらに目をやるでしょう。声かけは城壁の上からで大丈夫です。そのドアをくぐりなさい、そうすればそこに仲間たちがいる。まずはそこへ生きなさいと」
「なるほど、それならば大丈夫だろう。様子を見ながらになるとは思うが」
「はい、それで構いません。無茶を言っているのは承知していますので」

 僕が長老たちにお願いしたのは、一定の知能を持った魔物たちには手を出さないこと。エルフが積極的に外に出ることはないけど、それでも町の近くに寄ってきたら攻撃するかもしれない。

 もし魔物たちが町に近づいたら、町の外に設置した転移ドアから魔物たちの町へ行くことを口頭で伝えること。

「このジミーを見たら分かるかと思いますが、一定の知能を持つ魔物は人の言葉を聞いて理解することができます。まだ読むことも書くことも話すこともできませんが、いずれは読み書きはできるかもしれませんね。話すのは難しいかもしれませんが、そこは上手く魔道具を使えば何とかなりそうです」
「ケネス殿にかかれば、魔物も仲間か」
「言葉が分かる相手を殺すことに抵抗があるだけです。こちらを殺しにくる魔獣ならいくらでも狩りますし、実際に数え切れないほど食材にしてきましたが。好意的に接することができる可能性がある相手を攻撃したくないだけですよ」

 長老のアランさんは頷いている。どうやら理解してくれたようだ。すると隣にいた人が手を上げた。手を上げる必要はないと思うけど。

「私はアイヴァンという。ケネス殿、そのジミーたちはどのような生活をしているのだ?」
「そうですね。今は田舎の農民と言ったらいいでしょうか。畑を耕してもらっています」

 話を聞いていたジミーがうなずく。

「ほほう、畑をね。それでは五〇〇匹……いや君からすると五〇〇人か、それだけ働き手がいれば、麦にせよ野菜にせよ、かなり余らないか?」
「それは僕が領主をしている領地の収穫物に足している感じですね。その売り上げ分は彼らに何らかの形で還元しようと思っていますが、今のところは食事を提供するくらいしか思いつきません」

 ジミーは「十分してもらってます」のようなジェスチャーをするけど、今のままなら作ってもらうだけだからね。衣食住以外で何かないかなと考えているけど、それがなかなかね。

 このアイヴァンさんという重鎮の一人は、僕の考えを面白がってくれているように思える。会議ではこういう人が一人いてくれると助かる。いい方向に会議を誘導してくれたり、みんなが聞きたいことを質問してくれたり、進行役としては非常に助かる。



 結局ここでの話し合いの結果、アランさんたちは一部の魔物は人の言葉を理解できるようになっているということを住民たちに伝えることを約束してくれた。それでしばらく様子を見ると。もし魔物の側から攻撃してくるなら反撃はするけど、そうでなければ転移ドアを通って向こうに行くまで見守ってくれると。

 いきなりやって来て意味が分からないことを言い始めたんだから、「はいそうですか」と一から十まで理解してもらえるとは思わない。でもこの町の周囲で、コミュニケーションを取りたいのに取れずに殺される魔物が減れば、ここまで来た甲斐がある。
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