新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第二部

森の仲間たち(やはり素材ではない)

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「閣下は彼らをどうするおつもりですか?」

 ジェナがオークたちを見ながら小声で聞いてくる。かくまうというのとは違うけど、この異空間に入れるだけ入れてそのままって訳にもいかないからね。

「ナルヴァ町のずっと西にある改造農地、あそこの担当になってもらおうと思う」
「たしかにずっと活用方法を考えていらっしゃいましたが、そこに魔物ですか」
「なかなかあの場所で働いてくれる人がいなくてね」

 ナルヴァ町を一番として、そこから西に一六番まで植物がよく育つ場所がある。でも大森林に少しずつ近づくため、ナルヴァ町から四番までは大丈夫でも、五番から西はなかなか人を集めるのが難しい。

 犯罪者を集めて働かせるという方法もなくはないけど、「ユーヴィ男爵は大森林に近い場所で犯罪者たちを使い潰して作物を育てている」と言われるのも面白くない。

 それならむしろ、「ユーヴィ男爵は魔物と仲良くして栽培を任せている」と言われる方が僕らしい。それでもおかしな顔はされると思うけど。

 そのためにはしばらく魔物たちに麦だの芋だの野菜だのを栽培してもらう。その農作物がある程度領内に出回るようになるくらいまで待つ。「この果物はどこから来たんだ?」とみんなが疑問に思うようになった頃に「実は……」と言う方が面白いんじゃないかと思う。

 面白さのためにする訳じゃないけど、そこまでしてしまえば意外と普通に受け入れてもらえる気がする。

「それでも良く思わない人はいるかもしれないけどね」
「その時はどうされますか?」
「あのオークたちをハイオークだと言う」

 おそらくはどこかの世界にはいそう。カローラが知っている世界にはいないとしても、それ以外の世界にはいるかもしれない。

 ハーフエルフだってこの世界にはいないけど、別の世界にはいるらしいから。単にこの世界では売生まれないというだけで。

 だけど転移でこの世界に現れることもあるし、僕のようにステータスがおかしくなった人から生まれることもある。

 そう考えるとハイオークだろうがハーフオークだろうが存在しても不思議ではない。

「オークの上位種でしたね」
「そうそう。実際にいるのかどうかは分からないけど、エルフの上にハイエルフがいると思われているなら、オークの上にハイオークがいてもいいでしょ」

 人はそれを詭弁と呼ぶ。

「人の言葉を理解できるなら、たしかに上位種だと思われるでしょうが、それだけで納得させられるでしょうか?」
「そのために読み書き計算と言葉を教えようと思う」
「やはりそこですか」
「そこだよ。どんな種族でも、どんな国でも、どんな世界でも。意思疎通できないから怖がられるし、できれば受け入れてもらえる。それに読み書き計算ができればお金を得る機会が得られるかもしれない。でもそれができなければ、そもそも機会が得るための準備すらできないという国は多いからね」



◆ ◆ ◆



 ジミーたちを異空間に残してまた森に戻る。彼らにはあとで色々としてもらうことになるけど、とりあえず食事をしてもらっている。

「ブボーッ!」

 向こうからオークの集団が向かって来る。数は一〇くらいだろうか。

「閣下、どうしますか?」
「とりあえず僕に任せておいて」
「分かりました」

 先頭にいるオークは一度足を止めると、僕に向かって木の棒を突き出してくる。僕はそれに自分が持っている棒を軽く当てる。

「ブッ⁇」

 目の前のオークが驚いた顔をして目を大きく開く。彼らもそうか。

「言葉が分かる?」
「ブボブボ」
「それならちょっと待ってね」

 意思疎通ができるなら、ジミーたちに任せた方が話は早いだろう。僕には彼らの言葉が分からないから。

「ジミー、ちょっと出てくれる?」
「ブブッ」

 鼻息とともにジミーが異空間から出てくる。右手にフォークを持ったまま。

「食事中に悪かったね。彼らに話をしてくれる?」
「ブッ。ブーフーウー」

 ジミーは僕に頭を下げると、集まってきたオークたちに身振り手振りで話し始めた。

「ブモッ?」
「ブモッブモッ」
「ブブー?」
「モッ。ブーブボッ、ブーー」
「「「「ブボ⁉」」」」

 オークたちは僕には分からない会話をしていたけど、しばらくするとザワザワし始めた。そして僕の方を向き、手に持った棒を投げ捨てた。棒のこととかを説明してくれたのか。

「ここにいるみんなは一緒に来るってことでいいの?」

 サッサッサッサッ

 教えてもいないのに一斉に手が上がる。これもジミーが教えたんだろう。

「それならジミー、みんなを向こうに案内しておいて。みんなで食事をしてもいいから」
「ブッ」

 ジミーに続いてオークたちが異空間に消えていく。

「閣下、このままではどんどん増えませんか?」
「増えても住む場所は困らないけどね。むしろ働く場所が足りなくなる可能性もあるけど」
「そうなると、もっと農地を増やしますか?」
「あの改造農地の九番から西側もう四つも使えるかもしれないね」

 住む場所はあるから人数が増えても問題ない。それこそ働く場所だって、無理してあの改造農地を使う必要もない。僕が異空間に農地を作ればいいだけ。

 でもそれをしてしまうと、結局は人とオークたちを分断してしまう。いずれは穏便に接触させたいと思っているんだけど。



◆ ◆ ◆



 オークたちの食事も終わったようなので、誰か一人に外に出てもらって、オークがいたら声をかけてもらおうとしている。今はハディーが出ている。その前にゴブリンらしき魔物が現れた。

「ウギャッ」
「ウガガッ」
「彼らもそうかな?」
「それっぽいですね」
「ブフー」

 緑色とも茶色とも灰色とも呼べない、微妙な色合いの皮膚をしている小柄な集団が、やっぱり木の皮や葉っぱなどを使った服を着ている。色が色だけに迷彩のようにも見える。

 オークたちと違って棒は持っていないけど、何人かは石を手に持っている。あれは武器なのか挨拶に使うのかどっちだろう?

「ハディー、彼らの言葉は分かる?」
「ブイー」

 そんな鼻息とともにハディーは首を振った。

「言葉は分からないか。でもこっちの言ったことは分かるかも」

 僕はゴブリンたちに向かって普通に話しかけることにした。

「この森を出て、ゆっくりと暮らしたい人は右手を挙げて」

 そう言うとゴブリンたちはお互いに顔を見てから右手を挙げた。何人か左手を挙げているけど、間違って覚えているんだろう。隣を見てすぐに右手を挙げ直した。

「それなら一度中に入ろうか。軽く食事でもしよう」

 再び異空間の入り口を出すと、まずはハディーが入り、続いてゴブリンたち、それから僕たちが入った。



◆ ◆ ◆



 ゴブリンたちにもオークたちにしたのと同じ説明をした。種族は変わるけど違いはないからね。

 とりあえず分かったことは、オークとゴブリンでは意思疎通は上手くできない。身振り手振りでなんとか相互理解できる感じだった。僕が話せばどちらにも通じるんだけどね。

 おそらくオークもゴブリンも、お互いの言葉ができるようになったのではなくて、人の言葉が理解できるようになっただけなんだろう。まあできないことに文句を言っても仕方がない。できることをしよう。

 今後もオークやゴブリンと会う可能性はあるので、交代で誰かに外に出てもらう。その間にも、今後どうするかを考えないといけない。

 まだコボルドは見ていない。彼らが僕の言葉が分かるのか、とりあえずサニティに着くまでにどれくらいの人数になるか、それからさらにどれくらい増えるか。異空間であれどこであれ、住民が増えればそれなりにやり方を変えなければならない。

「それで、ゴブリンの代表は誰がやってくれる?」
「グガ」
「よし、それじゃあジョイに任せたるね。フランスはサポートをよろしく」
「ギャッ」
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