新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第二部

森の仲間たち(当然素材ではない)

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「まあ、こんなものかな」
「雨露をしのぐのであれば十分すぎるでしょうね」
「雨は降らないけど、暗くなると不安になるからね」

 異空間の中に長屋のような建物を作り、オークたちにはそこに住んでもらうことにした。

「オーク……と言ってもみんなオークか。さっき僕の前にいたオークは?」
「ブモ」
「よし、それなら君をジミーと呼ぶことにしよう」
「ブモモッ」
「他の三人は、ハディー、トミー、ジェリーにしようか」
「ブモッ」
「ブホ」
「ブフッ」

 問題なさそう。ジミーはあのキャラクターのように頭がもこもこしていたから。ハディーは目元がハッキリしていて顔つきが派手だね。トミーとジェリーは表情かな。仲良くケンカしそう。

「それで、僕は君たちが言いたいことがはっきりとは理解できない。だから賛成なら手を挙げて、そうでなければ手を下ろしたまま首を振る。分かった?」

 サッサッサッサッ

「じゃあ手を下ろして。正直に聞くけど、あの森から出たい人はいる?」

 サッサッサッサッ

「理由は……聞けないからしようがないか」
「ブモブモ」

 ジミーが右手を自分の胸に当て、それから僕の方を指した。そして弓を引くような動きをして、最後に矢が当たって倒れるようなポーズを取った。芸が細かい。

「君たちがエルフに方に近寄ると、エルフに矢を射かけられる、で合ってる?」
「ブモッブモッ!」

 ジミーが手を叩いて喜んでいる。当たりらしい。ジェスチャーゲームをしているつもりはないんだけど。

「自分たちに敵意がないことを伝えなかったの? それとも伝えられなかったの?」
「ブーホッ」

 今度はハディーが自分の服を指で摘まんだ。

「服を着ることによって、服を着ていない普通のオークと差別化を図ったということでしょうか?」
「ブモッモーッ!」

 ジェナが答えたらハディーがガッツポーズをした。

「それじゃ、君たち以外にも服を着てエルフに接触しようとしたオークは多いの?」
「ブフーーッ」

 トミーが目一杯両手を広げる。

「かなり多いんだね?」
「ブッ」

 トミーは頷く。この四人だけってことはないと思ったけど、今後も会いそうかな。受け入れの準備はしておこう。場所はあるからね。

「それならもう一つ、他の種族にも同じようにしている人たちはいた?」
「ブフーフッ」

 最後はジェリーか。頭の横に両手を置いて、それから外側に少し動かす。それから両手を頭の上に回して角のように上に向けた。

「えーっと……耳と角……じゃなくて、耳と……耳? その位置は……ゴブリンとコボルドもいるってこと?」
「ブッブッブブーッ」

 鼻息だけなので当たりか外れか分かりにくいけど、両手を振っているので当たったっぽい。

「それじゃ最後に確認すると、君たち以外にも同じようなオークはたくさんいて、オーク以外にゴブリンやコボルドもいる。彼らの中にも森以外で暮らしたいと思っている人がいても全然おかしくない。そういう人たちを誘って森を出るということでいい?」

 サッサッサッサッ

「でも一つ言っておくと、人に棒を持って近づいたら敵が来たと思われるよ」
「「「「ブッ⁉」」」」

 どうしてそこで驚くの? 普通は武器を向けられたら攻撃されると思うよね。

「ジミーは僕に向かって棒を向けてきたけど、ひょっとしてあれは攻撃じゃなかったの?」

 ブンブンブン

 ジミーは首が千切れそうなくらい首を横に振る。

「ブッブッブーフッ」

 彼は周りを見渡して探しているけど、あの棒かな?

「棒ならこれを使う?」
「ブッ」

 適当な太さの棒をジミーたちに渡す。四人ともそれを肩に担ぐ。そして相手に近付いたら肩から下ろして相手に向ける。それからお互いに棒を軽くコンコンと打ち合わせる。

「ひょっとして、挨拶?」
「ブッブッ!」
「ブボーッ!」

 二人揃って僕の方を見て棒を振る。僕も手に持った棒を二人の棒に軽くぶつける。そういうことか。

「彼らにとっては、手にしている棒は武器にもなれば挨拶の道具にもなるということですね」
「そうだね。僕たちなら握手というのが一つの手段だけど、彼らにとっては道具を使うんだろうね」

 種族が違えば文化も違う。しかも彼らは魔物とされている種族だ。いつからこうなったのかは分からないけど、頭が良くなったので人と交流しようとした。でも彼らが棒を使ってコミュニケーションを取る手段は人の文化にはなかった。言葉にすればそれだけ。

「しばらくの間はこの場所で生活してもらうけど、一つ考えていることがある。そのためには人と交流してもらうことになるかもしれない。でも人には棒を向け合う習慣はない。君たちにとっては挨拶だったのかもしれないけど、種族が違えば挨拶の方法も違うということをまず覚えてほしい。人にとっての挨拶はこうだからね」

 そう言って僕は四人と順番に握手をする。

「もし挨拶をすることがあれば、棒ではなく手を差し出すこと。つまりそれは武器を持っていない、相手を傷つける意思がないってことだからね」
「「「「ブッ」」」」



◆ ◆ ◆



 とりあえずオーク四人が異空間の住人になった。さすがにナルヴァ町でもユーヴィ市でも今のままでは無理だろう。それなら別の方法を考えるだけ。

 彼らは森から出てエルフたちと仲良くしたかった。でも言葉が話せないのでそれは難しかった。それでも頑張ってあり合わせのもので服を作って着ていたけど、それも理解してもらえなかった。

 彼らの一部は森から出ようとした。でも森を出た瞬間に冒険者たちに追われたり、場合によっては殺された。だから森から出ることはしなくなった。

「ひょっとすると、私がサニティを出て森を抜ける間に倒した魔物には、彼らのように言葉を理解する者もいたのでしょうか?」

 ジェナが少し不安そうに聞いてくる。彼女は森を出て冒険者をしていた。その時に倒した魔物の中にもしかしたら意思疎通ができたかもしれない魔獣がいた可能性がある、そう考えたようだ。

「僕にもはっきりとは分からないけど、ジェナが森を出た時、彼らは服を着ていた?」
「いえ、着ていなかったと思います」
「それなら、おそらくその頃はまだ今ほどの知能は持っていなかった可能性が高い。もちろん個々にはいたのかもしれないけど。少しずつ全体の知能が上がっていって、ある段階になって急に言葉が理解できるようになったのかもしれない。スキルは遺伝しないけど、ステータスの数値はある程度は引き継がれるからね」

 親が稀代の魔法使いだったとする。例えば[属性魔法(火特)]を持っていたとしても、そのスキルそのものは子供には引き継がれない。でも魔力量など、いわゆる数値として表示されるものはある程度は引き継がれる。

 もちろん生まれた直後から大人並みなんてことはないけど、少し数値が高かったり、あるいは上昇率が高かったりすることはいくらでもあるそうだ。実際にうちの子供たちは頑丈だからね。

 ジェナが森を出る時にはまたオークたちは服を着ていなかった。つまりその時点ではエルフを始めとした「人」とコミュニケーションを取ろうとすることはなかった可能性がある。

 でもこの森に知能が高くなる場所があって、たまたまかどうか分からないけどそこで生活し、いつの日か知能が上がり、さらにその子供は最初から知能が高い状態で生まれ、ということを繰り返していくうちに、群れ全体の知能が上がった可能性がある。

 引きこもりのエルフたちが魔物たちの変化に気付かなかったのは仕方ないとして、とりあえず今後はむやみやたらと殺されないように、彼らを別の場所に移すのがいいと思う。でも移した先でトラブルになると困るから、しばらくは慎重に行動させないとね。
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