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第四章 第三部
陞爵と事後報告
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貴族であることが嫌なわけじゃない。普通なら嫌がる人はいないと思うよ。でも僕としては自分のやりたいこととズレ始めているのが気になる。気になるのはそのことだけ。
この世界にやって来て、のんびり旅をする予定が、気が付けば男爵になり領主になってしまった。そしてまた王都に来て陞爵。ここは謁見の間。
「これよりユーヴィ=キヴィオ辺境伯を名乗るように」
「この国のために尽くします」
うーん。陛下もさらっと終わらせたね。去年のエリアスさんの時とは大違い。僕が大げさな式典が苦手だと分かっているからだと思うけど。
最低限の人数だけ揃えてパパッと済ませた感じ。僕としてはそれでいいけど、国としてはどうなんだろう。まあ西側に大きな領地ができても、周辺国との関係にはあまり影響がないからかもしれない。西は大森林があるだけだから。
「先輩、父と並びましたね」
「そうだね。口いっぱいに入れた苦虫をまとめて噛み潰したような顔をしていたけどね」
今回も式典にはマイカに来てもらった。このような件では一番頼りになるから。
それにしても、男にツンデレになられても困るけど、確かにエリアスさんにはそのような感じがある。
マイカと結婚したことについてはアンナさんのお陰でかなり怒りは収まったらしい。でもどうも自分が陞爵したのが僕のお陰だということで自分に腹が立つらしい。それを僕に向けられても困るけどね。
去年の終わりにエリアスさんが伯爵から侯爵になった。一連の不正の摘発で大活躍したから。ただ領地は変わらず、爵位が上がったくらいだね。その摘発の手法が僕の真似だったのが気に入らないそうだけど、あれで王都周辺の不正の大半が一掃されたので、ずいぶんと風通しが良くなったとスーレ子爵も言っていた。
それで、僕が今回もらった爵位が辺境伯。辺境伯は辺境ではなくて国境に近い場所に大きな領地を持つ貴族を表し、侯爵と同じ立場になる。あの土地には国境はないから、文字通り辺境だけどね。でも大森林は敵国と呼べるかもしれない。これまでのユーヴィ男爵領はユーヴィ地方、キヴィオ子爵領はキヴィオ地方として、区別はするけど扱いは同じにすることになりそう。
しかしまあ、気前良く陞爵されたね。男爵から子爵と伯爵を飛ばして三つ上。爵位が上がったところで何が変わるわけでもないけど、これで複数の爵位を持つことになった。ユーヴィ=キヴィオ辺境伯が今の僕の爵位。それ以外に男爵位と子爵位も一つずつ持っている。ユーヴィ男爵とキヴィオ子爵の分だね。
クリスが成人すればユーヴィ=キヴィオ辺境伯を継がせるけど、男爵位と子爵位が余っているから、他の子に一つずつ渡して、どこかの領主をさせるのもあり。領主をやりたければね。無理にさせるつもりもない。僕に似たら落ち着きがないかもしれないし。
「父はいいとして、まさか兄が出世するとは思いませんでした」
「家柄なら十分だからね」
兄とは言っても長男のファビオさんじゃないよ。エリアスさんが侯爵になるのに少し遅れて、次男のラディムさんが直轄領の町の一つを任されることになった。
ラディムさんはエリアスさんの次男で、デボラさんの第一子。以前から王都にいて、やはり財務省で働いていた。会ったことはあるけど、ものすごく普通の人。悪いけど、エリアスさんとデボラさんから生まれたとは思えない。むしろスーレ子爵の息子と言われた方が納得できる。「父がいつも迷惑をかけてすみません」と謝られたからね。僕よりも若いけど、かなりしっかりしているから十分務まると思う。そう考えるとディルク殿はかなりの過保護だね。
◆ ◆ ◆
「本当にサラッと報告するよな」
「勿体ぶった方がよかったですか?」
「いや、そうじゃない」
あれから王都で少し用事を済ませてからユーヴィ市に戻った。そして今はルボルさんにキヴィオ子爵領を編入する件と辺境伯になった件について説明している。他には旧キヴィオ市からレオニートさん、新キヴィオ市からはボフミルに来てもらっている。
「なりたくてなったわけでもありませんが、投げ出しても誰も救われませんからね」
「こんな無茶を言われて引き受けて結果が出せるのはお前くらいだろう」
爵位が上がって領地が増えるなら喜ぶ貴族はいるだろうけど、いきなり話を振られて対処できる人は少ないだろうね。
「最初はルボルさんをユーヴィ男爵にして、僕がキヴィオ子爵になるということも考えたんですが、大森林の件があるので踏み留まりました」
「俺ではあの森は対処できないぞ」
「もう大丈夫だとは思いますけど、なかなか領民の不安まではね。隣の領地にあまり出しゃばるのもおかしいですから」
大森林の暴走で出てきた魔獣は、大森林を出たところで[転移]を使って異空間に飛ばし、[麻痺]で動けなくした上で〆ることになった。〆る方法はまだ未定だけど、作業をする人に怪我などがないように可能な限りの配慮をする。数年は起きないのは分かっているから、それまでに対策は考えるよ。
「それで、編入の発表はいつするんだ?」
「六月でいいでしょう。パダ町とヴァスタ村の編入からちょうど一年になりますし」
「それまでにやっておくことは、各町や村への告知か」
「キヴィオ子爵領に関してはレオニートさんにやってもらいます」
「そちらは問題なくやっておきましょう」
僕に丸投げしたんだからそれくらいはやってもらおうと思う。
「しかし、あの時に冒険者になったばかりの男が、あっという間に辺境伯か。最初からただ者じゃないとは思ったが」
「それは僕の方もですね」
でも、領地が増えるとなると管理が大変になる。もちろんギルド職員たちは優秀だし、ルボルさんもレオニートさんも信頼できる。でもルボルさんは首席ギルド長、レオニートさんは旧キヴィオ市の代官。ちょっと差があるね。
「それでですね。かなり領地が広くなりますので、僕はしばらく領地のあちこちを飛び回ることになると思います」
「お前さんなら自分で色々とするだろうからな」
「はい。それでまあ、今でもユーヴィ市の運営はほとんどギルドに丸投げしていますが、それは今後も継続するとして、もう一つ運営しやすくしようと思います」
「運営しにくい町じゃないだろ」
「それはそうです。僕が何も指示をしなくても運営できるように頑張りましたから」
小さなギルドが三つあったのをまず一か所にまとめ、さらに色々な部門を増やし、要するに日本の市役所、あるいは総合庁舎のような場所にした。それで僕が市長のような立場になっているけど、領地が増えると僕は知事のような立場になる。すると市長の場所が空くわけだ。
「僕の屋敷はユーヴィ市あります。だからここからいなくなるわけではありませんが、僕がいなくても決裁できるように、僕の代行の地位をもう一つ上げておこうと思ったわけです」
「待て、俺にこれ以上何をさせる? 代官か?」
「やってもらうことに変わりはありませんが、実質的にはそうです」
これまでこの国には村長はいた。町長もいた。でも市長はいなかった。なぜなら市長に相当するのが領主である貴族になるからだ。市が二つ以上ある場合は代官を置く。
新しくできるユーヴィ=キヴィオ辺境伯領には領都ユーヴィ市、新キヴィオ市、そして旧キヴィオ市の三つが存在することになる。ユーヴィ市は領都なので僕が直接治めるとして、新キヴィオ市はボフミル、旧キヴィオ市はレオニートさんに任せることになるけど、代官という言い方を変えることになった。その新しい呼び方が市長。
日本の自治体に例えるなら、僕が知事になり、各市に市長がいるという見慣れた形になる。この代官と言い方がどうも僕には合わなかったんだよね。市が複数ある領地はそこまで多くないからだと思うけど、村長も町長もいるんだから、市長があってもいいじゃない。そう考えてユーヴィ市の市長を誰にするかということなんだけど、分かるよね?
「やっぱり俺か」
「ユーヴィ市だけ市長が存在しないのもおかしいですから、名目上だけでも置いておこうと思います。主席ギルド長とやることは変わりません。変わるのは名前だけですね。それは保証します。できないことは僕に振ってください」
「まあ今さらと言えば今さらだがな。分かった、引き受ける」
ルボルさんには引き続きこれまでと同じ仕事をしてもらうことになった。執務室も同じ。でも名前が市長になる。
「レオニートさんはこれまでと同じく旧キヴィオ市の方を頼みます。市長になる時には名前が変わりますが」
「候補はあるのですか?」
「初代キヴィオ男爵でしたか、その人が当時のラクヴィ伯爵領を出て、今の旧キヴィオ市の北の端に村を作った時にマイラ村と名付けたそうです。それにあやかろうかと。候補の中にもありましたから」
マイラと聞いた時は温泉かと思ったけど、関係があるかどうかまでは分からない。もし関係あるとすれば、人生と冗談をかけた村作りだっただろうね。
「なるほど、マイラ市ですか。分かりました。変わるのは名前だけですので大丈夫でしょう」
「お互いに出世したな」
「ルボルは逃げ出さなければ出世すると思っていましたよ」
「何だかんだで四人とも集まったな」
「ミロシュは総主教のままでいいのですか?」
「三つの町にそれぞれ総主教を置けばいいでしょう。ユーヴィ市はシェスラフ司祭を総主教に、マイラ市はミロシュ総主教、キヴィオ市はゾルターン総主教で」
「なら伝えておきましょう」
司祭から総主教って、キリスト教ならまず無理だと思うけど、この国ではそれほどおかしくはない。いや、おかしいかな? そもそもイスラム教のような義務規定があるけど定まった神様は存在していなくて、何を信仰の対象にするかはその人次第というゆるめの宗教。それが「国教」という名前の宗教。一応それぞれの教会には信仰の対象があるけど、それとは関係なく信者はお祈りをして帰っていく。
職名というか役職はキリスト教に近い。でもそこまで細かく分かれているわけでもなく、司祭と主教があって、その地域で一番上が総主教になる。例えば司祭が複数いれば第一司祭、第二司祭、主教が複数いれば第一主教、第二主教のように呼ばれる。第一主教は総主教とも呼ばれる。
ミロシュ総主教は王都で何番目かの主教をしていたけど、旧キヴィオ市のゾルターン総主教が新キヴィオ市の方へ移った時にレオニートさんに呼ばれてやって来た。
「ところで、俺が市長でいいんですか?」
これまでほとんど聞くだけだったボフミルが少し眉間に皺を寄せながら言った。
「やっていることはこれまでと同じ。むしろ新しい町だから、おかしなしがらみがなくてやりやすいでしょ」
「それは確かにそうですが」
「新しい酒は新しい革袋に。大きく変えるにはこのタイミングしかないからね」
「分かりました。精一杯頑張ります」
「そこまで頑張らなくてもいいよ。死んだら元も子もないから」
ボフミル、もとい元部下のイイヤマ君なら日本のやり方が分かっている。僕がこれまでユーヴィ男爵領でやっていたのはインフラ整備だった。そこを重点的にやってくれればいい。
電気ガス水道のうち、電気とガスはないから燃料箱を使い、家電の代わりに魔道具を普及さた。水道も井戸や川だったのを魔道具を使ってきれいな水が出るようにした。
道もデコボコで雨が降ったらぬかるんでいたから、石畳を敷いて馬車が走りやすくした。街道を通して物流と人の流れを良くした。
小麦は採れるから食糧事情はほどほどだったけど、それ以外があまりにも悪かったから、そこは改善した。ファッションとかそのあたりはみんなの趣味かな。
他には娯楽関係。劇場を作って劇団を用意した。ポリーナさんが劇場と劇団を取り仕切っている。他には、罰ゲームとして始めたファッションショーだけど、シュチェパーンカさん、オフェリアさん、レンカさんのお騒がせ三人娘が盛り上げたから定番になりつつある。あれからステージに上がりたいという人が増えてきたのは喜ばしい。でもオフェリアさんとレンカさんは結婚したから娘はおかしいかな?
残る一人だけど、うん、シュチェパーンカさんとはデートはしたよ、一応。あの人、普段は僕に向かってガンガンと攻めてくるのに、いざ二人になったらカチンカチンに固まっていた。僕の手を握って倒れたからね。デートと呼ぶべきか介抱と呼ぶべきか。だからうやむやに終わってしまった。
「また忙しくなりますが、領地の統合に向けてもう一仕事お願いします」
この世界にやって来て、のんびり旅をする予定が、気が付けば男爵になり領主になってしまった。そしてまた王都に来て陞爵。ここは謁見の間。
「これよりユーヴィ=キヴィオ辺境伯を名乗るように」
「この国のために尽くします」
うーん。陛下もさらっと終わらせたね。去年のエリアスさんの時とは大違い。僕が大げさな式典が苦手だと分かっているからだと思うけど。
最低限の人数だけ揃えてパパッと済ませた感じ。僕としてはそれでいいけど、国としてはどうなんだろう。まあ西側に大きな領地ができても、周辺国との関係にはあまり影響がないからかもしれない。西は大森林があるだけだから。
「先輩、父と並びましたね」
「そうだね。口いっぱいに入れた苦虫をまとめて噛み潰したような顔をしていたけどね」
今回も式典にはマイカに来てもらった。このような件では一番頼りになるから。
それにしても、男にツンデレになられても困るけど、確かにエリアスさんにはそのような感じがある。
マイカと結婚したことについてはアンナさんのお陰でかなり怒りは収まったらしい。でもどうも自分が陞爵したのが僕のお陰だということで自分に腹が立つらしい。それを僕に向けられても困るけどね。
去年の終わりにエリアスさんが伯爵から侯爵になった。一連の不正の摘発で大活躍したから。ただ領地は変わらず、爵位が上がったくらいだね。その摘発の手法が僕の真似だったのが気に入らないそうだけど、あれで王都周辺の不正の大半が一掃されたので、ずいぶんと風通しが良くなったとスーレ子爵も言っていた。
それで、僕が今回もらった爵位が辺境伯。辺境伯は辺境ではなくて国境に近い場所に大きな領地を持つ貴族を表し、侯爵と同じ立場になる。あの土地には国境はないから、文字通り辺境だけどね。でも大森林は敵国と呼べるかもしれない。これまでのユーヴィ男爵領はユーヴィ地方、キヴィオ子爵領はキヴィオ地方として、区別はするけど扱いは同じにすることになりそう。
しかしまあ、気前良く陞爵されたね。男爵から子爵と伯爵を飛ばして三つ上。爵位が上がったところで何が変わるわけでもないけど、これで複数の爵位を持つことになった。ユーヴィ=キヴィオ辺境伯が今の僕の爵位。それ以外に男爵位と子爵位も一つずつ持っている。ユーヴィ男爵とキヴィオ子爵の分だね。
クリスが成人すればユーヴィ=キヴィオ辺境伯を継がせるけど、男爵位と子爵位が余っているから、他の子に一つずつ渡して、どこかの領主をさせるのもあり。領主をやりたければね。無理にさせるつもりもない。僕に似たら落ち着きがないかもしれないし。
「父はいいとして、まさか兄が出世するとは思いませんでした」
「家柄なら十分だからね」
兄とは言っても長男のファビオさんじゃないよ。エリアスさんが侯爵になるのに少し遅れて、次男のラディムさんが直轄領の町の一つを任されることになった。
ラディムさんはエリアスさんの次男で、デボラさんの第一子。以前から王都にいて、やはり財務省で働いていた。会ったことはあるけど、ものすごく普通の人。悪いけど、エリアスさんとデボラさんから生まれたとは思えない。むしろスーレ子爵の息子と言われた方が納得できる。「父がいつも迷惑をかけてすみません」と謝られたからね。僕よりも若いけど、かなりしっかりしているから十分務まると思う。そう考えるとディルク殿はかなりの過保護だね。
◆ ◆ ◆
「本当にサラッと報告するよな」
「勿体ぶった方がよかったですか?」
「いや、そうじゃない」
あれから王都で少し用事を済ませてからユーヴィ市に戻った。そして今はルボルさんにキヴィオ子爵領を編入する件と辺境伯になった件について説明している。他には旧キヴィオ市からレオニートさん、新キヴィオ市からはボフミルに来てもらっている。
「なりたくてなったわけでもありませんが、投げ出しても誰も救われませんからね」
「こんな無茶を言われて引き受けて結果が出せるのはお前くらいだろう」
爵位が上がって領地が増えるなら喜ぶ貴族はいるだろうけど、いきなり話を振られて対処できる人は少ないだろうね。
「最初はルボルさんをユーヴィ男爵にして、僕がキヴィオ子爵になるということも考えたんですが、大森林の件があるので踏み留まりました」
「俺ではあの森は対処できないぞ」
「もう大丈夫だとは思いますけど、なかなか領民の不安まではね。隣の領地にあまり出しゃばるのもおかしいですから」
大森林の暴走で出てきた魔獣は、大森林を出たところで[転移]を使って異空間に飛ばし、[麻痺]で動けなくした上で〆ることになった。〆る方法はまだ未定だけど、作業をする人に怪我などがないように可能な限りの配慮をする。数年は起きないのは分かっているから、それまでに対策は考えるよ。
「それで、編入の発表はいつするんだ?」
「六月でいいでしょう。パダ町とヴァスタ村の編入からちょうど一年になりますし」
「それまでにやっておくことは、各町や村への告知か」
「キヴィオ子爵領に関してはレオニートさんにやってもらいます」
「そちらは問題なくやっておきましょう」
僕に丸投げしたんだからそれくらいはやってもらおうと思う。
「しかし、あの時に冒険者になったばかりの男が、あっという間に辺境伯か。最初からただ者じゃないとは思ったが」
「それは僕の方もですね」
でも、領地が増えるとなると管理が大変になる。もちろんギルド職員たちは優秀だし、ルボルさんもレオニートさんも信頼できる。でもルボルさんは首席ギルド長、レオニートさんは旧キヴィオ市の代官。ちょっと差があるね。
「それでですね。かなり領地が広くなりますので、僕はしばらく領地のあちこちを飛び回ることになると思います」
「お前さんなら自分で色々とするだろうからな」
「はい。それでまあ、今でもユーヴィ市の運営はほとんどギルドに丸投げしていますが、それは今後も継続するとして、もう一つ運営しやすくしようと思います」
「運営しにくい町じゃないだろ」
「それはそうです。僕が何も指示をしなくても運営できるように頑張りましたから」
小さなギルドが三つあったのをまず一か所にまとめ、さらに色々な部門を増やし、要するに日本の市役所、あるいは総合庁舎のような場所にした。それで僕が市長のような立場になっているけど、領地が増えると僕は知事のような立場になる。すると市長の場所が空くわけだ。
「僕の屋敷はユーヴィ市あります。だからここからいなくなるわけではありませんが、僕がいなくても決裁できるように、僕の代行の地位をもう一つ上げておこうと思ったわけです」
「待て、俺にこれ以上何をさせる? 代官か?」
「やってもらうことに変わりはありませんが、実質的にはそうです」
これまでこの国には村長はいた。町長もいた。でも市長はいなかった。なぜなら市長に相当するのが領主である貴族になるからだ。市が二つ以上ある場合は代官を置く。
新しくできるユーヴィ=キヴィオ辺境伯領には領都ユーヴィ市、新キヴィオ市、そして旧キヴィオ市の三つが存在することになる。ユーヴィ市は領都なので僕が直接治めるとして、新キヴィオ市はボフミル、旧キヴィオ市はレオニートさんに任せることになるけど、代官という言い方を変えることになった。その新しい呼び方が市長。
日本の自治体に例えるなら、僕が知事になり、各市に市長がいるという見慣れた形になる。この代官と言い方がどうも僕には合わなかったんだよね。市が複数ある領地はそこまで多くないからだと思うけど、村長も町長もいるんだから、市長があってもいいじゃない。そう考えてユーヴィ市の市長を誰にするかということなんだけど、分かるよね?
「やっぱり俺か」
「ユーヴィ市だけ市長が存在しないのもおかしいですから、名目上だけでも置いておこうと思います。主席ギルド長とやることは変わりません。変わるのは名前だけですね。それは保証します。できないことは僕に振ってください」
「まあ今さらと言えば今さらだがな。分かった、引き受ける」
ルボルさんには引き続きこれまでと同じ仕事をしてもらうことになった。執務室も同じ。でも名前が市長になる。
「レオニートさんはこれまでと同じく旧キヴィオ市の方を頼みます。市長になる時には名前が変わりますが」
「候補はあるのですか?」
「初代キヴィオ男爵でしたか、その人が当時のラクヴィ伯爵領を出て、今の旧キヴィオ市の北の端に村を作った時にマイラ村と名付けたそうです。それにあやかろうかと。候補の中にもありましたから」
マイラと聞いた時は温泉かと思ったけど、関係があるかどうかまでは分からない。もし関係あるとすれば、人生と冗談をかけた村作りだっただろうね。
「なるほど、マイラ市ですか。分かりました。変わるのは名前だけですので大丈夫でしょう」
「お互いに出世したな」
「ルボルは逃げ出さなければ出世すると思っていましたよ」
「何だかんだで四人とも集まったな」
「ミロシュは総主教のままでいいのですか?」
「三つの町にそれぞれ総主教を置けばいいでしょう。ユーヴィ市はシェスラフ司祭を総主教に、マイラ市はミロシュ総主教、キヴィオ市はゾルターン総主教で」
「なら伝えておきましょう」
司祭から総主教って、キリスト教ならまず無理だと思うけど、この国ではそれほどおかしくはない。いや、おかしいかな? そもそもイスラム教のような義務規定があるけど定まった神様は存在していなくて、何を信仰の対象にするかはその人次第というゆるめの宗教。それが「国教」という名前の宗教。一応それぞれの教会には信仰の対象があるけど、それとは関係なく信者はお祈りをして帰っていく。
職名というか役職はキリスト教に近い。でもそこまで細かく分かれているわけでもなく、司祭と主教があって、その地域で一番上が総主教になる。例えば司祭が複数いれば第一司祭、第二司祭、主教が複数いれば第一主教、第二主教のように呼ばれる。第一主教は総主教とも呼ばれる。
ミロシュ総主教は王都で何番目かの主教をしていたけど、旧キヴィオ市のゾルターン総主教が新キヴィオ市の方へ移った時にレオニートさんに呼ばれてやって来た。
「ところで、俺が市長でいいんですか?」
これまでほとんど聞くだけだったボフミルが少し眉間に皺を寄せながら言った。
「やっていることはこれまでと同じ。むしろ新しい町だから、おかしなしがらみがなくてやりやすいでしょ」
「それは確かにそうですが」
「新しい酒は新しい革袋に。大きく変えるにはこのタイミングしかないからね」
「分かりました。精一杯頑張ります」
「そこまで頑張らなくてもいいよ。死んだら元も子もないから」
ボフミル、もとい元部下のイイヤマ君なら日本のやり方が分かっている。僕がこれまでユーヴィ男爵領でやっていたのはインフラ整備だった。そこを重点的にやってくれればいい。
電気ガス水道のうち、電気とガスはないから燃料箱を使い、家電の代わりに魔道具を普及さた。水道も井戸や川だったのを魔道具を使ってきれいな水が出るようにした。
道もデコボコで雨が降ったらぬかるんでいたから、石畳を敷いて馬車が走りやすくした。街道を通して物流と人の流れを良くした。
小麦は採れるから食糧事情はほどほどだったけど、それ以外があまりにも悪かったから、そこは改善した。ファッションとかそのあたりはみんなの趣味かな。
他には娯楽関係。劇場を作って劇団を用意した。ポリーナさんが劇場と劇団を取り仕切っている。他には、罰ゲームとして始めたファッションショーだけど、シュチェパーンカさん、オフェリアさん、レンカさんのお騒がせ三人娘が盛り上げたから定番になりつつある。あれからステージに上がりたいという人が増えてきたのは喜ばしい。でもオフェリアさんとレンカさんは結婚したから娘はおかしいかな?
残る一人だけど、うん、シュチェパーンカさんとはデートはしたよ、一応。あの人、普段は僕に向かってガンガンと攻めてくるのに、いざ二人になったらカチンカチンに固まっていた。僕の手を握って倒れたからね。デートと呼ぶべきか介抱と呼ぶべきか。だからうやむやに終わってしまった。
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