新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第三部

統合

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 ユーヴィ男爵領とキヴィオ子爵領が合併した。しかもユーヴィ男爵領がキヴィオ子爵領を編入するという形で。

 僕はユーヴィ=キヴィオ辺境伯になり、新しい領地はユーヴィ=キヴィオ辺境伯領になった。旧ユーヴィ男爵領はユーヴィ地方、旧キヴィオ子爵領はキヴィオ地方になる。ただしキヴィオ地方が広すぎるので、いずれは中央と東西南北に分割するかもしれない。

 それに併せて旧キヴィオ市の名前が発表された。新しい名前はマイラ市。これは初代のキヴィオ男爵が最初に作った村の名前。当時は男爵でも準男爵でもなく、ラクヴィ伯爵領にある町の住民の一人だったそうだ。独立心旺盛だったそうで、ずっと西へ向かい、山の近くで村を作った。それがマイラ市の一番北のところ。

 名前の候補の中にもあったので、この機会にその名前を復活させることになった。当時の人が生きていることはありえないけど、生きていたらどういう顔をするかな。

「名前からして、なんとなく温泉を名物にしたい気はするんだよね」
「出るまで掘りますか~?」
「魔道具を使わずにお風呂に入れるならそれが一番いいからね」

 マイラ市、つまり旧キヴィオ市は山が近い。某ゲームの温泉は関係ないけど、名前が一緒だから、いっそのこと温泉を名物にしてもいいかもしれない。ついでに前にルボルさんと話していた公衆浴場もユーヴィ市に作りますかね。

「カロリッタも手伝ってくれるの?」
「体が鈍ってますからね~。頑張りますよ~」



◆ ◆ ◆



「最初は半分冗談だったんだけどね」
「冗談で温泉は掘らないと思いますよ。さすが先輩と言うべきですね」
「水脈を調べたらいい温泉が出そうだったのは間違いなかったからね」

 パイプからはゴボゴボと熱湯が噴き出している。これを適当に冷ましつつ湯船に溜めるわけなんだけど、ちょと熱いね。

「ちょっと熱すぎるから、パイプの長さで調節しようか」
「源泉掛け流しですか?」
「手間は少ない方がいいでしょ」

 源泉の熱湯を適度な温度に下げつつ湯船に入れ、循環させずにそのまま排出する。排出したお湯は一度沈殿槽に溜め、汚れをできるだけ取り除き、完全に冷めてから川に戻す。

 沈殿槽の汚れはスライムが適当に食べてくれるから問題なし。え? スライム? いるよ、草むらに。あれは魔物ではあるけど魔物とは思われていなくて、駆除対象にはなっていない。昆虫と同じ扱い。ギルドカードの表面に塗られるのは、何とかスライムの死骸に硬化剤となる何かの薬品を混ぜたもので、ラミネートのようになる。

 知性はあるみたいなんだけどコミュニケーションが取れないせいで、死骸や糞を食べる低級の魔物と見なされている。実は誰でも頑張ればコミュニケーションが取れるんだけど、そこまでしなくてもいいかなと思ってそのままにしてある。

「それじゃ、ここに建物を用意するかな」
「一から建てますか?」
「いや、部材は用意してあるから組み立てだけだね。カロリッタ、そっちの方をお願いね」
「アイアイサ~」

 僕とカロリッタで建物を用意し、細かなデザインはマイカにチェックしてもらう。

「カビとか雑菌とかは大丈夫ですか?」
「そこは[浄化]を使おうと思うけどね。スライムよりはいいでしょ」
「助けられてましたけど、楽しい見た目じゃないですからね。ゲームのキャラみたいに愛嬌があればいいんですけどね」
「マスターが品種改良すれば~可愛くなるかもしれませんね~」
「でも目や口があるのはおかしいでしょ」

 さて、温泉は冗談としても、今後はキヴィオ地方を発展させないといけない。でも僕が何かをする前にギルドが積極的に動いているんだよね。

「キヴィオ市のギルドが張り切っていましたね」
「ボフミルがやる気だからね」
「イイヤマ君は環境が整っていれば実力は発揮できますからね」
「日本人の社畜魂ですよ~」
「いやいや、彼は社畜にならなかったから今があるんだからね」

 ボフミルは元日本人で、僕とマイカの部下だった。一番しんどい時期に入社して、限界を感じて病む前に逃げ出した。逃げ出すのはいいこととは言えないけど、壊れるよりもいいとは思う。誰だって辞める権利はある。死んでしまったら意味がないからね。

 ボフミルには元地球人ネットワークのことを教えて紹介もしている。人間にアシルさんとフランシスさん、ミレナさん、エルフに僕、ドワーフにボフミル、犬人にマイカ、水の妖精にレジスがいる。レジスは当時の記憶はない。こちらに来てからが一番浅いのが僕かな?

 マリーは[人間(&石)]だから一応人間になるのかもしれない。まだ心臓の横に石があるけど、取り出すと[不老]の効き目がなくなるのかどうか分からないから、結局そのままにしておきたいらしい。「長生きすれば絶対に結婚できるって信じてるから」って言ってるけど、年を取らないからいつかはできると思うよ。ただ大事なことは覚悟しておかないとね。

 早い話が、自分だけが[不老]持ちなら普通は配偶者が先に死ぬ。それに夫婦ともに[不老]があっても、子供たちはそうじゃない。そのことは覚悟しなければいけないとは伝えている。僕の場合は妻たちみんなに[不老]が付いたけど、マリーの相手がそうなるとは限らない。

 まあ[不老]がなくても魔力が多ければそれだけ寿命が延びるから、寿命が一〇〇歳から一二〇歳くらいの人間でも、頑張れば二〇〇歳以上生きられるけどね。エルフは八〇〇歳から一〇〇〇歳くらいまで生きる人が多いそうだけど、サニティで長老をしているアランさんは一六〇〇歳を超えているらしい。まだまだ年を取ったという感じはしない。

 人間と獣人は魔力が少ない。そしてエルフでは魔力が段違いに多い。つまり人間でもエルフ並みの魔力があればエルフのように八〇〇歳から一〇〇〇歳くらいまで生きられる可能性は高い。でも長生きすればいいってもんじゃないし、年を取らないと考えることは色々とあるよ。ずっと領主をするのもおかしいからね。



◆ ◆ ◆



 帰ったら今度はユーヴィ市で公衆浴場の用意をする。これは公共事業じゃなくて僕が建てる。今は忙しいからね。もし二つ目を建てるなら、そこはギルド主導でやってもらう。

「イルジナさん、管理を市民生活ギルドに任せるので問題ないですか?」
「必要なのが燃料箱バッテリーの交換だけなら問題ありません。受付や片付けは男女それぞれを交代で募集するので問題ありませんね?」
「メンテナンスが必要ありませんので、基本的にいつでも入れるようにします。ずっと働きづめでは大変でしょうから、何人かでシフト制にするなど、そのあたりはお任せします。雇用を増やすためでもありますので、高賃金ではなく、一人あたりの賃金は安くても人数が多い方がいいかもしれません」
「そうですね。人も増えてきていますので、職探しをしている人も多いですね」

 職探しね。職業斡旋所を作るとなると、最低賃金とかそのあたりも決めた方がいいんだけど、この国では小さな子供が働くこともあるから、そこは難しいか。

「ギルドで仕事の紹介とかはしてましたか?」
「相談が持ち込まれれば、やって来た人に聞く程度です。なるほど、紹介ですか」
「店員を探している店の経営者から、仕事内容、拘束時間、賃金、その他の条件を提出してもらって貼り出し、それに興味を持った人に紹介するという斡旋業です」

 公的職業安定組織と呼ばれるもの。日本では公共職業安定所、愛称がハローワーク。仕事の紹介だけじゃなくて、職業訓練もしてくれる。

 ユーヴィ市には職業訓練学校があるけど、あれは主に職人を育てるために作られた場所。そもそも店が少なかったから、まずは店を増やすところから始めなければいけなかった。店が増えてきたら次は店員だね。

「それは冒険者ギルドがしているような内容に近いですか?」
「冒険者ギルドの方は土木工事や配達などの仕事ですね。それも単発とか短期のばかり。どちらかと言えば、服飾美容店の店員希望者を募集するのに近いですね」
「確かにそうですね。服飾美容店ではなく、町の中にある一般のお店に紹介という形ですか。なるほど」

 これまでは誰かに聞いて探すしかなかったからね。王都くらい人がいれば、例えばゴルジェイさんがやっていたような斡旋業や人材集めの仕事もできたと思うけど、小さな町ならそれは無理。

「斡旋するなら間に立つ必要がありますので、もし募集の時の条件と違ったとか、そのような苦情があればお店側を調査するなどの必要があります。たちが悪い店は排除する必要もあります。ギルドに余裕があって、斡旋業をされるのなら説明はできますよ」
「では冒険者ギルドと話をして、もしできそうなら仕事の募集を一本化したいと思います」
「急いで決めることではありませんので、決まったらいつでも連絡してください。

 さて、領民が増えれば色々な問題が出る。ただ単に数が増えればいいわけじゃない。増えても仕事がなければスラムができる。スラムができれば治安が悪くなる。犯罪が増えるし衛生状態も悪くなる。病気が流行れば大問題だ。

 この世界の人たちは魔素があるからかどうかは分からないけど、病気にかかりにくい。だからと言って気を抜いていいものじゃない。そうならないように環境を整えるのが領主の仕事。

 やはり基本は衣食住をしっかりさせること。でも単に与えればいいわけじゃない。働いて稼いだお金で暮らす。そうしなければ堕落する。

 もちろん以前に比べればずいぶんと生活はしやすくなった。でもみんなきちんと働いている。真面目に働いたからこそ生活に余裕もできる。余裕ができれば買えるものも増える。そうなると商品を作る人も必要になる。作り手を増やすためには領民を増やさないといけない。増やすには他から連れてくるしかない。かつては人が足りないのが一番の問題だった。

 とりあえずユーヴィ市で職業斡旋の仕事を試してみて、問題なさそうならそれから他の町にも広げようか。
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