新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第三部

マリアンとキラ、なぜかマリー

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「ワシもそろそろじゃのう。このワシが母親になると思うと感慨深いのう」
「私も」

 マリアンとキラはそう言いながら出産の準備に入った。

 二人はタイプが全然違う。どちらかと言えば背が高いマリアンと、一見すると子供に見えるキラ。でも落ち着いているという点でよく似ている。そこはセラもそうだけど。

「それにしても、あのキラさんがお母さんになるのよね?」
「そうだね。見た目だけなら子供くらいだからね」
「パリにいた頃はそれくらいの見た目で結婚して子供を産むのは珍しくなかったけど、兄さんが日本にいた頃は違ったんでしょ?」

 マリーの記憶にあるのはフランス革命の頃。僕の記憶にあるのは平成。

「間違いなく犯罪になる」
「その点では私の方が近いのよね。今と大きく違いはなかったから」
「この国はヨーロッパの近世の後半に近いからね」
「私も犯罪になるです?」
「年齢は大丈夫なんだよ。でもパッと見ただけだと引っかかるかな」

 目の前にいるセラは一四〇センチくらい。日本で手を繋いで歩いていたら事案になりそう。そして今から子供を産むキラは一三〇センチ。間違いなく事案になる。

 セラとキラの年齢はステータスでは二〇と一六で止まっている。裏ではカウントされているけどね。一見すると二人とも背が低いから、キラは中学生、セラは小学校の高学年くらいに見える。でもよく見ると顔立ちは必ずしも子供じゃない。顔を見ればセラが高校生、キラが中学生くらいかな。それでも結局同じか。

 ここのところマリーは僕によく話しかけてくる。先日僕が将来のことを考えた方がいいと言ったのが原因かもしれない。まあ妹一人くらいいくらでも養えるから、ずっと屋敷にいても問題ないけどね。

「ねえ、兄さん。ちょっと聞いていい?」

 いつもよりも真剣な表情でそんなことを聞かれた。ここのところ色々と考えていたようだからね。

「いいよ。何?」
「兄さんは妹は嫌い?」
「……意味が分からないけど」
「妹は恋愛対象になる?」
「……どこからそういう話になるの? そんな漫画でも読んだ?」
「うーん、妹は恋愛対象になるのかならないのか、そこをエリーさんとマイカさんと話してたんだけど」
「どうしてその二人……って兄か弟がいる人たちばかりか。兄が妹を恋愛対象にする意味が僕には分からない」

 僕には妹がいなかったから分からない。ステータスを見た限りだと、マリーは四回僕の妹になっていた。でも僕の記憶にはない。僕の前世では双子の妹だった。僕が養護施設に預けられていた時の話。でも会ったことがないから分からない。

 でも妹ってどうなの? そういう話が友達の中で出た時は、実際に妹がいる友達は本気で嫌がってたけどね。あり得ないって。ちなみに僕には[シスコン]、マリーには[ブラコン]が付いている。僕はマリーには幸せな結婚をしてほしいと思ってるんだけどね。

「一番手近な異性だからかな?」
「身も蓋もないと思うけどね」
「店長をしながらお店にやって来る男性を見てたけど、兄さん以上の人がいないのよ。お金とか身分とかを除いてもね。優しくて包容力があって頼りになって。それでリゼッタさんに相談したら、兄さんでいいんじゃないかって」
「リゼッタならそう言いそうだけど、僕らは兄妹きょうだいだよ?」
「それも考えたんだけどね。あたし四回は兄さんの妹だったんでしょ?」
「そうだね。双子のこともあったけど」

 僕からすると、一回目[マリーの兄(前前前前世)]、二回目[マリーの兄(前前前世)]、三回目[マリーの兄(前前世)]、四回目[マリーの双子の兄(前世)]になっている。三回が兄で、最後の一回が双子にだった。

 二回目の時は僕には記憶がないけど、マリーは記憶にあるらしい。四回目は僕が養護施設に預けられていた時で、僕はその時しか記憶がない。マリーは両親に育てられたようだけど記憶はないらしい。

「この世界で生まれた時は普通に両親に育てられてるから、兄さんとは血縁関係にはないのよね?」
「ま、まあね。僕はこの世界に転移されたからね。体は新しく作られたし」
「だから今は兄妹きょうだいじゃないって思ったわけ。他人だから問題ないんじゃない?」
「まあ理屈ならそうだけどね。でもそれで僕を受け入れられる?」
「うーん、今なら問題はないかな。兄さんなら抱かれてもいいかな~子供を作ってもいいかな~とか思えるようになってきたんだけど」
「いや、そこはもう少し疑問を持とうよ。そんなふわっと言われても困るよ」

 マリーに抱きつかれながらとりあえずそんな返事をする。先日余計な話をしたからかな。マリーには[不老]があって年を取らないから色々と考えおいた方がいいって。

 何だろうね。好き嫌いで言えば好きだと思う。それは間違いない。僕は過去に四回マリーの兄になったけど、その記憶はない。だから全くの他人とも考えられるけど、さすがに手を出すのはね。

「まあ一〇〇〇年経っても相手が見つからなかったら改めて考えようか」
「うーん、でも一〇〇〇年は馬鹿にしすぎじゃない?」
「大口をたたけるのも今のうち——」

 うぎゃ~~~~~

    ふぎゃっ、ふぎゃっ

  わ~~~~~

「生まれたわね」
「三人かな」

 おそらくマリアンが一人、キラが二人だね。ドアが開くのをのんびりと待つよ。

「マリアン様は男の子、キラ様は男の子と女の子の双子です」
「みんなお元気ですよ」

 しばらくするとドアが開いて、テクラとティネケが教えてくれた。



◆ ◆ ◆



「お前様よ、男の子じゃ」
「マリアン、ありがとう」

 マリアンは元々体力があるからか、僕が部屋に入った時にはすでに体力は戻っていたようだ。これまで他の妻たちは、少なからず疲れた顔をしていたからね。

「頑張った」
「お疲れ様。二人とも元気だよ」
「うん」

 キラはかなり疲れた顔をしていたので[回復]をかけた。こんなに小柄なのに双子だった。調整できるわけじゃないけど、どうにかならないのかな。

「ねえねえ、兄さん」
「はいはい、おばさんが気にしているからサクッと調べるね」
「おばさんじゃなくてお姉ちゃん! 兄さんの妻になっても、そこは譲れないわ」
「勝手に妻を名乗るのはやめてくれる?」
「お前様よ、とうとうマリーを妻にする決心をしたのかの? マリー、おめでとう」
「マリアン、ありがとう」
「ちょっと、マリアン。ああ、もう」



【名前:[(未定)]】
【種族:[始祖竜???]】
【特徴:[ケネスとマリアンの息子]】

【名前:[(未定)]】
【種族:[ハイドワーフ?]】
【特徴:[ケネスとキラの息子]】

【名前:[(未定)]】
【種族:[ハイドワーフ?]】
【特徴:[ケネスとキラの娘]】



 うーん、始祖竜って、最初だから始祖じゃないの? 途中から始祖っておかしいでしょ。しかもクエスチョンマークが三つもある。キラの方は想像通りかな。セラと同じだから。

 しばらく待つと妻たちも集まってきたから、いつものように名前にや種族について色々と意見や感想が飛んだ。

「ご主人様、マリーさんの体はご主人様の好みに合わせて作りました。相性は間違いないはずです。ご主人様のアレにピッタリと合うはずですよ」
「そんな配慮はいらなかったよ」
「でもマリーさんの体を作っている時、ご主人様は見てましたよね」
「そりゃ目の前で作られたらね」
「へーっ。兄さんに見られていたんだ。カローラさん、ありがとう。兄さんにしっかり抱かれます。あたしもいずれは赤ちゃん欲しいし」
「どういたしまして」
「抱かれるとか言わない。一〇〇〇年経って相手がいなかったら考えるって話だからね」
「一〇〇〇年待てばいいのよね」
「……」

 話がずれにずれたけど、一〇〇〇年って長いよ。でもエルフなら一生よりも短いのか。思ったほど長くない?

 そんなグダグダなやり取りが続いている横で、マリアンの息子はコンスタンティンKonstantin、キラの息子はキリルKirill、娘はクラーラKlaraと決まった。今回はKばっかりだね。男の子は僕と同じく『K』で始まる名前、女の子は妻の頭文字を取るってことになっているから、キラなら男女どっちでも『K』だからね。
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