新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第二部

大言壮語、あるいは自信過剰

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「では父さん、私は義兄にいさんと姉さんのところで実力を示してきます」
「無理をして怪我をするなよ」
「私くらいの実力があれば怪我など考えられないでしょう。あっという間にするべきことがなくなって戻って来ると思います」

 ジェナの実家に泊まった翌日、アリソンは父親に向かってハッキリとそう口にした。

 自信があること自体は悪くはないんだけど、どう考えても明らかに実力はなさそうだからね。どうしてここまで自信が持てるのかが謎だけど。

「ケネス殿、娘が世話になりますが、正直にお聞きしますが、かなり迷惑ではないですか?」
「いえ、迷惑と言うほどでは。それよりもジェナの帰省がバタバタになってしまって、こちらこそ申し訳なく思います」
「いえ閣下、私は久しぶりに両親の顔を見ることもできましたので大丈夫です」
「そう? それならいいけど。また来ようか」
「はい」

 バタバタした帰省になってしまったけど、魔物たちの様子を見る必要もあるので、近いうちにまた来ることになると思う。これで[転移]でいつでも来られるし、ジェナにも[転移]の指輪を渡しているからね。



◆ ◆ ◆



「ににに義兄にいさん! たたた助けてくださいーーーー!」
「あれ? 僕が助けるのは侮辱じゃなかったの?」

 アリソンが僕に助けを求めている。まだ大森林に入ってから一〇分も経っていないけど。

「そそそそんな軽はずみなこここことをいいい言ってしまいまままましたが、あああ謝りますのでほほほ本当にたたた助けてくださいーーーー」
「そのダインスレイフに上質な戦いを経験させたいんじゃなかったの?」
「ほほほ本当におおおお願いします。ももももう無理ですーーーー!」

 ホーンラビットに追いかけられるアリソンを見ながら声をかける。もちろん本当に危なそうなら助けに入るけど。

 見ている限りでは、避けることに関してはそれなりに技術があるね。たまにバックスネークが飛び出して噛み付こうとするけど、上手く体を捻ってかわしている。

 もっとも攻撃の方は全然ダメ。形はたしかに剣だけどあれではほとんど切れないし、腰が入っていないから上手く当たったとしても威力はない。

「閣下、そろそろ助けに入ってもいいのではないでしょうか?」
「うーん、そろそろかなあ」

 身体能力は高いようだからまだ余裕はあるように思えるけど、怪我をする前に止めようか。

「はいアリソン! こっちを向いて直立不動!」
「は、はいっ!」

 もちろんそんなことをしたらホーンラビットがアリソンの方を向いて飛びかかるのは当然。

「地面に伏せる!」
「は、はいっっ!」

 ガツッ‼

 アリソンが地面に伏せたのと同時にホーンラビットが跳躍し、彼女の後ろにあった木に突き刺さった。ホーンラビットを仕留めるならこれが一番早いんだよね。背中を見せるのが一番の悪手あくしゅ。お腹か胸から角が突き出すことになる。

「っとまあ、これがホーンラビットの仕留め方。攻撃は直線的だから、後ろに何があるか確認してから避ければ必ずこうなる」

 ジタバタしている兎の首を落とし、それから頭を掴んで角を木から引っこ抜く。アリソンは踏み潰されたカエルのような姿勢で伏せたままピクリともしない。

「アリソン? アリソン?」
「閣下、おそらく気を失っているのではないかと」
「気を失うほど怖そうにはしていなかったと思うけど」
「私も初めてここに来ましたが、それほど恐ろしくは思えませんでした。ですが甘く見ているとこうなるということがよく分かりました」

 まあ何にせよ連れて帰らないとね。

「では引き起こしますね……あ」
「どうしたの?」
「いえ、よほど怖かったのでしょう。漏らしてしまいましたので、軽く[乾燥]をかけておきます」
「本人には言わないでおく?」
「シミになっていますので、目が覚めたら気付くかと」



◆ ◆ ◆



「大言壮語して申し訳ありませんでした」
「大言壮語とは違うと思うけど、自分の能力を過信してはいけないということだね」
「はい」

 急にしおらしくなったアリソンに諭すように説明する。

 あれからジェナと一緒に気を失ったままのアリソンを屋敷まで連れて帰った。しばらくしたら目を覚ましたけど、バッと起き上がると真っ青になり、キョロキョロと周りを見たと思ったらホッと気を抜いた顔をして、それから自分の体を見て真っ赤になって、まあ表情が忙しなかったね。赤くなったのは漏らした記憶があったんだろうか。

「まずその剣だけど、それじゃ切れないよ」
「そうなのですか? みんなは名剣だと言ってくれたのですが」
「みんなってご両親?」
「いえ、訓練相手です」
「訓練相手ねえ……」

 試しに手に取ってみたけど、鋳造で作って研いだだけの安物だね。さほど頑丈でもないし、猪とかに叩きつけたら折れると思う。角度によっては金属並みに硬いから。

「私が剣の練習をしていたところ、町の男性たちが訓練相手を買って出てくれました」
「それは向こうから進んでってこと?」
「はい、そうです。日に日に増えまして、あまり多くても周りの迷惑になりますので、一度に一〇人まででお願いしています。

 それって、いわゆるファンクラブとか取り巻きとか、そういうのじゃないの? 実際に会ったことがないから分からないけど。

 もしかしたらちょっとチヤホヤされて調子に乗っていたのかもしれない。ジェナの妹らしく根は真面目なんだろうけど、そのせいでちょっとおかしな方向いわゆる中二病に進んでしまったと。エルフは色々とこじらせるそうだからね。

「そうだねえ……今後はリゼッタあたりに訓練相手になってもらえばいいかな。タイプが似ているから」
「リゼッタとはどなたでしょうか?」
「僕の正妻。強いよ」



◆ ◆ ◆



「さすがケネスですね。さっそく見つけましたか」
「何を?」
「妻の候補をです。しかもジェナさんの妹とは。他にも妹が何人かいるという話でしたか。楽しみですね」

 だから女性を連れてくると妻だと思うのはやめてよね。

「違うよ。リゼッタに訓練相手をしてもらおうと思ってね」

 妻たちの中で妊娠中でなくて体を動かすのが好きなのはリゼッタとマノンだけど、マノンはもう完全に冒険者からは足を洗うそうだから、そうなるとリゼッタ一択になる。

「訓練は問題ありませんが、大丈夫ですか?」
「大丈夫とは何についてでしょうか?」
「あなたのことです。心が折れないかと思いまして」

 再起不能にするのを前提にしてない? あくまで訓練の相手だから。決闘じゃないから。

「リゼッタ、できれば折らないでほしいんだけどね」
「ですが、ケネスに向かって大言壮語した罪だけはきっちりと償わせなければいけません。とりあえず両腕両脚と首と背骨くらいは軽く折っておきましょう」
「いや、もういいから」

 リゼッタは一度言い出したことはなかなか引っ込めないからね。とりあえず怪我は肉体回復薬ヒールポーションで治せるけど、折れた心は簡単には戻らないからどうしようか。

 ん? リゼッタの顔が……ああ、そういうことか。

「言っても仕方ないか。まあほどほどにね」
「もし心的外傷トラウマが残ったとしても、死んでから蘇生薬で生き返らせれば問題ないでしょう。あれは心の不安を一掃するそうですから心的外傷トラウマも消えるはずです。それに種族も同じエルフですので見た目も変わりませんし」
「わざと殺してから生き返らせるのはなしだよ」
「あ、あの……私はこ、殺されるのでしょうか?」

 アリソンが真っ青な顔で震えているけど、死にはしないから大丈夫。

「大丈夫大丈夫。リゼッタ流のジョークだから」
「そ、そうなのですか?」
「アリソンが怯えているのを見て思いついたみたいだけど」
「……ケネス、どこで気がついたのですか?」
「そこはほら、夫としては妻の変化には気づかないとね」

 リゼッタってそんなに笑わないし冗談も言わない方だけど、もちろん面白い話には反応する。さっきは右の眉毛がピクピク動いたからね。笑うのを我慢するとそうなるんだよ。

「その件は後ほど詳しく聞きましょう。アリソン、少し冗談が過ぎました。ケネスが問題ないと言うなら問題ありません。魔獣を狩りに行く間に手合わせをしましょうか」
「よ、よろしくお願いします」

 リゼッタは問題ないと言ってアリソンはホッとしたようだけど、あくまで両腕と両脚と首と背骨を折るのはやめるということだから、手合わせでボコボコにされるのは仕方がないだろうね。
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