新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第三部

サランの声と広報板

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 先日クルディ王国にあるエルフが多く暮らす町サニティからお試し移住者たちがやって来た。現在いくつかの町に分散して生活を始め、見たことも聞いたこともないものに連日驚いているそうだ。

 彼らのサポートはジェナとギルド職員たちに頼んでいるので僕は一緒に行動しているわけじゃないけど、一応誘った方としては領地にいた方がいいかなと思ってしばらくはこちらにいるつもり。

 あとまあ、何と言ったらいいのか、一つ面倒が増えた。

「領主様、お誘いいただくのを楽しみにしています」
「うん、まあ何か考えておくから」
「よろしくお願いします」

 ジェナが服飾ギルドのシュチェパーンカさんに押し切られ、手伝いの報酬として僕とのデートを約束させられた。今さら僕が言ったことじゃないと断るのもどうかと思うので、そのうちどこかの町に連れていこうかと考えている。

 ちなみにオフェリアさんとレンカさんには相手ができたらしい。何回目かのファッションショーで彼女たちを見た男性たちがその場でプロポーズしたそうだ。それで会場は大盛り上がりしたそうで、それで交際することになったらしい。それでいいのかと思うけど、仲良くやっているのでいいんだそうだ。



◆ ◆ ◆



 サランたちはアンゴウカウサギという種族で、カテゴリーとしては魔獣になる。魔獣は人とは意思疎通ができない、町の外にいて人を襲う獣型の生き物。それが一般的な考え。でもそれはサランたちには当てはまらない。

 彼女たちは魔獣としては非常に弱かった。体も小さいから町の中にいる猫と戦っても負けるくらいに弱かった。だから色々なスキルを身に付けた。

 敵に見つからないように身を隠すためのものが多いけど、人と意思疎通するためのスキルもある。それが[念話]。

 もちろん魔獣がスキルを持つのは珍しくもないけど、[念話]を使う魔獣はほとんどいない。つまり人に混じって暮らすために習得したはず。

 そして彼女たちは頭もいいし字も書ける。でも言葉は話せないので、今年に入って作ったモノリスのように、魔道具を使って声を再現しようと思っていた。それがようやく形になって彼女たちに渡した魔道具が、首輪のような発声装置。

「んー……これくらいであります」
「違和感はない?」
「はい、全く」

 僕が「サランたち」「彼女たち」と言う時にはアンゴウカウサギ全体を指している。元々は目の前にいるこの無印サランから分裂して別れた存在。サランA、サランBと次々と増えて、今は六〇〇〇匹近い数が領内にいる。

 普段はそれほど人前には姿を見せないけど、彼女たちは潜入捜査のような仕事が得意で、今でもこの町の様々な場所に潜んで、何かおかしなことが起きていないかをチェックしている。領主邸に武器を持った暴漢などが近寄らないかを見ている子もいる。

 このサランたちに擬似的に声を出す魔道具を持たせようと思ったけど、魔道具をどのような形にするかが難しかった。潜伏中に声を出したら困る。彼女たち自身が危険な目に遭う可能性があるから。だからオンオフを切り替えられるようにした。

「……」
「どう?」
「あーあー。頭の中で意識したら声が出なくなったであります」
「成功かな。慣れるまでは大変だと思うけど。声を出したらいけない場所では出さないようにね」
「はい」

 彼女たちはウサギの一種だからチーチーという鳴き声は出すことはできるけど声を出すことはできない。だから意思伝達のためには[念話]のスキルで伝える。それを受けるためには相手も[念話]が必要。発生装置を作るにあたって、元々彼女たちが[念話]が使えたのがややこしくなった原因。

 要するに[念話]のために頭の中で思い浮かべるのと発声のために思い浮かべるのがごっちゃになる可能性があるということだった。声を出そうと思っても[念話]で話しかけてしまうこともあった。

 そのために発声装置にスイッチを付けることを考えたけど、問題は彼女たちの毛。モフモフだから埋もれやすくて操作できなかった。腕時計タイプやペンダントタイプなどを含めて何種類か考えたけど、邪魔になるか使いにくいかのどちらかだった。

 それで声を出すのと[念話]で話しかけるのを自分の頭の中で頑張って切り替えてもらうようにした。そこは個々の努力でなんとか乗り切ってもらうことになった。みんな努力は好きだから。今でも交代で異空間の訓練所に行って体を鍛えている。

「ところで閣下、あのゴーレムはどうするのでありますか?」
「正直なところ、急用ってあまりないからね。何か使い道って頭に浮かぶ?」
「しばらくギルドにいて思ったのでありますが、町の人たちに向けて何かを伝えたりするのに、使えないでしょうか?」
「電光掲示板かな?」

 文字が流れるやつね。道路や駅、他にも看板の代わりに使われることもある。ただ識字率がね。

 ユーヴィ市では年齢に関係なく読み書き計算を学ぶことができる。ユーヴィ市以外の町でもギルド職員が読み書き計算を教えたりしている。でもまだ三分の二までは達していないそうだ。でもいざと言う時に備えて読み書き計算はできるようにしておきたい。

 読めないなら声を流して同期させればいいか。読みながら聞けば文字を読む練習にもなる。

「それなら広報板のようにしたらいいかな」
「広報板……でありますか?」
「広報板はそこで暮らす人たちに伝えることを貼り出す掲示板なんだけど、そこに声を付ければ文字が読めなくても内容が分かるよね」
「声と文字の両方でありますね。それなら耳が悪いとか目が悪いとかでも内容が分かると」
「そうそう」

 正直に言うとサランは頭がいい。[頭がいい]という特徴が付いているように、並の人以上に頭がいい。頭の回転については、場合によってはうちの家族以上に頭がいいことがある。

 それとは別に僕の頭が好きみたいで、肩でも膝でもなくらしく、僕の頭によく乗っている。今も。僕の眷属らしいから僕の発言に対して追従者イエスマンになってしまうけど、それ以外に関しては真っ当だからね。

「サランにも協力してもらうよ」
「小官にできることなら何なりと」



◆ ◆ ◆



「それで、これがそうなのか?」

 ルボルさんがギルドの前に立てられた広報板を見ながら僕に確認する。

「ええ、そうです。表示したい文章を入れ、それに合わせて声を入れます。そうすると文章に合わせて声が流れます」
「普通は役人が大事なことを伝えるよな?」
「大事なことはもちろんですが、ちょっと伝えたいことなども流せるので便利になると思いますよ。ギルド職員を町中に立たせっぱなしにしなくてもいいでしょう」
「そうだな。寒い時期や暑い時期は特にな」

 広報板を起動する。表面に文字が浮かび上がる。少し遅れて声が流れる。



「本日からこの広報板が運用されることになりました。文章と言葉の両方で町のみなさまに情報をお伝えします。今後は町中の広場など、他の場所にも設置される予定です。毎日でなくてもかまいませんので、時間がある時にはこの広報板を見てくださいね」



 流暢りゅうちょうな音声が流れている。可愛いながらもキリッとした声。サランの声だ。アニメ声ではないんだけど、それに近い気がする。

 彼女たちは軍隊口調と言ったらいいのか、少々癖のある話し方をするけど、原稿を読み上げる時はそうはならない。もし急に追加で情報を吹き込む必要ができたとしても、近くにいるサランに頼めばそれでいい。六〇〇〇匹近い数がいるけど、声は同じだから。それに情報共有もできるから非常に便利。

「これが小官の声でありますか」
「そうだよ。自分が耳にする声とは違うでしょ」

 人が録音された自分の声を聞いて違和感を感じるのと同じかな。人の声は体を伝わって聞こえるから。サランの発声装置は首輪型で、ちょうど喉のところから声が出るようになっている。彼女にも体を伝わった声が聞こえているんだろう。

「どう違うかと言葉にするのは難しいでありますが、何と言うか、少し気恥ずかしいでありますね」
「でもあのあたりにいる子供たちもじっと聞いてたでしょ? サランの声を聞いてたんだよ」
「そう考えれば、小さな子供たちにも分かりやすく伝える必要がありますね」
「そう。誰にでも理解できるように話したり、誰にでも聞きやすい声で話したりするのは意外と難しいからね」

 僕がいくら優しく話しても、小さな子供たちに伝えるには限度がある。子供には男性よりも女性の声の方がいいんだよね。それに声の質は思った以上の重要だから、日本でもナレーションというのは難しい仕事だと言われる。言葉のアクセント一つで印象が変わるから。

「今後はギルドにいるサランたちの誰かに吹き込んでもらうとして、それ用の場所も一つ用意するね」



 広報板は城門や広場やの近く、ギルドなどの公的な建物の前などに設置されるようになった。しばらくすると、誰の声なのかと話題になった。それだけみんなが聞いてくれているということだ。

 いずれはこのシステムを利用して広告のようなものを作っても面白いかもしれないけど、あまり節操なく立ててもやかましくなる。声の大きさとか流していい時間とか、使うとすればそのあたりを決めないといけないかな。
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