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第四章 第三部
知識欲
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《閣下、異空間に侵入者であります》
《侵入者⁉ 分かった。すぐに行く》
サランから魔物たちの暮らす集落に人が入ってきたと連絡が入った。慌てて駆けつけると、そこにいたのは思いもよらない人たちだった。
◆ ◆ ◆
「いや、誠にすまない」
「まあ、問題でないならいいんですけど。来たいなら最初にそう言ってもらえたら用意したんですけど」
まさかのアランさんたち長老衆とその他若いエルフたちがコボルドたちとお茶をしていた。一体何やってるの? あ、お茶か。
「それで、結局何が原因でこうなったんですか?」
「それがな、先日私が魔物たちの暮らす集落をドア越しに見せてもらったと言ったら、それを聞いた者たちが興味を示してな」
アイヴァンさんが経緯を説明してくれた。
ジェナの森の中にあるサニティは、エルフやドワーフ、妖精たち、いわゆる長命種が中心になっている。みんな寿命が長く、その上この町から外には出ないという引きこもりが多い。
森から出たくないと言っている人が圧倒的に多いけど、森を出てみたいと考えている人も実はある程度の人数がいたらしい。でも外に出るのは怖いとこれまではみんなが思っていた。広大な森の真ん中に作られた町で、その森には魔物がいるからね。
そこに先日僕が訪問して長老たちに説明した。魔物たちには知恵があって言葉を理解する。彼らはみなさんとコミュニケーションを取りたがっている。でもそのための手段がないだけだと。彼らはけっして危険ではない。だから彼らを別の場所に移したい。そう言って転移ドアを置いた。
どうもそれがそれが引き金になったらしい。サニティでは、魔物とは何か、そもそも危険なのか、危険でないなら一体どのような存在なのか、などという話し合いをするようになったらしい。さらに、魔物が恐ろしい存在でないのなら森に出るのも危なくないのではないかと。
そうなると今度はこれまで引きこもっていた反動からか、自分たちから魔物たちと接触してみるのはどうかという意見が出た。さらに、彼らと接触してみたい、彼らと接触してみよう、ダメなら前と同じでいいじゃないか、というようにどんどん意見が出た。
なんとなく方向性が定まった。それが勢いに任せただけのものだとしても、サニティにとってはこれまでにない変化だった。ではどうやって接触するか。今度はその話し合いになった。
頭のいい魔物たちは言葉が理解できる。それならば城壁の上から声をかけてみれば分かるだろう。あのケネス殿は、声をかけて反応があれば転移ドアの方へ行くように伝えてほしい、そう言っていた。それなら声をかけて反応が問題なさそうなら近づいてみよう。そんなことになっていたらしい。
そして運命の時……というのはアイヴァンさんの言葉だけど、たまたま数名のコボルドが現れたので城壁の上から声をかけた。そのコボルドたちは彼らの声を聞いて頷いたりしたらしい。だから彼らに言った。「そのドアの向こうにコボルドたちがいるから一緒に行かないか」と。
「そうやって彼らに話しかけて、それで一緒に入った訳だ」
「そうしたらお茶を出してくれて、まあこうやって話をしていたところで」
「すみません。義兄さんに迷惑をかけてしまいました」
ジェナの弟のクライドもいた。どうも学者肌のようなので興味が勝ったんだろう。何もなかったからいいんだけどね。
安全対策として、転移ドアは魔物が通って五秒ほどすればその機能を止めるようになっていると説明したけど、魔物と一緒に入れば問題ないだろうと考えたらしい。
僕としては、例えば魔物を捕まえて一緒に入ることはできなくはないけど、実際にそこまでして入ろうとする人はいないだろうと思っていた。魔物を避けていた人たちだからね。まさか魔物たちに声をかけて仲良く一緒にドアを通る人がいるとは思わなかった。僕の考えが甘かったんだろうか。
「我々の寿命は長い。だからこそ次第に無感動になる。どれだけ生きていてもサニティでは変化というものがない。それがここでは普通だったが、魔物が仲間になり得るという、これまでの考えを根底からひっくり返すような話が出たので、大きく考えを変えた者が出たようだ」
そう説明してくれたのはアランさんだった。
「僕としては、みなさんが魔物たちと仲良くするのもいいですが、もう少し外へ出てみたらどうかと思うのですが」
「外へ出たいと考えている者は多いようだ。だがいきなり知らない場所に出るのは腰が引ける者がいるだろうから、ケネス殿の領地はどうだろうか?」
「ユーヴィ市ですか。もちろん構いません。帰りたくなったらいつでも帰れるようにしますので、一度試しに行ってみますか?」
そう言った瞬間、目の前にいたみんなの顔が変わった。おもちゃを与えられた小さな子供のようと言えば分かりやすいだろうか。
彼らの顔を見てようやく分かった。ここの人たちは町を出ないと自分たちで言っていた。でも決して外に出たくないわけじゃなく、外に出ることに意義を見いだせなかっただけなんだと。外に出て何かをするという発想がなかった。だから意義を、目的を見つけた人、例えば商人になりたいとか冒険者になりたいとか、そういう人だけが出ていたんだろう。
「いきなり大人数で行っても寝泊まりする場所がありませんので、三日後にまた来ます。その時に町の広場にでも集まってください。しばらく泊まる場所と食事は用意しますが、長期でということであれば領民と同じく生活費は必要になりますので多少の準備はしておいてください」
「了解した。私は立場上行けないが、みんなを頼むよ」
「大丈夫です。人が来るのは慣れていますので」
さて、何人来るか分からないけど、さっきいたのが一五人だったから、三〇人……いや、六〇人くらいは見ておこう。それ以上増えたら異空間に用意するしかないかも。
とりあえずユーヴィ市内にある宿屋のチェックをしておく。客を連れてくると言って糠喜びをさせるのも問題だから、ここのところ宿泊者は増えているかどうか、空きに余裕はあるか、などと聞いておく。大丈夫そう。もし多すぎるなら寝泊まりだけ他の町にしてもらってもいいかも。
◆ ◆ ◆
「それで、これが全員ですか?」
「そうだな。行きたいと言ったのはこれだけということだ」
あれから三日経ってサニティに迎えに行くと、広場にはアイヴァンさんが社会見学の引率の先生のように待っていた。
多いよ?
「かなりいますね。大丈夫ですか?」
「町の運営という意味なら問題ない。むしろ多すぎては迷惑がかかるかと思ったくらいだ」
「まあ何とかなるくらいですね」
うーん、ざっくりと一〇〇〇人くらい。エルフが多いけどとワーフと妖精もいるね。[地図]を使って数えようとしたけど、集まりすぎると分からなくなる。[エルフ✕五六七〇][ドワーフ✕六一五][妖精✕一二七九]と出るから。[地図]は近くにいる人たちも入れてしまうから全然正確じゃない。そもそも人を数えるためのスキルじゃないから仕方がないね。
もしこの数字が正しいとすれば、サニティの人口は七五〇〇人強。一三パーセントくらいを連れていくことになるけど大丈夫? 普通なら町の人口がいきなり一割以上減ったら大問題になる。
「ではこの異空間に入ってもらいますね」
「転移ドアではないのか?」
「今回は新しいシステムを試そうと思いまして」
「なるほど、先進性か」
「そこまで新しくはないですけどね」
異空間を通って向こうに行ってもらうことにしたのは、移動のために専用の異空間を活用できないかと思ったからだった。例えばサランたちがユーヴィ市と異空間と殿下の離宮を移動していたのと同じ感じ。
一つ問題があるとすれば、外から異空間に入るのは簡単だけど、中から外へ出るのは難しい。だからあらかじめ出口を用意しておく必要がある。
それとおまけにもう一つ。もし僕が死ねば異空間は全て消えるから、その時そこにあるものがどうなるか分からないってこと。
◆ ◆ ◆
「「「「おおーっ」」」」
通路異空間(仮称)を抜けてユーヴィ市の広場に出た。みんなが一斉に声を上げたから、近くにいた人たちが驚いてこっちを見た。
「今日は客人を連れてきました。しばらく滞在しますので、仲良くしてください」
僕がそう言うと、「ああ、また領主様が移住者を連れてきたんだな」という顔をされる。間違いではないけど、驚かれなさ過ぎな気がする。
「閣下、ではここからは私たちが案内を引き継ぎます」
そこにはジェナと魔道具職人ギルドのユディタ、土木ギルドのゴルジェイさん、他にシュチェパーンカ、オフェリア、レンカの服飾ギルド三人娘がいた。
「頼むよ。ジェナがいればアイヴァンさんも話がしやすいだろうからね」
「さすがに年数が違いますので。一応分散して順番に回ります。閣下は宿泊場所の確保をお願いします」
「その間にやっておくよ」
ジェナたちがサニティからのお試し移住者たちにユーヴィ市の案内をしている間に、僕は僕で宿泊場所を用意しなければならない。今回はそこまで準備をしていなかったからどうするか。やっぱり異空間? それだとお金が落ちないからできれば宿屋に泊まってほしい。
もちろん彼らにいきなりお金を払えとは言わない。宿屋には僕からお金を渡すことになる。でもそもそも一〇〇〇人も泊まれるかな?
《サラン、みんなと連絡を取って、領内の宿屋にどれだけ空き部屋があるかを確認してくれる?》
《了解であります》
こういう時のサラン頼み。僕が[転移]を使って聞いて回ってもいいけど、どうしても時間がかかってしまう。それなら六〇〇〇匹以上いるサランに頼んだ方が圧倒的に早い。
《閣下、建設が終わったセルヴァ町、ムスターナ町、クツナ町、マリーナ町まで含めれば宿泊は可能だということです。宿屋の方で食事も可能です》
《それなら僕の名前で一〇〇〇人分押さえて。それぞれの宿屋には僕の方からまた連絡するから。それと宿屋の一覧もお願い》
《了解であります》
ふう。宿屋なら……お詫びのレシピでも渡そうかな。
「閣下、とりあえず総合ギルド、職業訓練学校、それと農場や生け簀、牧場などを回りました」
「ありがとう。けっこう回ってくれたね」
「いえ。ただ一つだけ残念なお知らせがあります」
「それは?」
「シュチェパーンカさんからは閣下とのデートを約束させられました」
「まあいきなり無理を言ったから仕方ないか……」
《侵入者⁉ 分かった。すぐに行く》
サランから魔物たちの暮らす集落に人が入ってきたと連絡が入った。慌てて駆けつけると、そこにいたのは思いもよらない人たちだった。
◆ ◆ ◆
「いや、誠にすまない」
「まあ、問題でないならいいんですけど。来たいなら最初にそう言ってもらえたら用意したんですけど」
まさかのアランさんたち長老衆とその他若いエルフたちがコボルドたちとお茶をしていた。一体何やってるの? あ、お茶か。
「それで、結局何が原因でこうなったんですか?」
「それがな、先日私が魔物たちの暮らす集落をドア越しに見せてもらったと言ったら、それを聞いた者たちが興味を示してな」
アイヴァンさんが経緯を説明してくれた。
ジェナの森の中にあるサニティは、エルフやドワーフ、妖精たち、いわゆる長命種が中心になっている。みんな寿命が長く、その上この町から外には出ないという引きこもりが多い。
森から出たくないと言っている人が圧倒的に多いけど、森を出てみたいと考えている人も実はある程度の人数がいたらしい。でも外に出るのは怖いとこれまではみんなが思っていた。広大な森の真ん中に作られた町で、その森には魔物がいるからね。
そこに先日僕が訪問して長老たちに説明した。魔物たちには知恵があって言葉を理解する。彼らはみなさんとコミュニケーションを取りたがっている。でもそのための手段がないだけだと。彼らはけっして危険ではない。だから彼らを別の場所に移したい。そう言って転移ドアを置いた。
どうもそれがそれが引き金になったらしい。サニティでは、魔物とは何か、そもそも危険なのか、危険でないなら一体どのような存在なのか、などという話し合いをするようになったらしい。さらに、魔物が恐ろしい存在でないのなら森に出るのも危なくないのではないかと。
そうなると今度はこれまで引きこもっていた反動からか、自分たちから魔物たちと接触してみるのはどうかという意見が出た。さらに、彼らと接触してみたい、彼らと接触してみよう、ダメなら前と同じでいいじゃないか、というようにどんどん意見が出た。
なんとなく方向性が定まった。それが勢いに任せただけのものだとしても、サニティにとってはこれまでにない変化だった。ではどうやって接触するか。今度はその話し合いになった。
頭のいい魔物たちは言葉が理解できる。それならば城壁の上から声をかけてみれば分かるだろう。あのケネス殿は、声をかけて反応があれば転移ドアの方へ行くように伝えてほしい、そう言っていた。それなら声をかけて反応が問題なさそうなら近づいてみよう。そんなことになっていたらしい。
そして運命の時……というのはアイヴァンさんの言葉だけど、たまたま数名のコボルドが現れたので城壁の上から声をかけた。そのコボルドたちは彼らの声を聞いて頷いたりしたらしい。だから彼らに言った。「そのドアの向こうにコボルドたちがいるから一緒に行かないか」と。
「そうやって彼らに話しかけて、それで一緒に入った訳だ」
「そうしたらお茶を出してくれて、まあこうやって話をしていたところで」
「すみません。義兄さんに迷惑をかけてしまいました」
ジェナの弟のクライドもいた。どうも学者肌のようなので興味が勝ったんだろう。何もなかったからいいんだけどね。
安全対策として、転移ドアは魔物が通って五秒ほどすればその機能を止めるようになっていると説明したけど、魔物と一緒に入れば問題ないだろうと考えたらしい。
僕としては、例えば魔物を捕まえて一緒に入ることはできなくはないけど、実際にそこまでして入ろうとする人はいないだろうと思っていた。魔物を避けていた人たちだからね。まさか魔物たちに声をかけて仲良く一緒にドアを通る人がいるとは思わなかった。僕の考えが甘かったんだろうか。
「我々の寿命は長い。だからこそ次第に無感動になる。どれだけ生きていてもサニティでは変化というものがない。それがここでは普通だったが、魔物が仲間になり得るという、これまでの考えを根底からひっくり返すような話が出たので、大きく考えを変えた者が出たようだ」
そう説明してくれたのはアランさんだった。
「僕としては、みなさんが魔物たちと仲良くするのもいいですが、もう少し外へ出てみたらどうかと思うのですが」
「外へ出たいと考えている者は多いようだ。だがいきなり知らない場所に出るのは腰が引ける者がいるだろうから、ケネス殿の領地はどうだろうか?」
「ユーヴィ市ですか。もちろん構いません。帰りたくなったらいつでも帰れるようにしますので、一度試しに行ってみますか?」
そう言った瞬間、目の前にいたみんなの顔が変わった。おもちゃを与えられた小さな子供のようと言えば分かりやすいだろうか。
彼らの顔を見てようやく分かった。ここの人たちは町を出ないと自分たちで言っていた。でも決して外に出たくないわけじゃなく、外に出ることに意義を見いだせなかっただけなんだと。外に出て何かをするという発想がなかった。だから意義を、目的を見つけた人、例えば商人になりたいとか冒険者になりたいとか、そういう人だけが出ていたんだろう。
「いきなり大人数で行っても寝泊まりする場所がありませんので、三日後にまた来ます。その時に町の広場にでも集まってください。しばらく泊まる場所と食事は用意しますが、長期でということであれば領民と同じく生活費は必要になりますので多少の準備はしておいてください」
「了解した。私は立場上行けないが、みんなを頼むよ」
「大丈夫です。人が来るのは慣れていますので」
さて、何人来るか分からないけど、さっきいたのが一五人だったから、三〇人……いや、六〇人くらいは見ておこう。それ以上増えたら異空間に用意するしかないかも。
とりあえずユーヴィ市内にある宿屋のチェックをしておく。客を連れてくると言って糠喜びをさせるのも問題だから、ここのところ宿泊者は増えているかどうか、空きに余裕はあるか、などと聞いておく。大丈夫そう。もし多すぎるなら寝泊まりだけ他の町にしてもらってもいいかも。
◆ ◆ ◆
「それで、これが全員ですか?」
「そうだな。行きたいと言ったのはこれだけということだ」
あれから三日経ってサニティに迎えに行くと、広場にはアイヴァンさんが社会見学の引率の先生のように待っていた。
多いよ?
「かなりいますね。大丈夫ですか?」
「町の運営という意味なら問題ない。むしろ多すぎては迷惑がかかるかと思ったくらいだ」
「まあ何とかなるくらいですね」
うーん、ざっくりと一〇〇〇人くらい。エルフが多いけどとワーフと妖精もいるね。[地図]を使って数えようとしたけど、集まりすぎると分からなくなる。[エルフ✕五六七〇][ドワーフ✕六一五][妖精✕一二七九]と出るから。[地図]は近くにいる人たちも入れてしまうから全然正確じゃない。そもそも人を数えるためのスキルじゃないから仕方がないね。
もしこの数字が正しいとすれば、サニティの人口は七五〇〇人強。一三パーセントくらいを連れていくことになるけど大丈夫? 普通なら町の人口がいきなり一割以上減ったら大問題になる。
「ではこの異空間に入ってもらいますね」
「転移ドアではないのか?」
「今回は新しいシステムを試そうと思いまして」
「なるほど、先進性か」
「そこまで新しくはないですけどね」
異空間を通って向こうに行ってもらうことにしたのは、移動のために専用の異空間を活用できないかと思ったからだった。例えばサランたちがユーヴィ市と異空間と殿下の離宮を移動していたのと同じ感じ。
一つ問題があるとすれば、外から異空間に入るのは簡単だけど、中から外へ出るのは難しい。だからあらかじめ出口を用意しておく必要がある。
それとおまけにもう一つ。もし僕が死ねば異空間は全て消えるから、その時そこにあるものがどうなるか分からないってこと。
◆ ◆ ◆
「「「「おおーっ」」」」
通路異空間(仮称)を抜けてユーヴィ市の広場に出た。みんなが一斉に声を上げたから、近くにいた人たちが驚いてこっちを見た。
「今日は客人を連れてきました。しばらく滞在しますので、仲良くしてください」
僕がそう言うと、「ああ、また領主様が移住者を連れてきたんだな」という顔をされる。間違いではないけど、驚かれなさ過ぎな気がする。
「閣下、ではここからは私たちが案内を引き継ぎます」
そこにはジェナと魔道具職人ギルドのユディタ、土木ギルドのゴルジェイさん、他にシュチェパーンカ、オフェリア、レンカの服飾ギルド三人娘がいた。
「頼むよ。ジェナがいればアイヴァンさんも話がしやすいだろうからね」
「さすがに年数が違いますので。一応分散して順番に回ります。閣下は宿泊場所の確保をお願いします」
「その間にやっておくよ」
ジェナたちがサニティからのお試し移住者たちにユーヴィ市の案内をしている間に、僕は僕で宿泊場所を用意しなければならない。今回はそこまで準備をしていなかったからどうするか。やっぱり異空間? それだとお金が落ちないからできれば宿屋に泊まってほしい。
もちろん彼らにいきなりお金を払えとは言わない。宿屋には僕からお金を渡すことになる。でもそもそも一〇〇〇人も泊まれるかな?
《サラン、みんなと連絡を取って、領内の宿屋にどれだけ空き部屋があるかを確認してくれる?》
《了解であります》
こういう時のサラン頼み。僕が[転移]を使って聞いて回ってもいいけど、どうしても時間がかかってしまう。それなら六〇〇〇匹以上いるサランに頼んだ方が圧倒的に早い。
《閣下、建設が終わったセルヴァ町、ムスターナ町、クツナ町、マリーナ町まで含めれば宿泊は可能だということです。宿屋の方で食事も可能です》
《それなら僕の名前で一〇〇〇人分押さえて。それぞれの宿屋には僕の方からまた連絡するから。それと宿屋の一覧もお願い》
《了解であります》
ふう。宿屋なら……お詫びのレシピでも渡そうかな。
「閣下、とりあえず総合ギルド、職業訓練学校、それと農場や生け簀、牧場などを回りました」
「ありがとう。けっこう回ってくれたね」
「いえ。ただ一つだけ残念なお知らせがあります」
「それは?」
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「まあいきなり無理を言ったから仕方ないか……」
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