新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第三部

新しい町

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「はーい、こちらでーす」
「住居の振り分けを行いまーす」

 ユーヴィ市と旧キヴィオ市の間に新しくできたセルヴァ町でギルド職員たちが住民の受け入れを行っている。

 住民は主に王都で募集した。そこに以前から街道工事なので来ていた労働者たちも加わっている。労働者たちの中でも、特に亜人と呼ばれる種族であるミノタウロス、ケンタウロス、ハーピー、ラミアたちが中心になっている。

 王都は人も多いし仕事を探している人も多い。もちろん根こそぎ連れてくることはしない。あくまで一〇〇人単位。

 それ以外にも、開拓の仕事で来ていた労働者の中にも新しくできる町への移住を希望する人がいた。理由は家の広さの関係。

 ユーヴィ市でも家にはちょっとした庭くらいはあるけど、集合住宅が増えている。前からの住んでいた人は改築し、新しく来た人は集合住宅が多い。

 特にドワーフで独身の人たちは、最初の街道工事の際に作ったカプセルホテルのような建物で暮らしている。そこまで住み心地は良くないと思うけど、あの狭さがいいらしい。

 そんなところに先ほどの四つの種族が引っ越してきた。

 彼らは体格が僕たちとは違うから、昔からある家では生活が難しい。順次改装や建て替えを行っているけど、全ての建物を彼らに合わせて大きくするわけにもいかない。でも新しい町は最初からそれを考えている。玄関は広く、天井は高い。

 一つ問題があるとすれば、四つの町は森を切り拓いた場所に作ったので農地はまだない。だから少しずつ広げないといけない。そのためにも木を切り倒す必要があるし、それから耕す必要もある。

 そもそもこの国では町は城壁に囲まれているのが当たり前で、それは新しく作った町でも同じ。つまり森の中に作る農地も城壁で囲むことになる。まだ魔獣が出るからね。

 対策としては、大森林の魔獣を減らすために魔素を吸い出すのと同じことを町の周辺でも行うことになった。もちろん魔素吸引丸太を転がすわけじゃない。森の中に丸太と同じ機能を持った杭を打ち込み、そこから吸収させる。

 元々が大森林ほど魔素は濃くないから、すぐに町中と同じレベルまで下がる。魔素を減らしすぎるとそれはそれで魔法の効きが悪くなるから、ユーヴィ市と同じくらいになるように設定している。

 こうすることで魔獣による被害はかなり減るとは言っても、さすがに山の中にある町だから安心はできない。畑を耕していてホーンラビットが飛び込んできたら大変なことになる。

 そのような理由もあって、森の中に城壁で囲まれた森があるという、なかなか謎な場所が完成した。単に僕が森の一部を壁で囲っただけなんだけど。その中の木を切り倒して農地にしてもらおうという考え。

 農地を作る作業は移住した人たちに任せることになっている。しばらくの間はそれを仕事にしてもらうことになるだろう。

「四町で偏りはなさそう?」
「種族によって偏りはありますが、人数的には問題なさそうです」
「それならよかった」
「ラミアでセルヴァ町を希望する人は少ないですね。やはり人通りがそれなりに多くなりそうなので、他の町を希望した人が多いようです」
「王都ほど多くはないと思うけどね」
「それでも以前と比べれば人通りは天と地くらい違います」

 以前は本当に人が来なかったからね。キヴィオ市までは辛うじて商人が来ていたけど、ユーヴィ市まではなかなか来なかった。キヴィオ子爵の甥たちが余計なことをしていたというのが一番の理由だけど、それでもここまで来る商人は少なかった。

 誰だって旨味がなければ来てくれない。いくら頼まれたところで損をするだけなら避けるだろう。商売は慈善活動じゃないから。

 当時キヴィオ市からユーヴィ市を通ってナルヴァ村まで商人が来ていたのは、キヴィオ子爵が商人にお金を払ってナルヴァ村まで販売を頼んでいたから。そうでなければナルヴァ村は物がなかった。

 僕が初めてナルヴァ村に行った時、商人の到着が遅れていたのでエーギルさんの宿屋は食材にあまり余裕がなかった。僕が香辛料などを融通したくらいだから。

 ここしばらく突貫工事で町が建設されていた。特にこれらの町へ移住を希望していた人たちは、自分たちが暮らす町だということもあって張り切っていた。よほど偏りがない限りは基本的に希望を聞き入れるようにしていたから。

「しかし領主様、この町は不思議な場所になっていますね」
「これも多様性ってやつかな」

 あのあたりにはハーピーたちの家が集まっている。別に無理やり集めたのではなくて、このあたりに集めてほしいと言われたからそうしたそうだ。

 彼女たちは腕が鳥の羽になっている。だから基本的には空を飛んで移動する。当然だけど低い場所は飛びにくい。地面から一メートルの場所をずってと飛ぶのは至難の業になるそうだ。

 羽ばたく必要はなくて[飛行]というスキルを使うわけなんだけど、それも羽を広げないと無理。羽を伸ばせば人の手よりも長いから人混みは避けたい。そうなると移動は高い場所の方が好ましい。

 それなら家に入るのは一階ではなく二階からの方が楽だということで、二階には離着陸の場所と玄関がある。もちろんハーピー以外の来客もあるから、一階にも玄関がある。



 ラミアは下半身が蛇になっている。段差があっても坂があっても問題なく移動できるけど、どうしても土埃を家に持ち込みやすいから玄関に下半身を拭く場所がある。だから玄関が広い。

 そして彼女たちの家は天井が高い。蛇の下半身で体を持ち上げることができるから、天井まで軽々と手が届く。だから二階建ての家でも高さは三階建てくらいの高さになっている。

 それの何が便利かと言えば、収納場所が高いところにあっても手が届くこと。脚立や梯子を使わなくても自前の下半身で事足りる。図書館司書が向いてそうだと僕は思った。

 実際に彼女たちは一階から二階に物を渡したりとか、高い場所を掃除したりとか、高さを活かした仕事が向いているようだ。でも町中では長い下半身が邪魔になることも多いらしい。



 ケンタウロスは後ろを向くためだけでもある程度の広さが必要だから、家の廊下は広くて天井も高い。さらに部屋も広い。でもドアが大きくなりすぎて邪魔に感じるから、ドアは引き戸が好まれている。また体格的にベッドでは寝ないから、その代わりに床に柔らかい毛布などを敷いてそれをベッド代わりにするそうだ。



 ミノタウロスは背が高くて大きな角があるからドアが大きく天井も高くなっているけど、それ以外は人間とそれほど変わらない。家具は全般的には大きめかな。



 普通ならこれらの種族がやって来るにしても人数的には少しずつのはず。戦争などでその土地を終われない限りは。だからどうしてもこれまでにある家に無理やり自分を合わせるしかなかったので、新しくできる町なら最初から自分たちに合う様式を取り入れたいということだった。

 僕としても多様性があってもいいと思うのでもちろん許可を出して、それでこのような町になった。

 さて、このハーピーたちだけど、主に運送業をしてもらうことになった。今のところはユーヴィ男爵領内がほとんどで、たまに旧キヴィオ市と新キヴィオ市にも行くことがあるんだけど、もし可能ならもっと広げたいと思っている。でも問題は彼女たちの体力。

 カゴのような取っ手のある箱に荷物を入れ、その取っ手を足で掴んで空を飛ぶことになる。箱そのものがマジックバッグになっているので、重さもさほど気にならず、中身も悪くならない。

 でも単に空を飛ぶだけなら前傾姿勢で鳥のように飛べばいいけど、足で荷物を持つと腰が曲がってお辞儀をするような姿勢で飛ぶことになるんだよね。そうするとある程度は無理な体勢を続けることになって負担も大きくなる。

 そのあたり、体力を補う魔道具を持ってもらったり肉体回復薬ヒールポーションを持たせたりということも考えているけど、酷使になるんじゃないかと気になっている。

「言い方は悪いですが、これだけ便利なのに、どうしてハーピーに運んでもらうことをしていなかったのでしょう?」
「そうだねえ。考えられる一つは、彼女たちが亜人という扱いだということかな」
「亜人に大事なものを任せられないということですね?」
「そうだと思う。明らかな差別はないけど、それでも多少はあるからね。特に貴族には」

 フェリン王国で人と見なされているのは人間、エルフ、ドワーフ、妖精フェアリー。仕事を見つけるにも家を探すにも、多少の差別はある。違いはないんだけどね。

 人の中でも、エルフと妖精は魔法が得意だから人間よりもやや上に見られている。ドワーフはどちらかと言えば下に見られやすいかな。でも酒好きには崇められている。獣人は人間とほぼ同じ。数は少ないけど貴族もいる。顔を知っているのはマイカの実家くらいだね。

「他にはどのような理由がありそうですか?」
「空を飛ぶことのメリットが分かっていなかったんだろうね。地上は山もあれば川もある。雨が降ればぬかるむし、盗賊だって現れる。でも空を飛べば障害物はないからね。鳥に襲われない限りは」
「領主様と違って普通の人間は飛べないですから、それに気づきませんよ」
「だろうね」
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