新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第二部

新たな誕生

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 毎日クルディ王国にいる訳じゃない。ユーヴィ市に戻って屋敷で仕事をすることもあればギルドへ出かけることもある。

 そして屋敷にいたある日、カローラとセラがそろそろのようだと伝えられた。それから屋敷は臨戦体制に入った。前回はエリーとマノンが二人で五人産んだから、屋敷の中が大騒ぎになった。

 そして今回、万が一に備えてヴァウラさんも来てくれた。

「ヴァウラさん、わざわざすみません」
「いえいえ、お気になさらず。私にも関係あるかもしれませんので(ちらっ)」

 どうも僕に向ける視線がおかしなことがある。僕は何もしたことはない。マイカがお世話になった。それは間違いない。カローラがこっちに来てからは食材や少女漫画の買い出しをしてくれていた。でもそれだけのはずなんだよね。

 これまで何度も顔を合わしているけど、僕には直接何かをした記憶はない。寝ている間に何かした? いや、正直に何かをしたのなら言ってくれればいいんだけど。「ヴァウラさんに何かしましたか?」って聞くこともできるけど、それだと僕が何かしたけど酔って覚えていなかったみたいな聞き方になるから正直なところ聞きにくい。

 とりあえず今回も二人の出産がほぼ同じ時期になった。妊娠したのは同じ日になるんだけど、出産まで同じになるのがよく分からない。そういうものだと思えばいいんだけど、何かの力が働いてそう。



 ぎゃー
  ふぎゃっ、ふぎゃっ
   うぎゃー



 三つ聞こえた? どっちかが双子? もしくはどっちかが三つ子を生んでもう一人がまだ?

 どっちだろうと思っていると、ドアが開いて助産師のテクラとティネケが部屋から出てきた。

「旦那様、カローラ様は女の子、セラ様は男の子と女の子の双子です」
「三人とも元気ですよ」

 二人が状況を教えてくれた。

「ありがとう。みんなもお疲れ様」
「いえ、疲れるほどのことはありませんでした」
「私たちよりも奥様たちを労ってあげてください」
「そうだね。それじゃ中に入ろうか」



◆ ◆ ◆



 部屋に入るとすでに産湯を使った三人が母親の横に寝かされていた。

「ご主人様、無事に生まれました」
「体が軽くなったはずなのに重いですよ?」
「二人とも、ありがとう」

 二人には[回復]をかけておく。セラはこんなに小柄なのに双子だったんだから大変だっただろう。

「ご主人様、私は大丈夫ですが、セラさんは大変だったと思います」
「お腹がへっこんで不思議な気がします」
「この二人入ってたんだからね」

 寝かされている赤ん坊たちを見る。三人とも耳が少し尖っている。おそらくエルフとドワーフだろう。

「やっぱりドワーフです?」
「ええっと、ちょっと待ってね」

 三人のステータスを並べるようにして表示する。



【名前:[(未定)]】
【種族:[ハイエルフ?]】
【特徴:[ケネスとカローラの娘]】

【名前:[(未定)]】
【種族:[ハイドワーフ?]】
【特徴:[ケネスとセラフィマの息子]】

【名前:[(未定)]】
【種族:[ハイドワーフ?]】
【特徴:[ケネスとセラフィマの娘]】



 また見たことのない種族がある。名前から想像できるけど。

「何となくそうなるかなと思っていたけど、カローラの方は[ハイエルフ?]で、セラの方は[ハイドワーフ?]だね」
「ご主人様との間の子供なら『ハイ』が付くわけでもないですから、何かあるのでしょう」
「クリスは[栗鼠人?/エルフ?(ハーフ?)]ですからね」

 リゼッタがクリスをあやしながら赤ん坊を見ている。

「そもそもハイドワーフって種族は聞いたことがないんだけど。カローラは知ってる? 名前からするとドワーフの高位種族だと思うけど」
「はい、そのままですね。ドワーフの高位種族です。精霊、あるいは妖精だった頃のドワーフに近い種族ですね」

 エルフ、ドワーフ、妖精フェアリーなどは妖精種と呼ばれる。それぞれ妖精の一種だったからだ。元は木や土や風の精霊として精霊界と呼ばれる場所にいたのが、地上に姿を現すようになるうちに妖精として扱われ、いつの間にか完全な実体を持って地上で暮らす存在になった。

 精霊は人の目には見えない、文字通り霊的な存在。それが地上世界に常に存在するようになると妖精になる。例えばレジスは水の精霊だけど、あまり地上に長くいると精霊界に戻れなくなる可能性もあるらしい。徐々に力を失って水の妖精になる。本人は気にしないと思うけど。

 ハイエルフは精霊時代の力を残している高位の存在ということになる。簡単に言えば魔力は普通のエルフよりも多く、寿命も長い。ハイドワーフはそのドワーフ版になる。

「それならハイフェアリーとかもいるってこと?」
「いますよ。カロリッタさんは少し特殊ですからどうなるか分かりませんが」

 ややこしいけど、妖精種と言う時の妖精と、種族を表す妖精フェアリーは別物。言葉は同じなんだけど。人と言って人間だけを表すのか人全体を表すのかの違いと同じ。

「それでそれで、名前は決めてるの?」
「本当に子供が好きだよね」
「いいじゃない。可愛いんだから」

 マリーがこれまでと同じように赤ん坊の手を触っている。

「私は男女どちらになってもいいようにいくつかずつ決めています」
「私も同じです。次も双子になっても問題ないですよ?」
「そんなに慌てなくても大丈夫だって」



 二人とも名前の候補は決めていたようなのですんなりと決まった。

 カローラの娘はセシリア Cecilia、セラの息子はコルネイ Kornei、娘はソフィヤ Sofiyaと名付けられた。

「それにしても双子が多くない?」

 リゼッタは一人だけど、エリーは三つ子、マノンは双子、カローラは一人でセラが双子。五人中三人が双子以上って、率としては高いと思う。

「おそらくご主人様の力でしょう」
「双子が増えるの?」
「あくまで可能性の話ですが。親のステータスの一部は子供に引き継がれます。普通ならわずかですが、ご主人様の場合はベースとなる数値が数値ですので」
「まあね」

 ステータスの数字は表示限界を超えて大半が文字化けしてるからね。

 スキルは子供に引き継がれないけど、ステータスの一部は多少は引き継がれる。これは前に教わったこと。そして僕の場合はそもそも数字がおかしいから、引き継いだ子供もステータスがやや異常になる。クリスの場合はとりあえず頑丈になりそう。

「ご主人様の場合、ご本人がものすごいことも関係しますが、単純な話、子種の段階ですでに数値が異常なわけです」
「何か話がおかしくない?」

 子種、つまり精子の段階で色々とおかしいと。

「何億もある精子の一つだけが卵子に到達するというのが普通です。ですがご主人様の場合はその精子が異常なほどに力を持っていますので、軽々と二つや三つは到達するのかと。場合によっては五つくらいはありそうですね」
「リゼッタとカローラは一人だったけど?」
「私もリゼッタさんも、ご主人様に近い存在ですから、卵子も強いはずです。これも推測ですが」

 えーと、ちょっと待って。精子が強すぎて双子や三つ子が普通になるけど、卵子が強すぎるリゼッタとカローラの場合は打ち消し合って普通になったと。

「それならカロリッタとマリアンは一人になりそうかな?」
「おそらくそうなると思います。ヴァウラも一人だと思いますよ」
「ちょっと待って。ヴァウラさんとは何もないはずだけど」

 いや、本当に記憶がない。何かあったの? あったなら教えてくれた方が気が楽なんだけど。

「ヴァウラ、どうしますか?」
「言ってもよろしいのでしょうか?」
「ご主人様が言ってもいいと。大丈夫でしょう」

 本当に何があったの?

「ではケネス様、これまでに何があったか説明させていただいてよろしいでしょうか?」
「いいよ。そもそもそこまでかしこまること?」
「はい、役職的には私の方が上ではありますが、ケネス様は私よりも遙かに上にいらっしゃいますので」
「それで何があったの?」
「ではご説明いたします」
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