新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第四章 第三部

カヴァーダ市と豚と元部下

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 カヴァーダ市が見えてきた。このあたりは王都クルドゥスがかなり近づいてきたから町の規模も大きい。近いとは言っても歩けば二〇日、およそ八〇〇キロある。そして運河沿いに歩くのはそれほど面白くない。景色が変わらないからね。歩くとすればもう少し町から離れて自然が多いところになるかな。

「かなり大きな町だね」
「王都に近づけば近づくだけ大きくなりますね」
「ふーん。それに牧場らしきものもあるし、このあたりも牧畜が有名なのかな?」

 どうやら柵のようなものがあって、そこにどうも牛やら馬やらがいるようだ。その向こうに見えるピンク色の生き物は、まさか!



◆ ◆ ◆



「豚がいる……」
「ここは農場ですので」
「!」

 ツッコミを入れたのは誰?

「私はここの農場主をしているレクスと申します」
「これはどうも。ユーヴィ男爵のケネスと言います。こちらはジェナ。豚が欲しくてフェリン王国からここまでやって来まして」
「おお、そうでしたか。立ち話も何ですので、こちらへどうぞ」

 手短に事情を説明すると、商談は中でという話になった。

「閣下、申し訳ありません。以前はこのあたりには農場はなかったものですから」
「いいよいいよ、豚が見つかったのなら問題ないから」

 王都に近い町には農場があるので家畜が多いと聞いていたけど、思ったよりも早く見つかった。ジェナは王都からレンダ市の間に農場があると思っていたらしい。彼女がかつて冒険者や魔道具の職人として働いていた時はそうだったんだろう。

 王都から離れることで規模をより大きくしようとして農場がいくつも引っ越したらしい。今ではカヴァーダ市と王都のちょうど間にあるレンダ市が一番養豚が盛んで、そこからさらに広がってカヴァーダ市あたりでも育てられている。

「私はフェリン王国では男爵位を頂いています。領地で食肉の一つとして豚を育てたいのですが、それについては問題ありませんか?」
「もちろんです。この農場のすぐ横でということであれば私としても気になりますが、地峡を挟んで向こう側では影響も何もないでしょう」
「国として制限をしているということもありませんか?」

 向こうで育てたいから、それなりの数は買うよ。

「聞いたことがありません。そもそも庶民が口に入れる肉をどうするかという話になり、それで別の大陸から連れてきたという話です。お買い上げいただくのは問題ありません。問題はどのように運ぶかですが……」
「運ぶのは異空間に入れますので問題ありません」
「なるほど。手段をお持ちでしたか。ではこちらへどうぞ」

 どの豚でも問題なさそうなので、大人の雌雄を四頭ずつ、子豚を雌雄四頭ずつ連れていくことにした。

「こちらが紹介状になります。弟の方もよろしくお願いします」
「こちらこそお世話になりました」

 ここだけで買いすぎると他の顧客に迷惑がかかるので、他の農場を紹介してもらった。その中には弟さんが経営している農場もあるので、まずはそこに行って、それから他の農場も順番に寄ってみようと思う。最初にある程度いた方が増やしやすいのは当然だから。

「やはり閣下は食材を前にしている時が一番生き生きしていますね」
「うーん、元々料理は好きだけど、こっちに来てからさらに得意になったからね。作った料理を美味しく食べてもらえれば嬉しいでしょ?」
「それは魔道具でも同じですね」
「そうそう。頑張って作ったものが正当に評価されるのが一番で、苦労しても全く報われないのが一番つらいんだよ」

 頑張れば結果が出るとは限らない。例えばスポーツ。生まれ持った才能というものがあるし、性格や体格も影響する。だから頑張れば成功するとは限らない。

 特にプロスポーツは結果が全てになる。高い年俸をもらって結果が出なければ叩かれることは多い。でも競技に向き合う姿勢は大切で、なかなか結果が出ないけどひたむきに努力をしている選手に対しては温かい声援が送られることが多い。

「はい。それはユーヴィ市に来て、アニエッタたちが評価をされているのを見て、特にそう思いました」
「王都でも評価はされていたでしょ?」
「それはそうなのですが、あの頃は作ったものが市井しせいにまでは行き届いていませんでしたので」
「うちがおかしいだけなんだけかもしれないけどね」

 ユーヴィ男爵領は市民生活の向上のために領内の公共施設や住宅、商店などに魔道具を普及させている。魔力を気にしなくてもいいというのが一番大きい。魔道具だけ渡してもどうしようもないから。山の中にテレビを持っていっても電源がなければ意味がない。魔道具も魔力があってこそ。

 魔石を使わなくてもいい魔道具ならどこへ持っていっても問題ないけど、サイズ的に運搬が大変なものが多い。マジックバッグに入れて運べなくはないけど、そのマジックバッグも高い。便利な生活をしようと思うとお金がかかってしようがないのがこの世界だった。

「今日のところはそろそろ戻ろうか」
「分かりました」



◆ ◆ ◆



 そんなこんなで、ユーヴィ市の牧場で豚を飼い始めた。それについては特に何もないから、その話は飛ばそう。

「いるかな?」

 新キヴィオ市のギルドに来ている。役人たちもここに部屋があるので、今日はカヴァーダ市で買った手土産を持って元部下の様子を見にきた。



 コンコン

「どうぞ」

 ドアをノックしたら声があったので部屋に入る。

「あ、ケネス様。お久しぶりです」
「失礼するね。イイヤマ君、元気?」
「はい……って、え?」

 執務室の中にいたボフミルが目をまん丸にして僕を見た。いきなり呼ばれたらそうなるね。

「頑張っているみたいだからこれをお裾分け。クルディ王国で買った豚肉」
「あ、あの……いつから知ってたんですか?」
「んー、いつだったかな? 旧キヴィオ市に移る前だったかな。最初は気づかなかったけど、あまりドワーフっぽくなかったからね」
「そうでしたか」



◆ ◆ ◆



「俺は以前王都の繁華街で先輩たちを見かけました」
「そうなの?」

 お茶を入れて話をすることにした。これも旧交を温めるってことでいいのかな?

「はい。前を歩いていたカップルが「マイカ」「先輩」と呼び合っていたのが聞こえたので」
「ああ、それでね」
「実はその時までは昔の記憶はなくて、あの瞬間に思い出した感じです」
「おそらく僕かマイカの名前や声を聞くことがトリガーになってたのかもね」
「確かそんなことを管理者が言ってました。我に返った時にはお二人はいなくて、情報を集めてユーヴィ市に」

 時期的にはどうも僕が初めて王都に行った時らしい。あれから僕が領主になって、それで開拓の作業員を集めるのに合わせてこちらに来たそうだ。

「遅くなりましたが、あの時はすみませんでした」
「いなくなった時? 限界だったんでしょ?」
「はい」
「サポートしきれなかった僕たちの責任なんだけどね」

 あの頃はとにかく忙しかった。福利厚生は問題いからブラックではないはずだけど、人が少なすぎた。上に頼んでもなかなか補充してくれなくて、まだ若いイイヤマ君に負担がかかっていた。分かっていて声もかけて無理もしないように気にしていたけど、限界を超えてしまった。

「あれから田舎に帰って田んぼと畑をやってたんですけど、ずっと謝りたくて」
「それはもういいよ。ずっと引きずるものでもないからね。どこかで切らないと」

 反省はしてもいい。むしろしなさい。でも後悔を引きずってはいけない。これは僕も若い頃に教わった。くよくよしていても何もいいことはなくて、むしろ悪い方に悪い方にと考えてしまう。一度失敗しても、もう一度しなければ問題ない。それくらいでないと、失敗を怖がって何もできなくなる。

「ありがとうございます。ところで先輩はいつこっちに?」
「こっちの時間だと、イイヤマ君が僕を見かけた年の二月だと思う。マイカはこっちの生まれだけどね」
「先輩はひょっとして転移ですか?」
「そうそう。イイヤマ君も管理者に会ったと思うけど、僕は管理者のうっかりミス死んでしまってね」
「うっかりミスって……」

 リゼッタだけじゃなくて、結構あるそうなんだよ、そういうミスって。でも普通は自分がそのせいで死んだって気づかないからね。ちょっとオマケしてもらって生まれ変わるらしい。お詫びだそうだ。

「そういうわけでユーヴィ市で領主をすることになったけど、イイヤマ君としては今の仕事は問題ない?」
「全然問題ありません。すごくやりやすい環境です」
「人集めさえ成功すれば、この国は問題ないんだけどね。広すぎてそれが大変だけど」

 簡単に人集めができないのがね。町から町が遠いから。

「あの転移ドアをもっと活用できないんですか?」
「まずは魔力の問題で、開けっぱなしにできないからね。それは何とかできたとしても、領主としてはそれ以上に厄介な問題がある」
「どんなことですか?」
「大都市を転移ドアで繋ぐと、間にある小さな町がスルーされて生活ができなくなる」
「あー、そうでした」

 大都市に設置して移動できるようになるとすると、その間にある小さな町はスルーされてしまう。商売的には大都市の方が儲かるから当然なんだけど。だから僕はギルドの公用馬車を増やして護衛も増やして、陸路で順に回る方法を推し進めている。

「他にはハーピーの航空便やケンタウルスの速達便を考えているけど、それでも今よりはマシかなというくらいだね」
「先輩的には車や飛行機は持ち込みたくなさそうですね」
「やっぱり分かる? 便利になるのはいいけど、やりすぎはね」
燃料箱バッテリーもギリギリだと思いましたけど」
「魔石があるから、あれの巨大版だと思えば大丈夫でしょ」

 同じ元日本人として話が通じやすいのがいい。年齢は彼の方がかなり下だったけど、同じ文化で育ったからね。

「さて、それじゃそろそろ戻るね」
「はい、今日はありがとうございました。無理しない程度に頑張ります」
「そうそう、それが一番。またね」
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