新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
266 / 278
第四章 第三部

エルフたち

しおりを挟む
「そう言えば、ここのところアリソンを見てないけど、大丈夫? 死んでないよね?」

 ジェナの妹であるアリソンは魔獣を狩って自分の実力を示そうとここにやって来た。結局やる気はあるけど実力が伴っていなくて、一度死ぬほど怖い思いをしたから、今はリゼッタに鍛えてもらっているところ。アリソンはリゼッタやジェナとタイプが似ているから。

 RPG風に言えば、リゼッタとジェナは魔法戦士、カロリッタは魔法使い兼スカウト、マリアンとカローラは魔法使い、マノンは格闘家、セラとキラは農夫、エリーは料理人、マイカは王女、フロレスタは木。ちなみに僕は魔王だって。

「妹はリゼッタさんの指導を受けつつ、ムスターナ町とクツナ町を拠点にして魔獣を狩っているようです」
「ああ、あっちの方か。問題なく狩れるようになったのかな?」
「はい。リゼッタさんによると、大森林でも死なない程度になったそうです」
「怪我はしてるんだね」
「先日はバックスネークに噛まれてショックを受けていたようです」

 僕は噛まれたことがないけど、ミロシュ主教は噛まれたことがあるらしいからね。しかも前を。あの蛇はまず巣穴から飛び出してお尻に噛みつこうとするけど、その後はお尻以外も噛もうとするから。

「防具を着けなかったの?」
「防具は甘えだと」
「それで噛まれちゃ意味がないでしょ……」

 アリソンは変なこだわりがあると言ったらいいのか、こうでなければならない、と思い込むことがある。そのあたりをリゼッタに矯正してもらってるんだけど、簡単には直らないか。

「それで北街道の魔獣の駆除か。農地を広げる手伝い?」
「はい。冒険者として依頼を受けつつ、訓練も兼ねているようです」
「まあ冒険者をしたがってたからね」
「そうですね。ちょっとおかしな方向に染まっていますが」
「中二病はね」



◆ ◆ ◆



「冒険者をしたい?」
「はい。義兄にいさんの許可が出ればいいとリゼッタさんに言われました」
「リゼッタ。大丈夫そう?」
「そうですね。熊と猪と鳥はある程度対処ができています。蛇はもう少しですね。大森林以外なら問題ないと思います」
「うん、リゼッタがそう言うなら問題ないよ」
「それで一つお願いがありまして」
「お願いね。いいよ」

 アリソンのお願いとは僕に武器を作ってほしいということだった。僕の身内で正式に冒険者をしていたのはリゼッタとカロリッタとマノンとジェナ。他のみんなも身分証としてギルドカードは作っていたけど、活動はしていない。セラとキラも山の中を歩いただけだからね。

 リゼッタは速度重視の軽戦士タイプ。カロリッタは魔法主体だから武器も防具も使っていなかった。マノンは格闘家だったけど、すでに引退している。ジェナはクルディ王国に行く時には剣を握っていたけど、ユーヴィ市ではほぼ引退状態。お腹に赤ちゃんができているからね。

 ユーヴィ男爵領は他の地域よりも魔獣が多い。森や山に踏み込めば会う時は会う。大森林の魔獣ほど強くはないけど、素人が遭遇すればかなり危険な状態になる。だから兵士を巡回させている。

「それでどんな武器がいいの?」
「何者にも負けない剣をお願いします」
「……何者にも負けない……ね」

 アリソンがどれだけ知ってるのかは分からないけど、名前を付けるとすればアレかアレかアレくらいだろうか。とりあえず鋭くて頑丈で、場合によっては両手でも使えるようにしようか。

 日本刀と違って西洋の剣に近いタイプ。[強化]を何重にもかけて絶対に折れないようにして……。おっと、鞘も用意しないとね。こっちは魔石を埋め込んで[治癒]と[回復]と[解毒]が使えるようにしておこうか。

「どう?」
「……」

 受け取ったアリソンは鞘から剣を抜くとすぐに戻し、それから急に跪いた。

「我が忠誠、全て我が兄に捧げます」
「いらないいらない。怪我をしなければいいよ」

 これは絶対に悦に入っているね。

「それで、名前は何としましょう?」
「付けたい名前を付けたらいいと思うよ。何か思いついた名前はある?」
「それではデュランダルと」
「うん、いい感じだね」

 しっかり中二病だね。別にアリソンを馬鹿にしているわけじゃないよ。ただアリソンを見ていると、若いエルフの行動に方向性があることがよく分かる。アリソンの弟のクライドだって、研究者肌だけど、少々マッドサイエンティストの気があるから。ある意味ではエルフは心の振れ幅が大きいんだよ。



◆ ◆ ◆



 それでクルディ王国のサニティから来たエルフたちだけど、結局大半がそのままユーヴィ男爵領に留まることになった。一か所に固まられると家の問題があるからできればユーヴィ市以外にも住んでほしいと言ったら、以外にもみんながバラバラな場所で暮らすようになった。こだわりはないらしい。

 一部の人は一度サニティに戻ったけど、結局また戻ってきた。友達を連れて。

 どうもユーヴィ男爵領を気に入ったので他の人たちにも教えようと思ったらしく、一人が五人くらい連れて戻ってきた。その際にエルフだけではなく妖精フェアリーやドワーフも来たから、それぞれ好きなことや得意なことをしてもらっている。

 サニティという町はクルディ王国の中でも独特な存在で、クルディ王国の中にはあるけど税を払っているわけではなく、そのために国から守ってもらうこともしない。完全に独立した一つの共同体だった。

 彼らは別に強制されてそこにいたわけではなく、気がついたらそこにずっといただけなので、一度出てみようという人が増えてきた。現在ユーヴィ市の一角とサニティを異空間で繋いでいるので、戻りたい人は戻ればいいし、また来たければ来たらいい、そのようにしている。

 うちの魔道具技術者ギルドは優秀な人が多いので、そこで学んで向こうでその技術を活かしたいという人も出ている。もちろんそうしてもらっても構わない。逆に、ユーヴィ男爵領にいるドワーフたちがサニティに遊びに行くというのもあるようで、酒を通した交流が増えているそうだ。

 でも不要なトラブルは避けるために、今のところその異空間を使って移動できるのはエルフ、ドワーフ、妖精に限定している。勝手に子供たちが向こうに行って何かあれば大変だからね。

 一応例外もありとしているので、僕が許可をすれば問題なしとしている。その中の一人が……

「閉鎖された都市に新しいファッションを持ち込む。これは私にしかできないことです」

 ファッションリーダーのミレナさんだった。

 僕はあれからもたまに服の注文をしているので、ミレナさんのお店には「領主様御用達」の札が下がっている。

「転生者によるやりすぎは問題だからね」
「それは分かっています。とりあえず基本的なところから広めたいと思います」
「基本的って?」
「チェックとかストライプとかアーガイルとか水玉とか」
「確かに、それすらなかったからね」

 ユーヴィ市だろうが王都だろうが、染めた布はあったけど、柄はなかった。柄を生み出すためには糸の段階で染め、それを織る必要がある。それがなぜかなかった。

 貴族は華やかな服を着ることが多い。モーツァルトを派手にしたような格好だね。下は普通の長ズボンだけど。その服も染めた布を使っているので、色としては単純になる。

 ところがユーヴィ男爵領はマリーとマイカとマリアンとエリーのお陰で、かなりデザインのバリエーションが増えた。そこにミレナさんが加わってその勢いが加速された。

「それじゃ、これを持っていたら通れるけど、もしなくしたら戻れないからね」
「はい、分かりました。

 そう言うとミレナさんはサニティに向かった。何もなければいいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...