Jimmelle & Rayman I

あにらむあみにむ

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 計画を立ててからの進捗は著しかった。レイマン自身「構想を立てていた」と言っていたのは事実で、それも本人は漠然としたものとして語っていたが、実際そこには具体性があった。
 構想テーマ、想定規模ごとに構成された展示リスト、デザイン、製図、作り方、素材のイメージ、ものによっては素材サンプルすら。初動に必要な殆どの物が、あらかじめ作り上げられていた。
 あとは広報と、ギャラリーとの諸連絡、現地に行けるスタッフの確認と配置……忙しないが、これも今のところ問題ない。
 ホールで作業する制作スタッフ達の横を通り過ぎ、階段を上ってレイマンの作業部屋をガラス戸越しに覗く。立ったまま作業台で書き物をしている彼女の姿は、完全に制作物と設計、計算に集中が向いている。こちらの存在には全く気付いていないし、心なしか瞬きも少ない。この状態になった彼女には、呼びかけも届かないだろう。
 アーティストとしては美点であると思う。
 だが人としては間違いなく欠点だ。

 「レイマン」
 「うわ、びっくりした」
 ノックした上で部屋の扉を開いて、目の前から一度声をかけたが気付かれなかった。それから肩を触って声をかけるという段階を踏んだのにもかかわらず、突然目の前に現れたかのような反応をされても、納得できないのはこっちの方だ。
 「昨日確認した作り方図なんだが――」「ああ、用意してあるよ」「――あ?」
 それは、昨日の夕方になって新たに必要となったことが分かった、設計図の一部についての話なのだが……今は翌日の昼前だ。
 渡された資料に目を通す。校正こそされてないが殆ど清書に近い出来のそれを見て、ある疑念――ほとんど確信に近い――が過る。眉を顰めざるをえなかった。
 「お前、徹夜したろ」
 「まさか!」
 「寝たの何時だ」
 「…………5、時……だけど、起きたのは8時過ぎだし、睡眠時間は取った」
 「…………」
 作業台を見ると、取り掛かっていたのはまだまだ先に予定していた作業だ。行うべきタスクをさっさと終わらせるために朝まで作業をして、少し寝て、飯も食わずにまた作業をしていたのだろう。進みが早いわけだ。
 「とりあえずお前は食事を取れ。それから一旦寝ろ」
 「わかったよ……」
 渋々といった様子で溜息を吐きながら従うレイの腕を引いて作業部屋を出て、そのまま隣部屋――レイの個室に放り込む。アトリエに常備の軽食を渡し、食べ始めたのを確認してそのままベッドで寝るように言いつけてから、ホールに戻った。
 本当は、スタッフ一人の手に余裕が出来たから設計図の要点を書いたものだけ用意してもらうつもりだったのだが……最早その必要はないので、そのままスタッフへ渡して作業へ取り組ませることにする。
 「うわー、またレイさん無茶してるんだ。ジンメルさんも大変だね」
 設計図を確認しながらそう言うスタッフに「俺はいいんだよ」と返す。
 「レイさんも、もっと私たちに作業を回してくれていいのに」
 「本人は十分頼ってるつもりだよ。展示会を予定に割り込ませた分、余計に気負ってるんだ。無茶になりそうな分は俺がそっちに回すよう言うから、そのときに頼まれてくれ」
 快諾するスタッフを作業に戻し、自分もデスクに戻る。アトリエは順調に回っている。
 やがて間もなく上階の、レイの部屋の明かりが消えたのが見えて、それからようやく自分の仕事に集中することができた。
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